第14話 変身! 敵か味方か、3人目の戦士!?

「骨格や肉の付き方は人間と同じだし、生殖器官もある。つまり人間ではないが、『人類』とは言えるかもしれない」


 三木が、そう話していたことを思い出していた。咲枝はこの状況で心は敗北していたが、頭は働いていた。


「(つよ怪人どもはみんな、アタシらを孕まそうとしとった。『できる』んやろな。普通に考えたら)」


 一歩一歩と、ザイシャスが近付いてくる。綾水はもう戦意喪失しており、かたかたと震えているのが咲枝にも伝わってくる。


「ふむ。ここまで上手くいくと、逆に警戒してしまうな」

「ほな警戒しすぎてさっさと帰れや」

「その言葉で警戒する必要が無いと判断できるな」


 負けた。もう身体に力も入らない。


「サキエ! おいらを使ってもう一度変身するディ!」

「アホ。それやったらあんた死ぬんやろ。誰がウインディア守るねん」


 ポポディが叫ぶ。彼ら『エナジーアニマル』は怪人と同じく身体がエナジーで構成されている。ポポディが自身のエナジーをエナリアに与えることで、一時的に再変身が可能となるのだ。その代わり、使いきりのポポディのエナジーは尽きた時点で死亡する。死なない方法もあるのだが、今のポポディでは不可能なやり方である。


「その可能性があった。お前は邪魔だ」

「ディ!!」

「ポポっ」


 それに気付いたザイシャスに、軽く払われた。ポポディは野球ボールのように飛び、地面に落ちて動かなくなった。


「さあブレスレットを渡せ」

「……もうエナジーなんか無いで」

「そうだな。お前のレベルで使えるようなエナジーはもう残ってない」


 甲殻に覆われ、長い爪が伸びた手で腕を強く掴まれる。まず咲枝が、ブレスレットを引きちぎられた。


「……痛いねんボケ。女性にはもっと優しくせえ。ややこい団体にSNSで叩かれんで」

「これがウインディアの秘宝、『エナジークリスタル』か」

「無視すんなや」


 ザイシャスは赤のブレスレットを手に取り、光に当てて眺めた。咲枝が変身できるエナジーは無いのだが、それでも価値があるのだろう。

 続いて、綾水にも接近する。


「!」


 だが震える綾水の前に、咲枝が立った。


「無駄だぞ?」

「…………別に無駄かどうかで人間行動せえへんわ。綾水に触んな。ブレスレットならやるから待っとけ変態ハゲ怪人」

「ふむ。良いだろう」


 勝者の余裕が、ザイシャスから出ている。付け入るとすればここしかない。できるだけ時間を稼ぐ。その間に、『何か』起これば。隊員でも三木でも空石でも、なんでも。


「どうした。早く渡せ。わざわざ殺さずに逃がしてやるんだ。破格の待遇だろう。これ以上私の心証を悪くするなよ」

「…………分かっとるわ」


 終わる。エナリアが居なくなれば。この戦いは怪人の勝利だ。世界は怪人に支配される。いや、正直な話をすると全世界の軍隊を敵に回して怪人側が勝てるとは思えないが、ともかくウインディアは救われなくなる。咲枝達が人間界の被害を食い止めるだけでなくポポディの故郷を救うと約束しているのは、単なる個人の友人関係による善意にすぎないからだ。

 ザイシャスの魔の手が、咲枝達へ伸びる。


「渡す必要は無いわ!!」

「!」


 『何か』が、起きた。ザイシャスは即座に声のした方向を見る。当然周囲の警戒はしていた筈だ。つまり虚を突かれたことになる。


「何者だ」

「答える必要は無いわ!!」


 元気よく。声は大きくはきはきしていた。幼さの感じられる声だった。

 そこに立っていたのは、『少女』だった。

 長い金髪をツインテールに結んでいる。白い肌はキメ細やかで、みどり色の瞳の目はアーモンド型。身長は140センチ台であろう。黒を基調とした女子用学生服を着用している。


