お蘭は上から下まで、喜助の身なりを眺める。


「お客さんの恰好からして、職業は大工とは思っていたけど、仁平の旦那のところのお人なら、あの子が目当てだろう。おいで、紅丸」

「にゃ」


 お蘭に呼ばれて店の奥から、大工道具の鞄を提げた赤茶猫が、お蘭が染めて作ってやった鉢巻きを、ねじって額に締めながらやってきた。

 お蘭は自分の横にならんだ紅丸に声をかける。


「紅丸。まずは自己紹介をしな」

「にゃ。俺様の名前は紅丸だにゃ。大工仕事なら、俺様に任せるにゃ」

「赤茶猫に紅丸! 俺、親方から借りてくるように言われたのは、この子っす!」

「だろうにゃあ。俺様はいつも、仁平んところの新人の教育係を任されてんだにゃ」

「へえ。……ん? それじゃあもしかしなくても、俺は猫に仕事を教わるってことっすか?」


 喜助が困惑した表情を浮かべると、紅丸が鋭い目つきをさらに鋭くさせ、飛び上がった。そしてそのままの勢いで、喜助の頭に猫パンチをくらわせた。


「あたっ!」

「俺様をそこらの猫と一緒にするんじゃねぇにゃ! 俺様は立派な猫又だにゃ!」


 紅丸が怒るが、その頭をお蘭がぺしんっと軽く叩いた。


「これ、紅丸。お客様に手をあげるんじゃないよ!」

「にゃ、にゃぁ」


 お蘭に怒られ、紅丸の尻尾は怒りでぶんぶんと振っていたが、しおれたように垂れ下がった。

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