第35話 変身! 敵の正体は……!
「……遅いなあ。もう先食うてまうで
咲枝は。
コップに注いだ水を傾けながら、綾水を待っていた。
♡
「幹部がふたりと、謎の女の子? ……取り敢えず、幹部を先に!」
エナリアに変身した綾水がエナジー銃を放つ。目にも留まらぬ早撃ちで、左右に分かれるザイシャスとグリフトを目掛けて。
「頼むぞザイシャス! グリフト!」
「任せろ」
「!」
一番、グリフトの左腕が吹き飛んだ。だがふたりは止まらない。挟撃の形だ。ザイシャスは上手く躱している。
「オラァ!」
「くっ!」
ふたりの伸びた爪が交差する。綾水は寸でのところでしゃがみ込み、どうにか避け――
「はっ!」
――ながら。両手をそれぞれふたりに向ける。その先には、ふたつのエナジー銃。
「っ!」
ズドン。2発、ザイシャスの肩口を貫き、グリフトの頬を裂いた。
転がりながら、距離を取る。
「……2丁拳銃か。これは見てないな」
クルムが顎を撫でる。
「ちっ。なあ、俺らこんなに弱かったか? ザイシャス」
グリフトが、千切れた腕を確認しながら問うた。
「……エナリアの成長速度が凄まじいのだろう。そもそもあの銃だけは、最初から幹部クラスの鱗も貫く攻撃力を持っていた」
綾水の銃撃を受けて剥がれ掛けた肩の甲殻を無理矢理剥がし、投げて捨てたザイシャス。
「はあっ……。練習、しておいて良かったですわ。2丁拳銃」
綾水は息を切らしていた。本来なら、ストームフォームの咲枝程ではなくとも、シャトルランのCDを終わらせるくらいのエナジーは持っている筈だ。だが。
ただ走るだけと、『戦闘』では。その消費速度は雲泥の差であった。
唐突に始まった幹部クラスとの戦い。あちらはふたり、こちらはひとり。自分だけだ。咲枝は居ない。助けも呼べない。それがさらに、綾水を焦らせている。
「それでも、負けませんわ。わたくしだって、エナリアですもの!」
だが。
綾水はエナリアである。幹部クラスふたりをけしかけてまだ仕留め切れない事実に、クルムの冷や汗が増える。
「…………普通のブレスレットひとつでここまで強くなるのか。恵那お婆ちゃんの話と違うな……。だけどそれが、現実だ。ザイシャス!」
「……なんだ。下がっていろクルム」
「いいや。僕も戦う。ブレスレットを渡してくれ」
「なんだと?」
クルムはザイシャスを呼んだ。彼が取り出したのは、赤いブレスレット。彼が咲枝から奪ったものだ。彼らのエナジー供給源。生命線。
「あんたには、戦闘能力は無いんだろ? それに、エナリアでもないと言っていた」
「フフン。仕方なくなったんだ。今。……奥の手を使う。確実に、ここでエナジーシューターを倒す必要があるんだ。しかも、時間を掛けてもいられない」
「……信頼、するぞ」
「ああ勿論。応えてみせるさ」
パシリと。良い音が鳴った。受け取ったクルムは、それを大事そうに抱き。
唱えた。
「ミラージュ・レボリューション」
♡
「咲枝!」
「お? 空石さん」
「綾水は居ないのか?」
「いや、それがどっか行ってもうてんやんか。もうアタシ腹減っとんのに」
「連絡が付かない」
「!」
食堂にて。
綾水が、姿を消してから。
僅か20分。
♡
「がはっ! ふぅーっ! ぐ!」
ガチャリ。勢いよくドアが開けられて。ドカドカとなだれ込む様に入る。ここは某高層マンション、その一室。
「くっそ……! 強過ぎだろ……エナリア……っ。はぁーっ。はーっ」
疲労困憊、服もドロドロのクルム。傷だらけでボロボロのザイシャスにグリフト。
「……! これが、『エナリア』だよ。ふぅ。『北城治綾水』は箱入り娘で、運動経験無かったんだぞ」
怪人ふたりは息をするのに精一杯だった。殆どのエナジーを使い果たしたようだ。
「ふぅーっ。はーっ。……奥の手も切り札も全部使ったぞ。……その甲斐は、あった」
どさり。
口に轡をされ、手足をエナジーのロープで縛られた綾水の姿がそこにあった。ザイシャスに担ぎ込まれて、リビングに投げ出される。
「んっ!」
ブレスレットは奪われ、変身は解かれ。当然に全裸で。
「『勝った』。……取り敢えず、目標達成だ。ふたりとも、よくやってくれた」
「…………ぐ! ……俺の腕1本と引き換えにな」
「そこは、ちっ。必要経費だと思うしかないな。痛てて……」
よろよろと立ち上がる、クルム。ソファにどさりと、深く腰掛けた。
「……ふぅ。いやあ、疲れたね」
「普通のエナリアでこれだ。……ストームフォームはナギ様レベルだろ? 勝てるのか? クルム」
「フフン。それはまあ、また今度話すよ。今は……ちょっと。お風呂と、ご飯と、睡眠だ。快復に専念しよう」
「こいつは?」
「しばらくここで放っておこう。殺したり犯したりしないようにね。これから利用するんだから」
