第36話 変身! 綾水大捜索作戦!

 岐阜県某市――


『ミラージュウィンド……「結城ゆうき理亜りあ」の生家が分かった』


 ララディの記憶を元に。警察や国のデータベースを使えない三木が何とか調べてきた。現在は北城治家の車で移動中である。メンバーは咲枝、ララディ、リッサとポポディ。運転は北城治の執事が務めている。


「綾水お嬢様……!」

「…………」


 執事の声に熱が籠もる。

 一大事。大問題である。一刻も早く見付け出し、救出しなければならない。


「すまんな、ララ。……こんなことになってもうて」

「いえ。綾水さんが居なければ。エナリアが揃っていなければ何も進みませんし。精一杯、協力させてください」


 山中を高級車で往く。東京の戦力を割く訳には行かないが、ここは咲枝が来なければならない。少数で迅速に、解決しなければ。


「綾水は普通の子ぉや。普通の女子大生。『戦士』とか、こんなんなかったら一生縁のあらへん子やった」

「はい。必ず、助けましょう。リッサも、お願いね」

「……ええ」











「ウリブッケン?」


 リッサは、人間界について詳しくは無い。その書かれている文字を読んだ咲枝に訊ねた。


「……もうここには誰も住んどらんと言うちゅうことや」

「……そう。じゃあどうするの?」


 200平方メートルほどの広い敷地と大きな屋敷だった。だが、住まなくなってしばらく経っているのか、あちこちボロボロで、蜘蛛の巣が至る所に見られた。庭の雑草も手入れされていない。

 売り物件と書かれた看板に、不動産屋の連絡先があった。


「50年前の小学生。……もうお婆ちゃんやろなあ。売る言うことは、相続かもな。お子さんが売る気なんや」

「……ミラージュウィンドはもう、亡くなっていると?」

「訊いてみよか。……教えてくれるか知らんけど」


 その番号に掛ける。だが案の定、個人情報保護の観点から、売主のことは聞き出せなかった。


「三木さん。えか?」

『……決定を下すのは俺じゃない』

「ほな、空石さん」

『…………』


 咲枝は。冷静を装っては居るが。

 スマホを持つその手は、昨日からずっと震えている。


『ああ。許可する。細心の注意を払って、くれよ』

「……了解や。ありがとうな」


 怪人対策本部は。もう警察組織から外れたとは言え。まだ、国の管理下にある。細かい所は三木のお陰で調整され、比較的自由に動けるのだが。


「リードエナジー」

『それ専用に濃度調整したエナジーだ。人体に害は無い。それを、嗅がせるだけで良い。軽い催眠状態になる』

「…………了解や」

『くれぐれも、取り扱いには気を付けろよ春風。エナジー適性の無い一般人には、危険物質に変わりないんだ』

「ああ……。了解やで。三木さん」


 その不動産屋まで赴いて。


「いらっしゃいませえ」

「こんにちは。あの岐阜のお屋敷の担当者さん、居はります?」


 なりふり構っていられない。


「初めまして。私担当者の――」

「売主さんに、会わせてくれ」

「……!」











志村一輝しむらいっきと申します」

「春風咲枝です。……名刺か」


 翌日になってしまった。その、喫茶店にて。

 30代半ば程度の男性が現れた。咲枝は、志村が名刺を出した所で気付き、以前空石に貰った名刺を使って自己紹介する。


「…………『怪人対策本部』」

「知ってはりますか?」


 咲枝の名刺に書かれていた所属を見て、志村は呟いた。


「買付も入れてないのに『会いたい』なんて変だと思ったら……『怪人』関連だったか。ああそう言えば。SNSで君を見たことがある」

「…………志村さん」

「ああうん。僕が知ってることなら話そう。僕は……当事者じゃないけどね。あの家の前の所有者は僕の義母、結城ゆうき理亜りあだよ。そして僕の実母が、初代エナリア。志村――旧姓、戦木そよぎ恵那えななんだ」











「義母も母も、去年亡くなった。だから、もう当時を知る人間は居ないけどね」

「…………初代の、息子さん」

「そうだよ。で、僕の妻がミラージュの娘さん。あはは。あのね、母達は本当に仲が良くて。隣に住んでいたんだ。僕と妻は幼馴染みだった。……僕らの結婚はまあ、半分決まっていたようなものだったね」

