第34話 変身! 狙われた綾水!

「さて。具体的な話をしていこう。僕の考える、『世界征服』について」


 某高層マンションの一室にて。旧体操着姿のクルムがホワイトボードの前に立った。


「いちいち外装を替える必要はあるのか?」

「ぷっ。外装て。服だよ。衣裳。大事さ。僕の趣味だから」


 ザイシャスの質問には適当にあしらって。


「まず最初に言っておくと、武力による全世界制圧は不可能だ。よってこれはしない」

「ならどうする」

「ついでに、大都市を破壊したりはしたくない。便利な人間のモノは使いたいからね。あと、必要以上に殺したくない。奴隷が減るのは損害だよ」

「…………」


 クルムは、だからどうやって征服するのだと言わんばかりのザイシャスとグリフトの表情を見て、得意げに鼻を鳴らした。


「フフン。人間界――地球上に存在しない、異世界最大の利点。『エナジー』を使うに決まってるだろ。これは人間界の現在の機械では計測できず、勿論無味無臭で無色透明。つまり奴らが気付かない内に、バラ撒けるってことさ」

「バラ撒いてどうするんだ?」

「エナジーが、地球上に存在しない理由。いや、エナジーが無いから人間が繁栄したのさ。要するにこれは――」











「――使い方次第で人体に悪影響を及ぼす物質だ」

「!」


 所変わって、怪人対策本部会議室。三木が説明を続ける。エナジーという物質そのものについて。


「まだ判明して数日だがな。お前達がウインディアへ出発した直後くらいだ。……それまで日本は、『怪人』『エナリア』『エナジー』についての説明責任を各国から求められていた。何なら日本が武力を持つ前に先制攻撃をして制圧すると発表した国すらあった」

「……そんなっ」

「まあ、当然やわなあ。明らかに世界の軍事バランス崩すレベルや。アタシひとり暴れるだけで戦局変わるやろ。エナリアには既存の銃も効かへんやろし」


 綾水は驚いたが、咲枝は納得したように頷いた。自分がどれだけの力を持っているのか理解しているのだ。ネックレス自体は金属ではないし武器でもなんでもない。どこの国にも堂々と潜入できる。


「だが、俺はエナジーを使ってこれを解決した。……以降、各国や政府は『エナジーや異世界を知ってはいるが興味を失った』。それだけではない。ネット記事やSNSでも、以前のような投稿は見られなくなった。……『人の意識』を、変えたんだ」

「!」


 咲枝はスマホを取り出して自身のアカウントを確認する。以前は自分の戦闘動画や写真でよくバズっていた。だが、明らかにその数は減っていた。全く無い訳ではないが。


「洗脳……催眠かいな」

「いや。俺達は『誘導』、としている。『大事おおごとにしたくない』と思うような方向にな。実際、日本国の新たな軍事力として使うつもりは一切無い。エナジー武器もエナリアも、ウインディアからの支援が前提なんだ。そんなことに力を貸してはくれないだろう。……どうでしょう。ララ王女」


 三木がララディへ訊ねる。ララディはここまでの会話を、異世界人ながら把握できていた。


「はい。ウインディアの鉄則は専守防衛。それは、もし他国と同盟を組んだとしても変わりません。……それのやり過ぎでここまで攻め込まれてしまいましたが、根本の信念はわたしも父王も同じです」

「ありがとうございます。……なあ空石」

「ん」


 続いて、空石を見た。


「俺はただの研究者だ。『成果を上げるだけ』。その成果の『使い道』は、お前が考えるべきだと思ってる」

「? どういうことだ」

「警察組織を離れた以上、これから俺の上司はお前だけだ。言っておくが、お前以外に研究内容の報告はしていないぞ。お前の外はお前の管轄だからだ。俺は別に、エナジーを使って戦争を起こそうがどうでも良いし、言われた研究をやる。それだけだ」

「…………!」


 三木は、根っからの研究者だ。『研究すること』が生き甲斐である。『それを使って何をするか』には興味がない。それに加えて、『状況を見れる』。空石の性格を鑑みて、エナジーの使い方を慎重に行うべきだと察したのだ。


「全員に話すべきだと思ったから、今話した。これからエナリアは、人の目を気にせず思い切り戦える。……記憶の操作は不可能だが、『人払い』や『撮影の禁止』くらいはできる。ということだ」

「最高やんけ三木さん! ちょ、この間こないだから見直しまくってるわ三木さんのこと!」

「まあな」


 エナリアにとって、全裸になってしまう変身時に『見られる』ことは死活問題であった。これまでは部隊の避難誘導によってなんとかしていたが、どこかから撮影される危険性は無くならなかった。彼女達は、普通に。『裸を見られたくない』という至極当然の願いがあったのだ。











「――記憶の操作が可能なのさ。使用者の意のままに」

「!」


 場面はクルムのマンションに戻る。


「頭に直接エナジーを注入するんだ。するとその人間は、僕の意のままに操れる『エナジー人間』となる。戦闘能力は無いけど、これが増えると社会が変わる。僕らに有利なようにね。エナリアも攻撃できないよ。守るべき国民だから」

