第49話 変身! 昨日の敵は、今日の監視対象!

「っというちゅー訳で。アタシとしては『本来の3代目適合者』である胡夢ちゃんの、変身したエナリア姿が見たいおもてます」


 ある日。

 疑似ワープ装置により、比較的容易に集まることができるようになった、『エナリアの会』にて。

 本会は完全にエナリアのみの会である。つまり、胡夢の両親すら居ない、6人+ポポディの会合。『3人目』リッサと『4人目』ナギは忙しい為欠席である。


 場所は、空石の実家がやっている、長野県白馬村にある民宿。


「分かる。絶対可愛い。見てみたい」


 咲枝の提案に、まず大空かけるが賛同した。


「良いねえ。興味ある。やっぱ可愛い女の子が着てこそよね。あの衣裳」

「でしょ? あたしもまあ、まだ可愛い女の子だけどさ」

「黙れアラフォー」

「まだ34だってば!」


 盛り上がる2代目連中。


「えっ。でも……」


 困り顔の胡夢。


「勿論戦えへんで? 戦わんでええ。今日だけちょっと変身するだけやって。別に痛くあらへんで?」

「…………えっと」

「ちょっと待つディ」

「あ? なんやポポコラァ」

「ガラ悪っ!?」


 そこへ、ポポディが待ったをかけた。


「いや、『シムラクルム』のエナジーがクルムに戻ったんディよね? 今変身したら、また『シムラクルム』が出てこないディか?」

「…………」

「…………」

「…………」


 その言葉に。

 世界は時間を停めた。


「…………まあ」


 静寂を破ったのは、咲枝だった。


「また倒せばえやん。今ここに、全エナリア集まっとんねんで?」

「……あー確かに。どんな奴が来ても負ける気しないね」

「そうですわね。対暗黒エナジーのスペシャリストである2代目の先輩方に、最強のエナリア・ストームフォームの咲枝さん」

「それと、歴代最強火力と最長射程距離の綾水ちゃんね」

「うーん。どう考えても勝てるな」


 次々と頷いていく。『胡夢の可愛い変身姿を見たい』が為に、『ラスボスを蘇らせるかもしれないリスクを負う』と。


「いや、落ち着くディ! そんなことで冒して良いリスクじゃないディよ!?」

「ふむ。大丈夫や。いや、ポポの心配も分かるねんけど……大丈夫や」

「どういうことディ?」

「……多分、今ならアイツと『話せる』気がすんねん。まあ、そもそも復活せん可能性もあるし。ちょっと任せてくれへんか」

「…………まあ、そこまで言うなら……」

「よっしゃ。ほな外出よか! おばちゃん! アーチェリー場借りてえか?」

「早っ! ほんとに大丈夫ディか!?」


 ポポディからの許可を得ると、すぐさま全員が慌ただしく、胡夢を連れて外へ出ていった。











「ほれ。ブレスレットや。『ウインディア・レボリューション』言うんやで」

「う……うん」


 空石の実家は民宿をしながら、アーチェリー場の管理もしている。今年の夏も、合宿としてやってきた他県の学生を受け入れていたのだ。長野県にはいくつか、そういった民宿がある。


