白菊の怒り具合に、さすがのお蘭も困り果てた。


(これは相当、怒っているね)


 お蘭は左頬に手を当てて考え込む。


(白菊は自分の接客の仕事に誇りを持っているから仕方ないことかもしれないけど。でも、今回の仕事は、ただの手伝いじゃない。もしかしたら白菊にも、いやがらせの被害がいってしまうかもしれない)


 お蘭は自分の店で働く猫又たちを、とても大事にしていた。そこには店主と従業員の関係より、家族の絆というものが存在した。

 白菊はお蘭の膝に、ぽんと自分の手を置いて、お蘭を見上げる。白菊には、お蘭が自分のことを心配していると、わかったからだ。


「お蘭様。白菊だって、立派な化け猫。立派な猫又ですにゃ。だから、任せてほしいにゃ」

「白菊……そうだね。わかったよ」


 ついにお蘭は、白菊の説得に折れた。小春は目を輝かせる。


「ありがとうございます、お蘭さん! それと、よろしくお願いします、白菊さん!」

「それじゃあお代だけれど、一日あたり銀五匁二分(約六五〇〇円)いただきます。よろしいですか?」

「はい。問題ありません。代金は、明日でもかまいませんか?」

「えぇ。かまいませんよ」

「白菊さん。明日からお願いできますか?」

「もちろんですにゃ」

「ありがとうございます。では、明日お迎えにあがります。そのときに代金も持ってきます」


 小春は、「よろしくお願いいたします」と言って、帰っていった。

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