第28話 変身! ナギランチタイム! その裏で……!?

 東京、新宿区。某高級ホテル。


 8月初旬、午後2時40分。


「少し遅いですが、まずは食事を。……こちらへ。ナギ陛下?」

「…………む」

「と、ララディ王女」

「はい。ありがとうございます八朔さん」


 怪人のボスが来日している。この情報は一部の人間しか知らないことだ。空石は三木にも連絡している。それより上は分からないが、一般隊員には知らされていない。


 クロスの敷かれたテーブルに案内され、素直に腰を降ろしたナギ。手元には、陶器の皿とナイフ、フォーク。空きのグラス。


「後ろの方は」

「護衛と世話係だ。気にするな」

「かしこまりました」


 ナギの背後に、レイジンとメイド怪人が立つ。貸し切りのホテルレストラン。床には絨毯。天井を見ればシャンデリア。部屋の角にはグランドピアノ。


「……ふむ。中々センスの良い城だ」

「ただのホテルや。一般人も使える宿泊施設。……ま、金持ちだけやけどな。アタシも初めて来たわ。空石さん太っ腹やわあ」

「勿論ウチの予算だ。しばらくお前達のジャージのグレードが下がることになる」

「はあ!?」

「というか、緊張感が無いな咲枝は……」


 テーブルに椅子は5つ。咲枝、綾水、リッサ、ララディ、ナギだ。ポポディは宙にふわふわ浮いている。


「いや、テンション上がるやんか。アタシらウインディアで、綿あめしか食うてへんねんで? なあ綾水」

「そう言えばそうですわね……。もうペコペコですわ。ここのお料理は美味しいですわよね」

「食うたことあるんかい。流石お嬢様」

「あのなあお前ら……」

「大丈夫。ブラストブリングはバッチリや。今ナギが暴れても抑えられる。せやから連れてきたんや。なあ?」


 咲枝は楽しそうに話す。綾水も首肯する。リッサは興味ないようだ。


「……好きにせよ。全てはわらわが見定める。それで良いのだろう? エナリア」

「それでえ。やけどアタシは『咲枝』や」

「…………」


 ナギは咲枝を無視した。まだ警戒しているのだ。当然といえば当然だが。

 空石は続いて、視線をリッサに向けた。


「で、君が『3人目』だな。まさか怪人だったとは」

「気にしなくて良いわ。ララの護衛だと思って」

「……ふむ。で……。ララディ王女が、ポポディの妹君……だと」

「おいらそれ知らなかったディ」

「それについては、後ほど。わたしも兄さんと話したいけれど、今はナギさんに集中させてください」


 一堂に会する。この、『エナジー戦争』の主役達が。当事者達が。……ヒロイン達が。











「お待たせいたしました」


 頼んだのは、フレンチである。人数分のオードブルが並べられる。


「ていうか今更やねんけど、怪人も人間の飯食えるんか?」

「問題ありませんよ咲枝さん。ほらナギさん。これがフォークと言います。こうやって使います」

「…………む」


 ナギの隣に座るララディが、甲斐甲斐しく教える。彼女のフォーク使いは慣れているようだった。


「ララは経験あんねんな」

「リッサと一緒に、色々勉強しましたから。ね、リッサ」

「……そうね」


 リッサも、スラリとフォークを持った。


「あー。ちょいちょい。食事前は挨拶せなアカンよ」

「あ?」

「こうや。ナギ。ほれリッサも」

「…………?」

「手を合わせて」

「はい」


「「いただきます」」











「こ、これは…………っ!!」

「美味しいでしょう? 人間界の料理は」

「…………!」


 ころころと笑うララディに、今日は驚いてばかりのナギ。


「……ていうか日本料理ちゃうのん」

「良いんだよ。こっちのが食べやすい……気がしたから」

「『異世界』を『欧風』にイメージすんのって深夜アニメの影響やろ? 空石さん」

「うっ……」

「向こうメチャクチャやったからな。まず地平線丸ないし、星型の星が浮かんでんねん。なんか綿あめ推しの村があってな……」

「その話はまた、後で聞こう」

「この後どないすんの?」

「俺の元同僚が自衛隊に連絡してくれてる。運良く演習なんかはやってないだろうが、まあ紹介程度でも良いだろう」

「基地見学か。仕事早いなあ空石さん。惚れてまうわ」

「…………お陰で休日と胃が潰れたよ」

「今度癒やしたるやん」

「……はいはい」

「風呂で」

「っ! うるさい! 俺とばかり話すなよ。ナギ陛下やララディ王女と話せお前は。エナリア代表」

「ほーい。やっぱからかい甲斐あるなあ」

「おいこれはなんだ? エナリア」

「ポワソンや。魚料理。でもこれは海老やな。魚介や。知らんか」

「……何の虫だ」

「アホ。えから食うてみい」

「…………! うっ!」

