第26話 変身! 奇跡の会談!

「私達『無風の罪人カルマ』はね。とっても弱き種族なのよ」


 母親に抱かれて、風を浴びていた午後。丘の上で、大きな樹に寄りかかって座る母親と。その膝の上に、幼い頃のナギ。母親は現在咲枝と対峙する、成長したナギと瓜二つの姿をしていた。


「ナギ。ナギ。愛しいナギ。あなたは知らなければならぬのよ。この世界のことを。エナジーのことを。種族のことを。あなたの祖父上のことを」


 風を浴びると、力が湧いてくる。元気になる。逆に、風を浴びなければいずれ動けなくなり、死んでしまう。

 それが、罪と呼ばれる生態。


「エナジー。この世界の生命の根源。多くの種族は、食事を摂ることで自らエナジーを生み出して活動できるもの。しかし私達の種族は、それができない。他者からエナジーを貰わないと生きていけない、弱き種族なのよ」

「…………でもははうえ。ちちうえは一番強いって」

「そうよ。エナジーを生み出すことこそできぬけれど。エナジーさえあれば、どの種族よりも効率的に活用して、一番強き戦士になれる。それが私達カルマ。昔から、『他種族の国に入れてもらい、エナジーを貰う対価に力仕事や国の守護をする』ことで、永らえてきた」

「なるほど」


 水流のような髪が揺れる。母親とナギは全く同じ髪色をしていた。


「どうして、そんな種族が生まれたのか。すぐに死んでしまう。他種族との契約など、生まれた時からできる訳は無し。生物として、あまりにも未完成なデザイン」

「……どうして?」


 母親は丘の上から、街を見下ろす。狩りを終えたであろうカルマの戦士団が戻って来ていた。その中には王……ナギの父親も居る。


「『その根源』を求めて、初代王、あなたの祖父上は人間界へ向かったのよ」

「にんげん。見たことある。弱そうだった」

「そう。祖父上による侵攻の際に捕えた人間を、私達は絶やさない様に、またエナジーを補給する用に育ててきた。人間は弱き種族。爪も牙も甲殻も無い。けれど結果は……祖父上は負けた。軍団ごと滅ぼされた」

