第19話 変身! 3人目との邂逅!

「じゃ、行ってくるディ。サキエ達はどっか隠れてると良いディよ」


 城の裏手から、ポポディが侵入する。ちょうどエナジーアニマル1匹分が入れる排気口があった。


「……頼むでポポ。無茶したらアカンよ」

「任せるディ」

「ポポさん、無理しないで、難しそうなら一度戻ってきてくださいね」

「任せるディ」

「『マカセルディ』って名前みたいになっとんで」


 咲枝がまた変身できるようになるのか。地球とウインディアの運命は、ポポディに託された。


「わたくし達は、どうしますの?」

「待つしかないねんけど、どないしょかな」


 城の周りをウロチョロしていては怪しい。ポポディを見送った後、ふたりは城の敷地から出ようと出口へ向かう。


「……ひとりで大丈夫かいな本当ほんま

「ふふ。なんだかんだ、ポポさんを心配しているのですわね」

「まあそら。いうても随分一緒におるしなあ。アホな弟みたいなもんやな」

「良いですわね。そんな関係」

「綾水も可愛らしいかいらし妹みたいなもんやで」

「嬉しいですわお姉さまっ」


 その途中で。ふと、通りすがる怪人に目を向けた綾水。


「……あら?」

「ん? どないしたん」

「咲枝さん、あれ」

「?」


 綾水が指を差して示す。その先に、咲枝も見覚えのある甲殻があった。


 鎧のような甲殻に、低い背丈。鎧の間から覗く肌は、人間の女の物だった。


「……『3人目』ちゃうん!? あれ!」

「やっぱりそうですわよね!」


 兜の隙間から、金髪も見える。間違いない。幹部ザイシャスから咲枝達を救った、3人目のエナリアの少女だ。彼女は城へ入っていく。正面玄関から。


「幹部の召集、やろ。本当ほんまもんの」

「でも、あの時は助けて貰いましたわ。あちらも潜入なのでは」

「…………!」


 咲枝が変身できない今、3人目との接触は是が非でもしたい状況だ。まだ殆ど何も分かっていない。会話もできていない。彼女が仲間として一緒に行動できるようになれば、戦いはうんと楽になる。


