第42話 変身! 激闘! 幹部ザイシャスとの決着!

「さて。……『シムラクルム』。お前の目的は日本の支配、そして『自身の繁栄』。戦前の非人道的エナジー研究の落とし子たるお前は、自身を『新しい種族』として人類の上に位置付け、人類を支配することで復讐を果たそうとしている」

「…………!」


 長野県、白馬村にて。空石がアーチェリーを構えたまま、クルムへ語りかけた。


「その正体は『暗黒エナジー』。初代カルマボス、ダークオーラの死に際に残したものと同じ、エナジーを侵蝕する毒のエナジーだ。同じ暗黒エナジーであるから、初代ミラージュは対ダークオーラにおいてエナリアをサポートできた」

「…………よく調べたな。半世紀も前のことを」

「ああ。ウチの天才と、ナギ陛下の助力あってな」

「……ミラージュ・レボリューション」


 その隙に。クルムはミラージュウィンドへと変身した。


「お前が肉体を持つ為には、まず誰かに憑依しなければならない。しかしただの人間ではエナジー適性が無い。目を付けたのが、初代ミラージュウィンドと初代エナリアの孫娘、志村胡夢しむらくるむだった」

「そうさ。というか、50年待っていたんだ。志村一輝と結城美優のエナジーも僕が吸った。だが足りない。エナジー適性は多少あったが、『完全なる自然発生の奇跡存在』戦木恵那そよぎえなが別格すぎたんだ。もうあんな奇跡は起きないと思っていた。だから、時間を掛けて結城美優の身体にエナジーを送り、『子』に宿るようにした」

「…………外道め」

「目的は果たされた! 生まれてきた『志村胡夢』は完璧だった! 『完全なる人工的奇跡存在』だ! すぐにエナジーを食った! すぐに、僕は肉体を持った! 『シムラクルム』として生まれたんだ!」


 胸に手を当てて。自己主張をするクルム。


「……人の業の成れ果てだな。ようやくコイツの出番が来たと思えば、ほぼラスボス戦とは」

「ねえソライシ。そっちは任せるわよ」

「む」


 空石の隣に立つリッサが、剣を構えた。


「お前も駄目だな。怪人の癖に、人間側に付くとは」

「……ふん」


 その先では、グリフトが怪人の姿に戻っていた。


「あいつも多分、他の幹部より強くなってる。私ひとりじゃあの2匹は同時に相手できない」

「……分かった。気を付けて」

「気遣いは要らないわ」











「……俺の嫁さん、元魔法少女ってマジだったんか……」


 高知県にて。腰を抜かした男性が、ぼそりと呟いた。ここへは車でやってきていた。三木の、指示した場所へ。


「【エナジーストリーム】!」

「くっ!」


 エナジーマリン、2代目エナリア『海野なみ』が技を繰り出す。まるで大波のように押し寄せるエナジーの奔流を、クルムは避け切れずに受けてしまった。周囲の怪人達は軒並み押し流されていく。


「くそっ! どういうことだ! ブレスレットは僕らがふたつ持っているんだぞ!? どうして3人とも変身できてるんだ!?」


 なんとか耐えたクルムが叫ぶ。


「そりゃあ、ウインディアと手を組みましたもの。宝物庫に『いくらでも』あるんですよ」

「!!」


 綾水より……否。ストームフォームに匹敵するほどのエナジー量を誇る、エナジーマリン。クルムは苦戦していた。











「オラァ!」

「ぐはっ!」


 エナジーフラワー『花山りく』の蹴りが、クルムの鳩尾に深く刺さった。吹き飛んだクルムは鳥取砂丘の砂山に突っ込み、大きな砂埃を上げた。


「かあちゃんカッケー!!」

「おう。見とけよケンタ。母ちゃんは最強なんだよ!」

「【ミラージュショット】!」

「!」


 風の速さで飛んできた、暗黒エナジーの塊。エナジーフラワーは即座に反応してみせ、自慢の蹴りで弾き飛ばした。


「おー。結構粘るね。おばちゃんびっくりだ」

「はー! はぁー! くそ……! どうして、暗黒エナジーで侵蝕できない!? こんな年増の元エナリアに……!」

「はっは。そうか。胡夢ちゃんが生まれるまで潜伏してたから知らないのか」

「!?」











「はあああああっ!」

「ぐはぁっ!」


 エナジースカイ『大空かける』の連打をまともに食らい、膝を付いた沖縄のクルム。


「僕に触れたら……! 侵蝕されろよ! なんなんだよ!」

「えへへー。知らないんだー。あたし達『2代目エナリア』はね。ずーっと、『暗黒エナジー』と戦ってきたんだよ。つまり、『暗黒エナジー』に耐性を持つ、『より希少な適合者』! あなた、ダークオーラに比べたらまだまだだよ。6人に分裂してるから本来の力が出せないのかな?」

「…………!!」











「ちっ」

「!」

「おおっ!」


 ブレスレットの力によってさらに強力になったザイシャスの、青竜刀のような爪が襲い掛かる。咲枝はそれらを全て捌きながら、『組み掛かろうと』前進する。


「斬り裂いてやる!」

「やってみろやアホンダラ。それアタシのブレスレットやろがボケェ!」

「!」


 ずんずんと、一歩ずつ確実に前へ出る咲枝。両手は忙しなく動き、ザイシャスの爪を叩いていく。気を緩めて隙を見せれば一瞬で細切れになるこの空間で、咲枝はやはり冷静に処理していく。


「くそっ!」


 強くなった筈の攻撃が当たらない。柔道という『技術』を前に、ザイシャスは後退り始める。


「獲った」

「! 待っ……!」


 瞬間。時間が停止した感覚。

 咲枝の右手が、ザイシャスの左腕、厚い甲殻の1枚を捉えた。ちょうど、組みやすい位置と大きさの、それを。


「よいしょぉぉぉおおおおおっ!!」

「――――っ!!」


 もう逃げられない。柔道家に『一度でも組まれれば』。もう終わりである。


 掴んだ腕を支点にくるりと反転、ふところに潜り込む。腕の力ではなく、腰の力で、身体全体で相手を浮かす。


「…………!!」


 そのまま。

 掴んだ腕を巻き込みながら腰を上げ、ザイシャスの身体を浮かせて一回転、地面に叩き付ける――


「ああああああっ!!」


 ――【一本背負い】!!


