第25話 変身! エナリア・ストームフォーム!

「ふふ……! やはりエナリア! 忍び込んでいたか」


 ナギが、両手を広げて歓喜の声を上げた。彼女の目の前には、虹色の光に包まれる、『伝説の戦士』が全裸で立っている。


 咲枝である。


「まあ、バレるわなぁ。そもそも城に入ったアタシらのミスや。で、捕まったんはポポのミス。これで帳消しできるか、賭けやな」


 この世界に、人間は咲枝と綾水のみ。最早恥じらう必要はない。静かに、変身が終わるのを待つ。

 やがて、強い光に充てられた身体の部分が布を纏っていく。キラン、と輝く音と共に腕、脚、身体……。


 咲枝はいつものエナリア衣裳をより豪華にロングにしたような、綺羅びやかなドレスを身に纏っていた。


「……美しいですわ。咲枝さん」


 綾水がそれを見て、咲枝の覚悟を理解した。

 今ここで。全ての元凶を断つつもりなのだと。


「良いぞ。ブラストブリングが活性化した。この状態で奪わねば効用は半減するという訳だ。レイジンよ。わらわはこれを目論んでいたのだ」

「…………エナリア……だと……!? 人間界に居る筈では」

「どうでも良い。そんなことはっ」


 空気が震える。まるで嵐のような激しいエナジーが、咲枝を包む。レイジンは驚きの余りその場から動けない。ナギは笑っていた。人間のような白い歯を剥き出しにして。


「わらわは! 祖父上を殺した『人間』の匂いを嗅ぎ分ける! それだけだ! ここで! お前を討って! 狼煙としようぞ! エナリア!」


 黒いエナジーが、ナギのドレスからも弾けた。


「…………絶対に動きにくいよなぁ、このドレス」

「メチャクチャ格好良いディ! サキエ! それが風の郷ウインディアの絶対守護者エナリア、最終形態! ストームフォームだディ!」

「おけ全部把握したわ。えから下がっとり、ポポ」











「そのネックレスを寄越せ! エナリア!」

「む」


 勢いよく、ナギが突撃してくる。


「(速い……けど見えるわ)」

「!」


 長く伸びた、紫色に染まった爪による攻撃。咲枝は素早く手を動かし、それを叩いて凌ぐ。


「爪長いなあアンタ。アタシを見てみい。元柔道部の爪は綺麗に切っとんねんで」

「はっ! わらわに説教だと?」


 その手は常に、咲枝の首元を目指している。だがそれは、咲枝にとってはただの『釣り手の取り合い』であり、専門の技術を持たないナギのその動きは明らかに『素人じみて』いる。


