喜助は紅丸に猫パンチを食らわせられた箇所をさすりながら、紅丸に謝った。


「いや、俺のほうこそすんません。俺はてっきり先輩大工の、化け川獺の飛八さんに教わるもんだと思ってたんで」

「まぁ普通はそうかもしれにゃいな。だが、よく考えてみろにゃ。仕事ができるやつが、できの悪い新人に教えてたら、仕事がとどこおるにゃ。それで納期に間に合わなかったら大問題にゃ」

「そっか! たしかに紅丸さんの言う通りっすね」


 喜助は紅丸に、「できの悪い新人」呼ばわりされているにも関わらず、ぱんっと手を打って、納得を示す。それに苦い顔をするのは、言った本人(猫)である紅丸だ。


「こいつ、素直すぎる気がするにゃ」


 お蘭は楽しそうに、くすくすと笑った。しかし、いつまでも店にいては、戻らないことに仁平が怒るだろうと思い、喜助に声をかける。


「とりあえず、そろそろ紅丸を連れて、お仕事に向かったほうがいいんじゃないかい?」

「そうだった! 親方に叱られる! あ、でも代金はどうすればいいんですか?」

「おまえ、金持ってんのかにゃ? ちなみに俺様は日当銀六匁(約七五〇〇円)くらいだにゃ」

「高っ! 俺より給料高っ!」


 喜助は紅丸の貸出金額を聞いて、驚きで目を見開く。しかし、紅丸は「当たり前だにゃ」と言う。

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