第24話 変身! 怪人のボス、その名はナギ!
怪人も、一枚岩ではない。リッサやマッツンのように、ウインディアの味方になる怪人も居る。
ならば、呼び分ける為に新たな名称が必要だ。彼ら怪人は、いくつかの国を持っている。
初代エナリアが戦った怪人組織。
『カルマ』。
今回の侵略者も、同じ組織である。当時のボスは初代に倒されたが、約半世紀の時を経て、その後継者が現れたのだ。それを機に、再び攻めて来たと言える。
「――ボス。新幹部候補を連れてきましたツン」
「ツン?」
本来ならば。この城の持ち主であるウインディア国王アウィウィが鎮座する筈の王座に。
その人物が頬杖を突いて座っていた。
「(あれが『カルマ』現ボスの、ナギよ)」
「!」
リッサが、小声で咲枝達に伝える。咲枝と綾水は、ごくりと喉を鳴らした。
その雰囲気。佇まい。迸る、エナジー。ザイシャスとは比べ物にならない程のプレッシャー。
「……そうか。歓迎するぞ」
氷。第一印象はそれだった。冷ややかな目付きだ。水色の髪は丁寧に頭上で盛って編み込まれ、そこから王座を覆うほど伸びており、しかし不思議と無重力状態かのようにふわふわ対空している。その上に黄金のティアラ。
表情の無い顔であるが、彫刻のように整っている。まつ毛は驚くほど長く、文化の違いかアイライナーがあり得ないほど長くくっきり引かれている。またやや、耳が尖っているのが特徴的で、人間とは異なる生き物なのだと分かる深緑色の肌。
立ち上がった。真っ白のドレス。胸元はぽっかり空いている。くびれが強調されるようにきゅっと締まっており、その分放出するようにスカートは中世ヨーロッパの貴族衣装のように膨らんでいる。
王座の周りに、メスの怪人が数人侍っていた。
「わらわが、3代目『カルマ』ボス。ナギ・テンペスターである」
「キャバ嬢やん」
「きゃば……?」
「あっ」
つい。ポロッと言ってしまった咲枝。
「(咲枝さんっ)」
「(いやすまん。いや、無理やろあれ。いつの時代のキャバ嬢やねんオバケみたいな化粧しおって。いやあのまつ毛地毛なんか?)」
「(咲枝さんっ!)」
失言に、ナギは気にせずひと睨みしただけで無視した。
「……さて。我ら『カルマ』の目的は知っておるな。マッツン」
「はい。この世界のエナジーの独占。それを用いて軍備拡大。後に、人間界へ侵攻。最終的に、2世界を支配することでツン」
「ツン? ……違うな、マッツン」
「え?」
「それは手段だ。侵攻も侵略も支配も。わらわは『その先』を見据えておる」
「……その先、とは」
「…………」
マッツンの質問には答えず、ナギはまた王座に座り直した。
「まあ、今はとにかく『エナジーが大量に必要』というのだけは確定しておる。分かっておろう?」
「はい」
「この城には最強のエナジークリスタル『ブラストブリング』が保管されておる筈。今日までそれを、探しておった」
「はい」
「宝物殿の場所自体は分かりやすい。だが、鍵が見付からなかった。宝物殿ごと吹き飛ばそうにも、中のクリスタル達を傷付ける訳にも行かぬ。つまりは王族のみが知る鍵の在処を突き止めるために、逃げた国王アウィウィの捜索をお前達に任せていた訳だ」
「はい」
「今日まで見付けられておらぬな。無能共よ」
「……申し訳ございません」
「ふふふ……。良い。ちょうどわらわがな。先程このようなモノを見付けたのだ」
「!」
ナギが。それを侍女怪人に持ってこさせた。鳥籠だった。その中には。
「ポッ……!」
思わず。口を抑えた咲枝。
「この! ここから出すディ! 怪人ども!」
ポポディが、鳥籠の中に囚われていたのだ。
その手には、虹色の輝きを放つネックレスがある。
「ナギ様、それは」
「このようなエナジーアニマルが城に忍び込んでおったのだろう。警備はどうなっている」
「も、申し訳」
「良い。……見ろ。こやつが持っているのは正しく『ブラストブリング』のネックレス。こやつは鍵を持っていたのだ。大方、例のエナリアにでも渡すつもりだったのであろう」
カラカラと鳥籠を揺らすナギ。ポポディはネックレスを大事に抱えたまま、コロコロ転がる。
「ディっ! これは絶対渡さないディ!」
「……と、言う訳だ」
楽しそうに鳥籠を突くナギ。
「では、すぐにでも人間界へ侵攻を?」
「いや。その前に……マッツンよ。新人の紹介をしてくれねばな」
「……はっ」
ジロリと、咲枝達を見た。それだけで、迫力が伝わってくる。
間違いなく、人間界異世界合わせた全土で、『個人としての武力最強』。そんな雰囲気を纏っている。
「ほら挨拶や。……変なこと言うなよツン」
「お前の語尾が変や」
