第17話 変身! ポポディの故郷!

「『人間界』と『ウインディア』は、近くもあり遠くもある関係ディ」


 千代田区、皇居周辺。彼女らはポポディの案内に従い、再びここへやってきていた。最初に怪人が出現し、咲枝が初めて変身した所だ。


「それは距離的な遠さじゃなくて、『概念的』な遠さディ。『別の世界』と言って通じるディか?」

「分かるで。『ナルニア』やろ。観たことあるわ」

「『ハリー・ポッター』とは違いますの?」

「『異世界』というものだな。咲枝も綾水も、最近のアニメとかは観ないのか」

「2年目の営業にアニメ観る余裕はあらへんわ。まあアタシの会社が黒いだけやったかも知れんけど。やけど知ってるで。なんか顔同じような女の子が冴えへん男に無条件で惚れる奴やろ」

「アニメーション映画はいくつか観たことありますわよ。後は、幼い頃にアンパンマンやドラえもんなどは」


 ふたりの答えに、空石は苦笑気味の溜め息を吐いた。


「……まあ、アニメや漫画は『趣味』だしな。全く観ない者は観ない。そのような者からすればその程度の認識だろう。咲枝の解釈は少し歪んでいるが」

「ああいう、なんちゅーか『深夜アニメ?』は、絵がなあ……。思いっきり『男向け』やんか。いや好きな女性もおるやろうけど」

「そもそも深夜に起きているのはおかしいですわ。夜更しは翌日に差し支えますわよ」

「……うんまあ、とにかく。『不思議な扉の向こうは別の世界』。そういうことだな? ポポディ」


 ポポディと空石は、咲枝達の通訳を介して会話している。ポポディは頷いた。


「その『不思議な扉』がこっちにあるディ」


 辿り着いたのは、皇居から少し離れた住宅街の路地裏だった。道は入り組んでおり、余程のことが無い限り誰も近寄らないような所だ。


「え、空石さんてアニメ観るん? 今どんなんが面白おもろいん」

「……咲枝の言う『深夜アニメ』だぞ?」

「ええやん。空石さんが面白おもろい言うんやったらアタシも観るわ。教えてえな」

「サキエ、着いたディ。いつまでその話してるディ。あとおいらも深夜アニメ観てるディよ」

「は?」


 そこに。ポポディが手を翳すと丸い球体が現れた。人がひとり入るほどの大きさで、10センチほど浮いている。ガラスのような見た目だが、映り込んでいるのは東京の建物ではなく、空と草原だった。ウインディアの景色なのだろうと想像できる。


「『エクストリームクラック』と呼んでるディ。世界にはいくつか亀裂があって、おいら達のエナジーで活性化するんディ」

「よぉ分からんけどこれが『9と3/4』やな? ほな行くで。――空石さん」


 咲枝と綾水は、リュックを背負っている。『異世界』へ行くのだ。水や非常食、ナイフやロープなど。できる限りの備えをしている。勿論、綾水の着替えもだ。人の尊厳的に、ウインディアで変身できる回数は限られている。


「では行ってきますわ。空石様」

「アニメ。約束やで」

「……ああ。教えてやる。だから――」

「一緒に観よな」

「! ……ああ。だから無事で帰ってこい」


 球体に触れると、吸い込まれるようにして消えていった。ポポディと咲枝、綾水が路地裏から――否、『世界』から消えて。


「…………こっちは任せろ」


 空石だけが残った。











 異世界『ウインディア』。そこは人間界ほど科学は発達していない土地だ。町に電柱など無く、家々や道も土地区画整理などされていない。道路舗装もされておらず、草原の上に木造建築が並び、どこか牧歌的な雰囲気が漂っている。そして道も家も、そのサイズは人間にとってはかなり小さい、『ぬいぐるみサイズ』のものだった。


「わっ。人間さんパペ!」

「ポポディが帰ってきたルロ!」

「…………」


 咲枝達が辿り着いたのは、『エナジーアニマル』達が暮らす村だった。ふわふわとぬいぐるみ達が空中に浮いている。農具のオモチャを持っているので、ここは農村なのだろうと察することができる。


