第50話 最終回! 変身! 美少女エナジー戦士エナリア!

「せーのっ!」


 パン。

 パパン。


 大きなクラッカーの音が、軽快に鳴った。


「綾水ちゃん、誕生日おめでとー!」


 綾水の家――北城治きたぐすくばる家のお屋敷にて。箱入り娘の生誕祭が行われていた。


「わあ、ありがとうございます。皆様っ!」


 歴代エナリアを始め、対策本部の面々。さらにウインディアからララディとリッサ、ナギ、幹部怪人達。

 綾水のプライベートの友人や、北城治家と懇意のお金持ち達に混じって、『エナジー関係者』達が集結していた。


「あれ、咲枝ちゃんの結婚式か、出産でエンドじゃないの?」


 ふと、首を傾げたのはやはり、大空かける。


「エンドって何やねん。……ウチのオトンが認めへん言うて、こないだ八朔さんシバキ倒しよったんやわ」

「げっ」

本当ほんま、最悪なオトンやで。アタシが東京行く時散々ボロクソに言うたくせに、『大事な娘が』どうたらこうたら」

「大変だね……。まあ、お父さんの気持ちもわかるよ」

「無視して結婚したろかな思てんけど。八朔さんそれで逆にスイッチ入ってもて、『認められるまで結婚しない。セックスもしない』とか言い出してやな。なんかもう滅茶苦茶やねん今」

「……へ、へぇ……。空石さんも頑固なんだねえ」

「まあえわアタシのことは。今日は綾水が主役やで」











「おめでとう。綾水」

「うぅ。ありがとうございますわ。咲枝さん」

「泣くな泣くな。今日で綾水もハタチやなあ。大人の仲間入りやな」

「正確には、去年から成人年齢は18歳になってましたけども」

えねんそんなん。アタシらの世界線は」

「最終回だと思って、割りとメタい話増えてきたな……」


 大きな広間を使って。立食パーティになっている。最初に咲枝達の居るテーブルに来た綾水だったが、他にも挨拶に回らなければならないと、すぐ去ってしまった。


「これ、縁談とか来るんちゃうん。なあ海野さん」

「そうねぇ。私も紹介で結婚しましたし。私の場合はエナリア引退後でしたけど。3代目のおふたりは今もまだ現役ですわよねぇ」

「あー……。これ、いつ引退なん? ポポ」


 当然、ポポディも居る。彼はふわりと、腕を組んだ。


「分からないディ。おいらは今回の使者だから、2代目の時のことは詳しくないディ」

「使えん奴だやっちゃ

「最後まで酷いディ」

「……うーんと。あたし達の時はー。ダークオーラ倒したら、なんか、終わりかなって、みたいな」

「なんやそれ」

「なんとなく……終わりかなって」

「自然にブレスレット返還したなあ」

「いやふんわり過ぎやろ。アタシいつまでエナリアせなアカンの? いや他に仕事無いしさせて貰えるんやったらするけどやな。ほいでもあと10年20年経っても『ウィンディア・レボリューション』言うん、なんかキツないか?」

「さあ……?」

「さあて……」

「取り敢えず、日本各地に怪人が出現してる間は引退できないディねえ」

「やんなあ……。まあ仕方しゃあないか」


 変身ヒロインは、いつ引退するのか?

 平和が戻ったら?

 戦争は、『終わった後』の方が大変なのだ。ウインディアの治安も心配であるし、まだまだ人間界もシムラクルムの影響が残っている。問題は次々と発生する。それに加えて、『次の戦争』に向けて準備もしなければならない。平時こそ戦争の本番とはよく言ったものである。綺麗サッパリ終わることは、取り敢えず今回は無いらしい。


「ザイシャスさん達も来れたら良かったのにね」

「それは無理だ。あのふたりは一生牢獄だよ」


 別のテーブルに。

 同じ顔、同じ背格好の少女がふたり居た。


「でも、戦争の責任はトップでしょ? シルクが自由なのに、兵隊だったふたりが牢獄なのはおかしいよ」

「……胡夢。君、妙な知識付いてきたな……」

「うん。今僕、『3代目エナリア補欠』『4代目エナリアの準備』として勉強してるんだ。地政学に経済学に、あと歴史と。それから……」

「志村一輝は許可したのかい。それ」

「うん。説得した。きちんと説明したよ。シルクのことも」

「……僕も?」

「うん。手伝ってくれるって」

「勝手なこと言うなよ。僕は自由になってまた世界征服を目指す為だけに、エナリアとウインディアに一時的に手を貸しているだけだ」

「うん。でもね。僕としては、シルクと一緒に『4代目』、やりたいなって」

「…………うるさい、もう。とにかく、ザイシャスとグリフトは責任がどうとかじゃなくて、あいつら個人の精神状態が悪くて、『外に出すべきでない』とウインディア王が判断したってだけだ」

