第48話 変身! ウインディアにて諸々処理!
「ありがとうございました。お父様を説得できたのは、咲枝さんのお陰です」
「アタシは何もしとらん。アンタが勝手にアタシを
「うふふ。それでも。ありがとうございます」
「……
バン、と。
廊下から窓を開けたララディ。人間の姿になり、上半身を乗り出した。
「あっ。王女さま!」
「ララディ様ーっ!」
「わあああ!」
表は国民達で賑わっていた。城の庭と1階部分は一般に公開されているのだ。ララディは2階の窓から手を振った。
「…………むちゃくちゃ人気あるやん」
「ええ。ありがたいことに。一応は、無茶と思えるわたしの政策も、皆さん聞き入れてくださいました」
「……これから、どないするんや?」
「まずは、教育を。反対するカルマは国外へ出ますが、反対するエナジーアニマルはそのまま反政府組織となるでしょう。彼らにも、理解をしてもらわないといけません」
「教育?」
「はい。わたし達は『知らなさ過ぎた』。わたしが国外で見聞きしたもの。考え。判断。知識。今のウインディアに足りない物を教育によって補います。しばらくは教師はわたしひとりですが、その生徒達を新たな教師として育て、ゆくゆくは各地に学校を建設し、時間をかけてでも、国の知識水準を底上げします。……ウインディアには、公的な教育機関は無いんですよ」
「あ、そうやったんや」
「今までは、『なあなあ』で『なんとなく』ぼんやりと暮らしていました。しかしそれでは、敵国に攻め入られる。それを1000年繰り返してきました。何も学ばず。エナリア頼りで、思考を停止させて。……そこを直します。まずは国家目的の周知。その浸透。現状把握の術。問題点の洗い出し。改善案の模索。結果の考察。議論のやり方。……『生き物の群れ』として『最低限』の水準まで。まずは持って行きたいのです」
「……国民が政治理解したら強そうやなあ」
「そうです。それができたらいずれ、わたしはこの国を民主化したい。今は無理ですが、いずれ。自分達で、自分達の国を運営できるように。その基盤を。これから作っていきたいのです」
「あー。そういや王政国家なんか。日本とそもそも
「はい。日本の政治や歴史も、参考に」
「…………あんま、無茶せんようにな。ここでアンタが過労で倒れるとかそれこそ国潰れるで」
「分かっています。ありがとうございます。ですが心配要りませんよ。わたしはどれだけ疲れても、リッサと抱き合って眠れば全回復しますから」
「…………アタシと同じこと言うとんな」
「え?」
「いや。なんでもあれへんよ。ほならリッサ抱き倒したって」
「はいっ」
ララディは良い表情でぴょんと跳ねた。こう見たら、普通の少女だ。
「……なんでも言いや。アタシも綾水も、出来る限りは協力するで」
「はいっ。なんでも頼ります。ありがとうございますっ。早速なんですけど……」
「…………お手柔らかにな……」
咲枝は、出来の『良い』妹がもうひとり増えた感覚を抱いていた。
♡
そのまま、国民に挨拶してくると言ったララディと別れ。咲枝は城内をなんとなく散歩していると。
「あ。お姉ちゃーん」
「胡夢ちゃん? なんでこっちに?」
咲枝を見付けて、ぴこぴこと揺れたサイドアップ。秋らしい紅葉色の、ふわふわのカーディガンを着た胡夢が駆け寄ってきた。
「えっとね。なんか僕に会いたいって人が居るって」
「ほーん?」
「牢屋に居るんだって」
「はあ?」
よく見ると、胡夢の側に幹部……レイジンとマッツンが居た。
「なんやアンタらも」
「……俺はナギ様に心から忠誠を誓っている。その点だけは安心しろ。今日は客人『志村胡夢』の警護だ」
「そういう事や。ララディ王女の言うてた警察って奴やな。ツン」
「……ふむ。心配や。アタシも行く」
「ぐ。……まあ、お前から信頼されてないのは分かっている。良いだろう。付いてこい」
ふたりの幹部の案内で、咲枝と胡夢は手を繋ぎながら城の地下へと向かった。
♡
地下牢。暗く、光源の少ないジメジメした空間。正に、絵本に出てくるような『地下牢』そのままのイメージの場所だった。
「ララディ王女から既に説明があったかもしれんが、俺達カルマとエナジーアニマルは完全に生活圏を区分けされている。要らぬ軋轢を生まない為にな。仕事の際は、使用の時間帯で分けている。まあ犯罪と報復防止が一番の理由だ」
「ああ。そうやな」
