第18話 変身! 都市潜入はドキドキ!

「ちょっとぉぉぉお! なにしてんのアンタぁぁあ!」

「ぎゃぁぁあ!!」


 次の朝。妙に低い女声が煩く響き、咲枝達は目覚めた。なんやねん五月蝿うっさいなこっちは腹減っとんねん、と怠そうに起き上がる。


「ここっ! これアンタぁぁ! アーシというものがありながら他のメスををを!!」

「ちょっ! 落ち着くディ! これは違うディ!」


 玄関に、ポポディが居た。誰かと話している。その相手から、怒声が聞こえるのだ。


「あん? どなたさんやポポ」

「サキエ! サキエからも言ってくれディ! おいらの潔白を!」

「あん?」


 見ると。くまのぬいぐるみがあった。ポポディ達他のエナジーアニマルの倍の大きさのぬいぐるみが、怒りの表情を浮かべていたのだ。


「アンタ誰よぉぉお! この泥棒ネコ!!」

「……いやお前が誰やねん。誰ってか、何やねん。朝から叫ぶなやあたまいたなるわボケ」

「なんですってぇぇえ!!」

「いや怖ないねん別に。そんなもふもふで怒られても。なあポポ。……ポポ?」


 半狂乱のくまに対しテンション低めに対応する咲枝。振り返ると、ポポディは気まずそうにしていた。


「……サキエ、アヤミ。紹介するディ。おいらの恋人、テディ増岡ディ」

「ん? え? なんて?」

「アーシの名前よ! テディ増岡!」

「…………は?」


 テディ増岡は胸に手を当てて名乗った。咲枝は、脳内の処理に数瞬費やして。


「…………お前ら本当ほんま、ふざけ倒しとんな。何もかも」


 大きなため息を吐いた。











「そぉ! エナリアだったのぉ! 早く言いなさいよね!」

「ヒステリーなっとるメスが話聞く訳ないやろが。ていうかヒステリーなんなよ。女の価値下がるで。男はそういうの一番いっちゃん嫌いやねんから」

「……エナリアだとしてもムカつくわねこのメス人間!」


 どうやら誤解は解けたらしい。テディ増岡を加えて、ポポディの部屋でテーブルを囲む。出された食事は、綿あめに酷似したなにかだった。


「なんか、凄いですわね。色々」


 綾水がぼそりと呟いた。恋人が居るとは聞いていたが、こんな感じとは思っていなかったのだ。当然、咲枝も。

 もしゃもしゃと謎の綿あめを貪る。微妙に甘いらしい。


本当ほんま、なんやねんテディ増岡て。なんで普通な顔して日本語の苗字付いとんねん。芸人か。なんでデカイねんほいで。ほいでなんやねんこの朝飯。綿あめが主食て。無茶苦茶やもう。ツッコミきれんわ」

「なんか文句あんのぉ!?」

「取り敢えず謝っとけ。本家に」

「はぁ!? なんなのコイツさっきから!」

「まあまあ、落ち着くディ。サキエももうその辺で止めるディ。増岡、おいら達はブレスレットを手に入れる為にこれからお城に向かうディ。まだおいらの使者としての任務は終わってないんディよ」