「あ。八朔さん」

「……勝手に何をしようとしてるんだお前は……。射場全体にエナジーフィールドを展開して、監視しておくぞ。すぐに部隊を送れるように」

「あい。すんまへーん」


 空石も、アーチェリー場にやってきた。100m四方程度の広さで、雑草などは綺麗に取り除かれている。


「ちょっと奥さん聞きました? 『八朔さん』ですってよ」

「きゃー。ナチュラルに名前呼び」

「オバハンらえからそう言うの。ほな胡夢ちゃん。替えの服は用意しとるから」


 空石とのやり取りを2代目連中に茶化された咲枝は、しかし適当にあしらって進行する。


「あら? 咲枝ちゃんならもっと恥ずかしがるかなと思ったんだけど」

「……ああ。俺もな。似たようなこと思ってたんだが……。今日ここに来る時も、俺の親に対しても特に緊張とかせず、普通だった」

「……あー。咲枝ちゃんそっちの性格か」

「?」

「付き合ってしまってからは割とクールというか。『自分の日常ゾーン』にすぐ入れちゃうというか」

「…………普通に『おばちゃーん』とか言ってたわね。幼馴染みのお母さん感覚で」

「なるほど……」


 空石が割と振り回されて苦労しそうだなと、一同は思った。











「う、ウインディア・レボリューション!」


 カッ。

 光の風が、胡夢を中心に発生する。その風は心地よく、見る者を魅了する。胡夢の着替えさせられた『咲枝用のダボダボジャージ』は無惨に弾け飛び、代わりにエナリア専用の戦闘コスチュームがひとりでに着装されていく。


「おお……」


 大人連中から感嘆の声が漏れる。


 ふりふりのスカート。大きなリボン。ファンシーなデザイン。アニメから飛び出したような『魔法少女』が、変身を完了させた。


「…………ど、どうかな……」


 緊張しつつも、にこりと笑って、『エナリア』胡夢が着地した。


「ああああああああっ!!」

「!!」


 突然の絶叫。隣に居た綾水がビックリしすぎて飛び退いた。

 声の主は、大空かける。


「可愛いいいいいいいい!!」

「…………!」


 可愛い。そう。可愛いのだ。だが。

 大空かけるのリアクションがエグすぎて、一同は反応できないでいた。


「胡夢ちゃ――!!」

「うるさいんだよバカケル!」

「ぐはぁ!」

「あらあら。昔のままのキレのある蹴りねぇ」


 たまらず胡夢へ飛び掛かったかけるへ、花山りくによる20年来の伝統的ハイキックツッコミが炸裂した。


「……終盤のキャラや思われへんくらいキャラ濃すぎやな2代目連中……」

「わたくし達割りと食われていますわよね……」

「まあそれこそ、『ヒロイン』できるほどのキャラなんやろうけども」


 さておき。


「…………驚いたな」

「おっ」


 胡夢の方を見る。

 予想通り、『ふたり』居た。エナリア衣装の胡夢の隣に。『シムラクルム』衣裳の、クルムが。


「リスクを考えれば、この子を変身させる理由は無い筈だけど。僕はすぐ逃げてまた暴れるよ?」

「あー心配要らへん。エナジーフィールドを『5重』に張っとる」

「…………みたいだね。で? 僕に用かい。エナリア」


 シムラクルムは辺りを見回して、殆ど観念していた。


「アンタに用ってか、まあ胡夢ちゃんのエナリア姿見たかっただけやねんけどな」

「…………そうかい」

「ま、丁度えわ。アンタの撒いた暗黒エナジーで困っとんねん。なんとかせえや」

「……断ると言ったら?」

「今度こそ完全に消し飛ばす。胡夢ちゃんの為にも」

「…………フフン。それで良いよ。僕はもう充分楽しんだ」

「……綾水」

「了解いたしましたわ。ウィンディア・レボリューション!」


 咲枝の合図で、綾水が光と共に衣服を弾け飛ばす。大口径のエナジーライフルを構えて、シムラクルムへ銃口を向けた。


「だめっ!」

「! っと」


 そこへ。胡夢が、シムラクルムを庇うように手を広げた。綾水は驚いて銃口を上へ向ける。


「胡夢ちゃん?」

「だめ……っ。この子は……。この子が居なくなったら、『僕が』悲しい」

「…………胡夢ちゃん」


 特に、理由は無い。戦術的には、合理的ではない。

 『なんだか嫌』。子供らしい言葉である。咲枝は困ってしまった。


「こいつは、日本中を巻き込んで悪さしようとした奴やで?」

「…………うん。でも、け、消し飛ばす、のは。可哀想だよ」

「……ふむ」


 当のシムラクルムも驚いていた。まさか自分を操って『悪さ』をした、人間ですらない者を庇うなど。


「…………確かに切っ掛けを作ったのは僕だけど、遅かれ早かれこうなっていたよ」

「!」


 シムラクルムが。胡夢の後ろから、説明を始めた。


「僕は日本を支配しようとしたんだ。暗黒エナジー怪人を使って襲うなら、都市部でやるだろう? なのに、こんな田舎も含めた、たった6ヶ所でしかしなかった。……日本の国土には元々、『エナジー溜まり』というのがあってね。自然に発生したものじゃなくて、1000年掛けてウインディアから干渉を受けて、少しずつ変化していった土壌だ。つまり、過去1000年の間に『原初のエナリア』が居た土地。君達『適合者』は、運良く『そこ』の影響を受けて生まれたということだ。だから、『6ヶ所』に出身地があるエナリアが多いだろう」

