第13話 真由子と大杉とは有希を探す同志となった

 私が大杉を愛していた理由は、心臓病の有希をいたわる大杉の思いやりに満ちた姿だったのかもしれない。

 大杉に近づくことがためらわれた理由は、無意識のうちに有希と大杉との愛をこわしてはならないという、良心のあらわれだったということに、ようやく気がついた。


 今、大杉と真由子は有希を媒体とした友人関係にある。

 恋人ではない。あくまで有希を探し求める仲間というよりも、もっと強い結び付きのある同志。大杉が愛しているのは、有希一人だけだ。

 これからも大杉は、真由子を愛するなどという保証はどこにもない。


 でもそれでもいい。

 いや、そうだからこそ、今度は私が大杉さんの心をいたわってあげたい。

 私でよければ、生前の有希のまぼろしを大杉に見せてあげてもいい。


 真由子は大杉と会うときは、有希の好みそうなファッションを身につけ、有希の真似をして上目遣いをし、笑い方まで有希風にしてみた。

 そのときの大杉の顔は、まるで光が差し込んだかのように、生き生きとし、少し垂れ目がちに目が笑っていた。

 ひょっとして、この感情は大杉が生前の有希に抱いていたのと、同質の思いやりかもしれない。


 真由子は自分がいつのまにか、恋を求めるありきたりの女から、愛をはぐくむ大人の女性へと成長していることに、気がついていなかった。

 そしてこれが、本当に男心を知るってことなのかなと想像したりもしていた。


(完結)

 

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元アイドルの代理としてでも愛してほしい すどう零 @kisamatuma

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