「!!」

「よいっっしょぉぉおおおっ!!」


 ズドン。

 美しいほど綺麗に決まった、咲枝渾身の投げ技。思い切り叩きつけられたザイシャスを中心に巨大なクレーターができる。ビキビキとコンクリートの地面はひび割れ、ボコボコと不規則な穴ができる。

 ストームフォームのドレススカートがひらり。


「……がっ……っ!」


 ザイシャスは揺れる大地に数度打ち付けられ、掴まれた左腕は捩じ切られている。奪ったブレスレットで強化されていようが問答無用で、即座に昏倒した。


「……まだ原型あるんかい。エナジードレインや」

「…………!」


 そして。咲枝はそのままエナジードレインを開始した。


「そう言えば暗黒エナジーの侵蝕やらなんやらは大丈夫なんか? アタシ」

「大丈夫ディ。ストームフォームはそういうの効かないディ」

「雑に強すぎやろ。2代目の先輩達は使わんかったん何でなん?」

「2代目は皆、素で暗黒エナジーの耐性持ちディ。それにストームフォームのネックレスはそもそも、『好き嫌い』が激しいんディ。きちんと適合したのが咲枝だけディよ。あ、一応初代も最終決戦の最後の最後で一瞬だけ使えたらしいディけど」

「そんな最終回レベルのやつ、アタシがポンポン普段使いしとってえの?」

「? 何か不都合あるディ?」

「いや……。まあえけど」


 咲枝の近くに、ポポディも浮いていた。いつもの調子で掛け合いをするふたり。


「よし。ほな、次や。まだここに居るやろ? シムラクルム。三木さん?」

『……ああ。反応はある。場所を指示する』

「よっしゃ。行くでポポ」

「おうさ」

「待てっ!!」

「ん」


 いつの間にか。

 霧が出ていた。声はどこからともなく聴こえた。咲枝は警戒する。


「作戦は確かに失敗だ。全員が……『暗黒エナジー特効』なんて完全に想定外だ」

「……シムラクルムか。三木さん。各地はどないや?」

『……全員、とどめを刺す寸前で霧となって消えたと報告があった。幹部怪人グリフトは、まだリッサと戦闘中だ』


 三木からの通信に支障は無い。だが、どんどん霧が濃くなっていく。


「……そら、相手が暗黒エナジーやって分かっとるからな。対策は当然やろ」

「…………よく分かった。だが、『遅すぎ』だよ、君達」

「あん?」


 ひと際濃くなった霧が、形を成していく。頭、胴体、手足……。


 クルムの姿に。


「正解を出しても、タイムオーバーだ。僕には奥の手だけじゃなくて、切り札がある」


 ふたり。

 全く同じ顔の少女になった。


「ふたり……?」

「! 違うディ、サキエ! あれはシムラクルムと、おいら達がギフケンで会った『志村胡夢しむらくるむ』ディ!!」

「はっ?」

『春風っ! いや、全員聞け!』

「!」


 同時に。三木から通信が飛んでくる。


『志村家からついさっき連絡があった。胡夢ちゃんが行方不明だと!』

「はぁ!?」


 それを聞いて、見る。ふたりのクルムの内、ひとりは虚ろな目をしている。


「まじかいや……」

「フフン! 君達は『6ヶ所』に縛られ、岐阜の方を疎かにしたね。僕にエナジーを吸われた志村一輝と結城美優では娘は守れない。まあ本来は、北城治綾水を行かせるつもりだったのかもしれないけど」


 もうひとりの、笑みの溢れるクルムが、虚ろなクルムの肩を抱いた。


「志村胡夢は『シムラクルム』の適合者だ。『僕』を一番上手く扱える。その才能と感性を、『僕』が支配して動かす。ブレスレットを同時にふたつ使ってね。これが考えうる最強だよ。ダークオーラやストームフォームなんて古臭い力、容易く凌駕する」

「アカン、行くでポポ! 胡夢ちゃん助けな!」

「おうさ!」


 駆け出す咲枝。だが。


「「シムラクルム・レボリューション」」


 間に合わない。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:あ〜……。


〈ポポディ〉:ど、どうしたディ……?


〈咲枝〉:あ〜〜。やっぱ気持ちえわぁ。一本背負いキマると。完っ璧やったで。お手本や。


〈ポポディ〉:そ、そうディか。まあ、歴代の使者も担当エナリアの戦い方に口出しはしてないディが……。相手を投げるっていうのは斬新ディ。


〈咲枝〉:まあそやんな。やけど、女の子が戦うんやったらバチバチの打撃戦よりこっちのが実用的な気ぃするで。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第43話『変身! 咲枝vs.シムラクルム!』


〈咲枝〉:ほな、ラスボスも投げてしまいや。


〈ポポディ〉:油断は駄目ディ。けど応援するディ!

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