第5話 騙し合いはすでに始まっている

 フーちゃんがいなくなり残された10人。

 すぐにイケメン男が動いた。


「さて、まずは確認だ。今の彼女の説明を理解できなかった愚か者はいるか?」


 自分以外の全員を見回し、上から目線で聞いてくる。

 その言葉に絵馬が一瞬ビクッとするものの、すぐに眼鏡女子が声を上げた。


「あんたはさっきから何様よ。態度を改めたらどうなの?」

「僕の見立てではここいる連中は不甲斐ないにも程がある。自分から無知無能をさらけ出しているんだからね」


 きつい一言に怯まず、イケメン男は呆れたように首を左右に振る。

 無知無能はお前な気もするけどな。

 この時点で他の仲間の力を判断できるわけもない。イケメン男の独断と偏見に過ぎない。

 何より、バカにしている一人のうち、絵馬という「別格」が存在しているんだから。


「そう言うからには、よっぽど自分のデザイアに自信があるのかしら」

「デザイアにも、ね。僕は君たちと違って頭もキレる。ゆえにこれからはこの僕、間宮まみやしゅうがこのチームのリーダーをやってあげるよ」


 勝手に話を進めていく間宮。

 だが、眼鏡女子が反発する。


「あんたがリーダー? 冗談よね。それなら私がやるわ」

「はっ、冗談はよしてくれ。そもそも君はジョーカーの見つけ方を予想できているのかい?」


 間宮は試すように眼鏡女子にその質問をぶつけた。


「……知らないわよ。というか、さっきの説明だけでわかるわけないじゃない」


 悔しそうに言い訳をする眼鏡女子。

 間宮は呆れたのか首を左右に振る。


「やれやれ。少し考えればわかることだ。各自のエアには自分たちの携帯に送られてきたものと同じ抽選結果のメールが入っているはずだ。それが意味することは――」


 その先の言葉は、眼鏡女子の後ろから聞こえてきた。


「抽選の段階ですでにジョーカーが決められていると見るべきだ。理解したかな、宮崎南」

「なっ……⁉」


 眼鏡女子、宮崎が背後の間宮に驚く。

 消えた? いや、移動したのか?


「それ私のっ……返せ!」


 間宮が見ていたのは宮崎のエアらしく、宮崎がすぐさま奪い取る。


「な、何をしたのよ?」

「これが僕のデザイアさ。時間を止めることができる。最強のデザイアだよ」


 間宮は愉悦を感じるように自慢げに語った。

 不老不死の次は時間停止か。相変わらずありえないデザイアばかりだな。

 けど、通りで間宮が自信を持つわけだ。

 デザイアの強力さもそうだが、ジョーカーを見つけるのに適している。


「エアがもっとも可能性としては濃厚だろう。後はジョーカーしか持たない何かか。どちらにしろほぼ二択だ」


 間宮も俺と同じでジョーカーの判別方法には目星がついていたようだ。

 不要な抽選結果のメールをエアに入れた理由。そこには意味があると考えられるだろう。

 もっとも、それ自体がハピネス社側の仕組んだフェイクである可能性もあるが。


「てか待って! あんた今、私の体勝手に触ったってわけ⁉」


 宮崎はジョーカーの判別方法よりも、その点に体を震わせた。


「軽く身体検査させてもらっただけだよ。興味などないから安心したまえ」


 間宮の配慮の欠片もない言葉についに宮崎がキレた。

 瞬間、周囲の温度が上昇するのを肌で感じ取った。

 怒りによる熱じゃない。

 本物の炎が宮崎の体に具現化した。

 炎に包まれた拳。宮崎はそれを躊躇いもなく間宮にぶつけた。

 が、直撃寸でのところで間宮が再び消える。


「やれやれ、血の気の多いことだ。ただの身体検査だが、君も嫌かな?」

 今度は俺のすぐ横、絵馬の背後に現れた。

 間宮は絵馬の肩に軽く手を載せ、自身の行動の是非を問う。


「当たり前じゃない。早く離して!」


 絵馬は本気で嫌そうに間宮の手を振り払った。


「そうか、それは残念だ」


 間宮は絵馬から離れる。

 わかりやすいデザイアの弱点だな。

 残念と言いながら安堵の表情を覗かせているのがバレバレだ。


「身体検査はやめる。その代わり、エアだけでも見せてもらおうか。もしここで隠すようなら、僕はそいつを信用できない」


 隠す=やましいことがある。間宮はそう考えエアを要求する。


「まあ、隠したところで僕には無意味だがね」


 間宮がそう言ったのを皮切りに、全員がしぶしぶとエアを見せていく。

 絵馬は間宮に触られたことが余程嫌だったのか、抵抗を見せていたものの俺が見せたことで続くことに。


「今のところジョーカーはいない、か。よし、次に進もう。明日のBチームとの対抗戦に向け、全員のデザイアを確認しておきたい。異議のある者はいるか?」


 すでにリーダーとして話を進め始める間宮。

 不満はある者もいるだろうけど、誰も反論はしなかった。

 そうして次々と仲間のデザイアが明らかになっていく。


「次、お前の番だ」


 間宮が指差すのは、フードを深く被った謎の人物。

 先ほどはフーちゃんの異様な姿ばかりに目を奪われていたが、こいつも十分目を引く存在だった。


「……」


 しかし、フードの人物はデザイアを見せることもなく無言でいる。

 その様子に間宮が怪訝な顔を示す。


「おい、聞こえなかったのか? デザイアを見せろと言っているんだ」


 間宮がさらに呼びかけるが、フードの人物は反応を見せない。

 まるで、デザイアを見せることを拒否している様に見えた。

 間宮が舌打ちをし、フードの人物に近づいていく。


「黙っていないで――――」


 フードの人物の肩に手を置いた瞬間、間宮の顔が強張った。

 咄嗟に体を退く間宮。


「……も、もういい。次だ!」


 あからさまに動揺を見せながらも、平静を装って間宮は俺を指差した。

 そんな間宮に周囲が不思議そうな顔をしているが、この場で聞く者はいなかった。

 俺も一度フードの人物からは意識を外し、この場の切り抜け方を考える。

 ここは一芝居打つ必要があるか。


「悪い。俺のデザイアは夜にしか使えないんだ。だから役に立てないと思う」


 本当の理由を隠し適当に理由をでっち上げる。

 間宮は露骨に呆れた表情を見せた。


「だろうな。もういい。次だ」


 間宮は早々に俺を役立つだと判断し絵馬を指差す。

 問題はここだ。

 今この場で絵馬のデザイアを晒すのはまずい。だから止めないといけないんだが、事前に打ち合わせもしていない以上口裏を合わせることができない。

 多少不自然に見えるかもしれないが、俺が先に嘘をつくしかないか。

 そう決め口を開こうとしたが――


「これくらいしかできないわよ」


 絵馬はそう言って足元の貝殻を宙に浮かせた。


「物を浮かせる力か?」

「そう。といっても、こんな軽いものしか浮かせられないけどね」


 絵馬はそう言って、「嘘」を教えた。

 予想外の行動に俺は驚いてしまう。

 気づいたのか? いや、でもルールの説明は理解できていない様子だったはずだ。

 不思議に思っていると、間宮はあからさまに大きなため息を吐き出した。


「はあ……こんな無知無能ばかりだなんて、僕は何てついていないんだ」


 間宮は自身の置かれた状況を不幸だと嘆くのだった。

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