喜助が現場に着くと、すでに仕事が始まっていた。


「親方ー! お待たせしました! 『化け猫亭』で紅丸さんを、借りてきましたー!」

「おせぇ! いつまでかかってんだ!」

「すんません!」


 元気よく謝る喜助に、仁平は渋い顔をした。潔く謝られると、怒るに怒れないからだ。

 そんな仁平に、紅丸が声をかける。


「おう、仁平。来てやったにゃ」

「おう、紅丸。いつも悪いな」

「あとでくれればいいにゃ」


 紅丸はしっぽで、喜助を示す。


「俺様はこいつに、大工のいろはを、教えてやればいいんだにゃ?」

「あぁ。おまえに頼んだほうが、手っ取り早いしな。それと悪かったな。喜助に金を持たすのを、忘れてた」

「そうだと思ったにゃ」


 紅丸は仕方なさそうに肩をすくめる。


「支払い金額はいつも通り、銀六匁でいいな?」

「にゃあ。仕事終わりにくれればいいにゃ」

「あいよ」


 仁平の視線が、紅丸から喜助に向けられた。


「いいか喜助。紅丸は腕のいい大工だ。そんな紅丸に、しっかりと大工の仕事の大切さを教わるんだぞ」

「はいっす! 親方!」


 仁平に挨拶を終えて、喜助は紅丸を肩に乗せたまま、自分の担当場所に向かう。

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