「ふーん」


 シルク。

 胡夢が名付けたのだ。『シムラクルム』とは、ラテン語で『蜃気楼』という意味がある。だがそれでは志村胡夢と音が同じで困る。シムラクルムからもじって、シルクと。


「ね? やろうよ一緒に」

「……うるさい。ほらエナジーシューターが来たぞ」

「あっ! お姉ちゃーん! おめでとー!」











「……全く。子供の相手は疲れる」

「貴様も子供の姿であろう」

「ん。……ナギ姫か」


 やれやれとシルクが向かったテーブルには、ナギと三木が居た。


「確かに、お祖父様のエナジーを感じる」

「そうだろうね。僕は言わば、ダークオーラの兄弟だ。ウインディアに捨てられたのが奴。人間界に隠れたのが僕さ」

「……では今回の件で、1000年に渡る『人間のエナジー研究』の禍根は断たれたという訳か」

「それは君次第だろ。『カルマボス』ナギ・テンペスター。ダークオーラと僕が倒されたことで『この50年』の問題は終わったが。君が生きている以上は、考え続けるべきだ。……当時研究していた人間はもう居ないけどね」

「安心しろ。今研究しているのは『それ』だ」

「!」


 ふたりの会話に、三木が入ってきた。


「どんな研究だい?」

「カルマの体質を変える。『エナジーを自己生産できる』ように。そうすれば、誰かを襲う大義名分は無くなる。苦しむカルマも減る」

「…………そう。まあ、できるだろうね。元々人工の種族だ」

「それと、わらわがリクエストしたのは異種交配だな。カルマだけでは血が偏る」

「……それは、君が単に三木の子を授かりたいだけじゃないのかい」

「黙れ。貴様も手伝うのだ。このパーティの後、研究室に来い」

「…………はいはい」











「良いですねえ。誕生日パーティですか。こういうのは初めてです」

「そうなん? ……って、基本国外に居たんやったっけ。ララ」

「はい。人間界の文化は何でも新鮮に感じます。ね、リッサ」

「……そうね。好きよ。この料理」

「食ってばっかやなアンタ。ララ、アンタはこっち来てええの? ウインディアは」

「大丈夫です。ウインディアにだって、『ちゃんとした』者は居るんです。その大臣に任せてきました。今日だけ、ですけど」

「そういや占い師ペムリンとかいうんは?」

「解雇しました。もうお歳ですし、占いに政治を左右されてはいけませんから」

「ほーん」











「空石よ」

「なんだ三木」

「なんで顔腫れてんだお前」

「咲枝の父君に『シバキ倒された』」

「……良いのかお前それで」

「別に。これは愛情だと思ってる。それだけ、咲枝を大事にしてるってことだ。なら俺は、それに応えられなければそれまでの男ってことだろ」

「……ド真面目頑固クソ堅物野郎」

「良いんだよ。研究狂いサイコパス変態野郎よりマシだ」

「因みに俺よりナギの方が変態だったりする。ベッドでは」

「あー。そういう話題は嫌いだ。やめろ」

「なんだよ。俺の予想では、あの気の強い春風は割りと実はMっ気ありそうだと思うんだが、どうなんだ?」

「知るか。絶対教えねえ」

「北城治を入れてハーレムもアリだと俺は思うぞ。彼女はお前より、春風を好いているが」

「もう黙れお前マジで。最終回だからって何でも許される訳じゃないぞ馬鹿」











「あっ!」

「うお。びびった。なんやねんポポ」


 ふと。ポポディが叫びを上げた。


「おいら、結婚するディよ。サキエより先に」

「ひと言多いねんボケ。結婚? アンタが? 相手わい」

「いや、一度会ったディよね? テディ増岡ディよ」

「……あ――――……。あのドギツい奴か。え、ほんまに? 結婚? アレと?」

「なんディ。別においらの勝手ディ」

「うふふ。結婚式エンド、ポポさんの方でしたかあ」

「おっ。綾水。挨拶回り終わったか」


 気付けば。

 この3人になっていた。咲枝と綾水と、ポポディ。


「えへへ。咲枝さーん」

「おっ? アンタ……酔ぉとるな」

「だぁって、今日から呑めるんですもーん」


 顔を酒気で赤くした綾水が、咲枝へしなだれかかる。


「程々にしときや」

「サキエは酒強いディか?」

「まあ、普通や。1日缶ビール1本くらいは呑むで。営業時代やけど」

「あはは〜」

「綾水は弱そうやな……」

「よ〜し! 不肖北城治綾水! この晴れ舞台にお集まりいただいた皆様に楽しんでいただけるよう! ひと肌脱ぎます!」

「えっ。どないしてん綾水」


 急に。綾水が壇上へ上がった。


「皆様ご存知の通り! わたくしは『エナリア』! 変身ヒロインでございますわ!」

「…………まさかっ」

「ひっく。……それを! 今からご覧に入れましょう! ウインディア……」

「ちょっ! 誰か止めぇ! こんな、一般の方々る前で……っ!」

「もう遅いディ」

「レボリューション!!」


 そして。快活に叫び。


「アカンアカンアカン!」


 この日の為に新調した高級ドレスを勢いよく弾け飛ばした。











 秋の冷たい空気が、直接肌に触れて。酔いを醒ます。


「あああああああっ!!」

「最っ悪ですわあああああっ!!」


 おしまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変身(する度に服が弾け飛ぶ)ヒロイン 弓チョコ @archerychocolate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