第39話 変身! ナギの怒り炸裂!
その頃、ザイシャスとグリフトは。
「……全く、大変だな。『人間』とは。1日3食だと? これではすぐに食糧難になるぞ」
「ならないだけの『豊かさ』があるんだろ。少なくとも、この国には」
エコバッグを提げながら、人気の少ない路地を歩いていた。もう陽は暮れている。静かな夏の夜。
「おい、『ゴマアブラ』が無いぞグリフト」
「は? おいおい、俺はメモ通りやったぞ。『テンイン』にメモを見せた」
「だがここには『ゴマアブラ』は無い。どうするんだ。ひとつ材料が違っただけで『不味く』なるんだぞ。人間界のエサは」
「…………ちっ。なら買いに戻るしかねえだろ。カネはあんのか?」
「大丈夫だ。クルムに貰った『サツタバ』がまだ数枚ある。あと金属のヤツも」
「先に帰ってろ。速攻で買ってくる」
「エナジーは使うなよ。バレたら死ぬぞ」
「分かってるよ」
そんな会話をしつつ。
「楽しそうだな」
グリフトが方向転換をした所で。
ふたりの時間が停まった。
♡
「な…………っ」
突然の。唐突の。
全く予想外の。
「ナギ様……っ!?」
奇襲だった。
「幹部ザイシャスとグリフト。エナジー波長も一致しました」
「ああ……」
メイド怪人が、何やら双眼鏡のような機械を通してふたりを見て、ナギへ報告する。静かに頷いたナギは、まずグリフトの腹を蹴り抜いた。
「ガヴァぁっ!!」
「グリ……っ!?」
「こちらを向け。幹部ザイシャス」
「……!!」
幹部特有の硬い甲殻ごと貫いた、ナギの脚。振り払うとグリフトはその場にどしゃりと崩れた。
反応する間もなく、ザイシャスはナギに片手で首を絞められて持ち上げられていた。
「ぐ…………!」
「貴様ら…………。帰還命令はどうした。報告義務は。どれだけ時間が経ったと思っている。わらわを……。馬鹿にしているのか」
「な……っ!?」
これ以上ない程。見たこともない程に激昂している。抗えない。全く。いくら幹部と言えど、カルマの現女王であるナギにひと欠片でも対抗しうる方法など何ひとつ、存在しない。
「(帰還命令だと!? 一度も来なかったじゃないか! それに、『亀裂』はケーサツブタイに抑えられていた! ……まさか……っ)」
声を出せないザイシャス。そのまま至近距離で、ナギの怒気を浴び続ける。
「今は本当に……。本当に、大事な時期なのだ。繊細な……。本当に。……状況が変わったのだ。根底から。貴様らが人間界で好き勝手やっていることは、『わらわの責任』になるだろう。そうすれば、ヒノモトのジエータイはどうする。あの、ララ王女は。……エナリアは? 今度こそ本当に、カルマは根絶やしにされるのだぞ。『本当に』っ」
「……!」
ナギは『日本』の軍事力とエナリアの戦闘力、そして『人間』の科学技術を身を以て体験している。万が一にも、カルマが勝てると思い上がってはいけない。たかが怪人。たかが、人間より肉体が強くて銃が効かない『程度でしかない』の弱小種族であると、『分からされた』のだ。
「キタグスクバルアヤミを解放せよ。今すぐにだ。幹部ザイシャス」
「…………がっ! ぐうっ!」
とびきり強く睨んで。ナギはザイシャスを放り投げた。壁にぶつかってから、ずるずると地面に落ちる。
「…………! がはっ! げほっ!」
「何をしている。わらわの命令が聞けぬのか」
「ぐ……っ! ナギ様……!」
「なんだ」
なんとか、肺に空気を流し。手を広げて静止を促して、発言の許可を得る。
「私は見ましたっ! ナギ様が……! カルマボスが、人間やエナジーアニマルと『楽しそうに』遊んでいる所を!」
「…………」
この前の、人間界ツアーのことだろう。ナギは顎で続きを促す。
「何故ですかナギ様! 我々を裏切って……寝返ったのですか!? 人間は、敵! 人間界は征服すべきだと! ナギ様ご自身が我々に仰ったのに!」
「…………」
コツ、と一歩、ザイシャスへ歩み寄るナギ。視線は冷徹なまま。
「……『それ』をお前が見て。『それ』を疑問に思ったのなら。その時点で『わらわに』確認しに『来い』。お前が自分勝手に『判断』して良いことではない。それも、わらわは伝えたよな。軍人は、作戦中に意思は必要無いと」
「…………ぐ! で、ですがっ! あまりにも」
「何故なら! 『こう』なるからだ! 馬鹿め!」
「!」
コツ。
近付いて、ザイシャスの顔を蹴り上げた。
「ぐぁっ!!」
