額にねじり鉢巻をしめた紅丸は、大工道具を手に持って立ち上がった。


「じゃあ俺様は、喜助のやつをしごいてくるにゃ」

「紅丸。あんたはすぐに手がでるんだから、ほどほどにするんだにゃあ」

「ほっとくにゃ」


 今日も新米大工の喜助の指導に行く紅丸。彼の態度を白菊がとがめたが、聞く耳を持たない。


「白菊も今日から仕事かにゃ? しっかり働くんだにゃ」


 そう言って、紅丸は『化け猫亭』をあとにした。


「白菊ー。ぼくもおしごとってくるにゃ。白菊もがんばるにゃー」

「月夜もがんばるにゃー」


 月夜も配達があるため、紅丸と同じく店を出ていった。


 しばらくすると、小春が『化け猫亭』にやってきた。


「おはようございます。お蘭さん、白菊さん」

「はい。おはようございます、小春さん」

「おはようございますにゃあ」

「これは、今日の分の支払いです」


 小春が差し出した小さな包みを、お蘭が受け取って中身をたしかめた。中身はお蘭が提示した金額がしっかりと入っていた。


「はい。たしかに受けとりました。白菊」

「にゃあ」


 白菊はお蘭に作ってもらった自慢の前掛けのほこりを軽く払うと、小春の前に立った。


「今日はよろしくお願いしますにゃ」

「こちらこそよろしくお願いします。抱き上げても?」

「はいにゃ。お蘭様、行って参りますにゃ」

「気を付けてね」


 小春に抱き上げられ、白菊は小春の家であり店がある椿寺に向かった。

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