喜助は不思議そうな顔をすると、紅丸が教えてやる。


「仁平のやつは、イロをつけてくれるからにゃ。それに、おまえは新人。俺様は教える側。どっちが優遇されるか、火を見るよりも明らかだろうがにゃ」

「たしかに」

「で? 払えるのかにゃ?」

「お金はないっすね!」

「笑顔で言うにゃ!」

「いたっ!」


 再び炸裂さくれつした紅丸の猫パンチに、喜助は反動でのけぞる。


「これ、紅丸! すぐに手をあげないの!」


 お蘭にとがめられ、紅丸は不機嫌丸出しで尻尾をびしびしと、床に叩きつける。喜助は「あはは~」と笑って誤魔化した。

 お蘭は紅丸に言った。


「お代は紅丸が仁平の旦那から、受け取ってきてくれればいいから。あの人なら、ちゃんと払ってくれるんだし」

「それもそうだにゃ」

「なんか、すんません」

「気にすることはないよ。いつもなら、仁平の旦那が持たせるんだけど、忘れることもあるさ。さ、仕事にお行きなさいな」

「はい! 紅丸さん、行きましょ」


 喜助が立ち上がって、腕を伸ばす。紅丸はひょいと飛び上がると、喜助の肩に飛び乗った。


「えぇ!? そっちに乗るんすか? 猫ちゃん抱っこできると思ったのに」

「俺様をただの猫と一緒にするんじゃねぇにゃ! 俺様がどこに乗るかは、俺様が決めるにゃ。早く行くにゃ、新米」

「はい! じゃあ、お蘭さん。紅丸さんをお借りします」

「えぇ。いってらっしゃいまし」


 お蘭は手を振って、喜助と紅丸を見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る