「美味いやろ?」











「…………あれが、今代のエナリアだ。大人だよ。面白いね。ねえザイシャス」

「まさか……ナギ様がエナリアと仲良く食事だと……!?」


 とあるビルの、屋上にて。風に包まれて誰にも見えない一角に。

 影が3つあった。


「君達が本国への報告を怠っている間に、エナリアはナギ姫を懐柔したようだね」


 幹部怪人ザイシャスと、グリフトだ。ふたりとも、人間の姿に擬態している。

 そしてもうひとり。


「そんな馬鹿な……!」

「フフン。確かに効果的だ。今の人類の技術水準から比べれば、カルマの技術など原始人レベル。全面戦争ならカルマに絶対に勝ち目は無い。それを分からせる作戦だね」


 女の声だった。


「で、あんたは誰なんだよ。いきなりやってきて……人間、なのか? いやだがエナジーは……」

「フフン。僕のことが気になるかい」


 続いて男の声が『それ』から発せられた。


「……男なのか女なのかも分からない。不気味だ」

「フフン! そうだねえ。一人称が『僕』だから、最初は男で行こうと思ったんだ。色々考えたんだよ」


 『それ』は楽しそうに、男女ふたつの重なった声になって笑った。


「けどねえ、今代のエナリアは大人じゃないか。『こういうの』って、ヒロインの憧れの先輩とかが基本なんだけど。奴らが大人なせいで学校に潜入とかもできないんだよね。さらに言うと、上司キャラまで既に居る。難しいよね。男キャラって。弟とかも居ないしなあ、あのふたり」

「……何の話だ?」

「フフン。君達は分からなくて良いよ。それでね、ここはやっぱり原点に帰ろうかなって」


 影が、縮んでいく。大人サイズだったそれはみるみるうちに、子供になった。


「まだ居なかったよね。『幼女』。リッサもララディ王女も、人間形態は見た目中学生だし。もっと下げよう。僕はそうだなあ。小学四年生くらいはどうかな。ねえほら」


 ザイシャスとグリフトの前に。

 ピコピコと揺れるサイドアップをして、赤のランドセルを背負う少女が立っていた。


「ありゃ。元々着てたシャツが大きくて肩出ちゃうな。ズボンもパンツも脱げちゃった。まあ良いか。刺さる層には刺さるでしょ。どうかな? ザイシャス君」

「…………」


 衣装を魅せるようにくるりと回る。その拍子でぶかぶかのシャツが捲れ、その下が見えそうになる。彼女は頬を染めてスカートを押さえた。


「おっとっと。どう? 僕はこうやって、『チラリズム』で攻めるつもりだ。『とにかく全裸』なんて下品だよねえ。そうそう。今代のエナリアは雑なんだよ。全裸してれば視聴率上がると思ってる。ねえ? グリフト君」

「…………あのな。俺達はカルマの怪人だ。人間は正直、性の対象にはできねえ。悪いが全く『ナイ』。もっとこう、鱗とか牙とか」

「おいグリフト……」


 正直に感想を述べたグリフト。彼女は溜息を吐いた。


「はーあ。つまんないなあ。『可憐さ』『強さ』『暗躍』『見た目は正統派』そして『少しの犯罪臭』。これが僕の今回のテーマだ。今決めた」

「結局あんたは何者なんだよ」


 彼女は、怪人ふたりに対して。

 否、全世界に対して。

 ビルの屋上で両手を広げて。


「フフン。僕は勿論エナリアでも無いし、怪人でも無い。エナジーアニマルでも無い。まだ誰も僕を知らない。君達にしか姿を見せてないからね」

「目的は?」

「フフン」


 幼く活発そうな少女の声で宣言した。


「僕の名はシムラクルム! クルムと呼んでくれ! 僕の目的はひとつ! これまでで分かった、こんなにも難しい、『人間界征服』を、やり遂げたい! だから君達に協力するんだ! ナギ姫はもう駄目だ! あいつはもう、追加戦士的なノリでエナリア陣営に加わるだろう! 退路のない、敵地に残された僕ら3人だけで、新しく始めようじゃないか!」

「……!」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:はぁ。久々のお食事、という気がしますわね。


〈咲枝〉:本当ほんまやで。やっぱ住む生き物がちゃうと、食うモンも変わってくるわな。アタシらは人間向けの食事が一番やわ。


〈ポポディ〉:おいらなんかは、どっちも楽しめるディよ。


〈咲枝〉:それは勝ち組や。羨ましなあ。


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第29話『変身! 蠢く闇の養子クルム!』


〈綾水〉:黒幕っぽいキャラには触れないんですのね。


〈咲枝〉:そら展開的にはアタシらまだうてへんしなあ。

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