椿寺には、古椿の霊が祀られており、一年中、椿の花が咲いていることで有名な寺である。


「戻りました。お父さん、お母さん」

「お帰り、小春」

「お帰りなさい小春。それと、あなたが『化け猫亭』の白菊さんかしら」

「はい。小春さん、下ろしてくださいにゃ」


 小春に下ろしてもらった白菊は、小春の両親を見上げた。


「『化け猫亭』の白菊と申しますにゃ。小春さんからご依頼を受けて、参りましたにゃ。よろしくお願いしますにゃ」


 白菊は丁寧に頭を下げた。


「小春から聞いているわ。どうか、小春をお願いね」

「お任せくださいにゃ」


 白菊は笑顔で応えた。


 小春の両親は、団子などのお菓子を作るため、店の奥へと引っ込んだ。

 白菊は小春を見上げる。


「小春さん。白菊はどうすれば、よいですかにゃ?」

「とりあえず、外に出て呼び込みをしてもらえますか?」

「わかりましたにゃ」


 白菊は小春に言われた通り、外に出た。


「いらっしゃいませにゃー。茶屋で一休み、しませんかにゃー?」

「あれ? 白菊ちゃんだ!」


 そこへ白菊の顔見知りの人間の女性二人組が通りかかった。


「白菊ちゃん、今はここのお店の手伝いをしてるの?」

「そうですにゃ。よかったら、休憩していきませんかにゃ?」

「かわいい白菊ちゃんが言うなら、寄っていこうかな」

「二名様、ご案内にゃ」


 白菊は満面の笑みでしっぽを揺らし、女性客二人を店内へ案内した。

 一方、小春は白菊の手際のよさに、驚いて目を瞬かせた。


(すごい。私が外に立って呼び込みをしても、こんなすぐにお客さんが入ることなんてないのに……)

「おねえさん、注文いいですか?」

「あ、は、はい!」


 女性客に呼ばれ、小春は慌てて彼女たちに近寄った。

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