第11話 変身! 1号は近接、2号は射撃!
バスン。
バスン。
「……ど真ん中や。やるなあ綾水。そっちの才能があったんやな」
「やったですわっ。これならわたくしも、咲枝さんの隣で戦えますわね!」
「才能というか、『エナジー』の使い方だと思うディ。サキエは純粋なパワー。アヤミはこういう、感覚的な力を強化してるディ」
「なるほど」
「それでも嬉しいですわっ」
警察署の地下射撃訓練場に、ふたりはやってきていた。使うのは三木が開発した『エナジー武器』。エナジーを使う銃で、見た目は警察の使っている拳銃、ニューナンブというリボルバー式の、モデルガンだ。
『エナジー』さえ塗布されていれば、エアガンで充分なのだ。弾速や貫通力は綾水自身の『エナジー』で補える。反動も面倒な仕様も無いこちらの方が綾水に合っている。実銃を未成年に渡す訳には行かなかったという事情もあるが。
そのニューナンブM60に、ピンク色の塗装やハートマークの装飾が施されている。
「でもダサいですわ。このピストル」
「三木さんの趣味なんかなあ。アタシらの戦闘服に合うようなデザインにしたくて、元がただのリボルバーやから無理でした、みたいな雰囲気あるよな」
「……まあ、機能が実用的であれば良いですけれど。早く実戦で試してみたいですわ。幹部にも効くと良いですわね」
「そう言えばポポ。『幹部』って、何とかならへん? 名前分からんの?」
「おいらに訊かれても分からないディ。普通、敵に名乗る方がおかしいディ」
「まあ、確かに……。アタシらも変身バンクとか名乗り口上とかやってへんもんなあ」
「ばんく?」
♡
「ザイシャス様」
「……どうした」
所変わって。どこかの洞窟の中。怪人のひとりが、もうひとりに話し掛けている。
その、人間の男に似た姿の怪人はザイシャスと呼ばれた。
「各地を襲撃させた同胞が、次々と殺されました」
「だからなんだ。私が無駄な采配をしたと咎めたいのか?」
「いえっ! とんでもありません!」
ザイシャスは膝を突いて平伏する怪人に近寄り、頭を掴んで持ち上げ、自分と視線を無理矢理合わせた。
「ひいっ!」
「まあ、一理ある。まだひとりしか居ないエナリアを疲弊させようとした作戦だが、既にふたりめのエナリアどころか、奴らは『エナジー武器』を大量に作っていた。しかも射撃武器としてな。これは痛い。現状は我々は死に体だ」
「…………で、では、どのように」
「なんだ。私に次の作戦を催促しているのか」
「ひっ! いえ! 滅相もございません!」
ザイシャスに怯えきった様子の怪人。目がバシャバシャと泳いでいる。
「しばらくの目的は、土地の支配ではなくなった。奴らが我々を殺してエナジーを溜め込んだ、あの『ブレスレット』だ。ウインディアの秘宝。あれを奪う。奴らの力の出所を抑えてから土地を支配すれば良い。あとはあの小動物。『エナジーアニマル』を殺せ。それくらいならばお前達でもできるだろう?」
「は……はっ! 必ず!」
「もう行け。動きを気付かれぬよう、またこちらもエナリアの動きを捕捉し続けられるよう、定期的に下級の怪人を出現させておけよ。詳しい指示は待て」
「はっ! ザイシャス様!」
「……ちっ。せっかくエナリアの棲家を焼いたと言うのに、それを活かせないでいる。監視の目はどんどん増え、もうあんな派手なことはできなくなった」
♡
『目黒区にて怪人発生。現状の「エナジー武器」では対処不可能。繰り返す……』
「幹部
「行くディ!」
署内にアラートが響いた。空石からの連絡も入る。咲枝と綾水は、すぐさま飛び出した。
『春風。幹部であれば情報を持ってるだろう。捕らえられるか?』
「おけまるやで!」
「おけ、まる……?」
「サキエはたまに意味不明なことを言うディ」
変身し、現場へと向かう。エナリアが走る速度は車より速い。
因みに綾水も、『エナジー』による光で公衆に全裸を晒すことはなくなっている。
「まずアタシがやるわ! もし逃げたら撃ってくれな!」
「かしこまりましたわ!」
飛び上がり、着地する。周囲の一般人の避難は既に終わっていた。だが警官達が倒れている。コンクリートの地面には、弾丸や薬莢が転がっていた。
その中心に。
「げひひっ! エナリアだぁ」
「笑い方キモッ!」
通常の怪人よりも巨体で、厚い甲殻に覆われた怪人が立っていた。
「あんた、幹部か? この前の逃げた奴とは
まずは注意深く観察する。ただの大きい怪人ならば何度も倒してきた。
「くそっ! この野郎!」
「!」
そこに居た警官のひとりが、『エナジー武器』の銃で撃った。弾丸は『エナジー』の力により怪人に対しての殺傷力を得ている。
筈なのだが。
「ひひ~っ! 効かねえなあ。そんな軟弱な『エナジー』はなぁ!」
3発放たれた弾丸は、怪人の厚い甲殻に遮られ、ころんと地面に落ちた。
「…………あんた、もう下がっとり。怪我人の避難や。あのキモ怪人はアタシらが倒す」
「……すまん。頼んだエナリア」
警官がその場を離れる。訓練を受けているであろう日本の警察官に、頼まれる。咲枝は自嘲気味に笑ってしまった。自分は今、フリフリのコスプレをしているというのに。
「ほなやろか。柔よく剛を制したるわ」
「ひひっ! 柔い女の肉~っ!」
「キモッ」
だん、と一歩踏み出す。一瞬の内に、怪人の懐に入った。咲枝は基本、左手が釣り手で右手が引き手だ。つまり柔道において、『左利き』のスタイルをしている。彼女自身は右利きだが、柔道の際は左なのだ。
それは半身で構えた際に、身体の右側が後ろに来るということ。利き手である右手を、背後に備えておくことができる。
「きひひっ! 女が飛び込んでくるぜぇ!」
「良かったな」
怪人は両足を開いて、両手を挙げて咲枝を迎える。完全に油断しているのだ。このまま抱き締めて絞め殺せばそのまま食えると思っている。
柔道家相手に不用意に腕を出せば、『取られる』。
「ほっ」
「?」
ぱぱん、と腕を取り、潜り込む。開いた無防備の足を、腿で払い上げる。同時に取った腕を怪人の正面方向に引っ張り出す――
「がら空きじゃボケェぇ!」
――【内股】!!
