第47話 変身! ウインディア討論会!
「『共存』を」
「…………正気ウィか……! ララディ」
ウインディア、王城。国王アウィウィの執務室にて。
今回は咲枝が呼ばれていた。綾水は人間界で戦闘任務がある。現国王と、王女ララディがテーブルに向かい合っている。
「カルマの怪人達は、ウインディア国民であるエナジーアニマルを虐殺したウィよ? 5320匹! ありえないほどの命が失われたウィ! 彼ら死者から、今後生まれてくる筈の数万の子供達も! 未来を奪われたウィ!」
国王は憤怒した様子だった。ウインディアはエナジーアニマルに返還される。その後の、カルマの怪人の扱いについて。
「ウインディア全国民は152万。たった0.0035%の被害です」
「そんな数字で、『命』を軽く見るのは許さないウィ!」
「数字を最初に語ったのはお父様です。ナギさんが救った国民はそのまま、今生きるわたし達を含めた152万です」
「多数を助ければ少数を殺して良いなんて理屈はおかしいウィ! それに、ウインディアを救ったのはエナリアだウィ!」
「ですから。ナギさんの助力がどれだけ貢献したか、きちんと説明しましたよね」
「そんなの知らないウィ! とにかく犯罪者のカルマを擁護する必要なんかこれっぽっちも無いウィ!」
「…………ナギさん達カルマには、国の復興と発展を協力してもらいます。土木作業や農作業の面で、わたし達エナジーアニマルが人に変身してするより力強く、より多く早く仕事ができます。しかもエナジー効率的にも、低燃費で。さらに、戦えないわたし達に代わり、国防の一端を担ってもらいます。ご存知の通り、カルマは強い。これから先、他の怪人が攻めこられないように軍備を増強します」
「そんな怖いことよく言えるウィね!? カルマをウインディアに滞在させる!? 軍備増強!? ララディ、そんなに戦争したいのかウィ!?」
「…………ですから。戦争『しないため』にこれらをするのです。攻めてくる仮想国に『勝てない』『勝っても自国の被害が大きい』と思わせ、『攻め込む』という選択肢を無くす方法。それは軍事力の増強以外にはありません。他にありますか?」
「…………! だから! エナリアが居るウィ!」
「エナリアを待っていて、ウインディアを攻め落とされたのが今回の発端です。『問題に対し先んじる』ことの重要性を、お父様も重く実感した筈です」
「…………!」
「それに、『エナリア頼み』は危険ですと何度も言っています。咲枝さんが。綾水さんが。ウインディアに愛想を尽かしたらどうなりますか? わたし達はエナリアを従えている訳ではありません。ボランティアなのですよ? いつでも気軽に使える戦力ではないのです。しかも今は、シムラクルムの残響がヒノモト各地に現れ、エナリアはそちらの対応もしなくてはならない。そもそもエナリアは人間ですから、人間界を守ることが最優先です」
「……だからって! 国民を虐殺して回ったカルマの怪人などを……!」
「政治判断に『感情』は要りません。必要なのは『事実』と『結果』のみ。国家目的は民の生命と財産の保護、そして繁栄でしょう? 『強い怪人に守ってもらう』その段取りができているのに。賛成しない理由はただの『個人的感情』でしかないのではないですか?」
「……ぐぐぅ……!」
しかし。
咲枝としては、暇だった。これを見ているだけだ。ずっと。親子喧嘩を。
「え、エナリア! エナリアはどう思うウィ!? ララディが間違ってると言ってくれウィ!」
「ん」
目が合ってしまった。話を振られた。ララディも咲枝の方を見た。
「……うーんとな。アタシ、別に政治家
「良いのです。咲枝さんの率直なご意見をお聞かせください」
とは言っても、ウインディアは『他国』だ。その政治に口出しする権利は無い。だが、そこまで言われては、咲枝は頭をぽりぽりと掻きながら考える。
「……政治に感情は要らん。国防は優先事項。それはその通りや。けど、『国民感情』は考慮すべきやろ? 皆だいたい、王様みたいな感情なん
考えとしては、ララディを応援したい。だが、アウィウィの気持ちも分かる。そんな回答だった。
「そうウィ! 皆が納得しないウィ!」
「……戦争の責任者は国主です。わたしは『ナギさんを城内に拘置・監視』することで責任を取らせています。市民には既にそう説明しています」
「それは甘過ぎるウィ!」
「では処刑しますか?」
「そんなの……っ! 国外追放で良いウィ! もうウインディアへ足を踏み入れないと約束させて!」
「約束を守らせるほどの武力が無いのに?」
「…………!? また武力とか、怖い話を……っ」
「はぁ……っ」
そんなアウィウィに対し。ララディは遂に溜め息を吐いた。
「わたしは『国を守る』ことに対しての、現状の『最善』を提案しています。現に、既にもう市内の復興をカルマの方々に手伝ってもらっています。反対しているのはお父様を含め、地方に逃げていた方達の中の、さらに一部の保守層です。……わたしの『政策』は『考えうる限り最善』だと思っていますが、お父様には『同等かそれ以上の結果』を出せる代替案があるのですか? あれば、喜んで賛成いたしましょう」
「……! だから、何度も言ってるウィ! 国防ならエナリアが居るからもう大丈夫ウィ! 1000年にひとりのストームフォームウィよ!?」
「…………エナリアは『外国人』だとっ。何度お伝えすれば分かってくださるのですかっ!」
「!」
遂に。声を荒らげてしまった。