「二度言わせるな。状況が変わったのだ。それを伝える為に、帰還命令を出したのだ。それを……っ! 分かって、ことごとく無視を貫いたと、そうなのだな……っ!」
「待っ――!」
コツ。
今度はグリフト同様に、腹にヒールがめり込んだ。
「ぅぐぅぅっ!!」
「キタグスクバルアヤミの居場所を、わらわに教えよ。幹部ザイシャス」
「ぐ。……がっ! くそ……。何故、人間の味方を……っ」
「お前は人間界に長く居る内に、わらわと会話ができぬようになったのか? わらわが人間の味方であると、いつお前に言ったのだ。『その判断』を、いち兵士でしかないお前がして良いと言ったか?」
「ぐぅぅぅっ!」
深く。めり込む。怒りのエナジーを帯びて。
♡
「そういじめてやるなよ。内部粛清は悪の組織の花とは言え」
「…………」
ナギがぴくりと反応した。エナジーフィールドが展開されたのだ。その方向に。
サイドアップを揺らした少女が立っていた。
「何者だ」
「フフン。なるほど。まだ僕のことはバレてないんだね」
「……人間……だが、少し違うな」
「ぐあっ!」
臨戦態勢を取るために、ザイシャスの腹から足を抜き取ったナギ。
「分かるかい。まあ僕と君は、遠からぬ親戚と言えるからね」
「なんだと」
「僕は志村胡夢。初代エナリアの孫さ」
「なん……だと」
ぞわり。
人間の姿であったナギの変身が、解けかかる。水色の髪が、深緑色の肌が、露出し始める。
「そうさ。ナギ姫。僕達は浅からぬ因縁がある」
「貴様……っ! お祖父様を直接殺したエナリアの!! 孫だと!?」
エナジーが破裂したように溢れる。
「クルム……っ」
「ああグリフト。無事かい。この前から君は散々だね」
クルムの足元に転がっていたグリフトが声を絞り出す。
その様子を見て、ナギは。
「……貴様が、この2匹を誑かした訳だな」
「フフン。当たらずといえども遠からず。僕の目的を達成するには、このふたりが必要なのさ。ねえナギ姫。カルマのボス。女王様」
「…………」
エナジーで形作った剣を構えた。最大限の警戒をして、クルムを睨む。
「ここで一度、勧誘したい。君もこちらへ来ないか?」
「…………」
返事をしない。だがクルムは笑ったまま。
「僕は君が断念した『人間界征服』をやりたいのさ。君がこちらへ来れば、その可能性は大きく上がる。悪い話じゃないだろう? 僕は人間だから、人間界のことは熟知してる。その上で言ってるんだ」
「…………わらわは王として、民を背負っている。『判断』を誤る訳にはいかない」
「だけど、悲願だろう? 憎き人間を滅ぼそうじゃないか。エナリア達への義理立ては要らないさ。奴らも殺すんだから」
「……良い」
「え?」
ふう、と。ナギは息を吐いた。そして吸う。人間界の。ヒノモトの空気を。
風を。
「滅んで良いのだ。わらわは。……王である前に、1匹の
「っ!」
木々がざわめき始めた。周囲に渦巻いているのだ。ナギから発せられる、エナジーが。
「……おいおい、王が、個人的な感情を優先するのかよ」
「所詮、怒りと悲哀のケモノである」
「ちっ。開き直りやがった。そういうの、ダブスタって言うんだぜ」
クルムが舌打ちした。そして、ブレスレットを取り出す。
「しかたない。勝つぞ。……ミラージュ・レボリューション!」
「悠長な『変身』を待つつもりは無い」
「!!」
だが。
クルムの着ていた女児用セーラー服が弾け飛んだと同時に。
つまり変身しきる前に。
「くそっ!」
「死ね」
ナギの剣が、風の速さでクルムへ迫った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:変身中に攻撃しよったな遂に。そらそうやわなあ。命懸かっとんねん。そらやるわな。
〈ナギ〉:無論だ。『戦闘』に入る前に敵を無力化できればそれが一番被害が少なくて済むからな。『戦闘行為』は次善策に過ぎぬ。
〈咲枝〉:分かってるやん。まあ国家元首としては当然か。アタシより戦術や軍事は詳しい筈やわな。
〈ナギ〉:民の命を預かる者として当然だ。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第40話『変身! 激突、ナギvs.クルム!』
〈咲枝〉:アタシもそろそろ暴れたいなあ。最近変身してへんし。
〈ナギ〉:ほう。進んで『ゼンラ』を望むか。
〈咲枝〉:あ、やっぱナシで。
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