あとがき

あとがき(2018年版)

 今回、「あじあ」のお話を書こうと思い立ったのには、二つ理由があります。まず第一に、「パシナ(南満州鉄道パシフィック機関車七型(二代目))」型蒸気機関車が、ものすごくかっこよかったことです。もっとも、正しく時代を考証すると主人公の列車の編成の中に出てきてもらってはおかしいということで、作中ではチョイ役ですが。

 パシナ形のデザインは、流線形電気機関車「ペンシルバニア鉄道GG1形電気機関車」やたばこ「ピース」などのデザインを手掛けたことで知られるインダストリアルデザイナーの、レイモンド・ローウィが絶賛していますが、いやはやすごい機関車ですね。トロい日本の機関車の中にあって、最高速度が一四五キロぐらいだったと言うのもうなずける、かっこよすぎる流線型の車体!いや~、ロマンですね。あの丸頭に丸顔、なんとも言えない曲線美など、全てにおいてかっこいい(力説)!

 第二に、もう八十年近く前の“超特急”の食堂車で、どんな食事を提供していたのかが、非常に気になったことです。食事についてどうだったのか調べてみて、驚きました。パシナのかっこよさを打ち消してしまうぐらい、料理が高い!べらぼうに高い!まあ車両の上という特殊な環境下なので高くなるのはわかりますが。メニューを転載しますと、

「一品料理:スープ25銭、魚類40銭、フライエッグス20銭、ハムエッグス45銭、オムレ25銭、ビーフカツレツ野菜添え45銭、ポークカツレツ野菜添え45銭、チキンカツレツ野菜添え50銭、ビーフステーキ野菜添え50銭、ハムサラダ50銭、サラダ20銭、サンドウィッチ60銭、菓子20銭、パンまたはトーストのバター付き20銭、ジャム10銭、チーズ25銭、レモン入り紅茶一杯20銭、紅茶またはコーヒー一杯10銭、牛乳一杯15銭、果物一個10銭、チキンライス40銭、ハヤシライス50銭、ライスカレー30銭、親子丼35銭、ご飯10銭、春の物5銭」

 となっており、これは現代の金銭感覚に直すと

「一品料理:スープ1250円、魚類2000円、フライエッグス1000円、ハムエッグス2250円、オムレツ1250円、ビーフカツレツ野菜添え2250円、ポークカツレツ野菜添え2250円、チキンカツレツ野菜添え2500円、ビーフステーキ野菜添え2500円、ハムサラダ2500円、サラダ1000円、サンドウィッチ3000円、菓子1000円、パンまたはトーストのバター付き1000円、ジャム500円、チーズ2250円、レモン入り紅茶一杯1000円、紅茶またはコーヒー一杯500円、牛乳一杯750円、果物一個500円、チキンライス2000円、ハヤシライス2500円、ライスカレー1500円、親子丼千750円、ご飯500円、春の物250円」

 という感じになり、いかに「あじあ」車内の食事に苦労と高級食材が満ちていたかがわかろうというものです。なぜって、考えてみてくださいよ。いまどき、当時よりは物価が安いとしても、オムレツが1250円しますか?あとは…よく見ると、ロースハムを使っていたというサンドウィッチがビーフステーキより500円も高いし、よく調べてみたらメニューのほとんどが当時の大衆的なレストランの中でそこそこ高級なレストランでもこの三分の一程度の価格設定で売られていました。あと、「おかしいナ?」と思ったところですが、オムレツっておそらくチキンライスが入ってますよね。なのに、なぜチキンライス一皿はオムレツ一皿より750円も高いのか。

 ただ、高級な割に、メニューの表記は適当というか、アバウトですね(笑)。列挙してみると、魚類(どんな調理がされていたのかは謎。私は一度、これに似た感じの“Fish”というメニュー表記を見たことがありますが)、菓子(具体的に何かは不明。まあ当時は洋菓子といえばキャラメルぐらいしかポピュラーじゃないからたぶん菓子イコールキャラメルだと思えばいいんじゃないですか(強引))、ジャム(何のジャムかは不明。私は昔チェリーパイを作ろうと考えて、サクランボジャムと思って一キロの瓶詰めのジャムを買ったら酸っぱくて、よく見たらカシスジャムだった(まあ美味しかったですが)なんてことがありました(そのジャムを買うのに小遣いを使い果たして叱られました)。)、果物(具体的にどんな果物なのかは不明。私が昔何かの冷たい加工食品であろうと思い頼んだらぬるいメロンがひと切れふた切れしか皿に載ってなかった“水菓子”よりはマシかも(笑))、ご飯(おそらく皿物の“ライス”。まあこれは横文字が苦手な日本人に配慮しているのかも)、春の物(具体的に何かは不明。たぶんタケノコの水煮みたいな感じかな?)となります。

 お金の話をすると、マナブ君は、昼食だけで現在の価値にして4500円、夕食でさらに1500円の合計6000円を使っていることになりますね。多分これだけあれば、今のファミリーレストランで五回は満腹になれます。例えば近畿鉄道が誇る「しまかぜ」の食堂車でも少し節約すれば一食食べられると思います。さて、以上二つの理由から(ほぼ脳内映像化希望と興味本位ですが)、初の元ネタつき旅行ものを書いてみましたが、いかがでしたか。今のところは続編の予定はありません。ですので、「あじあ」によるマナブ君の旅行はこれで終わりです。本日はご一読いただき、ありがとうございました。

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