最初に咲枝が前へ出る。
「サキエです」
「ほう。サキエ。ヒノモトのような名をしているな」
「……そない言われても」
「まあ良い。お前は?」
このローブは優秀である。上手く怪人になりすますことができているのだ。怪人のボスをも騙すことが。
「アヤミと申しますわ」
「ほう。良いメスだ」
「…………」
綾水はその発言に引いた。
「お前は?」
「……リースス・レーニス」
その後、全員が名乗る。ナギはその様子を楽しそうに見ていた。
♡
「ふむ。ふむ。皆、中々のエナジーだな。それでいて、変身能力持ちか。そんな素材がまだ居たとは。歓迎しよう。お前達は今日から『カルマ』の幹部だ」
嬉しそうにこくこくと頷くナギ。鳥籠を突くのもリズミカルになっている。
「それで、だ。ブラストブリングは欲しいのだが、こやつが離してくれぬ状況である」
「はぁ……。奪えば良いのでは」
旧幹部のひとりがそう提言する。何を遊んでいるのかと。わざわざ鳥籠に捕まえてまで、と。我がボスながら、その真意は分からぬと言った風に。
「何を言うレイジンよ。わらわ達カルマの怪人がエナジーアニマルに触れてしまうと死んでしまうではないか」
「……はぁ。それが……?」
困惑する幹部レイジン。事実、怪人はエナジーアニマルに触れるとそのエナジーを吸収してしまい、エナジーアニマルはエナジーが枯渇して餓死するように死ぬ。だから、天敵なのだ。だから正面から戦えず、人間界に助けを求めてきたのだ。今回もそうだ。いともたやすく、ウインディアを支配できた。抵抗する手段が、エナジーアニマルに無かったからだ。
だが。
だからどうしたのだ。レイジンは思う。死ぬとしても関係ない。興味も無い。殺して奪えば良いだけだ、と。
「馬鹿か。レイジン。こんなに可愛い生き物を殺せる訳が無かろう」
「!」
ナギが。
怪人のボスが。ウインディアを攻め滅ぼし、人間界を掌握しようとする組織の親玉が。
その口から出るなど夢にも思わなかった言葉が出た。
「……ナギ様……? 意味が、分かりません。我々は貴女様の命令で、何百というエナジーアニマルを殺しています。昨日も今日も。我々の力の源は、エナジーなのですから」
「その通り、カルマの怪人は『風のエナジー』を補給しなければ生きてゆけぬ『
「はい。ですから……」
「レイジン。お前は駄目だな。わらわのことをちっとも理解しておらん」
「え……」
「そうだな。……サキエ」
「ん」
ナギが咲枝を呼んだ。半歩、前に出ていたからだ。無意識だろうが、彼女はポポディをずっと凝視している。
「このエナジーアニマルからブラストブリングを奪え。最初の命令だ」
「…………了解や」
鳥籠の目の前、ナギのすぐ隣までやってくる。全員の視線を浴びる。咲枝の表情は、やや固まっている。
だが。
「…………」
何かを決意した瞳を、ポポディへ向けた。
「……サキエ」
小声で。ポポディにも。伝わった。
「ポポ。予定外やけど。今、ここで。やらなアカンの
「分かってるディ。でもきっと」
「罠、やろ? 分かっとるで」
「…………サキエに、任せるディ」
ブラストブリングは、ウインディアの至宝。超強力なエナジーを秘めているが、その覚醒には。
エナジーアニマルが必須なのだ。つまり怪人が無理矢理奪った所で、真の力は得られない。
「専用の掛け声があるディ」
「…………おう」
ネックレスが。その輝きを強くした。ふたりは、その光の奔流に飲み込まれていく。
「こ、これは……っ!」
レイジンが驚きの声を上げる。ナギは――
にやりと笑った。
「……アトモスフィア・レボリューション!」
瞬間。
ぴたりと虹色の光は消え。
咲枝の服が全て、纏うローブごと塵となって弾け飛んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:いやぁー。惜しい。惜しいなあ。
〈綾水〉:何がですの?
〈咲枝〉:最後の一文。あれさえ無ければ良かってんけどなあ。
〈綾水〉:ああ……。例によって、咲枝さんの服は弾け飛びましたわね……。
〈咲枝〉:ま、言うても久々の変身や。皆待っとったん
〈綾水〉:咲枝さんは巨乳ですものねっ。
〈咲枝〉:いやそういうこと
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第25話『変身! エナリア・ストームフォーム!』
〈咲枝〉:アタシ主人公やねんで? 実は。
〈綾水〉:勿論存じておりますわ。巨乳の主人公ですわねっ。
〈咲枝〉:もう
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