第16話 変身! 異世界ウインディアへ!

「お疲れさんでーす」

「お疲れ様ですわ」


 咲枝と綾水がパトロールを終えて戻ってくる。


「……お疲れ。今日も無しか」

「せやね」


 机に向かいながら空石が返事をする。この部屋は事務室として使っている部屋だ。人数分の机と、空石のデスクにはパソコンがある。


「……なんか空石さんテンション低ない?」

「……なにかあったようですわね」


 咲枝は空石の様子を見て、小声で綾水と話す。最近変わったことと言えば、彼女らにとってはひとつだ。


「怪人の出現が、ぱったり無くなったな。不気味なほどに」


 これである。あの、ブレスレットを幹部に奪われ、謎の『3人目』が現れた事件から、徐々につよ怪人どころか通常の怪人すら現れなくなったのだ。


「良いこと……ではないのですわよね」

「んー。まあなあ。なんか『企んでる』のが当然やろな。ブレスレットだけ奪って帰るなんてことないやろ? ポポ」

「そうディね。奴らの目的は人間界の支配ディ。それに、次はアヤミのブレスレットを狙ってくる筈ディ」

「移動は? 例えば県外、地方で暴れたらアタシら間に合わんし、少しずつ支配されてまうやん」

「それは、サキエ達が東京に居る限り大丈夫だと思うディ」

「ん、なんでや?」


 咲枝と綾水も自分のデスクに座る。だが基本的に事務所作業はしないため、机上には何も無い。ポポディが机の上に立って演説のようにしている。


「怪人やおいら達エナジーアニマルは、エナジーの無い、または薄い土地では暮らしていけないディ。東京は適合者のサキエとアヤミ、それにおいらと、ブレスレット。そして、ウインディアと繋がる『空間の亀裂』があるからどうにかなってるディ」

本当ほんま? でもブレスレット奪われたから行動範囲拡大できるんちゃうん」

「できると思うけど、貴重なブレスレットは奴ら的にはまず『戦力』として使いたいと思う、とおいらは思うディ。だから、アヤミのブレスレットが奪われない限りは奴らは東京から出られないと思うディ」

「あー。範囲拡大した所で暴れても、消費したエナジーの回収ができへんのか」

「そうディ。基本的にウインディアから補給してる筈ディから、遠くへ行くなら『兵站』が保たないんディ」

「なるほどな。まあアタシらにとっては好都合か。……本当ほんますまん。奪われてもて」

「サキエは悪くないディ」

「そうですわよ。あんなことされたら誰でも無理ですわ。寧ろわたくしが足を引っ張ってしまって……」


 正直な話、サキエがブレスレットを奪われたのは非常に痛い。今のポポディの話も、一部希望的観測に過ぎないのだ。ザイシャスが構わず東京都の外へ行く可能性も充分にある。それに、綾水のブレスレットが無事でも『3人目』がブレスレットを奪われれば状況は一気に変わる。


「分かった。この話はやめよか。今は今あるもんでどうするかやな」

「……分かりましたわ」

「なあポポ。ほいで、さっきの話で気になってんけど」

「なんディ?」

「ウインディアには、もうブレスレットは無いんか? 今あの幹部から取り返そう思ても、綾水だけやったら厳しいやんか。なんとかアタシも、もう1回エナリアになれへんかな」

「!」

「千代田区から、ウインディアに行けるんやろ? 怪人が出てこん、この間に行って、ブレスレット取って来れへんかな。無理か?」


 咲枝が提案した。ウインディアは今、怪人達に支配されている。だが、なんとかならないだろうか。ウインディアの詳しい事情を知るのはポポディだけだ。彼は支配された後で、人間界へ来ることができた。それも、怪人が狙うブレスレットをふたつも持って。


「……ウインディアには、人間はエナジー適合者しか行けないディから、ふたりが来るのは大丈夫ディ。でも、ブレスレットはあるけど、お城に忍び込んで取りに行くことになるディ。危険ディよ」

「東京に来てるあの幹部から取り返すのと、どっちが可能性高い?」

「…………」


 ポポディは短いふわふわの腕を組んで考えるポーズを取った。この提案は、ポポディが思い付かなかったことだ。人間界に来た時に、彼は決心していたのだ。次にウインディアへの境界線を跨ぐ時は、エナリアを連れてウインディアを救いに行く時だと。


「……人間界の幹部は、どこに居るのか分からない上に、正面から戦ってブレスレットを奪取できるとは限らないディ」

「やな」

「ですわ」

「お城は動かないし、ブレスレットの保管場所もおいらは知ってるディ。だけど、お城には幹部クラスの怪人が沢山居て、怪人の王も居るディ。忍び込むのも凄く難しいと思うディ」