 連続攻撃を物ともせず鮮やかに捌いていく咲枝。ナギは一度距離を取るように、後ろへ飛び退いた。


「……ああそうか。ネックレスとブレスレットやもんなあ。釣り手と引き手や。理に適っとんなあ。柔道家アタシ向けの位置やわ」

「サキエ! 凄いディ!」

「(……頭が冴える。むちゃ冷静やアタシ。これもストームフォームの恩恵か?)」


 咲枝は先程から、この姿と戦闘力について確かめながら動いていた。


「……割と動きやすいわ。このヒラヒラとロンスカ、アタシの動きに合わせて邪魔せんように動いてくれよる。アタシから風が出とんのか」

「…………ちっ」


 反対に、ナギは。

 謎の、人間界の『武術』を目の当たりにして、舌打ちが出た。


「お前とて、反撃できていないではないかエナリア」

「あのな、アタシは『殴る蹴るなどの暴行』はせえへんねん。アタシは『投げる絞める』や。戦い方の違いやな」

「……? まあ、良い。出来れば綺麗な状態で奪いたかったが……多少の破損は覚悟しよう」

「む」


 ナギの右手から。

 黒いエナジーが形作った剣が現れた。


「まずはお前を殺すことにしよう。それでもブラストブリングは活性化したままの筈だ」

「……まあ、そらそうやわなあ。アンタらかて、人と同じ知能があるんや。柔道は無くても、『アンタらの文化の戦闘技術』はあるわなあ」


 剣を数度素振りし、感覚を確かめるナギ。その様は、柔道を修めた咲枝に似た『佇まい』をしていた。


「遊びは終わりだ!」

「武器を使う怪人相手は、初か。やけど、アタシは冷静やで」


 その腕に、エナジーを纏う。竜巻のように渦巻く。それはナギの剣を受け止めるに充分な強度を持っていた。


「ふん!」

「よっ」


 高濃度のエナジー同士がぶつかり合う音が弾ける。剣を持ち、速度とリーチを得たナギの攻撃を、しかしまだ余裕を持って捌いていく咲枝。


「ちっ! お前達! わらわを見ていないでもうひとりのエナリアをやれ!」

「ん」


 また距離を取り、幹部達へ命令する。レイジンを始めとした幹部が、綾水を囲んだ。


「綾水っ」

「大丈夫ですわ。咲枝さん! ウインディア・レボリューション!」


 綾水もローブごと、服を弾け飛ばす。絹のようなきめ細やかな肌を晒して、即座に戦闘衣裳へ換装。ハートマーク付きのエアガンを構えた。

 その隣に、変身解除を終えて鎧を身に纏うリッサと、マッツンが立つ。そして正規軍所属の怪人も続く。


「なっ! マッツン!? お前達!」

「すまんなレイジン。そういうことやツン」

「ツン?」


 続いて、この王座の間に、大量の怪人が入ってくる。誰ひとり逃さないつもりだ。


「咲枝さん! 思い切り、戦ってくださいませ! こちらはわたくし達にお任せを!」

「……!」


 だが、綾水は自信満々に叫んだ。受けた咲枝も、口角を上げる。


「任せとき。きっちり『一本イッポン』取ってくるわ」











「手数を増やすぞ、エナリア」

「!」


 ナギの両手から、黒剣が伸びていた。まだまだ、実力を隠している。こんなものではないのだろう。咲枝も気合を入れ直す。


「しっ!」

「おぉ!」


 剣とは、徒手と比べてリーチの面で有利な武器だ。ナギからは猛攻が飛んでくるが、咲枝から反撃を仕掛けられない。そのドレスの襟を掴みに行けないのだ。


「防戦一方ではないかエナリア!」

五月蝿うっさいわメガ盛りキャバ嬢!」

「めが……? さっきから、言っている意味が分からんぞエナリア!」

「アンタは『エナリア!』が語尾みたいになっとんで!」


 咲枝はナギの連打を捌きながら、冷静に考えていた。


 ――祖父上を殺した人間――


 ナギの言葉を、考えていたのだ。


「(そらそうや。初代が倒したんやから。倒したって言い方は、人間界特有なんかもな。正しくはこのナギの言う通り、殺したんや)」


 幹部と呼ばれる怪人は、人間と同じ知能、知性がある。ならば、それはもう広義の『人間』と変わらない。これは異種族異世界の侵略防衛ではなく、単なる国家同士の戦争だ。


「アタシらかて、沢山ようけ殺した。こいつらの仲間を。……アタシらの代はもう、こいつらと仲良うはできん訳やな。やけど、人間には今んとこ、被害はあらへんのや。怪我人はおっても誰も死んどらん。ポイントはそこやな。一応まだ、『ウインディアとカルマの戦争』で、アタシら『エナリア』が加担しとるだけ、や。人間界はまだ巻き込んでへん」

「何をぶつぶつ言っている!」


 人間界に侵攻はしている。だが、まだ人的被害が無い。その事実は、『割とどうとでもできる』問題だ。警察の水際対策と、何よりエナリアの貢献が大きいことは言うまでもない。


「けど、このキャバ嬢の『恨み』はウインディアやなくて、人間に向いてるんやな」

「!」


 埒が明かない。三度、距離を取った。お互いに息も切れていない。


「……エナリアが人間やったから。『人間全部』を恨んどる訳や」

「…………これが『エナリア』。最強の怪人だった祖父上を、小手先の技抜きの純粋なパワーで上回った伝説の戦士……」


 危険だと、思った。咲枝は、このままナギを通して、『人間全体』を巻き込むことを危惧した。

 地球に居る80億人で。『この戦い』を知っている者など200人も居ない。当事者で言うなら、たった数人。エナリアだけだ。


「巻き込んだのはウインディアやけど。責められへんよなあ。自国が攻め込まれて死にそうなったら、なりふり構わず助け求めるやろ普通。ほいでまた、引き受けた初代が『え子』やったやろうしなあ」

「……何……?」


 ナギを見る咲枝の目が。

 変わる。


「『敵』は『絶対悪』で。『ただ殺戮して勝利して』『それで一件落着オールハッピー』『はいエンディングいきまーす』。……そんなモンは、アニメの世界だけやねんなあ」

「……お前! 貴様! なんだその『目』は!? まるで……!」


 咲枝は平和と呼ばれる時代に生まれて育った日本人だ。戦争は学校で習ったことくらいしか知らない。


「なあナギ。少しちょお、話しよか」

「……!?」


 それは、ふたりの力が目に見えて拮抗したからこそ、できた提案だった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:美しいですわ、咲枝さん……はぁ。うっとり。


〈咲枝〉:アンタ、段々隠さんくなってきたな……。


〈綾水〉:……こほん。それで、怪人のボスはどうなんですの?


〈咲枝〉:うーん。強いのは強いねんけど……。多分本気やないでこれ。


〈綾水〉:えっ。そうなんですの?


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第26話『変身! 奇跡の会談!』


〈咲枝〉:まあまずは『話し合い』やろ。大人のやり方、見せたるわ。


〈綾水〉:格好良いですわっ!

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