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 紅丸は『化け猫亭』の戸口に立てかけられている『化け猫の手、お借しします』の立て看板を裏返して『本日、営業終了しました』にしてから、戸を開けた。


「おかえり、紅丸」

「戻ったにゃ、お蘭」


 帳簿をつけていたお蘭は、紅丸が差し出してきた唐草模様の風呂敷を受けとる。中には懐紙で包まれた、銀六匁が出てきた。紅丸の今日の賃金である。


「たしかに受け取ったよ。しばらく通って、喜助さんに教えるんだろう? 嫌なお人な感じはしなかったけど、紅丸はどう思った」

「最初に思った通り、素直すぎる人間だにゃ。あそこまで素直なやつは初めてにゃ」

「嫌な気分に、なったりしてないかい?」


 お蘭の心配そうな様子に、紅丸は彼女の膝に手をかけて彼女の顔を見上げた。


「大丈夫だにゃ。あいつはいいやつにゃ。ちょっと抜けてるから、しっかり俺様が大工としてやっていけるように、育ててやるつもりにゃ」

「そうかい。それはよかった。お金よりも、おまえたちが楽しく仕事ができることが、一番大事だからね」


 お蘭は紅丸の頭を撫でる。紅丸は気持ち良さそうに目を細めて、喉を鳴らした。


「さぁ夕食の支度はできてるよ。今日はおかかご飯だ」

「にゃー」


 紅丸は嬉しそうな声をあげた。

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