「…………いつか、誰が何もせずとも、ウインディアからではなく。『人間界から怪人が発生するようになっていた』と?」

「その通りだ。空石八朔。僕はそれに便乗しようとしただけ。あんな量のエナジー、僕でも無理だよ」

「…………三木」

『ああ聞いている。詳しく調査する必要があるが、恐らく間違っていないな。既に、現在出現している怪人からは暗黒エナジーの割合は少なくなっている』

「……ほーん」


 それを聞いて。咲枝は声を漏らした。


「僕を自由にするという条件なら。僕の知る限りの研究知識、エナジーに関することを教えてやっても良いよ」

「ああそれは無理だ」

「…………そうかい。なら早く殺しなよ」

「だめっ!」

「…………」


 復活したシムラクルムをどうするか。改心する様子は無い。

 2代目達は、この件に関して意見はしないようだ。綾水は、咲枝を見た。


「……えよ」

「!」


 咲枝は。


「アンタ、三木さんの下に付いて情報提供せえ。対策本部に貢献せえ。ほいで、アタシと八朔さんが認めたら自由にしたる」

「おいっ。咲枝……」

「良いのか? 簡単に裏切るぞ」

えよ。『自由にするかどうか』はアタシらの判断で、『いつ』『どうなれば』は言わん。それまでに信頼関係築け。あれやで。三木さんの近く言うたら、ナギの目が光っとるってことやからな。ウインディアやとナギ。人間界やとアタシが監視する」

「…………!」

「あとな。シムラクルム。今アタシらと一緒に『エナジー研究の第一線に居る』ってことは。実質『世界を支配しとる』のと変わらんで?」

「……む」

えよな? 三木さん」

『ああ歓迎しよう。……シムラクルムの「支配欲」だが、これはエナジーの本質である「感情の共有」が転じて「自分の感情を他者へ伝播させて操る」ことに端を発している。人間界でのエナジー研究は我々が独占している。恐らく満たされるんじゃないか? 「最高に面白い」ぞ。この仕事は』

「――っていうちゅうことや。八朔さん?」


 勝手に話が進んでいく。空石は開いた胃の穴から大きな溜め息を絞り出した。


「……はぁ。まあ、人的被害が出なかったから、ナギ女王を裁かなかったんだ。同じ状況なら、シムラクルムを処刑する理屈は薄いか……」

「よっしゃよっしゃ。そういうことや。シムラクルム。えか?」

「…………」


 シムラクルムは。

 彼女も。

 咲枝達に振り回されているであろう空石を見て、今後自分もそうなることを予想して。


「……良いだろう。負けたよ」

「へへへ」


 深く深く、長い息を吐いた。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:な? これが大人のやり方や。話し合いや。なんでも倒して殺したらえんとちゃうんよ。


〈シムラクルム〉:いや普通に甘いと思うけど。


〈綾水〉:勿論、空石様の言う通り人的被害がもしあったなら交渉の余地無く即座に撃ち殺していましたわ。


〈シムラクルム〉:……春風咲枝より北城治綾水の方が実は危険なんじゃないか……?


〈咲枝〉:今頃気付いたんかい。


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第50話『最終回! 変身! 美少女エナジー戦士エナリア!』


〈綾水〉:無限ひじきの煮物地獄の件、忘れてはいませんことよ。


〈咲枝〉:やで。気ぃ付けや。ひじきの怪人。


〈シムラクルム〉:最後の予告がこれで良いのかい?


〈ポポディ〉:もう突っ込むだけ無駄ディよ。

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