第38話 変身! エナジーの正体・今は耐え忍ぶ時!?

「エナジークリスタルに、意思?」

「はい」


 咲枝が疑問を口にする。ララディは真剣に応えた。


「エナジー適性のある人間がエナリアに変身『できる』のではなく。エナジークリスタル自身が使い手を『選ぶ』のです」

「……にわかには信じられへんけど……。そもそも、『エナジー』って何なんや? 今まで訊かへんかったけど。ふわっとしすぎちゃうの? まさか英単語そのままの意味ちゃうやろ」

「……確かに、『人間界の言葉でヒノモト向けに無理矢理当て嵌めた名称』ではあります。元々は人間界に存在しない物質ですから」


 今までは、口にしなかった疑問。


「けれど、わたしが直に、人間界へ赴いて。見て、聞いて。『それ』に相当する、説明可能な言葉を見付けました」


 そもそもエナジーとは、何か?


「人の心です」


 真剣な表情で、ララディが答えた。


「……は?」


 咲枝から、当然の声。


「願い。欲望。活力。魂。意思の力。祈り。『現実へ影響を及ぼす心の原動力』。エナジーはそれらに反応し、『その結果』を生み出す『環境』となる。人間界には無かったエナジーが、今ではウインディアからヒノモトへ流れ込んでいます。『それ』があるから、皆さんは変身できて、戦える。『それ』があるから、怪人はここで、暴れられる」

「…………」


 考える。咲枝はララディの言葉を上から噛み砕いていく。


「……つまり、『思ったことが現実になる』いうことか?」

「そうです」


 首肯した。咲枝は口を開いて驚きを露わにする。


「ほな、なんでもできるんか?」

「いいえ」

「!」


 否定した。


「人間界で例えるなら、『電気』が近いでしょう。今や電化製品で『なんでもできる』とは言え。そのルールに則った制限の範囲内でのこと。エナジーも同じです。『電化製品』の『目的と機能』によって、できることは限られています。全ての願いを無条件に叶えるといったような便利な装置ではないのです」

「…………電気」

「はい。まさに『エネルギー』。『力』そして『熱』。咲枝さんの持つブラストブリングは、『ウインディアを救う』目的を持った『ストームフォームに変身可能』な装置です。そして、『それを可能にするほどのエナジー』があるということ。例えば今ここに、囚われの綾水さんを召喚する、というようなことはできません」

「……ほな、『綾水を召喚する装置』はできへんの?」

「人間界でも、『欲しい機能を持つ装置』の企画から開発、製品までは長い時間が掛かるでしょう?」

「………………せやな」


 今すぐ、問題を解決することはない。咲枝は分かっていたが、訊いておかなければならなかった。

 ララディは。


「ですから。……『有事』の際に備えて、平時から、軍事開発を、エナジー研究をもっとすべきだったのです。必要になってからでは遅いから。……我がウインディアは、それを理解せず、怠惰で危険な『平和』を、額面通り受け取って日々を過ごしてきました。『平和』とは、『戦争の終わり』ではなく。『次の戦争に向けた準備期間』だというのに」


 歯噛みした。スカートを握りしめ、皺を寄せていた。


「……あんまり、自分を責めたらアカンで。潰れてまう。今のウインディアのことは、今の王の責任やろ。あんたはララ。ナギと『友好』築いた成果があるやんか」

「…………はい。ありがとうございます」


 この小さな肩を震わせる少女は。

 『国』を背負っている。


「…………」


 咲枝の心の中に、熱が生まれた。











「……話を、戻しますね」


 一度、目をぎゅっと閉じて。

 再度ララディは咲枝達に向き直った。


「エナジーは、『誰かの意思』が元になっています。『適合』とは、『人間関係の相性』と同じです。適合しなければ、ブレスレットを握っても変身できません」

「……誰の意思なん」

「勿論、『エナジーアニマル』ですよ。少なくとも、ウインディアのクリスタルは全て。『異世界の未承認国家』から来た『未確認生物』からの依頼で『命を賭ける戦闘』をしてくれる『異次元に良い人』なんて。……そうそう居ません」

「…………アタシは成り行きと、たまたまやで。ちょうどやってた仕事に行き詰まっとったし」

「それでも、です。……そして、それを『見分けられる』のが、『使者』として必要な能力」

「ん」

「ディ」


 ララディが、兄を見た。

 ポポディを。


「…………使者のおいらが言うんだから、間違い無いディ。あのクルムって子も、ララの言う『異次元に良い人』ディよ」

「……ポポ」

「なんディ、サキエ」


 咲枝が目を見開いて。


「アンタ、実は重要やってんな。すまん。ただのぬいぐるみやと思っとった。今も」

「失礼ディよ!? 今も!?」

「こほん」


 声を荒らげてツッコんだポポディを諌めるように咳払いをして。


「つまり、そんな『異次元に良い人』が、エナリアとなることを『拒否』はしません。この『拒否』には、なんらかの人為的、作為的な『力』が働いたと見ても良い。そのせいで、咲枝さんと綾水さんが、前代未聞の『大人のエナリア』と成った」


