第13話 変身! 幹部ザイシャスの卑劣な罠!

「オラァ!」


 ――【大内おおうち刈り】!!


「ぐほぁっ! くそ、このエナリアがぁぁ!」

「――やっぱ最近の怪人は一本イッポン取らせてくれんようになったなあ。今のは『技あり』か。綾水!」

「はい!」


 咲枝が怪人を転かし、距離を空けた所で綾水が仕留める。相変わらず、怪人の厚い甲殻も全て、例え防御していようと貫く。


「ぐばぁぁあ!」

「エナジードレインですわ!」


 そして、咲枝が先に転かすことで狙いを外さない。ふたりの連携は上手く取れていた。


「おっけぃ綾水。安心感あるわ。なんか」

「こちらこそですわ。わたくしでは、怪人と肉弾戦なんてできませんもの」


 ふたりは笑いながらハイタッチをした。


「ジャージディ!」

「ナイスポポ」


 ポポディもすかさずジャージをふたりに渡す。


「……しかし、ここんとこ『つよ怪人』ばっかやないか。1日1体やけど、継続しとるな。普通の怪人は1日5~6体やのに。それは隊員さんに任せれるけどな」


 ジャージに着替え、変身を解いた咲枝が呟く。『つよ怪人』とは、咲枝の投げ技で戦闘不能にならず、通常の『エナジー銃』も効かない、綾水が仕留めるしか無い怪人のことだ。命名は咲枝。

 最初の『つよ怪人』登場から、はや1週間が経った。段々と、気温も上がってきた。


「でも、咲枝さんが動きを止めてくださるから、良い練習にはなりますわ。撃っても変身が解けないような威力調整も慣れましたし」

「せやけど、ふたり掛かりって言うちゅうんは不安要素やな。『つよ怪人』が同時に複数出たら対応できへんやん」

「確かにそうですわね……」


 このペースで怪人がどんどん強くなるとしたら、いずれこちらの戦力が尽きてしまう。『エナジー』のある限り増え続けるという怪人側が、最終的に有利な気がしてくるのだ。


「しかし暑いなあ。もう真夏やん。早くはよ帰ってお風呂入ろうや」

「賛成ですわ。汗びっしょりですものね」

「じゃあ、ジャージじゃなくてこの『体操服』ってのにするディか? 涼しそうディ」

「いや誰が着るかこんなもんお前あほ。なんで変身時以外でコスプレせなアカンねん。ていうかなんで持ってんねんお前」

「隊員のひとりから勧められたディ。こっちの方が似合うって」

「……いやらしい」

「おいらじゃないディ!?」

「しかもブルマやんけ。そんな奴おるんかウチの隊員に」

「空石様に言い付けますわ」


 ふたりとポポディは屋敷へ向かって歩き始める。と、そこで。咲枝のスマホが鳴った。


『まーっくーすはぁぁぁあーー♪』


「おっ。空石さん」

「……なんですの、その着信音」

「確信犯ってこの前部屋で言ってたディ」


『咲枝! もう1体だ! 足立区!』

「はぁ!? つよ怪人か!?」

『そうだ! 頼めるか!?』

「いや行くしかないやろ!」

『すまん!』

「空石さんは悪ないで! ほな!」


 電話を終えると、咲枝は綾水の手を掴んで反対方向に走り始めた。


「きゃっ。なんですの? 空石様はなんと? ブルマの件ですの?」

「んな訳あるかい。もう1体『つよ怪人』現れよった。足立区やて」

「!」

「ヤバいディ! 『つよ怪人』相手はふたりとも、エナジーの消費も激しいんディ! 大丈夫ディか?」

「やるしかないやろ! ウインディア・レボリューション!」

「もうひと仕事ですわね! ウインディア・レボリューション!」


 走りながら、光を放つ。綾水は先程の『つよ怪人』のエナジーをドレインしている為、少しは余裕がある。足立区へ向かって、全速で向かった。











 足立区の、とある公園。既に近隣住民の避難は終わっている。隊員達も応戦しているが、やはりエナジー銃が効いていない。


「エナリア! 頼む!」

「よっしゃ任せ! 今回は怪我人居らんか」

「ああ。『つよ怪人』には効かないと分かってるからな。後退しつつ、一般人が狙われないよう注意を引く為に撃っていた」

「流石プロやな。あとは任せとき」


 隊員と簡単な共有をして、ふたりで並ぶ。公園である為、戦いやすいステージと言える。


「ぐふっ! エナリアだぜぇ」

「お前らキモイ奴しか居らんの?」

「キモかろうがなんだろうが勝った方が勝者だぜぇ!」

「当たり前やんアホか」

「(どうして咲枝さん、毎回怪人を煽るのかしら)」


 怪人はエナリアを見るなり、腕を振り回しながら突撃してくる。


「いっつもワンパターンやのぉ!」

「ぐっふふ! 力で踏み潰して俺の子を孕ますぜぇ!」

「あんたらほんま、投稿される曜日と時間知っとるか? 大概にせぇよ」


 ぱぱん、と腕を払う。やはりどれだけ力があろうと、戦闘技術に関しては野生動物レベル。武術としては『素人』だ。犬や熊なら苦戦するが、怪人は人間と骨格や筋肉の付き方が同じなのだ。思考も知能も人間である。つまり。


「ぐふっ!?」

「学習せえよいい加減ッ!!」


 ――【腰車こしぐるま】!!


