第31話 変身! 久々の全裸!
「あー。帰ってきたなあ」
「あはは。なんだか随分久し振りな気がしますわね」
綾水の自宅……否、怪人対策本部へ戻ってきた咲枝達。に加えて――
「取り敢えずお風呂やわ。ララも入るやろ?」
ララディとリッサ、そしてマッツン(人間形態)である。
「そうですね。あの旅館ではゆっくり浸かれませんでしたので。ねえリッサ」
「水浴びでしょ? 要らないわよ」
「いやいやいや……」
ララディがリッサの手を引いて。咲枝達と一緒に浴場へと向かった。
♡
「はぁ〜。やっぱり人間界のお風呂は最高ですねえ」
ポン、と音がしたと思えば。
ララディがぬいぐるみに戻っていた。
「シナシナやないか」
「あはは……。気を抜くと変身が解けるのは、エナリアもわたし達も同じですからね」
しなしなになったララディを持ち上げ、ぱしゃぱしゃと弄ぶ咲枝。
隣に、身体を洗い終えた綾水がやってきた。
「咲枝さんも久々の全裸ですわね」
「何を言うてんのこの子」
「……でもこれでようやく、戦いは終わりそうではありませんか? ナギさんさえ侵攻を止めてくだされば……」
「…………」
綾水の言葉に、咲枝は顎を撫でた。
「さっきちらっと聞いてんけどな、綾水」
「はい?」
「アタシら、もう完全に警察組織から外れとんねんて。形的には民間防衛会社って感じやねん。で、出資してくれはる企業もようさんおって、そのひとつが綾水の実家や」
「…………民間」
「ほいで、三木さんがエナジー武器開発しとったやろ? その研究成果全部警察に置いて、三木さんはこっちに合流したんや」
「……はあ」
「つまりな。アタシらはもう『人間界代表』やないねん」
「!」
怪人の出現は、今はぱたりと止まっているが。
今後もし、例えばカルマ以外の勢力などが現れるようになってもエナジー兵器により完璧に国防が可能となっている。その準備は三木主導の元、着々と進められている。
「一応警察から、こっちに三木さん以外にも何人かエンジニア連れてきたらしいねんけどな。殆どはあっちに残ったんやと」
もう、エナリアは必要ないのだ。これからそうなっていく。
少女を戦わせる必要は、なくなる。
「なあララ。次は、ウインディアの件、片付けんとな」
「あっ」
そうだ。綾水は口を押さえた。まだ終わりではない。『カルマが人間界を攻めてこなくなった』だけだ。
ウインディアには依然、カルマの軍団が居座っている。
「はい。まずは、父と話をしなければなりません。……反対されると思いますが」
ララディは王女だが、実権を握っているわけではない。現国王のアウィウィは、この件を知らない。まさかカルマボスのナギと人間界を観光したなど。
「アタシは正直、ララに賛同や。自国内で防衛体制整えるんは基本やろ」
「……父は、今も『エナリア待ち』です。恐らくは、国民の多くもそうだと思います」
「アタシらが一緒に行って、今回の事報告したら
「それは……。何とも言えませんね。恐らくは、意見は分かれると思います。私は、国を二分したりはしたくありません」
「『革新派』と『保守派』か」
「そうですね。……わたし達とエナリアに繋がりがあることは、知られないようにするべきだと思います。あなた達の立場まで、悪くなってしまう恐れがありますから」
「…………分かった。綾水。もう出るで」
「えっ。はい」
ざぱりと、広い浴槽から立ち上がった咲枝。綾水と共に、その場を去った。
「ゆっくりしていきや。こっちに居る間くらいは。難しい話はまた明日や。ララ」
「……ありがとうございます」
♡
「どうかしたんですの? 咲枝さん」
「…………んー」
脱衣所にて。バスタオルで身体を拭きながら、綾水が訊ねた。
「アタシは会社辞めてエナリアになったんや」
「お聞きしましたわ」
「やからな。エナリア言うんは、アタシの『生業』やねん。誇り、言うたら安っぽいかもしれんけど。『きちんと』したい思てる」
「はい」
これは咲枝が、ブラストブリングによってストームモードになってから考えていることだ。
歴代のエナジーを受けた咲枝が。
「人間界を守って終わりやないねん。中学生風に言うなら……『
「…………そうですわね」
正直、呆気なかった。もう、これでナギが人間界へ攻めてくることは無い。ドラマチックな展開も、激しいバトルも無く。だがそれで良い。実際の幕切れは呆気ないものだ。それに、被害損害が無いのならそれに越したことは無い。
「咲枝さん、実は真面目ですわよね。なんだかんだ言いながら」
「む」
