第37話 変身! クルムの謎を追う……!
「人間は、1日に数回、食事をしなければ健康が損なわれる。丁寧に扱いなよ」
クルムの残した言葉だ。ザイシャスはネットで得た知識を元に、『料理初心者用』のものを作って、部屋へ入った。
「不便なものだな。こちらはエナジーを補給しなければ死ぬとは言え、活動しないなら数日は保つ」
「…………」
ブレスレットは奪われ、抵抗は無駄に終わる。綾水は何もすることができず、その部屋に居た。
ベッドとテーブルがあるだけの、洋室。
「ヒジキノニモノだ。食え」
「……いただき、ますわ」
テーブルに置かれた皿へ視線を落とす。
「……お箸は、ありませんの?」
「ん? なんだそれは」
「…………少なくとも日本人は、手掴みでは食事をしませんの」
「………………オハシ、だな。待っていろ」
「できるなら、飲み物もあると嬉しいですわ」
「ノミモノだな」
ザイシャスはオハシノミモノと唱えながら、部屋を出る。ガチャリと響いた鍵の音を聞いて、綾水はひじきの煮物を眺めながら、溜息を吐いた。
「……咲枝さん。空石様。三木様。申し訳ありませんわ。……なんとか、脱出できないものでしょうか」
しばらくして、またガチャリ。入ってきたのは、クルムだった。
「やあ、済まないね。ザイシャスやグリフトは人間界に興味があるものの、まだまだ文化を知らない。ほら、お箸。花柄が可愛いだろう?」
楽しそうにサイドアップを揺らすクルムから、箸とコップを手渡される。
「…………ありがとうございますわ」
「何も入っちゃいないよ。何もする気は無い。ただ、『盤面』から君を取り除きたかっただけさ。エナジーシューター」
「…………」
すとんと、クルムがテーブルを挟んで綾水の向かいに座る。今すぐ出るつもりは無いらしい。
「わたくしのエナジーを探知して、すぐに助けが来ますわ」
「いいや? 来ないよ。言ったろう。ここは隠されてる。僕が隠してるんだ。ミラージュの能力でね」
「……ミラージュ。初代エナリアの相棒だったと言う、ミラージュウィンドですわね」
「そうそう。よく知ってるね。僕は要するに、能力的に『2代目ミラージュウィンド』って訳。初代エナリアと、初代ミラージュの『孫娘』だよ。最強のハイブリッド。まあ、最大出力は例のストームフォームには及ばないんだけど」
「……それがどうして、こんなことを」
「フフン」
特徴的な笑い方をする少女。綾水は、堂々とした振る舞いの彼女を相手に、怯んでしまう。
「そうだなあ。どこから説明しようか。『ミラージュウィンド』が『エナリア』と呼ばれなかった理由は知っているかい?」
「……いえ」
「怪人だからさ」
「!?」
にやりと口角を上げて。
「生まれながらの天才『完全なる自然発生の奇跡存在』が恵那お婆ちゃん……戦木恵那だ。それに対して理亜お婆ちゃん……結城理亜は。日本人の千年続く『怪人研究の集大成』。『人工の怪人』なんだよ。人間じゃないんだから、エナリアには成れない。けれど、日本を、その同盟国を守る為に戦った。悲劇のヒロインさ」
「…………!」
衝撃の事実。
「証拠? 当時の研究資料を見せても良いけど、平成生まれの箱入り娘が見たら卒倒するような内容と『写真』があるよ。僕も君を精神的に虐めたい訳じゃないから、やめておこう」
「…………」
ナギから、そのような話は聞いていた。だが、それとミラージュウィンドが繋がることは初耳だった。
「……何が目的ですの?」
「無いよ」
「はっ?」
クルムは。
笑っている。
「フフン。僕に目的は無い。手段なら山程あるから、『それ』をやってるんだ。分かるかい? ……安易な復讐は、それこそ『人間』の思う壺だろう? 別にお婆ちゃんが望む訳も無い」
「……何を……。…………遊びで?」
「フフン。遊びかぁ。似てるかもね」
「! そんな……! なら、すぐにわたくしを解放なさい! こうしている間にも、時間が無駄に過ぎていますわ! 早くウインディアへ行かなければならないのに!」
「フフン。ははは。必死だねえ」
「……! このようなことも、お婆様は望んでいませんわよ!」
「言うねえ。会ったこともないくせに。……けど、そうだね。望まないだろうね。フフン。良いんだよ」
「!?」
口角を吊り上げて。楽しそうに。
「もうお婆ちゃんは関係無いんだ。実はね。僕は、ミラージュ。幻影だよ。強いて言うなら……『僕という存在』を『知って欲しい』って所かな。取り敢えずの目標として、日本を征服しようと思っていてね。君達『怪人対策本部』が高性能な『エナジーを探知するレーダー』を作る前に、できるだけ『仲間を増やして』おきたいんだ。君を公園まで連れてきたあの隊員さんのように」
「……!?」