「多くのカルマは、それを了承した。そもそも、ナギ様が皆を集めるまでは、世界中に散って、住み着いた国の傭兵なんかをやることでエナジーを貰って生き延びてきた種族だ」
「それも聞いとる」
「今度はウインディアで、それを安定してできるってんだ。まあ大体のカルマは賛成する。それに、なんだかんだ皆、ナギ様が好きだしな。独裁とは言え、俺らのことをよく考えてくれる王なんだ」
「知っとるよ。ナギの性格自体は
「……だけどな。やっぱ数が集まるとどうしても。人間でもエナジーアニマルでもそうなんだと思うが、一部の『悪い奴』ってのが出てくる。そいつらは、この地下牢に閉じ込めてるんだ」
「……更生の余地はあるんか?」
「さあな。少なくとも俺には見えない。ナギ様のお考えだ。ララディ王女も了承してる。一応まだ、ウインディアのエナジーは犯罪者を生かしておける程度には豊かだからな」
レイジンに説明されながら、コツコツと歩く。
「ていうかそんな悪い奴が、胡夢ちゃんをお呼びなんか?」
胡夢は少し怖いらしく、咲枝にべったりくっついている。
「ああ。そいつは『シムラクルム』の暗黒エナジーを長期間に渡って摂取し続け、『精神』が汚染された。生かしている理由のひとつは、ナギ様の旦那が、それを研究したいってことだろうな」
「あー……アイツか」
ぴたりと。レイジンが足を止めた。
「……ていうか一輝さんの許可取ったか?」
「それは僕が話したよ」
「……そんなら、まあ」
その鉄格子の先に。
ザイシャスが居た。
「…………クルム」
「……だれ?」
「……っ」
虚ろな目で胡夢を捉えたザイシャスは、ぼんやりと声を絞り出した。呼ばれた胡夢は、咲枝に半分隠れながら訊ねた。
「あんなザイシャス。この子は胡夢ちゃん『本人』やねん。アンタと一緒に居った『シムラクルム』はもう居らん。この子は何も知らんねん。ただの器として使われただけやねん」
「…………ああ。それは分かっている」
「………………」
じっと、胡夢を見るザイシャス。
「……あのね、お姉ちゃん」
「ん? なんや?」
胡夢が、ザイシャスに怯えながら咲枝の顔を見上げた。
「僕、何も知らなかったし、パパも教えてくれなかったけど。この前こっそり、かけるお姉ちゃんが教えてくれたんだ」
「かける……って。大空さんか」
「うん。…………それと、今、この人を見て。……夢に出てきた人と同じ顔だと思った」
「……夢」
「うん。多分、その『シムラクルム』の記憶だと思う。僕が今ウインディアに来れてるのって、『シムラクルム』が僕から奪ったエナジーが、僕に返ってきたからなんでしょ?」
「!」
ここで。咲枝も忘れていたことを思い出した。
エナジーに適性が無ければ。異世界に渡ることはできない。エナジーアニマルや怪人と、言葉も交わせない、と。
「だから……。この人は、『シムラクルム』の為に頑張ってくれた人なんだよね」
「…………っ! クルム……!」
「……う。僕は、胡夢だけど。……でも、えっと。ザイシャス、さん……のことも知ってるから。だから……」
拙く。話し方はクルムとは全く異なるが。
「…………っ」
ザイシャスは目を見開いて、言葉を待つ。
「あの、えと。……げ、元気、出してね……?」
「…………!」
その目から、涙が溢れた。
♡
「なんや
「エナリア」
「ん」
その帰り道。別の牢屋に、もうひとりの罪人が居た。
「あー。えっと。グリフトやっけ。あんたも胡夢ちゃん拝むか?」
「要らねえよ。『ロリコン』になっちまったのはザイシャスだけだ。俺は普通に悪人だよ。死ぬまで捕まえとけ」
「言うやん。なあ胡夢ちゃん。なんか言うたってや」
「えっ。えっと。……グリフトさん。ありがとう、ね。ごめんね。負けちゃって」
「………………!」
グリフトの顔面から火が出た。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:ほら、
〈ポポディ〉:お、お前ら……? 誰に言ってるディ。
〈咲枝〉:アタシは
〈ポポディ〉:だから何ディそれ。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第49話『変身! 昨日の敵は、今日の監視対象!』
〈咲枝〉:ていうかあんま活かせてへんかったな。チラリズム。
〈ポポディ〉:最近サキエの言ってること全然分かんないディ。
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