綾水がからかった。咲枝は少し、恥ずかしくなってしまった。
「……それが取り柄や」
「素晴らしいと思いますわ」
「……あんな。そうやって『基本的に人を褒めるスタンス』のあんたかて、育ち
「咲枝さんがわたくしを褒めてくださいましたわ!」
「…………綾水にはすまんと思っとるよ。ふたりでエナリアやのに、アタシひとりで勝手に色々やって」
「あら、お言葉ですが、わたくしも色々勝手にやっていますわよ」
「えっ」
「例えば。咲枝さん、ウチの部隊の方と、コミュニケーション取れていませんわよね」
「部隊……って」
怪人対策本部には、100人の実戦部隊がある。多数が元警察官で構成された、エナジー武器を装備した特殊部隊だ。基本的には私服で都内をパトロールし、怪人出現と同時に行動開始。速やかな住民の避難誘導と怪人の射殺、連携してエナリアへの連絡。これらを担う、ここの主力である。
「わたくしは銃の訓練でご一緒することが多いので、色々とお話させていただいていますわ。中にはエナジーの扱いが上手な方もいらっしゃって。参考になるんですのよ」
「…………へえー……。そんなことしとったんかいな」
「わたくし達エナリアは、ウチの最高戦力ですわ。その行動や言動は部隊の士気に関わるんですの。咲枝さんが『外』との折衝をしてくださるなら、わたくしは『内』のバランスを保ちますわ。……出資者の方々への説明なども、今後。空石様からお声がありまして」
咲枝は中途半端にシャツを着ている途中のまま、綾水を見て感嘆した。
「ま、アタシより説明は丁寧やろな。あんた」
「恐縮ですわ」
そして、何度か頷く。
「そか。そか。ほなアタシは『こっち』に集中すんで。次はウインディアの解放や。また向こうの世界行くで」
「ええ。従いますわ。
「…………いやリーダーは空石さんやろ。また話すわ。明日なんや会議言うとったし」
「ええ。三木様からも報告があるとか。危機が去っても大忙しですわね」
「まだ去ってへんけどな。ナギは今回は帰ってもろたけど、また話さなアカン。こっちの意見もまとめとかなな」
「はいっ」
綾水も、にっこりと笑った。
♡
浴室に残ったララディ。
「……ふう。一先ずは、ここまで来た。後は――」
「ぶくぶくぶくぶく」
「きゃっ」
水面から、大量の泡が湧き上がり。
ざばりと、湯を滴らせながらリッサが顔を出した。
「何してるのもう。びっくりしたじゃない」
「…………ララ。私はあなたの命を守るだけ。心は守れないから。私に政治は分からないし、何ひとつ口出ししないけど。無理したら駄目よ」
「リッサ……」
仏頂面で。ハキハキと宣言したリッサ。彼女はナギらとの会談時も、何も発言していない。ただ、ララディの護衛に徹していた。
「だって、あなたが死んだら私まで巻き添えだもの。駄目よそんなの」
「…………そうね」
そんなリッサを。
ララディは、大好きなのだ。
「ねえ、『心は守れない』って言い方は、『できることなら守りたい』と捉えられない?」
「…………そうね。まあ――」
「じゃあ、はい」
「は?」
手を広げた。両手を。手の平を向けて。
「…………?」
『迎える』ポーズ。リッサはなんとなく近付いていって。
「ほら」
「わぷ」
その腕は閉じて、食虫植物のようにララディに捕まった。
「なによもう」
「くすくす。癒やしてくれるんでしょう?」
「はあ? 私を抱き締めたら癒やされるの?」
「勿論」
「なにそれ。変よララ」
「変じゃないわよ。こうやって、肌と肌を触れ合って。……安心するの。わたしは寂しがりやだから。大好きなリッサとぎゅーってしてると。……幸せ」
「………………もう。勝手にしたら良いわ」
そのまま。うとうとしてしまって。
リッサが優しく抱き上げて風呂場を出るまで、ララディは癒やされていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:ああ。やっぱ風呂は
〈ララディ〉:本当に。……この文化は素晴らしいです。帰ったらウインディアにも、人工温泉を作ろうと思えるほど。
〈咲枝〉:
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第32話『特別編! たまには遊ぼう! 皆で海水浴!』
〈綾水〉:皆で、水着を買いに行きましょう? ほらほら咲枝さん!
〈咲枝〉:テンション高いな綾水……。
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