「エナリアはたったふたりしか居ないのです! しかもひとりはまだ未成年で、女性のおふたりに! 一国の国防全てを、担わせるのですか!? 国民はただ見ているだけで! 報酬も支払わず! 英雄視するだけで! 人間界でそんな兵の使い方をすれば、全世界から非難されます!」
「でもずっと、そうして来たウィ! 今更そんな詭弁でエナリアの価値を下げるなウィ!」
「だから! 『その考えを改めなければまた怪人が襲ってくる』と! 歴史がそう証明していると! 何度も何度も! お伝えしているでしょう!!」
「あーもう。ちょい待てふたりとも。熱なりすぎたらアカン。ちょぉ待ちぃな」
そこで、咲枝が止めに入った。傍から見れば、ぬいぐるみがふわふわ喧嘩しているというファンシーな光景だが。『一国の意思決定の場』である。議会ではないのは、日本とは政治体制が違うからだ。
「……申し訳ありません。少し、取り乱しました」
「エナリアはどっちの味方なんウィ!?」
「……あんな。まずアンタ落ち着け王様。アタシ客人やろ? 客の前でそれはアンタ恥ずかしいで」
「…………! た、確かに……。済まないウィ」
「……よっしゃ。もう
「はい」
「ウィ」
咲枝に対して頭を下げたふたりの王族。咲枝は内心なんでアタシがこんなことせなアカンねんと思いながら、立ち上がった。
「まずな。『どっちの味方か』言う話出たけど。おかしいやろ。どっちかの味方んなったら違う方の敵になるんかい。アンタら同じ国の王族やろ。政治は戦い
「…………!」
「で。アンタらふたりにも共通項あるやろ。『また怪人が攻めてくる可能性がある』『その対策をしなければならない』この点だけは、ふたりとも同じ思いやろ?」
「……そうウィね」
「はい」
頷くふたつのぬいぐるみ。
「で、王様が言うとる『エナリアで対策する』いう件については、当のエナリアであるアタシの意見も聞いてくれるやろ?」
「勿論だウィ」
「結論から言うと、アタシと綾水で『いつもいつでもウインディアを守るために駆け付ける』ことは無理や。アタシらにも人間界で生活と仕事がある。それは分かってくれるやろ?」
「……そうウィね」
咲枝は、どちらかというとララディを支持している。よって、国王を説得する方向へ持っていく算段だ。
「ほなら、『エナリアが対応できん時』の『代替案が必要』なんも分かるやろ?」
「…………ウィ」
ひとつひとつ、砕いて説明する。第三者でもあり当事者でもある咲枝の言葉は、変な歪曲をせずにアウィウィの耳に入る。
「今から他の怪人に頼むのは無理や。既にカルマが
「…………! そう、考えれば。確かにそうウィけど……っ!」
「ほいで。アタシも気になっとんのが、カルマに守らせた場合の
「はい」
続いて。咲枝はララディに向き直る。
「カルマはエナジーを自己生産できん。つまりエナジーを補給せな死ぬ種族や。ウインディアに滞在させた場合の食糧問題はどないするんや? いうことと。治安の問題や。現状カルマは一方的にエナジーアニマルを殺して食える。腹減ったらその辺にエナジーアニマルが居るんや。どないして取り締まる? ウインディアには警察も軍隊も居らんやん」
そう。ララディの意見に頭から賛成している訳でもない。ひとつひとつ、気になったことは解決していかねばならない。
「……これに反対するカルマも出てくるでしょう。ナギさんと話した試算では、残るカルマは80万と見ています。1日5時間働いてもらうとして、必要なエナジーはひとり1日50程度。4000万エナジー。ウインディア国民で割ると、ひとりあたり26〜27程度、徴収すれば良い。エナジーアニマルの平均エナジーは怪人と同じく100程度。毎日の消費循環エナジーは、実は50を超えるのです。その中から。基本的に排出されて使い道のない無駄なエナジーを、カルマの食糧に回します。当然純エナジーに加工してからですが。……さらに言えば、ウインディアの土地は常に低濃度のエナジーが放出されています。そこから、彼らの食用のエナジーを捻出することも可能。……つまり、誰ひとり犠牲にせず、負担も掛けずに。実はカルマを『養える』豊かさが、ウインディアにはあるのです」
「………………そうなんや」
「それで、治安の問題ですが。幹部怪人の方々に警察をして貰います。その統括はナギさん。そして、ナギさんを含め、カルマ全体が協定を
「……!」
ララディはにっこりと、咲枝へ微笑んだ。まるで、その疑問が出ることを最初から予測して、答えを用意していたかのように。
「それこそ、盟友エナリアに『お願い』しようと思っています」
咲枝は。笑顔を引きつらせて冷や汗を垂らした。
「(この王女……。最初からアタシにここまで誘導させるつもりでアタシ呼んだな。このタヌキ……)」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:ぬいぐるみ政治家のガチ討論とかシュール過ぎるやろ。
〈ララディ〉:ウインディアでは日常風景ですよ。ここは『国』で、わたし達は『王族』ですから。
〈咲枝〉:
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第48話『変身! ウインディアにて諸々処理!』
〈咲枝〉:ま、もうヤバい戦いは無い訳やし。気ぃは楽やわ。後は出てきてもアレやろ。劇場版だけのインスタント悪の組織とかその程度やろ。
〈ララディ〉:劇場版? インスタント悪の組織……?
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