「あぐぅ!」


 咲枝武道経験者の敵ではない。


「ちっ。重いねんボケ。腰いわすやろが」

「まだまだぁ!」

「!」


 ズドン。

 起き上がる前に、こめかみをBB弾が貫通した。ゴトンと地面に落ちる。怪人は声も挙げずに絶命した。


「ナイス綾水。ヘッドショットやん」

「人体と同じ構造なら、胴体より頭を狙った方が良いですわよね。当てれば」


 今回は弾の消費を1発で済ませた。だが咲枝が振り返ると、綾水の衣裳は解除しかけかのようにボロボロになっていた。


「綾水! 変身解けんで!」

「えっ。きゃあっ! 危ないですわ!」


 まるでアニメによくある、『服だけ溶かす液体』を掛けられたように、フリフリの戦闘服が所々穴空きになっている。しかもその穴は徐々に拡がっているのだ。


「やっぱこれを貫く銃弾はエナジー使うねんな。ほならこいつも綾水がドレインしい」

「ありがとうございますわ。……その前にポポさん、ジャージをっ」

「えっ。無いディ。いつもふたりに1着ずつしか持ってないディよ」

「えっ?」


 綾水が急いでエナジードレインするが、変身の解除は止まらない。このままでは再び、公共の場で全裸になってしまう。


「ポポ! なんでもえからなんとかせえ! アタシもヤバいねんから!」

「いや、だから今持ってる服はこれだけディ」

「…………!!」


 間に合った。なんとかふたりは、猥褻物を公然に陳列することなく変身を解除した。

 その代わり。


「…………最っ悪や。誰やねん本当ほんま。ドツいたるからな本当ほんまボケぇ」

「……最っ悪ですわ。わたくしこれ、一度も穿いたこと無いですのに。どんないやらしいオジサマが持ってきたんですの」


 ふたりとも、白い体操服に紺色のブルマを着ることになったが。

 しかもご丁寧に、ゼッケンが付いている。


『6年1組

 さきえ』


『5年2組

 あやみ』


 と。


「…………本当ほんま男は……。えからはよ帰ろか。疲れたわ」

「ですわね。じぃに車で迎えに来て貰いますわ」

「助かるわ。流石にこれで電車とか公開処刑すぎるやろ」


 不幸中の幸いか、近隣住民は避難しておりこの場に居ない。迎えを待つ間、ふたりは公園のベンチに腰掛けた。


『まーっくーすはぁぁぁあーー♪』


「は?」


 その時再び、着信音が鳴った。


『咲枝! 綾水! ……くそ!』

「……いや、待ってや。え?」

『さらにもう1体だ! つよ怪人出現! 場所は港区!』

「…………は?」


 綾水の顔を見た。スマホからの声はもう聴こえない。

 綾水に会話は聴こえていないが、咲枝の表情で察した。


「まさか」











「この」


 港区。

 変身直後だが既に、先程の綾水のようにふたりとも変身が解けかかっていた。


「くそボケがぁぁぁあ!!」

「ぎゅひゃあっ!」


 ――【背負い落とし】!!


「もう、本当にこれが最後ですわよっ!!」


 ズドン。

 今までで一番速く倒したと言えるだろう。怪人の話など一切聞かず、煽らず、高速で技を掛けて撃ち抜いた。


「アカン。ポポ服は」

「……もう無いディ」

「…………わたくし達、社会的に死にますわね」


 変身が、解ける。ふたりの裸体を覆う物は、無い。

 今は周りに人が居ないが、やがて戻ってくる。


『まーっくーすはぁぁぁあーー♪』


「は?」


 ドカン。

 着信音と同時に、爆発音がした。背後からだ。ふたりは同時に振り向く。

 ここで、遂に変身が解除された。疲労から、ぺたんと地面に座り込んでしまう。スマホは手から離れて落ちた。

 視線の先には。


「……作戦は上手く行ったな。全戦力を使った甲斐があった。エナリアを消耗させ、ふたり同時に戦闘不能にした。もう変身もできまい」


 あの時、1度だけ見た怪人。

 『幹部』ザイシャスが立っていた。

 ふたりは身を寄せ合うように固まることしかできない。


「へ、へんたいですわ……」

「放火魔にストーカーに変態とかフルコンボだドンやんけ……」


 絶望が。

 ……否、恥辱がふたりに襲い掛かる。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:卑劣ってか、良くよう考えたらまあ当然の作戦やんな。敵やからムカつくだけで。


〈綾水〉:咲枝さんはドライですわね……。わたくしは正々堂々来い、と思いますわ。


〈咲枝〉:リスクマネジメントは必要やろ。命懸かってんねんから、『なんでも』やらんとな。それが戦争や。やけどこいつはシバく。いつかマジでシバく。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第14話『変身! 敵か味方か、3人目の戦士!?』


〈咲枝〉:来たなあ。3人目。基本性能はアタシらより強いちょっと訳アリな感じ、みたいな奴やできっと。


〈綾水〉:味方なら歓迎いたしますわ!

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