 前代未聞。確かにそうである。今までのウインディアの歴史からすると。エナリア――協力者の人間は全員、例外無く幼い少女だった。綾水はまだ未成年だが、それでも。


「……アタシは、日本で『志村胡夢』の次に、『異次元に良い人』ってことか」

「客観的に言うなら、そうです。……不快な話で、申し訳ありません」

「いや、ララ。不快やなんてあらへんよ」

「咲枝さん……」


 申し訳無さそうに項垂れたララディ。だが咲枝は、優しく笑っていた。


「アタシは関西人や。義理人情と商魂で育っとる。『え人や』言われて不快なる関西人なんか居るかいや。寧ろアタシと綾水以外に任せられへんやろ。ポポと、クリスタルのエナジーは『正解』やで。いや……正解と言わせたる。最後に。全部解決したるからな」

「サキエ……」


 ポポディの目にも涙が溜まっていた。


「じゃあ、尚更早くアヤミを見付けて助けるディ! こうしてる間にも、何をされてるか分からないディ!! あのクルムって子の所にもう一度……」

「待てェポポ」

「! サキエも……なんか変ディよ!? この前から、ちょっと冷たいディ!」


 感情的になるポポディ。咲枝は努めて冷静に、彼と目を合わせた。


「……まあ、待て。あんな。アタシも綾水も、こうなることは覚悟の上でエナリアやっとんねん。いちいち感情的に取り乱したら、テンパってる間にもっと状況は悪なるやろ」

「そんな……っ!?」


 咲枝は。


「三木さん。ナギとは連絡、ついとんのよな」

『……ああ』


 『溜めて』居るのだ。











「さて。大忙しだな」


 某高層マンション――の一室を出て。

 廊下を歩き、エレベーターに乗り。途中、すれ違った住人と会釈をして。


「ふう」


 エレベーターは、地下へ。

 クルムは、プリーツミニスカートのポケットからじゃらりと鍵を取り出し、その一室のドアを開けた。

 広さとしては、ワンルーム。部屋はひとつしかない。ベッドも何も置いていない、窓も無い居住目的ではない部屋。

 その代わりに、壁一面に『モニター』がいくつも掛けられていた。


「…………やあ。『それぞれ』目的地に着いたかい? 


 モニターに光が点る。全部で6つ。それぞれの画面には、『クルム』が映っていた。


『ああ。こちら北海道。問題ない』


 スピーカーから、『クルム』の声がする。


『こちらは長野。こっちもオーケーだ』

『兵庫も今到着した』

『鳥取もだ。準備中』

『こちら高知。もうすぐ到着する』

『暑いなあ。沖縄だよ。この季節、僕だけハズレくじだ』


 全てのスピーカーから。同時に。

 それを確認したクルムは、くつくつと笑いを堪えた。


「ふふ。よし。東京からの報告だけど、岐阜の『オリジナル』が春風咲枝と接触した。同時に、ナギ姫からザイシャス達へ帰還命令……いや、出頭命令だ。少し、動くよ」

『こちら高知。奴らはオリジナルから僕らに辿り着けるのかい? その心配が無いから放置していたんじゃないか』

『こちら沖縄。今代のエナリアは「大人」じゃないか。それに、今はララディ王女と行動してるんだろう? 楽観視はできないさ』

「沖縄の言う通り。ギリギリだけど、も動き始めよう。ナギ姫の件は僕が対応する。皆はそれぞれ、予定通り頼むよ」

『了解』

『了解』

『了解……。海水浴くらいさせてくれよ?』

『遊びじゃないんだぞ沖縄』

『ちぇ……』


 それきり。

 ぷつりと通信は切られた。


「……フフン。時間が経てば経つほど、僕らが有利になる。エナリアは不利になる。そして『それ』を、当のエナリア陣営が『知らない』。……大人と言ってもまだまだ甘い。まだまだ、平和ボケしてる。ふふふふ……」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:え人やって。なんや嬉しいわあ。


〈ポポディ〉:おいら最初から分かってたディよ。


〈咲枝〉:仕方しゃあないなあ。えへへへ。


〈ポポディ〉:……ちょっとキモイディ


〈咲枝〉:は?


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第39話『変身! ナギの怒り炸裂!』


〈咲枝〉:でも敵には容赦せんで。本当ほんま


〈ポポディ〉:それで良いディ。頼んだディよ!

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