第29話 変身! 蠢く闇の養子クルム!

「自衛隊は……」

「なっ!」

「この武器は……」

「なっ!」


「あれが繁華街ですよナギさん」

「なっ!」

「アイス食うか。ほれ」

「つめっ!?」


「ディナーは和食にしたぞ」

「なっ!」

「美味いやろ? スシ言うねん」

「うまっ!」


「温泉や。ほれ脱ぎい」

「なっ!」

「おお……。アタシが霞むレベルの巨乳やんけ」

「なっ!」

「おっ。トイレウォシュ○ットあるやん。してきい、ナギ」

「あああああっ!」











「……失礼します。ふう」

「お疲れさんララ。ナギとメイドちゃんは?」

「もうぐっすりですよ。色々ありましたからね」


 都内某高級旅館にて。ナギらカルマ組の就寝を待って、咲枝達の部屋に集まった。


「すまんなララ。あんためっちゃナギに説明しとったな」

「はい。出身世界が同じですから、例えて説明する時にやりやすいと思って」


 流石に疲れた様子のララディ。咲枝の用意した座椅子に腰を下ろした。

 するとポポディがふわりと。


「ララ! 話してもらうディ! どうして怪人と……3人目と一緒に居たのか! どうして行方をくらませたのか!」

「……兄さん」


 ふわりと憤慨するポポディ。ずっと待っていたのだ。こうして話すタイミングを。


「それに、相手は怪人の親玉ディよ!? あんなに親しげに……!」

「それは……」

少しちょい待ちポポ。……ララ、手ぇ見してみ」

「え……」


 人間の姿となっているララディ。一瞬だけ躊躇ったが、手の平を広げて皆に見せた。


「血が……っ」

「……な? ポポ」


 赤い血が、滲んでいた。固まっているものもあれば、まだ水気のあるものもあった。ちょうど指の爪が食い込んだ痕と共に。


「『国の為に』。頭下がるわホンマ。こっちはえから、ゆっくり休みや、ララ」

「…………ありがとうございます。ではお先に、失礼いたします」


 それを見られて、気が少し弛んだのか。ふらつきながら、退室していった。


「自国民沢山ようけ殺されて、兄貴ポポまで一時捕まって。……それでも、や。なあポポ」

「…………ララ……!」

「わたくし、少し様子見てきますわ。ララさんのお部屋」

「頼むわ綾水」


 綾水がララディを追って退室する。咲枝はポポディの頭をぽんと撫でつつ、冷蔵庫からビール缶を取って座椅子に座った。


「全てはナギを無力化する為。殺されたエナジーアニマルの恨みを晴らすんやなくて、これから生きる、生まれるウインディア国民の為に。拳握り潰すほど我慢して、憎しみを押さえ付けて。にっこりわろてたやろ。流石としか言い様があらへんわ」

「……全然、知らなかったディ」

「らしいな。一緒に育ったんやってな」

「話が、したいディ。久し振りに会ったんディよ」

少しちょお、待ったって。この件片付いてからやわ」

「…………ずっと行方不明で。心配してたんディよ」

「……良かったな。取り敢えずは、無事で」

「無事じゃ、ないディ。……『3人目』」

「ん」


 部屋には、リッサも居る。浴衣を着て、部屋の隅で座っていた。


「……あの子が望んだのよ。私と『運命共同体になる』って。私を責めても何もならないわ。『ウインディアの使者』」


 ポポディに向かって、毅然とそう言った。


 咲枝は、そうか、と目を丸くした。ララディとリッサは、当初ウインディアの『敵』だと自己紹介した。それはウインディアを想いつつも、『怪人と手を組んだ』ことがウインディア国民の感情に反することだからだ。咲枝と綾水に打ち明けた時は、問題にはならなかった。ふたりは人間だからだ。


 『リッサとララディが敵』という感覚は、純ウインディア国民であるポポディこそ、抱く可能性が高いのだ。

 加えて。ララディはリッサにエナジーを全て分け与え、『共生関係』になってしまっている。リッサがどこかでエナジーを尽きさせたら、その場でララディも死ぬことになる。エナリアにエナジーを与えるポポディ達エナジーアニマルにとっての『最終手段』であるが、既にララディはそれを行っているのだ。