「作戦変更や。行くで」

「でも、危険ですわよ」

「いや、そもそもポポが上手く行けばええねん。こいつら蹴散らせるほど強い変身になるんやろ?」

「…………『ブラストブリング』」

「アタシはポポを信じるで」


 これはチャンスだ。咲枝はそう考えた。ポポディの近くに待機することも、リスクが高いとは言えメリットもある。


「わたくしも行きます。何かあったら、わたくしが咲枝さんを守りますから」

「……かっこよすぎて惚れるやんか」


 ふたりは踵を返し、3人目を追って城の中へ入っていった。











「あー。良くよう来たな。幹部のマッツンや」


 正面入口から入って真っ直ぐ進むと、大広間に出た。ぬいぐるみサイズではなく、体育館ほどもある広さだった。天井も高い。

 その中心に舞台があり、怪人がひとりマイクを持っていた。


「あれが『ヤネン地方の幹部マッツン様』か」

「よく覚えてますわね。……一応、わたくし達を呼んだ設定で行くのですわね」

「ていうかマイクとかあるんやな」


 集まっている怪人は30人ほどだった。その内のひとりが、あの金髪の少女である。


「あー。お前らは全土から集められた、『割りとエナジーあるほう』の怪人や。これからの戦いで、お前らが必要になる。打倒エナリアや。えか?」


 マッツンが説明をする。事情を知っているふたりは頷くが、他の怪人達はぽかんとしていた。


「ほいでな、こっから4〜5人くらいまで絞るねんて。ほな始め」

「…………」

「…………」


 唐突に。マッツンがマイクを切った。

 しばらく沈黙が流れる。


「…………?」

「……えっ。始め?」

「どないしてん。はよ殺し合えよ」

「は?」


 動揺が流れる。


「やから、生き残った4〜5人くらいが合格や。はよ殺し合えって」

「…………!?」


 どうやら、このマッツンという怪人は先程聞いた通り適当な性格であるようだ。


「アホか。怪人てアホなん? わざわざ『割りとエナジーあるほう』の怪人集めてさらに数減らさせるって。アホやん」

「というか危ないですわ! わたくしはともかく咲枝さんは変身ができないのに!」


 視界の端で、土煙が見えた。もう、暴れ始めた怪人がいるようだ。


「ふん! なら一番殺しやすいのは『メス』だぜぇ!」

「!」


 一際、体躯の大きな怪人が居た。ヒグマかと思うほどだ。それが、咲枝達に向かって突進してきた。


「……っ! 綾水!」

「お任せを! ウインディア・レボリューショ――!」


 即座に変身しようと、ブレスレットを構える綾水。

 だが。


「待った。変身する必要は無いわ」

「えっ」


 黒い影が、脇を通り抜けて怪人の方へ向かっていった。女の子の声がそこから聞こえたのだ。


「エナジーブレード!」

「!? ぎゃああああっ!!」


 一刀両断。

 甲殻の鎧を着た少女が、ヒグマ怪人を袈裟斬りにした。


「おっ……。3人目!」


 咲枝が驚いた声を上げる。少女は振り向いて、ふたりを睨み付けた。


「……エナリアの変身エナジーで怪人に気付かれたら駄目。ていうか、どうしてここに居るのよバカ」


 彼女は返り血を浴びた鎧の変身を解いて、全裸になった。


「あんたこそ、なんでここに居るんや? エナリアちゃうの」

「違うわ。……もう、隠しても仕方無いから言っちゃうけど、私はリースス・レーニス。怪人よ」

「!」


 あちこちで戦いが始まっている。ふたりは周囲を警戒しながら、全裸の少女に質問する。


「いや怪人て……。どうみても人間やん。JCやん」

「…………はぁ」


 少女はやれやれと諦めたように肩を竦めた。


「私は『人間の見た目に変身できる』怪人なだけ。それに、こいつらとは別の種族。だから今が変身中。人間の世界では目立たないように変身して、戦いの時は変身を解いているの。分かった?」

「……本当ほんまかいな。怪人ぽい変身やったしなあ」

「全裸を気にしないのも怪人ぽいですわね……」

「で、なんでエナリアのあんた達がここに居るのよ」


 少女は怪人だった。あの、甲殻の鎧を身に纏った姿こそが『正体』だったのだ。少女の姿は仮初の姿。それを差し置いても、『メスの怪人』を初めて見たことになる。


「ああ、今ポポ……こっちのエナジーアニマルが城に潜入しとんねん。ほらアタシ、ブレスレット取られたやん? その補充に来てん」

「……はぁ!?」


 説明すると、少女は声を上げた。


「バカじゃないの!? ここは怪人の親玉の居る、一番危険な場所よ!? それを、変身できない状態で来たの!?」

「やけどそれが一番確率高いんや。アタシはポポを信じとる」

「…………!」


 そして絶句。確かに、飢えたライオンの群れに生肉を放り込むようなものだ。


「それで、えーと、リリース……」

「……リッサで良いわ」

「リッサ。あんたは?」

「…………」

「こないだもそうやし、怪人や言うてもアタシらの味方やんな?」

「……私は」


 訊かれて、リッサは答えを詰まらせた。


「……味方とは言い切れないわね。私達はウインディアと戦いに来たから」

「は?」










「隙あり!」

「!」


 会話の途中で。怪人が襲ってきた。今、ここは戦場だ。怪人同士のバトルロイヤル。


「変身!」


 ひらりと凶悪な爪を回避したリッサが、再び鎧を纏う。『変身』と叫んでいるが、正確には変身を『解除』して本来の姿へ。


「エナジーブレード!」

「ぐおお!」


 振り回すエナジーの剣は怪人の爪も腕もバターのように斬り裂いて、またしても両断された。


「おい、どういうことやねん。ウインディアと戦うて。リッサ!」

「……今、説明してる暇は無いわ」

「!」


 言っている間に。

 3人は怪人達に囲まれてしまった。


「ぎひひ……。メスだなぁ」

「ぎゃひへへ……。じゅる」


 その数、10体ほど。涎を垂らしながら近付いてくる怪人も居る。


「さ、咲枝さん……」


 綾水が震えながら咲枝の後ろに隠れる。リッサが剣を構えるが。


「……守りきれそうにないわよ」

「…………そもそも守ってもらわんでもえよリッサちゃん。なあ綾水」

「えっ。でも、変身するとバレるんじゃ」

「いや。今近くにる幹部はマッツン様だけや。こいつら全部殺したら大丈夫やろ」

「えっ」


 迷っている暇は無い。咲枝は一歩、前へ出た。


「行くで綾水ぃ!」

「はっはい!」


 勢いに任せて。


「ウインディア・レボリューション!!」


 叫んだ。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈綾水〉:ててて、敵の本拠地ですわよ! 咲枝さん!


〈咲枝〉:えねん! こんなん勢いや! いってもうたれええ!


〈ポポディ〉:え、なにやってるディ……?


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第20話『変身! 風の国の王女様!? 前編!』


〈咲枝〉:行けえええええ!


〈ポポディ〉:過去一番適当な次回予告ディ。

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