「…………了解だ」
「…………!」
綾水は彼らを睨むが、身体は動かない。こちらもエナジーを使い果たし、さらにブレスレットを奪われた。もうただの、19歳の人間である。
「……気を引き締めないとね。『ストームフォーム』だけじゃない。『リースス・レーニス』も、勿論『ナギ』姫も。この子より強いんだ」
♡
3代目エナリア『エナジーシューター』北城治綾水が失踪して、6時間が経過した。
「咲枝! どうだ?」
「……
「分からないディ。こんなこと……っ」
もう日付が変わる。あの後一日中、都内を飛び回って探していた咲枝。
「ありえへんやろ……。何があったんや」
「アヤミ……」
連絡が付かない、どころか。スマホをGPSでも追えない。何も痕跡が無い。目撃者も居ない。
「……
「ああ。確認が取れた。女性隊員だ。他の隊員に訊いても、特に変わった様子は無かったとのことだが……」
空石と通話しながら、送られてきた隊員の写真を見る。
「綾水を連れてった子ぉや。『ちょっと良いですか?』言うて。普段から仲良さそうや思たで? 『綾水さん』呼んどったし」
「…………彼女ごと巻き込まれたか、彼女が既に敵の手の者だったか」
「…………ナギか?」
「……分からん。まだ何も、断定はできないな。一度戻ってこい咲枝。三木から話があるそうだ」
「了解や」
通話を終えて、再度、振り返って夜の街を一望する。
「……綾水」
一体何が起きているのか。咲枝は歯を食い縛りながら、本部へ戻った。
♡
「ナギ女王と連絡が取れた。『人間界へ派遣していた斥候との連絡は途絶えていた』と」
「!」
会議室にて。三木がそう言った。
「アタシのブレスレットパクった奴やな」
「だろうな。名はザイシャス。そして、グリフトという幹部もこっちに居るらしい。ナギ女王は人間界から戻ってすぐに帰還命令を出したが、無視している状況だ」
「…………ザイシャス」
ここで初めて知る、憎き敵の名前。咲枝は拳を握り締めた。
「十中八九、そのザイシャス達の仕業だろう。いや、そう仮定して動いた方が賢明だ。能力などの情報をナギ女王に申請した。一応、カルマ自体は人間界に協力的だ」
「まあ、これで恨み買って攻められたら滅ぶもんな。……ナギ自身はこっち来られへんのか?」
「それは分からない。ウインディアでも今、色々とゴタゴタしているようだ」
「…………これから、そのウインディアへ行こう言う時に」
咲枝は、努めて冷静であろうとしていた。取り乱したい。叫びたい。怒りたい。そんな感情を無理矢理抑え付けて、言葉を紡ぐ。
「……その、『見付けられへん』言うのが、鍵ちゃうか」
「春風の言う通りだ。『エナジー』を測定するレーダーのような装置は試作だが、ここにある。特にエナリアのエナジーは質が高いからな。これに関してはGPSより分かりやすい。さらにはポポディにも同様の能力があるだろう」
「……なのに、反応が無い訳か。三木」
「ああそうだ。『隠されてる』と考えるのが妥当だろう。幹部ザイシャスにはそんな能力もある筈だ。ずっと、人間界に潜伏している訳だからな」
「違います」
「! ララ王女?」
ララディも。この場に居る。彼女は人間の姿で参加している。
悲しそうな表情で。
「……怪人達は、人間に変身していればエナジーを感知させません。けれど『誰かを隠す』能力となれば。それも、エナジーを使った戦闘の痕跡から消すとなれば。……わたしはひとりしか知りません」
「まさか……っ」
ポポディが口を開いた。このふたりだけが知っていること。
「『ミラージュウィンド』。かつてエナリアと共にカルマと戦った、もうひとりの戦士の能力です」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈綾水〉:んー! んー!
〈クルム〉:フフン。どうだい? 全裸で拘束された気分は。戦闘での敗北より屈辱だろうね。
〈ザイシャス〉:こうなってしまえば如何にエナリアと言えど、ただの人間だな。
〈クルム〉:さらにここには大の男の怪人がふたりだ。恐怖で震えるしかないだろうな。
〈グリフト〉:まあ俺達は人間のメスで興奮することはねえがな。
〈クルム〉:詰まらないねえ。この展開はテンプレだろうに。
〈みんな〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第36話『変身! 綾水大捜索作戦!』
〈綾水〉:んー! んんーっ!
〈クルム〉:……よし。そろそろ服くらい着せてあげよう。お腹を冷やすといけない。
〈ザイシャス〉:…………そうなのか。
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