第30話 変身! 衝撃の事実!

「ナギ様……!」

「…………分かっている」


 ナギは王である。姫でも王女でもない。

 現国王なのだ。











「さて。これで一応、『人間界の文明』については分かっていただけたかと思います」

「……ああ」


 翌日の昼食後。ホテル内の会議室内にて。一同が介する中、空石が切り出した。

 ナギは暗い表情で、メンバーを見回す。咲枝に綾水に、ララディ。


「充分だ。『人間界』と『ウインディア』の事情は把握した。……いや、まだまだ、わらわの知らぬものがあるのだろうが」


 咲枝も頷く。本題は、ここからだ。人間界を見て、そこから、ナギがどう考えるか。彼女の答えは何か。

 全員が注目する。事と次第によっては、戦争再開である。


「……わらわ達カルマの軍勢が、その老人や子供も含めて全戦力を投入しても……人間界を『攻め』『滅ぼす』ことは……不可能であろうな」

「……!」


 まずは。

 現状を正確に把握してくれたらしい。空石はほっと胸を撫で下ろす。


「昨日見た、あの兵器と軍隊ジエータイ……さらに加えて、『エナリア』が居る訳だ。正直勝ち目は無いに等しい……。いや。無い」


 実はまだ、全てを見せてはいない。三木謹製のエナジー兵器は公開していないのだ。だが、充分だと判断した。通常兵器だけでも、人間は負けはしない。


「『攻める』選択肢は無くなったんちゃうか?」

「…………」


 咲枝が訊ねる。求める回答は、イエスだ。それさえ聞ければ、一歩前進する。

 だが。

 日本の現在の国際的立ち位置については説明していない。ナギにもまだ、付け入る隙はあるのだ。


「……人間界の代表とエナリア、そしてウインディアの王女」

「!」

「ん」

「はい?」


 ナギは。

 この『穏やかな雰囲気の超圧力』に対し。


「……今度は、わらわ達の話も聞いて欲しい」

「!」


 王として。











「――さてじゃあ、ここらで一度整理しようか。ここまでのお話を」

「ふむ」

「あと僕は、怪人のことについてはあんまり詳しくないんだ。補足は頼むよ」

「分かった」


 某高層マンションにて。


「質問だ。クルム」

「なんだい? グリフト君」

「その格好はなんだ?」


 何故かスクール水着を着て、赤縁メガネを掛けて、指示棒を持ったクルムに訊ねた。


「フフン。良いだろう? 似合うだろう。ロリはスク水だよねー」

「……いや知らねえって。防御力低すぎだろ」

「フフン面白いね。スク水ロリを見て防御力とは。流石怪人。観点が違う」

「分かった俺が悪かった。続けてくれ」

「フフン」


 何かを諦めたグリフト。クルムはドヤ顔でメガネをくい、と触る。


「まず最初に語るべきは、『初代エナリア』のことだね。そこから全ては始まった。今の時代まで続く、禍根がね」











 怪人。エナジーを食糧とする異世界の怪物のことだ。様々な種類がある。広義では、エナジーアニマルもこの枠に入る。

 『カルマの怪人』とは、その中のひとつの種族に過ぎない。彼らはエナジーがあると強いが、他の怪人と違い、自身の体内でエナジーを作ることができない種族だった。その為、他種族に入れてもらい、護衛などを請け負うことで補給してもらっていた。

 もしくは。

 奪うことだった。カルマで徒党を組み、他種族を襲い、エナジーを奪う。エナジーさえあれば、その強さは比類ない。

 そんなカルマが狙いを付けたのが、ウインディアだった。世界最高純度のエナジーを豊富に独占するエナジー大国。他種族からエナジーを『奪われやすい』という体質があったが、ヒノモトという異世界の扉を開け、エナジー戦士を連れてくることで自衛としていた。

 カルマはウインディアへ攻め入り。


「――そして、初代エナリアに滅ぼされた。ここまでは、良いよね」

「……ああ。ナギ様のお祖父さまの話だろ」

「そうそう。で、月日は流れ……」











 現在西暦202X年。カルマは3代目ボスのナギを旗頭に、再びウインディアへ攻め入った。エナリアの居ないウインディア侵略は簡単に成功し、人間界へ尖兵を送り込む。

 同時にウインディアも、使者ポポディを遣わし、エナリアとなり得るエナジー適性のある人間を探すことに。


「――で、あの日か。もう丸々1ヶ月やな。ちょうど30日か」

「……お前達は、こう訊きたいのだろう。『何故人間界へ攻め入るのか』と。その目的、動機を」

「…………せやな。そこさえ分かれば、交渉の余地はあるやん。教えてくれるんか?」


 それぞれに、目的がある。ララディ率いるウインディア(非公式)は、カルマの軍勢の撤退と補償。空石が代表(仮)をする人間界は、怪人が現れる前までの原状復帰と、怪人による犯罪の撲滅。