「子供が何の用だ」

「変身!」


 キッ、とザイシャスを睨みながら、彼の言葉を無視して唱えた。少女が肩まで地面と水平に挙げた右手首には、緑色のブレスレットが着けられていた。

 エナジーが放出される。


「なんだとっ」


 直後、少女の着ていた学生服は弾け飛ぶ。エナジーを、咲枝や綾水のような使い方をしていない為光で裸を隠せていない。その未熟な身体が、未発達な身体が、晒される。


「エナリアだと!? このタイミングで……!」


 だが少女に恥じらう様子は一切無かった。まっすぐザイシャスを睨み付けたまま、微動だにせず。


「……ポポの他にも、エナジーアニマルが人間界に来とったってことか……?」


 やがて変身が完了する。だがその姿はフリフリ衣裳では、無かった。


 茶色がかった灰色のパーツが少女の肢体を覆う。関節は避けるように装着されていくパーツは、怪人の甲殻とよく似ていた。


「エナジーブレード!!」

「!」


 伸ばした右手に光が集まり、剣の形を取った。鎧の少女はそれを握って駆け出す。エナジーにより加速し、瞬時にザイシャスと距離を詰める。


「ちっ」


 ぶん、と振られた光の剣は空を斬った。ザイシャスは飛び上がって躱し、咲枝達から離れる。


「新たなエナリアか。だがまあ、こちらの目的は半分達成された。ここは引こうか」

「待ちなさい!!」


 少女が叫ぶが、ザイシャスは強い光を放った。以前と同じ方法で逃げるつもりだ。


「では、また」

「このっ!!」


 もう一度、距離を詰めて剣を振るう。だが既にザイシャスの姿はそこに無かった。


「……変身解除」


 敵の気配は無くなった。少女はそう呟いて変身を解く。当然全裸になるが、やはり意に介さない。全裸のまま、堂々としている。


「…………ぐっ」

「ポポ!」


 咲枝は、少女のことも気になるが、まずはポポディの元へと向かった。死んではいないようだ。土の付いた身体を抱き上げる。


「大丈夫かいな。無茶したらアカンで」

「げほっ。……痛いディ」


 道のど真ん中。この場に、全裸の女性が3人。

 避難していた住民が、そろそろ戻ってくるかもしれない。


「お嬢様ぁっ!」

「じぃっ」


 そこへ、1台の車がやってくる。黒塗りの、高級車だ。綾水はそれが自分の執事のものであると分かった。


「遅れて申し訳ありません! お早く、車内へ! お洋服もございます! 咲枝様も!」

「……助かりましたわ。咲枝さん!」

「有能やな」


 綾水はよろよろと立ち上がり、車へ乗り込む。咲枝も向かうが、金髪の少女の方を見た。


「あんたも乗るか? 服持ってへんやろ」

「…………要らないわ」

「へっ」


 だが少女は車を一瞥してから、ふんと鼻を鳴らした。

 そして、膝を曲げて飛び上がった。


「は? 変身してへんのに。てか、話聞かせてや!」


 そのジャンプ力は変身時のエナリアと遜色無く、軽々とビルを越えていく。


「……助けてくれてありがとうなーっ!」


 咲枝は驚いたが、見えなくなる前にお礼を叫んだ。











「咲枝! 綾水! 無事だったか!」


 本部にて。出迎えた空石は顔色が悪かった。泣きそうな表情で彼女らを心配した。


「……お疲れさん。色々報告あるけど、取り敢えず休ませてくれへん」

「そうですわね……。もうくたくたですわ……」


 彼女達は屋敷へ戻るなり寝室へ向かい、風呂も入らず倒れるように寝てしまった。










 翌日。


「…………なるほど」


 ①幹部がまた現れたこと。

 ②その幹部に咲枝のブレスレットが奪われたこと。

 ③謎の金髪少女に助けられたこと。


 この3つを、空石へ報告した。


「謎の、少女か」

「そうや。変身もして、エナジー武器の剣を使っとった。ポポ、分かるか?」

「……分からないディ。人間界に来たのはおいらだけディ。それに、緑色のブレスレットなんてウインディアには無いディ」


 ポポディからしても、謎の存在らしい。確かにふたりと比べても、異なる点がある。


「いつものフリフリちゃうかったよな。なんか、怪人みたいな鎧になっとった」

「それに、裸に対して無頓着でしたわ。あのくらいの子なら、恥ずかしすぎて死ぬと思いますわ」

「アタシらでも無理やのになあ」

「でも、格好良かったですわね」

「確かに」


 見た目は小学生か中学生くらいだろうと察する。髪や瞳の色から、日本人ではないかもしれないが。


「アタシらと来たら良かったのにな。単独でやっとるんか?」

「危険ですわよ。あんな女の子がひとりでなんて」

「分かった。特徴も派手だし、都内の小・中学校から探してみよう。着ていた制服の特徴はあるか?」

「えっとな……」


 謎が、新たな謎を呼ぶ。怪人達との戦いはさらに激化していくことになる。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:ついに来たで! 本当ほんまモンの美少女!


〈綾水〉:本当、可愛らしい女の子でしたわ。お名前は何と仰るのでしょう。


〈咲枝〉:しかし、全裸やのに堂々としとるんは意外やな。


〈綾水〉:何か秘密があるんでしょうか。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第15話『変身! 両軍の事情!』


〈咲枝〉:ていうかブレスレット奪われてんけど……。アタシこれ、来週からヒロイン降格とか無いよな?


〈綾水〉:変身できない変身ヒロインはただの……。


〈咲枝〉:ヒロインや!

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