「げひっ!?」
ズドン。
毎回、咲枝が投げた時には凄まじい衝撃と音が鳴る。怪人は受け身を取らないからだ。巨体が面白いようにくるりと回転し、コンクリートに叩き付けられる。
「ちょっと弱体させとこか。エナジードレ」
「痒いなぁ」
「!?」
が。
怪人は牙を露出させてギキギと笑った。
「ぎひっ! こんなものか。『ジュードー』。こんなものか、エナリアぁ! でんぐり返しがそんなに楽しいか!」
「こいつ……!」
そのまま爪の伸びた腕で掴みに来た為、咲枝はジャンプして距離を取った。動揺が隠せない。『一本』で終わらなかったのは初めてだ。
「足りねえなあ。『エナジー』が。それに使い方もなってないなぁ。これじゃあ俺様には勝てねえなぁ」
立ち上がる。殆ど無傷だ。分厚い甲殻は、投げ技の衝撃も吸収してしまっているらしい。
咲枝から、冷や汗が垂れた。
「……あんだけデカかったら自重で内臓潰れると思うねんけどな。……肉の中まで甲殻あるんかいな」
「サキエ! ヤバいディ! 効いてないディ」
ポポディがようやく追い付いてきた。
「投げが効かんのやったら、絞めか関節か。……とにかく寝技しか無いわな」
咲枝は考える。目的はこの怪人を捕らえることだ。倒さなくて良い。そして。
ならば柔道は最適であると。
「寝技に持ち込む隙を見付けんと。二度はタダで投げられてくれへんやろ」
「ぎひひぃ! 今度はこっちから行くぞぉ!」
「もう絵面が事案やで自分」
怪人はまた、両手を挙げて。大股でどすどすと走り始めた。そのままの勢いで咲枝を押し倒すつもりだ。咲枝も半身で構える。
その時。
「!」
ズドン。
腹に響くような重音が鳴った。
「……げ、ひっ?」
怪人の動きが止まり。
ズドン。
2回目の重低音。
「……ぐっ! なん、だと……!」
「!」
血が。怪人の身体から溢れた。2ヵ所。
ペットボトルキャップほどの穴が空いていた。
「アヤミの射撃ディ! あの甲殻を貫いたディ!」
「よっしゃナイス綾水!」
「……!」
ポポディの声で、即座に動く。咲枝は怪人に再び接近し、大外刈りで地面に倒して。
そのまま釣り手の腕を怪人の首に回し、引き手の方も脇に固める。身体全体で、怪人の肩を抑え込む――
「っしゃオラァ!」
――【袈裟固め】!!
「うぐっ!?」
がっちりと。極まった。
「アヤミ! やったディ! 初めての実戦で、幹部を倒したディ! アヤミの『エナジー』を集中させたから、貫けたんディ!」
「………………ぅっ」
ポポディが綾水の元へ飛んでいく。綾水は腰を抜かしたらしく、銃を構えたまま、へなへなと座り込んでいた。
「……こ、こんな『ガチ』っぽい音が、鳴るんですのね……。こんなファンシーな装飾のピストルから……」
「アヤミ?」
「!」
――全裸で。
「きゃあああああっ! なっ! ななんでですの!?」
「弾の威力に『エナジー』全部使ったんディねぇ」
「なんで『服の構成』と『弾の威力』のリソースが共有ですの!? 最悪ですわあああああっ!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈綾水〉:本当最悪ですわ! 未だ慣れませんわよこれ!
〈咲枝〉:銃撃ったら服弾けるて、発想が変態のそれやな……。
〈綾水〉:現代科学でどうにかしてもらいますわ! 三木様に頼んで!
〈咲枝〉:あー。それ多分、この作品のコンセプト的に無理やろうなあ。
〈綾水〉:冗談じゃありませんわ!
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第12話『変身! エナリアふたり、裸の付き合い!』
〈綾水〉:お風呂なら問題ありませんわ。ねえ咲枝さん!
〈咲枝〉:
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