「……何億という人間に、エナジーを注入するのか?」

「いや、そんなことしていたら何十年掛かるか。操るのは一部だけで良い。インフルエンサーがひとり居れば、100万人が賛同する。そうやって数珠繋ぎに、僕らの地位が向上していく。世論を使って、エナリアの風評を地に落とす。動けなくなった所で、各国首脳を操り人形にする。それで世界征服達成さ。僕らはその頂点で、地球の文明を掌握する」

「…………そんなに簡単に行くのか?」

「そうだねえ。今の地球の情報化社会、通信社会を逆手に取るのさ。簡単ではないだろうけど、現実的だと思うよ。従来の武力を用いた戦争よりもね」

「…………なるほど」

「フフン。早速、取り掛かろうか。僕はこのまま街へ繰り出す。君達も付いてきてくれ。最初の任務だ」

「……そりゃあ協力するが。何をする気だ?」

「フフン。最初の賭けだよ。命懸けさ」

「…………?」


 そう言ったクルムの顔は楽しそうにしながらも、やや引き攣り、冷や汗が垂れていた。











「ふう。会議とか久し振りやわ。頭疲れるなあ」

「わたくしなんて、初めてで何も発言していませんわよ」

えねんそんなん。適当で。言いたい事あったら自然と発言するようになるわ」

「咲枝さんは頼もしいですわね」

「なんやそれ」


 怪人対策本部。会議が終わり、食堂へやってきたふたり。綾水が誘ったのだ。


「あっ。綾水さーん」

「はい」


 そこへ、女性隊員のひとりがやってくる。綾水はにこりと返す。


「ちょっと、良いですか?」

「なんでしょう。咲枝さん、待っていてくださいますか」

えよ。席取っとくわ」


 女性隊員に連れられ、綾水が退室していく。それを咲枝は朗らかに見送った。


「仲良さそうやなあ。アタシも隊員とコミュニケーション取らなアカンなあ。ブルマとか考えたアホのオッサン見付け出してシバかなアカンしな」











「どこへ向かっていますの?」

「会って欲しい人が居るんです」

「?」


 綾水がやってきたのは、本部から離れた公園だった。普段ならこの時間には、子供達が遊んでいるような公園だが、誰も居ない。


 居るのはたったひとり。


「こんにちは。お姉さん」

「……はい。こんにちは。お嬢さん?」


 サイドアップをピコピコと揺らす、少女が居た。ランドセルは背負っていないが小学生だろうと綾水は思う。


「エナジーフィールド展開」

「え」


 じっと、綾水と目を合わせて。すぐには動かないことを慎重に確認して。


「!」


 ブン、と妙な音がした。景色が歪む。公園を中心に、透明な壁が出現する。公園全体を包むように広がるそれは格子状になっており、網――否、檻であると分かる。エナジーで作られた、檻。


「これはっ!? 咲枝さん!」

「無駄だよ。電波も何も外へは通じない。外からは見えないし、見に来る人も居ない。……完全に油断したろ」

「!」


 スマホを取り出すも、圏外であった。綾水は。


「その女隊員は既に僕が操ったエナジー人間さ。……ザイシャス、グリフト」

「おう」


 呼ぶと。少女の両脇に幹部怪人が現れた。


「ウインディア・レボリューション!」


 とにかく変身を。綾水の服が弾け飛ぶ。同時に、クルムから冷や汗が垂れる。


「……フフン。さあ、最初の賭けだ。……『エナジーシューター』に『正面から実力で勝って』みよーか」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:会議が初めてって、授業でディベートとかやらんの?


〈綾水〉:それはやったことがありますわ。テーマを決めて、賛成反対に分かれて。でもあれは、ルールのある競技ですわよ。


〈咲枝〉:おお、分かってるやん。そうそう。ディベートはスポーツやからな。審判がんねんな。『話の持って行き方』を学ぶわけや。ゴール決めてな。


〈綾水〉:さすが咲枝さん、なんだか社会人ぽい説明ですわ。就職活動でもディベートがあったりすると聞いたことがありますわ。


〈咲枝〉:まあ、どんだけ意味あるんか知らんけどな。経営者が妙なセミナー受けて『就活生にはディベートさせよ』みたいな影響を受けただけの中身無い選考とか普通にあるで。


〈綾水〉:もっと聞きたいですわ。就活のお話!


〈咲枝〉:まあそりゃ、学生さんやもんなあ綾水。えよ全然。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第35話『変身! 敵の正体は……!』


〈ポポディ〉:あの、一応コレ次回予告のコーナーディからね?


〈咲枝〉:ん、自由コーナーちゃうかったん?


〈ポポディ〉:おいら最近影薄い気がするディ! もっと出番欲しいディ!


〈綾水〉:ポポさんも自由に叫び始めましたわねっ。

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