第20話 変身! 風の国の王女様!? 前編!

「げぎゃ――!」

「一斉に来るでぇ! 撃てぇ!」

「!」


 ここに集められたのは、選りすぐりの『つよ怪人』。つまり幹部候補だ。咲枝には倒す術が無い。

 だが、『戦う』ことはできる。攻撃を捌き、転ばせることくらいまではできる。


「よいしょぉっ! ほいリッサ!」

「……!」


 動きを封じてしまえば、リッサが斬れる。綾水が撃てる。咲枝のアシスト主体の立ち回りで、次々に撃破していく。


「なんだこいつ! ぎがゃ」

五月蝿うっさい! 現実にはダイジェストとか無いねん! 雑魚の癖に時間かけさせんなや!」

「ぐっはぁっ!」


 所詮は、怪人。いくら強かろうが、結局は力任せの突撃しかできない。そんな怪人には、彼女達は負けない。


 ものの数分で、殆どを倒してしまった。


「よっしゃ! アタシら連携完璧やん! 綾水! リッサ!」

「咲枝さんのお陰ですわっ」

「…………ふん」


 残ったのは、6人。咲枝、綾水、リッサと、もう3体。その1体が、こちらを見ていた。全身を覆うマントで佇む怪人だった。


「こんなもんちゃうの? あんたもやるか?」

「ちょっ。咲枝さん……!?」


 マント怪人に声を掛ける咲枝。だがマント怪人はそれを無視した。


「あ? なんやこら無視しとんちゃうぞハゲこら」

「ちょちょちょ。咲枝さん! 無駄に戦う必要はないですわよっ」

「その通りよ。私みたいに、『特殊能力』を持つ怪人だって居るんだから。迂闊に煽っちゃ駄目」

「……すまん。了解や」


 幹部マッツンの言う通り、数人になるまでバトルロイヤルをした。もう充分だろう。マッツンの居た方向を見る。


「…………ぐぅ」


 マッツンは壁に持たれながら鼻提灯をぷくりと膨らませた。


「寝とんのかい!」











「んあ? おっふ。……おぉ。おっけおっけ。終わったか? よし。合格やお前ら。よし」


 パチンと鼻提灯が割れると、マッツンがゆっくり目を開ける。部屋を見回して、うんうんと頷いた。


「何がよしやねん。適当か本当ほんま

「ていうか殺し合いしている側で寝ていられるのが凄いですわね……」


 戦闘は終わった。綾水は変身を解いて全裸になったが、ローブのお陰でその裸体を晒さずに済んでいる。

 リッサは当然のように全裸に戻った。


「アタシのローブ貸したろか?」

「必要は無いわ。服を着る怪人は居ないもの」

「……カルチャーショックって奴やな」

「人間界では着るわよ。目立ちたくないもの」

「羞恥心て知っとる?」


 首から上にしか毛の生えていない綺麗なたまご肌を晒した全裸のまま、腕を組んで仁王立ちのリッサ。見てるこっちが恥ずかしくなる光景だが、彼女が怪人というのなら、人間の価値観を押し付けて良い訳でもない。咲枝はそれ以上言わなかった。


「おっしゃ。ほな作戦説明しよか。リッサ」

「ええ」

「は?」


 マッツンが、リッサの名を呼んだ。リッサもそれを受けて返し、前へ出る。


「まあ、エナリア達がここへ来たのは想定外だったけど。作戦に支障は無いわね」

「は? なんの話や?」


 咲枝が疑問を口にする。


「……彼女達にも話して良いのね? マッツン」

「おお。まあえやろ。今は」


 マッツンの隣までやってきて、振り返るリッサ。


「私達は『ウインディア正規軍』よ」


 そして、毅然と言った。











「むむ……ディっ」


 スポン、と擬音がする。ダクトを通って、ポポディが城の内部を這うように進む。


「思い出すディなあ。よくこうしてお城を探検していたディ。……あの時は怒られたディが、今こうして経験が役立ってるディ。人生何が起こるか分からんディねえ」


 たまに給気口を見付けては覗き、位置と怪人の様子を確認する。順調なようだ。ルンルンと鼻歌が聴こえる。


「サキエ達を強化するブラストブリングは宝物殿にあるディ。綺麗なガラスの床と半透明な壁のある不思議やお部屋ディ。そこには、歴代エナリアを象った宝石の像もあるんディよ」


