第10話 変身! 対組織戦!

「ウインディア・レボリューション」

「ウインディア・レボリューション!」


 空石の性格的に。

 咲枝の性格的に。

 綾水の性格的に。


 『大事なこと』を、『内緒』にはできない。もう無責任な子供ではないのだ。事態は悪化している。幾ばくの猶予も無いかもしれない。


「………………な」


 綾水の両親は、高級ソファに腰掛けたまま、固まった。言葉も出ない。

 娘が突然、意味不明の言葉を唱えてから光を発しながら服を弾け飛ばして、フリフリのコスプレ衣裳に姿を変えたのだ。


「……お父さま。お母さま。綾水は、このお仕事を受けようと思いますわ」

「…………綾水」


 父親が持っていたカップは落とし、高級茶が絨毯に染みを作った。母親が掛けていた高級メガネはずり落ち、現実を直視できていない。


「……今、全て説明した通りです。『異世界』から『敵』が攻めてきており、それと戦う術を持つ者は今のところ、彼女達しかおりません」


 空石が説明をして、ふたりが変身し説明の補足をする。荒唐無稽な話だが、実際に『非現実』の事象が目の前で起きている。それに、事件は連日のニュースで知っていた。怪人やエナリアのことはテレビで公表はしていないが、『コスプレした女性が暴漢を倒している』ことはネットによって認知されている。怪人は一般人にも目撃されている。動画には、ポポディも映っている。そこに、ぬいぐるみのような生き物が。

 実在している。


「………………娘を、そんな危険な目に」

「お父さま!」

「ぐっ」


 綾水の決意は、その目に現れていた。それは『エナジー』となって、発せられている。何がなんだか分からない彼らをも、圧倒させられている。


「わたくしは、『世のため人のために生きよ』と。お父さまから教えられてきましたわ。今。ここでわたくしがやらねば。何のための『わたくし』でしょう。お母さま。今のこの『わたくし』は、あなた方が育んだ『賜物』ですわよ」

「……!」


 家族が戦争へ向かう。それを止めたいと思わない者など居ない。よりによって、何故、この子なのだ。そんな言葉が湧いて、声にならずに消えていく。


「…………空石さん。春風さん」

「はい」


 項垂れるように、頭を下げた。下げざるを得なかった。日本の法律とは関係なく。


「娘を、よろしくお願いいたします」


 この子は今、大人になったのだ。











「警察署にあったような、武術道場や屋外の運動場もありますわ。スポーツジムはあちらに。あちらの倉庫は、武器庫としても使えそうですわね。あと――」


 北城治家の敷地内。両親の暮らす屋敷の隣に、また大きな建物がある。今後はこちらを、怪人対策本部として使うことになった。


「春風。北城治さん」

「ほえ?」

「国から。君達へ巨額の報酬が支払われるだろう。君達のご両親にもだ。特に北城治さんは、『基地』の提供まで」

「ああ、もうその話は良いですわ。空石様」

「!」


 空石の真面目な会話を、綾水が切った。


「もう空石様も、正確には刑事さんではなくなったのでしょう? ここには『怪人から世界を守る』3人が居るだけ。警察や政府と連携は当然に取りますが、わたくし達は『何も気にせず』ここを使って良いのです」

「…………北城治さん」


 警察の面子を。綾水は配慮したのだ。笑顔でそう言われると、空石も笑えてきた。


「苗字は長いでしょう? 綾水と呼んで欲しいですわ。緊急時の会話を短縮できますわ」

「……分かった。ありがとう綾水。これからよろしく頼む」


 怪人との戦いは、刻一刻と状況が変わる。本部をここに置くということは、隣の両親も危険にさらされる可能性があるということだ。

 それを承知で。彼らは許可したのだ。


「いやずるいやろ!」

「はっ?」

「空石さん! ほならアタシも名前で呼んでーや! 咲枝て!」

「…………ああ、分かった。改めてよろしく頼む。咲枝」

「んひょおおおお! キタ――――!」

「サキエうるさいディ。キモイディ」











「――さて、まず報告が1点」

「ほい」

「はい」

「ディ」


 そもそもできたばかりの本部である。必要なものを警察署から持ってくるようなこともない。新本部ロビーにて、空石がふたりを集めた。


「三木から連絡があった。捕らえていた怪人を『殺害』したと」

「!」

「? どういうことですの?」

「綾水。『殺せる』ってことや。エナドレ(エナジードレイン)せんでも。つまりこれからは、アタシらが戦わんでも」

「えっ!」


 三木は、署内でどのような立ち位置なのだろうか。咲枝達には知る由もないが、この件に関してかなり自由な権限を持っている。『怪人』『エナジー』というこれまでの地球で観測されなかった事象を科学的に検証し、この戦争に役立てる役割を担っていることだけは確かだ。