「……おいらは、どうしたら良いディか」

「ポポ……」


 がくり、ふわりと項垂れるポポディ。分かるのだ。咲枝には、彼の気持ちが。妹を思う兄の気持ちが。咲枝にとって、ポポディや綾水は弟妹同然であるからだ。


「そんなもん、自分の仕事するしか無いやろツン」

「!」


 窓際にてビールを飲んでいたマッツンが口を開いた。


「あ、言うとくけど俺は一匹もエナジーアニマル殺してへんからな? スパイやスパイ。『え怪人』もおんねんて。リッサなんかめっちゃえ子やし。ツン」

「…………」

「お前の役割はなんやねんツン」

「……エナリアのサポートディ」

「せやろ? それ全力でせんかい。何の為にやるんや?」

「……ウインディアの平和の為ディ」

「せやろ。少なくとも俺もリッサもララ姫も、目的は一緒や。それだけ分かっとったら充分やないかツン」

「…………サキエ」

「ん?」


 マッツンに言われて。

 ポポディは咲枝を見た。


「この人、語尾ツンの使い方間違ってるディ」

「いや知らんがな」











「ふむ。『エナジージュードー』春風咲枝は疲労困憊の様子だな。そりゃそうか。ブラストブリングによる変身は消耗が激しい。その上であのナギ姫と戦ったんだから。しばらくは動けなさそうだね」


 どこかの高層マンション。そのベランダから、双眼鏡を構えるサイドアップの少女がひとり。

 シムラクルムだ。


「今攻めないのか?」


 部屋の中から、人間体のザイシャスが問う。


「フフン。死ぬよ。正直僕らは弱い。君達は強いけど……たったふたり。本気を出したリッサひとりに全滅させられる。それにナギ姫があっちに付いたと仮定したら、絶望的だ。そうだろ?」

「…………」


 そう言いながらも、クルムは楽しそうにしている。


「まあまあ。地道にゆっくりやっていこう。今すぐは勝てないだけさ。さて」


 やがて、満足した様子で部屋へと戻る。ザイシャスが用意したコップを手に取り、中の麦茶を飲み干した。


「ぷは。やっぱり夏は麦茶だね。さあ座って。説明しよう」

「…………」


 部屋の中は特に変哲の無い、生活感のある内装だった。間取りは2LDK。綺麗な白いクロスが特徴だ。


「さて。君達に帰還命令とか出てないの?」

「無いな。通信は途絶えている」

「フフン。なら良し。ここ最近、怪人は出してないのかな」

「ああ。どうせ狩られる。エナジーの無駄だからな。今の俺達には、これしかない」


 ザイシャスがその手に持つ、赤いブレスレットが光った。咲枝から奪ったものである。


「充分だ。……これより君達はカルマから離れて僕につくことになるけど……良いのかい?」


 このマンションは、胡夢が用意したものだ。これからの拠点用に。

 ザイシャスとグリフトが、お互いを見合った。


「俺達が裏切る、というよりはナギ様に裏切られた気分だ。支配するべき人間達とああも和やかに。……怪人の誇りが無くなったとしか思えない」

「俺も、同じだ。もうあの世界へは戻らねえ。俺達カルマが最強なんだ。人間界へそれを思い知らせねえとな」

「フフン。良いね。分かった」


 ブレスレットが。

 クルムの手に渡った。


「!」

「光が」


 途端に、輝き始める。それはきらりと紅い閃光を放出して、やがて静かに収まった。


「人間に、反応するのか?」

「いや? 僕だから反応したんだ。……さてじゃあ、今から僕らは運命共同体。同胞だよ。良いね?」


 改めて、意志を確認する。ふたりの怪人は同時に頷いた。


「あんたの能力は見せてもらった。大言壮語を吐くには充分なものだ」

「ああ。あんたが何者かは知らねえが……。協力者は欲しいな。しかも、人間界に精通してる」

「フフン。良いだろうこの部屋? ま、男ふたりと幼女である僕が一緒に住むのは少し危ないけどね。主に地域住民からの目が。そうだな。君達は『ゲイカップル』ということにしよう。僕は養子だ。良いね?」

「…………? すまんが人間界のことは知らんぞ」

「まあまあ。何か訊かれたら『俺達は交際している』『この子は養子だ』で通せば良いってこと」

「……よく分からんが、あんたが言うなら、そうしよう」

「フフン。日本人ぽい名前も考えようか。楽しくなってきたな」

「俺達で遊んでないか……?」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:本当ほんま、アニメの怪人達が現実の軍事技術見たらどう思うんやろな。腰抜かすやろ。


〈綾水〉:でしょうね。……ちょっとした超能力や魔法なんかではどうしようもない程、進んでいますもの。


〈咲枝〉:この前空石さんに教えてもろたアニメ観てんけど、火の玉撃ち出す魔法でも人死なへんねん。あれ性能的に銃の劣化よな思たわ。


〈綾水〉:まあ、仲の良いことで。


〈咲枝〉:う……。なんや恥ずいわ。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第30話『変身! 衝撃の事実!』


〈咲枝〉:今更やけど、毎回『変身!』入れる必要あるんか? アタシら変身せん回もあるやん。


〈綾水〉:基本的におふざけの多い作品なので、いちいち突っ込んでいたらきりが無いですわよ……。

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