「君の役割は……『濃度80』の高効率エナジータンクだよ。こっちはなんたって、3人しか居ないからね。内ふたりはエナジーを生産できないカルマ。色々やりくりが大変なんだよ」
「……わたくしが、協力すると?」
「うん。もうしてるよ。この部屋自体が、『エナジーを吸い取る』装置になってる」
「!」
嬉しそうに。
「しかも君の負担にならないような人道的なやり方でね。僕は『知って』からも、色々と研究していてね。技術力じゃウインディアやカルマより上なんだよ」
語る。
♡
「っと、話し過ぎたかな。ひじきの煮物が冷めちゃうじゃないか。美味しいよ。ザイシャスの手料理。こればっかり練習してるから。まあ、他のおかずやご飯が無いのは僕から言っておくよ。じゃ、僕は失礼するから。トイレはこの部屋を出て目の前だよ。トイレットペーパーが切れたら言ってね」
「………………」
クルムが退室する。綾水は、まずは情報の整理から始めた。
「(……初代エナリアとミラージュウィンドの孫娘が犯人……。信じられないですけれど、取り敢えずそうだと仮定して……。ミラージュウィンドが、ナギさんの仰っていた人間による怪人研究の産物だった。……動機としてはこれですわね。日本を征服するのは、この研究の件を悲しんでいるということでしょう。けれど、不思議なのは、その事実を知った経緯。そして、あの子の知性と、行動力。10歳前後の見た目ですのに、あんな、大人のような立ち回り。説明。仕草。……異常ですわよ)」
謎は深まるばかり。そもそもクルムの話は全てが真実なのだろうか?
「…………」
ぐる……と。腹の虫が鳴った。全力で戦闘した後である。人間は空腹には逆らえない。
「……いただきますわ」
ひじきの煮物に手を付けた。行儀良く手を合わせて、作り手――ザイシャスに感謝をして。
「…………美味しい……ですわね」
♡
「……ほな、お邪魔しました」
「うん。何か分かれば連絡するよ。春風さん」
「色々、すんませんでした」
「いや、気にしないでくれよ。大変だろう。……大人になってからの『変身ヒロイン』は」
「う……」
「正直に言うとね。ネットで怪人と君を見た時、僕は安心したんだ。もしかしたらいずれ、胡夢に『お鉢』が回ってくるんじゃないかと思っていたから。本当にありがとう。僕は娘を、戦いの場に連れ出さずに済んだんだ」
「…………それは、まあ。子供戦わす訳にはいかんでしょ」
「うん。君はエナリアをやるくらいなんだから、物凄く良い人だよ。娘も懐いたようだし。また来なさい。解決した後にでも」
「また来てねー! お姉ちゃん!」
「……ありがとうございました」
結局。
何も出なかった。咲枝はそう結論付けた。否、付けざるを得なかった。
だが。
「……ポポ、ララ。リッサ。どうや?」
「…………」
帰りの車内にて。
ずっと黙っていた3人に訊ねると。
「おいら、あのクルムが気になったディ。なんというか、おかしいディ」
「?」
「使者のおいらだから分かったディよ。あの子はエナジーに反応してるディ。エナジー適性……というか。『本来の3代目エナリア』だと思うディ」
「!」
ポポディのふわりとした口から、それが発せられた。
「なんやって?」
「……先に言っておくディけど、サキエが正式な3代目ディよ? それは間違い無いディ。けど……。何というか、説明しにくいディけど。無理矢理、クルムが『拒否』して、サキエになった気がするディ」
「…………はあ?」
何を言うとんねん、と顔に書いた咲枝。そもそもポポディが説明下手ということもある。
「エナジークリスタルには、意思がある。そういう話ですね、ポポ兄さん」
「!」
ララディが、補足した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈綾水〉:……美味しいですわ。悔しいですけれど。
〈ザイシャス〉:よし。ようやく次の料理に挑戦できるな。
〈綾水〉:……いや、懐柔はされませんわよ?
〈ザイシャス〉:構わん。俺は料理にハマっているだけだ。味の良し悪しはグリフトにはできないし、クルムは何でも美味いと言う。お前の舌が頼りだ。
〈綾水〉:では言わせていただければ。少しお醤油が多いように思いますわ。
〈ザイシャス〉:なにっ……。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第38話『変身! エナジーの正体・今は耐え忍ぶ時!?』
〈綾水〉:遠慮しませんわ。これは味が濃すぎますわよ!
〈ザイシャス〉:……ふん。それでこそだ。待っていろ。次はショウユを減らしてやる。
〈綾水〉:あれ、これまた次もひじきの煮物を食べなければならないのでは……。
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