「……ふわっふわしとんなあ」

「『小さい女の子』の夢の国のようですわね。村のところどころにわたあめのようなものが置いてありますが、あれは何でしょう」

「人間界にもある『ベンチ椅子』ディ。さ、こっちディ。まずは王様に話をするディ」


 空を見上げると、『☆』の形をした巨大な物体が遥か遠くに浮かんでいる。『○』や『△』もある。


「いや星やけど。星ちゃうやろ」

「何もかもわたくし達の常識では測れませんわね。地平線が曲線ではないのでこの土地も『惑星』ではないのかもしれません」

本当ほんまや。向こうぐねぐねしとるやん。感覚狂うなあ」


 気温は20℃前後程度で、夏休み期間である人間界から来たふたりにとっては少し涼しい。空気が澄んでいるようで、東京よりも心地よい風が髪を揺らした。


 さらにポポディに付いていく。周りのエナジーアニマルからじろじろと見られたが、咲枝は無視。それよりこの村の『様子』が気になっていた。


「怪人らんやん」

「この村はお城のある都市から離れてるからディね。都市は悲惨ディよ」

「ふむ」


 小さな建物が続いたが、ひとつだけ人間も入れる大きさの家があった。ここに王様が居ると言う。怪人に捕まっているものと思っていたが、逃げ隠れることには成功したらしい。


「お初ウィ。伝説の戦士エナリア。余がウインディアの国王、アウィウィだウィ」

「冗談みたいな話し方と名前ですね」

「こらサキエ!」

「すまん心の声漏れてもた」


 家の中はテーブルやキッキン、ソファなど、人間の家と同じものが置かれていた。国王はふわふわと部屋の中心に浮いている。ぬいぐるみサイズの王冠やマントを付けていた。いかにも分かりやすい。


「王様。こっちがサキエ。こっちがアヤミ。ふたりともエナリアディ」

「うむ。使者ポポディ。人間界の報告をしてくれるウィ?」

「はいディ。実はサキエのブレスレットが怪人の幹部に奪われたから、お城に忍び込んで代わりのブレスレットを取りに来たディ」

「ウィ!?」


 エナリアがこちらに来た時は、ウインディアを取り戻す時だ。普通はそう考える。しかしあまりにも早すぎる。ならば何故ここへ来たのか。

 ポポディの回答は、国王を充分に驚愕させた。


「く、詳しく聞かせるウィ! エナリアのブレスレットを奪われるなんて一大事ウィ!」











「…………なるほど。大体分かったウィ」


 詳しく説明を聞いて、国王はふわりと頭を抱えた。


「本当に、都市に行くつもりウィか?」

「行くディ。ウインディアと人間界の為に」

「……分かったウィ。エナリアのふたりには変装が必要ウィから、用意させるウィ。出発は明日ウィ」


 しかしポポディの真剣な表情を見て、国王は頷いた。決意は固いのだ。国を、世界を救うために。


「変装て、アタシら怪人のコスプレするんか?」

「いや、見た目は変えなくて良いウィ。エナリア特有の『エナジー』の波長を誤魔化す変装ウィ」

「見た目って、アタシらあんなゴツないからバレるやんか」

「大丈夫ウィ。とにかく任せるウィ」

「……?」


 そんな会話を終えて。咲枝達は外へ出た。今日はこの村に泊まることになった。


「おいらの家で休むディ。人間サイズでもギリギリ入れると思うディよ」

「あ、ポポさんの村だったのですわね」

「へえ。ほならポポのカノジョもおんねんや」

「……まあ、そうディね」

「紹介せえや」

「別にする必要ないディ」

えやんか。『ぬいぐるみの恋愛事情』とかごっつ気になるわ」

「下世話にも程があるディ。あとぬいぐるみじゃないディ」


 ふわふわと漂うポポディに付いていく。辿り着いたのは、いくつも部屋が付いた、アパートのような建物だった。


「ここディ。ちょっと狭いけどまあ、寝れなくはないディ?」

「ワンルームてなんやアタシと同じかいな。夢もへったくれもあらへんなあ」

「……そもそも、人間は勘違いしてるけどウインディアは別に『夢の国』とかじゃないディよ。普通の異世界ディ」

「『異世界』の時点で普通ではないのですがそれは」


 畳にすると、3帖くらいだろうか。なるほどエナジーアニマル基準だと広い。だが人間が入れば、ふたり寝転ぶので精一杯だ。取り敢えず荷物を降ろして、寝転んだ。天井が低くて座ることもできない。


「秘密基地やな。カノジョとは同棲しとらんのか」

「というか、わたくし達を招いて大丈夫なのですか? 彼女さんに怒られませんか」

「メスでも別種なら問題無いと思うディ。おいら人間にはなにひとつ欲情しないディ」

「まあぬいぐるみに迫られても困るけどな」

「でも、わたくし達のことは置いておいても。一度挨拶くらいはしても良いと思いますわよ。折角、帰ってきたのですから」

「…………まあ、そうディね」


 テンションの低いポポディは珍しい。恋人との間に何かあったのだろうか。咲枝達は邪推したが、そこまで強く興味がある訳でも無いので流して眠った。


「……いや腹減ってんけど。メシは?」

「もう夜ディ。明日にするディ」

「めっちゃ明るいけど? 寝れる気せんて」

「…………うるさいディねえ。ここではこの明るさでも夜なんディよ」

「夜とは……」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:あれやな。考えるだけ無駄って言うちゅうことやな。何もかも常識の外や。


〈綾水〉:ですわね。予想していた異世界とは全く違いましたわ。ふわふわは、ふわふわでしたけれど。


〈ポポディ〉:良いから寝るディ。悪い子には『うんげてゅうむ』がやってきて食べられるディよ!


〈咲枝〉:なんて?


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第18話『変身! 都市潜入はドキドキ!』


〈咲枝〉:このサブタイの適当具合と謎のテンション腹立つわぁ。


〈綾水〉:今更ですわよ……。

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