「……今回の件は」

「何も。そもそも僕らには、エナジー適性は無いよ。話はよく聞かされて育ったけど、変身する為のエナジークリスタルも、初代の戦いの後にウインディアに返しちゃったらしいし、僕らは普通の一般人として育って、今まで暮らしてきた」

「…………」


 話す限り。嘘は無い。そして、悪意も感じられない。こちらの事情も知らないと見える。


「さっきから、君達は僕を疑ってるみたいだけど。目的を聞いてなかったね」

「…………今代のエナリアはふたり。アタシともうひとりやねんけど、行方不明になってもうたんです」

「……そうかい。……ああ。それで。『エナジーフィールド』によって全てを蜃気楼に隠すミラージュウィンドを疑って、僕へコンタクトを」

「……ちごたら、すんません」

「ふむ。僕としては、君達に協力したい。まずは僕達の潔白を照明しないとな。……出ようか。ウチへ招待しよう。妻と娘を紹介するよ」

「お願いします」


 気の良いおじさんである。警戒心を隠せていない咲枝にも朗らかに対応している。

 もしかしたら徒労に終わるかもしれない。咲枝は焦っていた。











 市街地まで降りてきた。辿り着いたのは、立派な2階建ての一軒家である。2台停められる駐車場があり、北城治家の高級車が入った。


「めちゃえ家やん」

「さあどうぞ。妻の美優みゆうです」

「こんにちは」


 紹介されたのは、専業主婦だと言う、志村の妻だ。淑やかな佇まいの女性である。


「初めまして。春風咲枝言います。急に押しかけてすんません。こっちは……エナリア関係の仲間です。あっちから来ましたんで、日本語は話せません」


 人間姿のララディとリッサもぺこりと頭を下げる。エナジー適性が無いのなら、会話はできない。


「奥さんが……ミラージュの」

「ええ。娘です。でも力はありません」


 その通りだ。志村からも、この妻からもエナジーは感じない。普通の家庭である。否、立派な一軒家を構えている所から察するに、平均より立派な家庭であると言える。


「(アタシの実家の何倍あんねん……)」


 3人とポポディは中へ上がる。


「それで、一輝さん。これは」

「ああ。今回の怪人騒動に協力したいんだ。何ができるかは分からないけど」

「分かったわ。胡夢くるむちゃーん! 降りてらっしゃい。お客様にご挨拶なさい」

「!」


 妻の美優が、2階へ上がる階段に向かってそう言った。するとガチャリとドアの開く音がして、次にタンタンと階段を降りる音。











「初めましてー♡」


 ピコピコと、サイドアップを嬉しそうに揺らしながら。


志村胡夢しむらくるむ。四年生の10歳でーすっ」


 ハキハキとした様子で、その少女は自己紹介をした。


「娘の胡夢です。この子も、エナジー適性は無いと思うよ。誰かを誘拐なんてできる子じゃない。勿論僕らも。調べてもらって構わないよ。家の隅々まで。確認できたら、協力の話をしよう。僕らは本心で、君達を応援したいんだ」

「…………アタシが言うのもなんですけど……疑われとんのにそこまで。アタシら今、ごっつ失礼なことしてるやないですか」

「ああ。僕らは、2代目の事件の時にも『何もできなかった』からね。……悔しいんだ」

「……!」


 その言葉に、嘘や騙しは感じられなかった。それは、エナジーに通ずる咲枝からしても。


「お姉ちゃん達、『エナリア』でしょ? 有名だよ」

「ん。おお、知っとる? せやで」

「フフン。会いたかったんだぁ僕」

「僕っ子かいな。可愛らしいかいらしなあ」


 何ら特別性の感じられない、一般家庭に見えた。


「お話聞かせてよ」

「おうえで。胡夢ちゃん」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:綾水ぃぃ! どこやぁっ!! 綾水いいいい!!


〈ポポディ〉:落ち着くディ! サキエ!


〈咲枝〉:あーやーみいいいいい!!


〈ポポディ〉:……これは予告無理ディね。


〈ポポディ〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第37話『変身! クルムの謎を追う……!』


〈ポポディ〉:おいらも心配なんディよ!! アヤミいいいいいっ!

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