第32話 特別編! たまには遊ぼう! 皆で海水浴!

 少しだけ、時間は遡り。

 時に。

 現在西暦202X年、8月。夏である。


 夏と言えば。


 海だ。











「なあ空石」

「なんだ三木。なんでお前は海に来てまで白衣なんだ」

「キャラだ」

「そうか……(諦め)」

「それより空石」

「なんだ三木」


 男ふたり。砂浜にパラソルを刺してブルーシートを広げる。つい先程着いたばかりである。ナギが撤退を宣言したとは言え、何が起こるか分からない為東京からそこまで離れられない。とは言っても、戦士に休みは必要だ。

 ここは港区にあるビーチ。


「俺達『男衆』はこれまで、ちょっと『良い子ちゃん』過ぎてないかということだ」


 三木が、そう言った。


「……言いたいことは分からんでも無いが……俺達はもうアラサーだろ。遊ぶ歳じゃない」

「遊んだこと無いだろお前」

「…………別に悪いことじゃないだろ」

「まあ考えてみろ空石。普段お前の周りに居る女性陣は、みんな美人揃いだと思わないか?」


 言われて空石は、咲枝と綾水の顔を思い浮かべた。


「…………まあ、な」

「それが、ほら。向こうで今正に水着に着替えているという訳だ。お前に見せるために」

「いや……俺の為じゃないだろ。ていうかそういう魂胆は無いだろ。普通に海で泳いで遊びたいだけだろ」

「ふむ。本当にそう思うなら、着てきた水着の『本気度』をしっかり見てやれよ」

「はぁ……?」











「あら、咲枝さんは?」

「まだ着替えてるわよ」


 一足早く更衣室から出てきたのは、ララディとリッサである。ピンクのフリルが付いたトライアングルビキニで、髪色と相まって華やかさと統一感を演出している。長い桃色の髪はアップにして纏め、上品さを表現すると共に、うなじの露出に繋がっている。


 リッサは金髪のツインテールをそのままに、こちらも黄色で統一した紐ビキニであった。外見年齢相応の控えめな胸はあまり強調せず、わざと長くしている紐を大きく結ぶことでアクセントにしている。紐である分露出が多いのだが、リッサは全く気にしていない。チョイスは勿論ララディである。


「あら。ナギさんも。ほら」

「…………ぐぬぬ」


 お付きのメイド怪人(人間姿・メイド服イメージの白黒カラー&フリルの水着)にきゃあきゃあ言われながら、ナギも現れた。顔を真っ赤にしながら、こちらへやってくる。


 当然、ララディが選んだ水着だ。グラマラスかつスレンダーな彼女に似合うよう、スカイブルーのバンドゥビキニを着用『させて』いる。布が帯状である為谷間は見えづらいが、それでも充分男性客達の目を奪っていた。


「……敵地で強制的に武装解除など……」

「ナギさん。これは海水浴と言って。泳いで遊ぶ行為です。戦争行為ではありません。よく似合っていますよ」

「ウインディアには海は無いものね。湖はあるけど」


 ナギ達が、ウインディアへ戻る直前のとある真夏日であった。











「ほら、咲枝さん! 頑張って選んだじゃないですの!」

「ぅ……。ちょっ。やっぱ無理やってえっ」

「ほらほらっ」

「な、なんでそんな強引なん? 綾水」

「うふふ」


 そして。

 更衣室から、まず綾水が姿を見せた。大きなリボンが特徴的な、ワンピースタイプで、彼女らしいお淑やかな印象を受ける。その綾水が、楽しそうに咲枝の腕を引っ張っている。無理矢理、引っ張り出された。