「『エナジー武器』を作ったディ?」

「それは、文字通り『エナジー』を利用した武器という認識で良いか? ポポディ」

「そうディ」

「ならば、当たりだ。三木が言うには、『怪人から採取した成分不明の物質を塗布した銃弾や刃物で傷を付けることができた』そうだ」

「間違いないディ。ミキは凄いディ!」

「よっしゃ。これで雑魚怪人は無視してええやろ?」

「そうだな。ウチの100人の隊員による巡回は継続し、『エナジー武器』を持たせれば対応できる。既に量産体制もできているらしい。減った『エナジー』は、怪人を狩ることで補充する。形は違えどこれも立派な『エナリア』だな」


 物事には理由がある。原理がある。未知の事象も、検証を重ねて知り、応用する。咲枝曰く――


「ニチアサファンタジーも、現実に来てもうたらこうなるんやな。『女児しか戦えへん』筈やのに、その原理を解明して解決してまう。やっぱアニメの女の子達も大人を頼るべきよなあ」

「流石、現代科学ですわね。けど、そうなればわたくし達はお役御免ではありませんこと?」

「いや。ちゃう。やろ? ポポ」

「おうさ」


 怪人を警察が対応できるようになったとすれば。エナリアに仕事は無いのだろうか。

 そう簡単ではない。


「『幹部』は。それこそサキエとアヤミにしか倒せないと断言できるディ。これでおいら達は『対幹部』に絞って活動できるディ」

「なるほど。そうですわね。敵の全容がまだ分かっていないですもの。『組織』より柔軟に動けるわたくし達のような役割も必要ですわ」


 綾水も頷いた。これで、動きやすくなったのだ。


「まずはあの逃げた『幹部』を追う。俺は都内の監視カメラに映っていないか確認してこよう」

「よっしゃ。ならアタシは足で捜索や。行くで綾水」

「はいっ」


 体制が整った。配置も完了した。

 ここからが本当の『戦争』である。











「ウガァァアアアア!!」


『怪人が大量発生している! 場所を指示するから急行してくれ!』


 幹部出現以降ピタリと止んでいた怪人出現が、この日から頻繁に起きるようになった。それも同時多発的に。


「三木さん本当ほんまナイスタイミングやったな。これアタシだけやと見きれへんかったわ」


 幹部が出現しないか注意を払いつつ、咲枝達も防衛に参加する。


 ――【諸手もろて狩り】!!


「がはあああっ!」

「『エナジー武器』の為にドレインせん方がええんか?」

「いや、これだけ発生してたらこっちで倒した怪人はいただくディ」

「そか。ほなら綾水! あんたこれドレインせえ」

「わっ」


 仰向けに、後頭部からコンクリートにめり込んだ怪人が倒れている。咲枝が仕留めたのだ。そこへ、戦闘を見ていた綾水がやってくる。ふたりとも変身済みである。


「……わたくしも、戦わなくてはなりませんわ」

「最初は見とき。未経験でいきなり『戦い』はムズいわ。やけどいずれは、そらな。暇な時、一緒に格闘の勉強しよか。アタシも投げ技だけやと見栄え的にアレやし」

「見栄え?」

えから『エナジードレイン』や」

「はい。『エナジードレイン』!」


 倒れる怪人に手をかざし、唱える。すると綾水の腕に付いている金色のブレスレットに、『エナジー』が吸収されていく。怪人の断末魔と共に。


「『エナジー』は大事なんディ。変身するのにも要るし、パワーに直結するディ」

「分かりましたわ……」

「三木さんの『エナジー武器』何個か借りれへんか聞いてみよか。格闘はアタシで、綾水は銃使つこたら?」

「……確かに、遠距離攻撃はあれば強いですわね」

「いや見栄え的に」

「へ?」

「あーいやいや」

「サキエ何を言ってるディ」


『春風! まだ終わってないぞ! 次はひと駅先だ!』


「おっとすまん三木さん。行くで綾水。エナリアならひと駅くらい一瞬や」

「はいっ! 咲枝さん!」


 こちらには常に100人の空石直轄の警官とエナリアがいる。『エナジー武器』の開発が進めば、他の警察や自衛隊にも配備されるだろう。

 同時に、発生する怪人の数も未知数だ。あの『幹部』が人間と同じ、若しくはより知能があるのなら。

 ここまで来れば最早『ニチアサ』要素などコスプレ衣裳くらいしか無く、あるのはただの『組織戦』を基本とした『異世界間戦争』である。


「よっしゃ。ほな行こか」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:いやーやっと色々出揃って環境安定した気ぃするなあ。


〈綾水〉:わたくしも頑張りますわ!


〈咲枝〉:あんま気張り過ぎんようにな。命の保証あらへん仕事や。


〈綾水〉:が、頑張りますわ……!


〈咲枝〉:え子はえ子やねんなあ。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第11話『変身! 1号は近接、2号は射撃!』


〈綾水〉:銃を撃つのって気持ち良いですわねえ。


〈咲枝〉:あ、そういうキャラ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る