「どうして?」

「人間は、変身能力を持つ者が居るのよ。それがエナリア。祖父上より強かった。圧倒的に。理不尽な程。だから負けたのよ」

「わらわは……」

「ん?」











 わらわは。

 風を受けると、元気になる。わくわくする。人間界はどんな世界なのか。行ってみたい。冒険したい。

 人間界にも風はあるけれど、エナジーは無い。だから、エナジーを生み出すものが必要だった。エナジークリスタルが。

 文句を言ってくる奴らは全部倒して。


 冒険に出掛けよう。祖父上の見たかった景色を。知りたかった知識を。求めた風を。


 ナギ。ナギ。

 愛しいナギ。











「――ナギ」

「!」

少しちょお、話しよか」


 時は現代に戻る。目の前には、ブラストブリングの力でストームフォームとなった3代目エナリア、春風咲枝。

 だが彼女は戦う構えを解いて、手を広げた。


「なんだと貴様……!」

「アタシ、あんたらのこと何にも知らんねん。あんたもアタシのこと良くよう知らんやろ?」

「…………! 必要無い! 人間と話すことなど!」

「ララ」

「はい」

「!?」


 ガキン、とリッサが幹部との鍔迫り合いを制した所で。咲枝が呼んだ。


 ララディが、彼女の鎧の奥からふわりと浮かんで登場した。

 一時、戦いが止む。怪人達も知っているのだ。王女の姿を。


「は……!? ラ……っ」


 何よりポポディが。

 それを見て、目を飛び出させた。


「この姿では、いけませんね。舐められてしまいます」

「!」


 ポン、と。

 ララディはこの場の全員が注目する中。コミカルな音と共に、風がビュウと吹いて。ララディを包み込んだと思えば、次の瞬間には。


「初めまして。3代目カルマ首領、ナギさん。わたしはウインディア第19,863代国王アウィウィが第一王女、ララディと申します」

「(歴史ありすぎやろなんやその数字インフレ小学生か)」


 薄いピンク色のロリータドレスを着た、中学生くらいの少女に変身していた。髪も、変身前の体毛と同じピンク色だ。正に、絵に描いた『少女アニメの王女様』が現れたのだ。


「……王女……だと……」

「ララあんた、人間に変身できたんや」

「はい。エナジーによって変身するのはエナリアもカルマも同じ。わたし達エナジーアニマルも、訓練すればこのように」

「変身やのに全裸にならんやん」

「や、これは、王家に伝わる早着替え術です。本当は、一度裸になるんですよ」

「…………本当ほんまかいな」


 幼さの残る顔立ちながらも凛と佇み、敵国のボスを見据えるララディ。


「ララ! どうしてお前がここに!」


 ナギがまだ固まっている。ポポディがまず、叫んだ。


「……ポポ兄さん。お久しぶりです。ごめんなさい。こんな形の再会で」

「(ポポ兄さんて呼ばれてるんや)」


 ララディはポポディを見て、申し訳無さそうに俯いた。


「それに王女って……おいらそんなの知らないディよ!」

「ごめんなさい。わたし達、本当の兄妹じゃないの。……少し、待っていてください。――詳しい話は、後で」

「ディっ」


 強い視線で、ポポディを制したララディ。そのまま、きり、とナギへ向かう。


「図らずも、咲枝さんが用意してくださった、『この場』。活用しなければ何が王女ですか。……ナギさん、お座りください。どうぞ」

「!」


 ポン、と。

 例の『収納』だろうか、ララディが手をやると綺麗に磨かれた鏡のような白い円形テーブルと豪華な装飾の施された椅子が3つ、風と共に現れた。


「皆様、ここは剣を降ろしてください。わたし達の会談が終わった後で、それでも殺し合いたいのなら、その時に」


 強い視線だった。鈴なりのような凛とした声は、部屋中に心地よく響き渡る。全員が、彼女の言う通りにした。


「…………怪人の甲殻の裏に潜んでいた? 何故吸収されていない」

「わたしとリッサは一心同体。既にエナジーを共有しています」

「!」


 怪人が触れると、エナジーアニマルは死亡する。そう言えばと、咲枝も思い出した。なのに、ララディはリッサとずっと一緒に居た。それが意味することはつまり。


「……怪人に……命を捧げたディか……!」


 ポポディが、答えを告げた。


「目的の為です兄さん。兄さんだって、いつか咲枝さんや綾水さんが危なくなったら『そうする』覚悟はあるでしょう?」

「…………!」

「大丈夫。わたしはリッサのお陰で、こうして存在している。それにリッサのこと、大好きだから。心配ないよ、兄さん」


 テーブルに着いた。コトリと、ティーセットを取り出した。


「さあどうぞ」

「…………」


 王として。代表として。

 こんなことをされればナギとて従うしか無い。無言のまま、ララディの向かいに座った。


 椅子はあとひとつ。


「咲枝さん」

「え、アタシ?」


 呼ばれた咲枝はびっくりする。


「人間界代表、ということで。現役エナリアです。資格は充分ですよ」

「……空石さん呼んだ方が良さそうやけどなあ」


 この。

 『会談』の場を作ることが、ララディの目的だった。リッサも咲枝も乗った。そして、ポポディのお陰でそれは成就された。











本当ほんまにアタシでええの?」

「勿論ですわ。お姉様」

「それやめえ。了解や。お嬢様」

「まあ咲枝さんたら」

「…………綾水には敵わないかなんなあ」


 咲枝も。ナギと話したいと思った。解決できるかもしれないと思ったのだ。怪人が、攻めてくる理由を知れば。もしかしたら、もうこれ以上死者を出さなくても良いかもしれない。


「さて。まずは」

「待て」

「!」


 ララディが指揮を取ったが、ナギが遮った。今、この場は誰が支配しているでもないが。

 状況的には、カルマが有利である。


「……『善悪』『賞罰』『好き嫌い』の話なら乗らんぞ。わらわは『人間』でも『エナジーアニマル』でもない。それをよく心得よ」


 酷いことはしないで――

 皆が困ってる――

 それは悪いこと――


 ――『無意味な戯言』を聞いている暇は、ナギには無い。それを宣言したのだ。


「分かっています。わたしの関心は、どうすればあなた達をここから追い出せるか。二度と侵略してこないようにするにはどうすれば良いか。ひとまずはそれだけです」

「……彼我の力は明らかだ。わらわ達に『言うことを聞いていただく』には、『何』が必要か分かっておろうな」


 言って聞く相手なら、こんなことにはなっていない。だから戦っているのだ。相手を従えさせる『力』が無くては、『そもそも話にすらならない』。

 対話によって争いが終わる時は、大概の場合『対話の外で対話以外の力が働いている』のだ。


「分かっています。ご心配なさらずとも、『利害』の話ですよ。ナギさん」


 ララディは。

 分かっている。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:ララまで変身したで。しかもナチュラルに全裸スキップや。ずるない?


〈綾水〉:ずるいですわね。変身したら全裸、がこの作品のコンセプトなのでは?


〈ララディ〉:すみません、王族的に全裸はちょっと……。


〈咲枝〉:誰への配慮やねん。


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第27話『変身! ナギ、まさかの人間界へ!?』


〈咲枝〉:これ、ナギラスボスちゃうなあ?


〈綾水〉:なんとなく、そんな感じしますわよね……。

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