第33話 変身! ストームフォーム大解剖!

「アトモスフィア・レボリューション!」


 カッ!


 強烈な光が咲枝を包む。対策本部が新しく用意した、体育館のような建物の中で。それを披露した。

 全裸にはなるが、当然光によって彼女の肌は遮られている。


 やがて、絵本から飛び出したようなロングドレスが咲枝を包んでいく。春をイメージしたような、薄紅色のドレスだ。フリルはいつもより3割増しになっており、激しい戦闘でも大丈夫なように、ロングスカートの中はスパッツである。


「……こんな感じやけど」

「凄いじゃないか! 『服が豪華になった』以外の変化は俺には分からないが……。それ動きにくかったりしないか?」


 空石がそれを見てそう言った。


「いや、それが全然大丈夫やねん。実はめっちゃ動きやすいんよ」


 答えた咲枝は、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。長いスカートが引っ掛かることもなく、稼動域が狭くてぎこちなくなるようなこともなく。ぐるんぐるんと肩を回すも、動きやすさに支障はないようだ。 


「見た目だけじゃないぞ。エナジー値が爆発的に上昇している」

「三木」


 三木もこの場に居た。何やらスコープのような機械を咲枝に向けて、用意した机に置いたパソコンにカタカタと打ち込んでいる。


「エナジー値?」

「ああ。仮称だがな。エナジーというのは『量』と『濃度』で測ることができる。仮の目安として、平均的な『カルマの怪人』で例えようか。つよ怪人ではない普通の怪人だ。量を100。濃度は100を最大に、基準は50だ」


 カタタンとリズミカルにタイピングする。


「つよ怪人の平均が169と濃度75。

 幹部はまだ計測できていない。このレベルになると変身して力を隠したりするしな。この前のナギ女王も隠れて計測しようとしたが、人間の姿では殆ど意味が無かった。

 で、これまでのエナリアだが、

 春風が平均230と濃度が61。

 北城治は平均198と濃度が80だ」


 既に用意してあったのか、表の書かれた資料を皆に手渡した。


「濃度ってお分からんけど」

「エナジー自体にも、いくつかの要素があってな。大雑把に言うと、活発な動きをする『動エナジー』と、比較的大人しい『静エナジー』に分かれる。まあ、専門的な話だから気にしなくて良いが、その全体の『動エナジー』の割合を濃度と定義している。同じ量を供給しても、エナジー武器の活動効率が違うんだ」

「ほえー……。三木さんは三木さんで色々調べたりしとんねんな。現場のアタシらは何も知らんかったわ」

「まあ、俺達は裏方だからな」

「ほいで、アタシの濃度つよ怪人より低いんや」

「そうだな。奴らはエナジーと共に生きる種族だ。常に『エナジー体』であるようなバランスの良い配分を遺伝子レベルで制御している感じだ。エナジー体というのは、お前たちに取っては変身時のことだな。『気を抜くと解ける』というのは、ある意味ではバランスが悪いということだ。量も怪人と比べて飛び抜けている」

「ほー。なるほどなあ」


 咲枝が感嘆する。


「続けるぞ。今の、ストームフォームの春風の数値だ。量は1334。濃度は91だ」

「!」


 三木の言った数値と、手元の資料を比べる。


「……ケタ1個ちゃうやん。あ、気ぃ抜けて変身解けそう。ポポ」

「ほいさ」


 すかさずポポディが、ララディに教わった自身の収納スペースからいつものジャージを取り出して咲枝に渡した。


「そうだ。これがブラストブリング。確かに驚異的だ。ストームフォームでの体力測定もしたいんだが」

「……多分えらいことなるで」

「なに、元々殆どお前達が世界新を出してるんだ。気にするな」

「ほいで、濃度めっちゃ高いやん」

「そうだな。高くなり過ぎると『静エナジー』が『動エナジー』を抑制できずに崩壊し、空気中に霧散してしまう。低過ぎても自然消滅する。要はバランスが大事なんだが、91という数字は活動限界ギリギリだと思って良い。その代わり、身体中全てが自由自在に動く筈だ」

「あー。なんとなく把握したわ。綾水は元々濃度高いねんな」

「そうなんですわね。量は咲枝さんに及びませんけれど」

「量についてはドレインした数が違うんだろうな。後は個性とか才能による個人差だろう」

「ほほーん」


 それから、三木からはいくつか専門的な説明があった。その度に咲枝はほむほむ頷いていた。


「ポポ知っとった?」

「いや全く知らないディ。2種類のエナジーとか、初耳ディよ」

「まあ、あくまで人間界目線で科学的に分析して仮称と仮定を無理矢理しているようなものだ。できることなら、俺も向こうへ行ってそっちの専門家の話も聞きたいんだが」

「……よし。ほな取り敢えず、体力測定やろか」











●握力――


「おっしゃ。今度は壊さずにできたで」

「……前回のことも踏まえて、お前達用の器具も用意したんだ。これを握れ」

「おっ? おっけ」


 春風咲枝(ストームフォーム)