「え、テディが苗字で増岡が名前なん?」


 ポポディが説明をする。テディ増岡はそれを聞いて、もふもふの腕を組んで頷いた。


「致し方ないって訳ね。早く帰って来ないと増ぴょん怒っちゃうゾ☆」

「分かってるディ。おいらも増岡との結婚式、あまり遅らせたくないディからね」

「…………」

「……」


 咲枝と綾水は、一度目を合わせてから肩を竦めた。もう知らん。勝手にしろ、と。突っ込む気力は無くなっていた。

 綿あめは妙に腹が膨れ、気色が悪かったが気にしないことにした。











「エナリア。これを」

「?」


 そして増岡と別れ、国王の所へと立ち寄った。すると国王から、灰色のローブを渡されたのだ。きちんと、人間用の大きさであった。


「それを着ていると、怪人と同じエナジーの波長を放つことができるウィ」

えやん。ありがとさん、王さま」

「ありがとうございますわ」

「うむ。それと、ポポディ」

「ディ?」


 都市に侵入し、お城へ潜入する準備は整った。最後に、国王はポポディを呼んだ。


「お主の妹のエナジー反応をキャッチした。もしかしたら、ウインディアに戻ってきているかもしれん」

「! 本当ディか!」


 それを見て、咲枝はテディ増岡を思い浮かべた。


「おいおいポポの妹やって。絶対ヤバいやん。今度はなんや、ブラウン佐々木か?」

「不思議な国、とかそういうのを越えていましたものね」

「ふたりとも安心するディ。あんな突然変異のバケモノ、増岡くらいディ」

「……そんなんと良くよう付き合おおもたなお前」

「根は優しいんディよ。それに、ふたりきりだとカワイイディ」

「…………ああそう」

「信じてないディね。まあ別に良いディけど」

「いやもう興味ないねん。話題にもしたくないねん。すまんけど」











 都市にやってきた一行。そこかしこに怪人が闊歩しているが、国王から渡されたローブを身に着けると誰もこちらを見向きしなくなった。

 エナジーアニマル用の小さな家屋は全て破壊され、その上に怪人達の住居が建てられている。完全に支配されていると分かる景色だった。


「いや本当ほんま怪人だらけやん。大丈夫かいな」

「未来の東京の光景かも知れませんのよね……」

「お城はこっちディ。怪人ぽく歩くディよ」

「どんな歩き方やねん。こうか?」


 なんば歩きで、お城へ向かう。途中綾水が転びそうになったが、なんとか向かう。


「おいお前」

「!」


 話し掛けられた。考えてみれば別に不思議なことではない。周りは怪人だらけで、咲枝達も怪人に見えている。

 綾水は咲枝に隠れるように下がった。咲枝の背に手を当てると、咲枝はやれやれと怪人に向き直った。


「なんや?」

「いや、見ない顔だと思ってな。そっちは城だが、まさか幹部に呼ばれた、噂の新戦力って奴か?」

「…………」


 話を合わせなければならない。怪人の話は全く分からないが、その内容だけで会話を成立させる必要がある。


「そうなん? まあ呼ばれたんは呼ばれたんやけど、何も聞いてへんねん。都市のことも良くよう知らんし、なんや幹部の、あの人、名前忘れたけど、あの人に呼ばれてんか。なんや、お前の力が強おて役に立つ、みたいな」


 そしてそれは。

 口先から生まれた関西人、咲枝が得意とする分野だった。


「なるほどな。その方言はヤネンの辺りの出か。とするとお前達を勧誘したのはマッツン様だな。まああの人も適当だからな」

「あーそんなやったかも」

「ふっ。じゃあ頑張れよ。あーあ。俺も都市配属までは来たんだがな。『ヒノモト』にも行ってみたいぜ」

「ヒノモト?」

「なんだそれも知らないのか。異世界だよ。今俺達が侵攻中の国だ。だが伝説の戦士『エナリア』が邪魔しているらしくてな。エナリア討伐の為にお前達は集められた訳だ。まあ、詳しくは城へ行ってみな。幹部様達が居る」

「ふむなあ。ありがとさん」

「……しかしメスだろお前。よく選ばれたな。特殊能力持ちか?」

「…………さてな」











「凄いですわね咲枝さん。怪人相手に普通に話してましたわ」

「見た目でバレへんのやったらあんなもんや。まあ元営業職の口八丁やな」

「ていうかヤバいディ! エナリアを倒す為に強い怪人が集められてるディよ!」

「そうやんなあ。アタシ変身できひんのに。あの幹部クラスが大勢来るんはヤバいな」


 城へ急ぐ。ブレスレットも勿論だが、できるだけ情報を集めることも必要だ。


「どないして潜入するんや? 会議に呼ばれたで通るか?」

「おいらが、ブレスレットを取ってくるディ」

「んな無茶な」

「いや。お城の中を把握してて、身体の小さいおいらこそ適任ディ。ダクトを通って行くディ」

「ダクトとかあるんか。ふわふわした異世界のくせに」

「けれど、ではわたくし達は……」

「ふたりは待っているディ。ブレスレットを取ったら、すぐに変身するディ。それで、お城を焼き尽くすディよ」

「はあ?」


 ポポディの発言に、ふたりは顔を歪ませた。見付かったら終わりのこの状況で、変身などできる訳がない。ましてやその後、城を焼くなどあり得ない。


「幹部が集まっている今は、チャンスでもあるディ。不意打ちで、畳み掛けるディよ」

「いや、あのなポポ。いくら変身しても幹部はそない楽に倒せへんて」

「大丈夫ディ。もっと強いブレスレットを取ってくるディから」

「は? なんやそれ」


 だがポポディは、それでも自信があった。得意気に、にやりと笑う。


「あの時は持ち出せなかった最強のエナジークリスタル『ブラストブリング』で。サキエ達は進化するディ」

「……別になんでもえけど、なんでいちいち英単語なん? 異世界の専門用語が」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:アカン。テディ増岡に全部持ってかれとる。何も話入ってうへん。


〈綾水〉:物凄いインパクトでしたわね……。


〈ポポディ〉:あれでもおいらの彼女ディよ!


〈咲枝〉:まあ、好きにしたらえけど……。


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第19話『変身! 3人目との邂逅!』


〈咲枝〉:邂逅とかそれっぽい単語使つこうてからに。


〈綾水〉:『偶然の出会い』みたいな意味ですわ。ただ出会うことは邂逅とは言いませんの。小説でよく見る表現だからと言って安易に使わず、書く上では注意しないといけませんわね。


〈咲枝〉:誰目線なんそれ……?

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