 そして。

 エナリアの目的は。咲枝と綾水はまだ自覚をしていないが。既に人間界と異なり始めている。


 最後に。

 カルマ首領、ナギの目的とは。


「……わらわは、『カルマのルーツは人間界にある』と教わって育った」

「!」

「わらわ達カルマは、戦闘能力は高く強い。だが生物としては弱い。……分かっているだろう」

「……エナジーを体内で生成できない問題、ですね」

「そうだ」


 エナジーが無ければ生きられないのは、異世界の種族の共通事項だ。ララディ達エナジーアニマルも、怪人も。だが、『カルマの怪人』に限って、自然の空気や食物からエナジーを作れず、他者から供給を受けなければならない。


「わらわは、その秘密を知りたかった。真実を。だが、それにはウインディアという壁と、人間という障害がある。……だから侵攻したのだ。交渉が長引けば長引くほど、我々は不利になる」

「!」


 短期決戦しか無いのだ。生命線であるエナジーの補給を、外部に頼らなければならないのだから。











「――話を戻そう。初代エナリアと初代カルマとの戦い。197X年のことだ。約50年前。そこで何があったか。君達は聞かされているかい?」


 クルムが赤縁メガネをくいと上げて訊ねる。


「負けた、とだけ」

「ああ俺もそうだ」

「フフン」


 ふたりの答えを、鼻で笑った。クルムの外見は正しく小学生だ。背も低く、顔も幼い。だが纏う雰囲気は、子供とはかけ離れていた。


「次は日本の歴史だよ。その頃、何があったか。説明しよう」











 まあ、長嶋茂雄の引退とか暴れん坊将軍放送開始とかロッキード事件とか色々あったけれど。僕が言いたいのは、『敗戦から約30年前後の年代』だということだ。日本の経済の担い手も、世代交代で『戦後生まれ』が続々と現れ始めた頃。それは、異世界でも同じだったんだ。


 日本は『ヒノモト』の頃から研究していた『生物兵器の成れの果て』を、敗戦を理由に中止された『それ』を。異世界へと遺棄して、それから。約30年前後の年代。


 続々と。

 人間界へ恨みを持つカルマの怪人が、成長して。

 侵攻を開始した。これが経緯さ。











「……そんなの、知らないぞ」

「ああそうだろうね。この事は政府以外誰も知らなかった。勿論、当時のエナリアも、カルマの怪人当人達もね」

「!」

「フフン。政府はアメリカを始めとする戦勝国に対して隠したかったんだ。自分達だけが知っている『異世界』『エナジー』という、フロンティアをね。そして失敗したその処理を、何も知らない12歳の女の子に押し付けた」


 驚愕する、ザイシャスとグリフト。クルムはフフンと鼻を鳴らしながら続ける。


「当時の政府はとにかく揉み消したし、戦後から色々変わってるから、それを今の警察が把握してるかは分からないけどね。もう一度言うよ」


 ふと、クルムが。

 いつもの笑みではなく、真剣な表情になった。


「『初代エナリア』は『何も知らなかった』んだ。攻めてきた怪人を倒しただけの国防だと思っていた。非人道的な実験の尻拭いをさせられていたなんてことは。……知らないまま、亡くなったんだよ。去年」

「……クルム。あんたは……どうしてそれを知っている? 人間の寿命と成長度合いの外見は凡そ調べたが……どう見ても、それは人間の幼体だ」


 ザイシャスが訊ねる。クルムは少し目を伏せて、窓の外を見た。


「何も知らないまま。恵那エナお婆ちゃんは安らかに息を引き取った。僕は……『全部知った』だけだよ。半世紀生きてる訳じゃない」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:本当に、『話し合い』で解決してしまいそうですわね。


〈咲枝〉:まあ、アタシらが大人やから冷静にできた展開やろな。ナギもマトモや。マトモやないと『王』なんかできへんしな。


〈綾水〉:でも勿論、これで終わりでは無いのですわよね。


〈咲枝〉:せやなあ。あと20話もあるしなあ。


〈綾水〉:そういう発言は諸刃の剣だそうですわよ……。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第31話『変身! 久々の全裸!』


〈綾水〉:最悪のサブタイトルですわね……。


〈咲枝〉:過度な期待はしたらアカンでそこの野郎ども。

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