 誰に向けて言っているのか、独り言で説明を始めるポポディ。


「おいらも好奇心で忍び込んだ以外は1度しか入ったことないディ。神聖な空間ディ。厳重な警備と頑強な扉、そして王族しか知らない鍵の保管場所。怪人がいくらお城を乗っ取っても決して悪用されはしないディ。怪人達がブラストブリングを使って人間界へ攻めて来てないのが証拠ディ。……おいらは昔のイタズラで、鍵も知ってるディけど」


 もぞもぞ、ぺらぺらと進む。


「よし。この部屋に鍵があるディ――って」


 そこは、寝室だった。天蓋付きのベッドがある豪華な内装だ。怪人からすればミニチュアサイズの部屋な為、詳しく調べられてない。だが扉は開けられ、廊下が丸見えだった。ポポディは天井から顔を覗かせて、危うく見付かる所で頭を引っ込めた。


「ん? 今なんか……」

「やばいディ。えっと。……にゃぁー」

「なんだネズミか」

「(馬鹿ディこいつ)」


 咄嗟のひらめきにより九死に一生を得たポポディ。ほっと胸を撫で下ろす。


「……鍵は、王様のベッドの下ディ。隠し物なんかそこに決まってるディ。けど……。どうやって見付からずに取りに行くディか……」

「ん? なんだ?」

「!」


 が、それも束の間。怪人が王の寝室を覗き込んで来た。


「(やばいディ! 鍵が見付かるディ!)」


 小さい扉であるためしゃがみこまなければならないが、怪人はなんとか腕を伸ばして侵入してくる。


「なんかベッド? の下に見えたぞ……?」

「(やばいディ〜っ!)」


 ごそごそと漁って。


「よっと。なんだこれ」

「(!?)」


 取り出したのは。


「……本、か?」


 エナジーアニマルサイズの小さな本だった。絵が見える。エナジーアニマルの姿が。


 恐らくメスであろう色とまつ毛のエナジーアニマルが、妙なポーズを取っている絵。


「…………エナジーアニマル、の……エロ本……?」


 ページを捲る。メスのエナジーアニマル。


「……こいつら、こんなんでお前……いや待てよ……」

「(何だか分からないけど、チャンスディ! この隙に鍵を……!)」


 何故かページを捲る手が止まらない怪人の目を盗み、ポポディがふわりと降り立つ。

 そろりそろりとベッドを漁り、そしてまたふわふわと浮かんで天井へ。


「やったディ! 宝物殿の鍵を入手したディ〜!」


 順調である。ポポディはそのまま、ダクトを通って宝物殿へと進む。










「……なんやて?」


 大広間にて。


「ウインディア……正規軍?」

「あれ、ウインディアって、軍隊は無かったのではありませんか? ポポさんがそう仰っていたような」


 幹部マッツンの隣に立つ全裸の少女怪人、リースス・レーニス……通称リッサ。彼女の言葉に、疑問符を浮かべる咲枝と綾水。


「せやんな。やからアタシら人間に助けを求めるんやったやろ?」

「ていうか、リッサ、さん? はエナジーアニマルではなく怪人ですし……?」


 ふたりして首を傾げる。


「種族は関係無いわ。今、ウインディアを我が物顔で占領している侵略者を追い出して、きちんと『軍隊』を組織する。もう二度と、侵略されないように。他国、異世界の『友人』の優しい手を、借りずに済むように」

「…………軍隊を組織、って。ほな今は」

「まだよ。というより、私達は『侵略されてから』集まった有志。けれどね、正当性はある。この子が、旗手だから」

「!」


 リッサの影から。


 ぬいぐるみ……否。


「ポポ……いや……?」


 ファンシーなくまのような丸い耳とふわふわの毛玉のような顔、そして胴体。

 ピンク色の。小動物。


「……初めまして。第3代目エナリア様」

「…………!」

「――兄が、お世話になっております」


 まるでアニメ声優のような、可愛らしい少女然とした声で。

 ぺこりと頭を下げて挨拶をした。


「わたしはララディ。この国の王女です」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:なんや、ややこしなってきたなあ。リッサは怪人やしウインディア正規軍? なんやて?


〈リッサ〉:五月蝿いわね。良いから話を聞きなさい。説明するからっ。


〈咲枝〉:ほいで王女? 3代目? 兄? 情報量多いてー。


〈リッサ〉:もう五月蝿い! 黙ってなさいよ!


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第21話『変身! 風の国の王女様!? 後編!』


〈咲枝〉:3人目はツンデレの金髪ツインテロリかあ。えとこ突くなあ。超王道やんけ。可愛らしいかいらしなあ。


〈リッサ〉:な、何よその視線……。

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