「やろな」

「ですわね」

「…………どっちが、良いディか」

「まあそれか、別のえ案があれば」

「そんなの思い付かないディ……。うーん……」


 ふわふわの頭を捻る。


「決めたディ」

「おっ」


 ふわっ! と、目を開いた。


「ウインディアに行くディ! サキエがまた変身できるようになれば、幹部だって怖くないディ!!」


 そして高らかに宣言した。咲枝と綾水は、ポポディへ称賛の拍手を送った。


「……ってことで、えですか? 空石さん」

「ああ」


 空石も話を聞いていたようで、すぐに頷いた。


「綾水を連れていくと人間界の戦力があれやけど」

「問題ない。その間は、俺が戦う」

「えっ」


 空石は自分のエナジー武器を取り出す。ボタンを押して、弓の形に変形させる。


「えっ。空石さん、それ」

「俺の武器だ。理論上は、つよ怪人の甲殻までは簡単に貫ける」

「!」


 空石のテンションは上がっていた。彼はこれを使いたかったのだ。だが決して、怪人が出現して欲しいとか、戦闘を楽しみたいなどということではない。


「今後は俺も戦う。お前達の負担も減るし、俺も役に立ちたいんだ」

「……!」


 咲枝は。機械式の洋弓を持つ空石を見て。

 きゅんとした。


「格好良すぎやろぉぉぉおお……!」

「……? だから安心して行って来い。『3人目』のことも調べておくから」


 くずおれた咲枝に戸惑いつつ、弓をまたしまった。エナリアと違ってエナジーは有限であるからだ。











「……リッサ」

「なによララ」


 場面は変わり。

 高層ビルの屋上の、手摺の上に立つバランス感覚の良い少女が居た。半袖のセーラー服を着ており、剣道用の竹刀袋を肩に掛けている。

 彼女の隣に、ピンク色のぬいぐるみのような小動物がふわふわと浮いている。


「本当にウインディアへ行くの? 今が一番危険なのに」


 小動物が少女へ不安そうに訊ねた。


「……『赤のブレスレット』が奴らの手に渡ってしまったのよ。あの幹部――ザイシャスは『準備』に入った筈。だとすればしばらくはこちらで暴れはしない。次の戦場は『向こうの世界』じゃない」


 金髪の少女は、東京の町を睨み付けながら答える。


「でも、人間界侵略がいつ始まるか」

「ララ。私達の目的を見失っちゃ駄目」

「!」


 少女が、手摺の上からぴょんとジャンプした。真っ逆さまに急降下――ではなく、ビル郡の壁や屋上を飛ぶように翔けていく。小動物も慌てて後を追う。


「人間は『カガクギジュツ』によって奴らに対抗する術を産み出せる。その上、保険としてエナリアも居る。後手に回ってしまっているけど、今向かうべきは『ウインディア』よ」

「……でも」

「なによララ。文句あるの?」

「……不安なの。リッサひとりでこんな戦い。せめてエナリアに事情を話して協力を求めても」

「駄目よ。あいつらは人間であって、『ウインディアの勢力』じゃない。完全に敵対はしたくないけど、味方にはなり得ないわ」

「…………」

「大丈夫。向こうには少ないけど味方も居るし。何より私にはあなたが居るじゃない」

「……わたしは戦えない」

「エナジーの供給だけで充分よ。それに。私じゃなくて、『あんたの戦い』でしょうが」

「…………」


 ビルの森を飛び越えながら、少女は腕に着けた緑色のブレスレットを揺らした。


「……変身!!」


 セーラー服がビリビリに破けて吹き飛ぶ。だが少女の表情に変化は無い。続いて、まるで怪人のような『甲殻』が鎧のように装着される。


「エナジーブレード!」


 そして、竹刀袋から竹刀を取り出す。それはエナジーの光を放って、剣の形をしていた。


「『亀裂』を開くわよ!」

「……了解!」


 そして、勢いのまま何もない虚空を『エナジーブレード』で切り裂いた。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:あれやな。空石さんまで戦うんやったらもうどっちかって言うとプ○キュアよりカード○ャプターとかそっち方面なんちゃうか?


〈綾水〉:わたくし、それどちらも知りませんわ。


〈咲枝〉:アタシは良くよう観とったで。あんま覚えてへんけど。


〈空石〉:戦いたいんだけどな……。タイミングが悪いのか怪人が出てこない。


〈咲枝〉:まあ、そういう時もあるやろ。


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第17話『変身! ポポディの故郷!』


〈咲枝〉:来週も絶対読んでくれや!


〈ポポディ〉:初めてそれ言ったディね……。

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