「あははっ」

「うぅっ」


 ナギよりさらに、顔を赤くして。咲枝が登場した。


 純白の、マイクロビキニで。


「ちょ、本当ほんま……アタシのキャラちゃうやん……」

「ああ……ガチで恥ずかしそうにしている咲枝さん、とっても可愛いですわぁ」

「綾水、え性格しとんな……」

「何をおっしゃいますの。咲枝さんご自身が選んだ水着ですわよ?」

「いやそれは…………そうやけど。買い物ん時色々乗せられた感あるやんかぁ」

「遅いわよあんた」

「いやリッサ。あんたも紐やのになんでそんなそない堂々としとんの」

「? 何がよ」

「カルチャーショック……」


 メイドふたりを含めた、7人の『女性陣』が。『男衆』ふたりの設置したパラソルへ向かう。


「お待たせしましたわー。空石様。三木様ー」


 綾水が手を振って。呼ばれたふたりが振り向く。


「!!」


 まず。

 何よりも先に。

 空石の視界には、かのマイクロビキニが飛び込んだ。


「…………似合におとる? 空石さん」

「あ……。ああ…………。似合ってるよ」

本当ほんま……?」

「…………っ!」


 赤面した上目遣いで訊かれる空石。

 似合っているかを訊ねられている以上は、『見る』べきなのだろう。だが、これを『見て』良いのか? いや……。いや……。

 空石の思考は風車のようにぐるぐるしていた。











「あ〜あ〜。勿体無い。下手だねえ本当」

「何がだ?」


 そこから、ほど近くの場所で。


 ブーメランパンツを着用した筋肉質な男がふたり……ザイシャスとグリフトと。


 クルムが望遠鏡で咲枝達を眺めていた。

 ザイシャスはパラソルを設置し、グリフトはビーチボールを膨らませている。クルムはビーチチェアに座りながら。


 彼女は水着の上から無地のTシャツを着ていた。サングラスを額に掛けている。


「ほら。僕みたいにまずTシャツを着るんだよ。いきなり全てを見せないのさ。この、ちょっと透けてるの良くない?」

「全く分からん」

「……君達は人間の男の『性癖』を勉強しなさい。とにかく、こうすることで、ほら」

「あん? ボール膨らんだぞほら」


 ぴょん、と立ち上がったクルム。


「さあ、そろそろ泳ごうか。ねえ」


 そのTシャツを、脱ぐ。水着が露わになる。水玉模様の眼帯ビキニが。徐々に曝け出される、少女の柔肌。


「んっ」


 そしてぱさりと、Tシャツをビーチチェアに掛ける。無造作に。


「ね? 『女性が衣服を脱ぐシーン』という『攻撃』が可能なんだよ。エナジージュードー春風咲枝は、そこが下手だった。いきなりマイクロを見せびらかせば、相手が相手なら引かれてしまう。特にあの上司君……空石八朔は『ド真面目』だ。いきなりマイクロ戦法は逆効果になる可能性が高いのさ」

「…………」

「ま、『恥ずかしがる』というカードは切れるから、ありだけどね。ていうか普段変身の度に全裸になってるのに今更だよねえ」


 得意げに語る、クルム。ザイシャスはその様子を見て、


「本当に全く意味が分からん。味方に攻撃?」

「……はぁ〜ぁ。つまらないなあウチの男衆は。ていうかどっちの陣営にも『ロリコン』が居ないんじゃ、僕のチラリズムが空振りになるじゃないか。リッサだってエロいしララディ王女も結構攻めてるよアレ。……こんなフザけた世界観なのに、出てくるキャラが常識人で真面目なのってシュールすぎるよねえ」

「……ふむ。では今度調べてこよう。『ロリコン』だな」

「やめとけよザイシャス……。なんとなく」

「え、君達、あのナギ姫の水着姿を見ても反応しないのかい? 同じカルマの怪人じゃないか」

「は?」

「ほら望遠鏡」

「!」


 クルムから、望遠鏡を手渡されて。

 覗いた先に。

 帯状の布によって寄せられたナギの胸元があった。


「ぶはぁっ!!」

「おっ」

「おいどうしたグリフト!」


 グリフトが鼻血を噴き出して卒倒した。


「…………ぅぅ。ナギ様……美しきすぎ……いや。……エロ」

「ほら君も。見てみなよ」

「くっ」


 グリフトが落とした望遠鏡を拾って。


「どれだ?」

「あっち」


 その、砂の着いたレンズに、我らが女王を収める。


「ああああっ!!」

「あははっ!」


 ザイシャスは後方へ飛び退いて望遠鏡を投げ捨て、そのまま後頭部から倒れた。


「なんだい君達。やっぱり男なんじゃないか」

「うぐっ! なんだあれは!? あんな格好、カルマの歴史に存在しない! なんと……! なんと扇情的な……! ナギ様っ! くそっ! あんなお姿を、公衆の面前に……っ!」

「……おいおい。大丈夫か」


 クルムは少し、心配した。











「はぁーぁ。なんかどっと疲れたわ。何で2週連続変身以外で脱がなアカンねん」


 結局上に柄物Tシャツを着た咲枝。楽しそうにはしゃいでいる綾水やララディを眺めつつ、ブルーシートで三角座りをしていた。


「飲み物買ってきたぞ」

「ん」


 そこへ、空石がやってくる。襷掛けのクーラーボックスをブルーシートの角に置いた。


「空石さん泳いでへんのちゃうん」

「良いんだよ。これはただの遊びじゃなくて、ララディ王女やナギ女王が居る。俺はここから監視だ」

「…………何うて来たん?」

「ブルーハワイにメロンソーダに……どれにする?」

「空石さんは?」

「俺はメロンソーダだな」


 クーラーボックスからメロンソーダを取り出し、ストローを刺す空石。ほら、と適当に取ったブルーハワイを咲枝に渡して。


「…………アタシ、それが良い」

「は? もう飲んじゃったぞ俺」

えよ。ストローある?」

「……!?」


 受け取ったストローを。

 そのメロンソーダに。空石のストローの隣に刺した。


「(…………せめて、こんくらい許されてもえやろ。アタシ)」

「咲枝……っ?」


 ふたりで。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:良い雰囲気ですわ。咲枝さんっ。


〈咲枝〉:…………もうやめえて。本当ほんま恥ずかしわぁ。


〈綾水〉:それが萌えポイントですわよ。人気投票1位間違いなしですわ。


〈咲枝〉:いやそんなんせんし……。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第33話『変身! ストームフォーム大解剖!』


〈咲枝〉:まあ、息抜きにはなったわ。また行こうや。皆で。


〈綾水〉:はい! 今度は冬にスキーでも!


〈咲枝〉:それもえなあ。

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