 ……600kg超


「ゴリラやん」

「また正確に測れなかったか。ゴリラ以上だ」

え気はせんな」


●上体起こし――


「綾水。支えてくれ」

「わたくしをぶっ飛ばさないでくださいね」


 ……90回


「ここはあんま変わらんねんな。けどずっとこのスピードでできそうや。何日間かくらい」

「それはやばいですわね」

「綾水もやっとくか?」

「笑い死にますが」


●長座体前屈――


「いやこれは意味ないやろ」

「確かに」


●反復横跳び――


「よっしゃ本気出すわ」

「外でな」


 ……122回


「土埃が凄い」

「他に感想無いんかい。ってこのツッコミも2回目や。ていうか短過ぎて難しいわあ。もう1回もっかいさせてくれへん?」


●立ち幅跳び――


「今回は衛星を使って無理矢理測るぞ」

本当ほんまかいな。……まあ、隣町くらいは行きそうやな」


 ……336m


「強化された力に比べて、春風の体重が軽すぎるんだろうな」

「悪い気はせんな」


●20mシャトルラン――


「これ前回テープ切れるまでやったんやったっけ」

「いや、その前に変身が解けたディ」

「あーそっか」

「安心しろ。テープではなくPCソフトを使う。永遠にできるぞ」

「んー……。今度こそ本当ほんまに終わらん気がする」


 ……500を突破


「まだいけるのか」

「行けるで」


 ……1000を突破


「もう2時間くらいやってるぞ」

「まだ行けるで」

「…………息切れも発汗も無いのか」


 ……1500を突破


「アカン三木さん。トイレ行きたなってきたわ。あと暇や」

「分かった。実際あとどれくらいできそうだ?」

「んー。分からん。ほなこれだけに時間使つこても悪いし、終わろか」


 記録……1567で自主終了。











「持久力、という点では規格外のパワーアップをしているな。瞬発力も凄まじいが、どちらかというと瞬間出力よりエナジーの持続力がずば抜けている。通常のエナリアは実質制限時間ありの短期決戦向けだが、ストームフォームは特に継戦能力を上げているようだな」

「確かにそんな気ぃするわ」


 体力測定を終えて。変身を解いてジャージに着替えた咲枝を含め、皆が会議室に集まっている。


「元々、ブラストブリングネックレスは『国防の最終ライン』としての用法を想定されました。ウインディア中から、長い年月を掛けて質の良い……三木さんの言葉だと『濃度』の高いエナジーを蓄積させています。その蓄積に耐え得る神秘の材質がブラストブリングなのです。最初に作られたのは、約400年前。ヒノモトでは、後に『センゴク』と呼ばれる時代でした。この時にも、カルマではありませんが強力な怪人による人間界進出が多くありました。どうやら人間達の戦争の傭兵などをやっていたようです」

「ララ」


 会議室には、ララディも座っていた。彼女から提案したのだ。協力させて欲しい、と。


「妖怪と、そう名乗って。混沌の時代。当時のウインディア情勢も不安定でした。それを、当時の人間界の協力者と共に解決し、今後また大規模な怪人事件が起きた時に対処しようと、考えられた取り組みです」

「つまり、400年分のエナジーが溜まっとるって言うちゅうことか」

「その通りです。初代の時は、少しだけしか。先代エナリアの時には全く反応しなかった。それが意味するのは……あの時よりもっと、『大事件』が起きる前兆だとも、言えると思います」

「!」


 カルマの問題が解決しようという今。

 ララディは既に、『次』を予期し、見据えていた。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:改めて凄まじいですわね。ストームフォーム。


〈咲枝〉:綾水もやってみるか? ロングドレス似合いそうやわぁ。


〈綾水〉:わたくしより、ララさんの方がお似合いなのでは?


〈ララディ〉:えっ。


〈咲枝〉:本当ほんまやな。ほれララ。


〈ララディ〉:えっと。ブラストブリングはエナジーアニマルには扱えません……。


〈ふたり〉:…………。


〈ふたり〉次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第34話『変身! 狙われた綾水!』


〈リッサ〉:……それでどうして私の方を見るのよ。


〈咲枝〉:おし。普通にロングドレス着い。うてくるわ。ララの分も。


〈ララディ〉:えっ。

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