第8話 変身! 新スポーツテスト!
「ほら立てるか? きたぐすくばるさん」
「……綾水と、お呼びして欲しいですわ。お姉さま」
「お姉さまやめえ。綾水」
「はいっ」
「(なんでそんな嬉しそうやねん)」
咲枝の手を引いて、綾水も立ち上がる。綾水はくるくると回りながら自分の衣裳を確かめ始めた。
「着心地は良く、動きやすいですわね。きっと」
「……よお
「本当でしてっ?」
咲枝と比べると背も低く、顔立ちも幼い。高校生どころか、なんなら中学生と言われても不思議ではない。それに仕草が天然で可愛らしく、『女の子らしい』。
「(19か。まあ魔法少女やったらギリギリアウトやな。アタシは完全アウトやけど)」
「お姉さまも」
「やめぇて」
「こほん。咲枝さんも、よくお似合いでしてよ」
「んなアホな。こんなん子供が着るもんサイズデカしただけやんか」
「そこがエロいですわよ」
「なに言うとんのこの子。あっ。気ぃ抜くと変身解けるから気ぃ付けな。衣裳崩れてまた全裸やで」
「……その仕様は最悪ですわね。どのようないやらしい方が開発したのかしら」
「言われとんでポポ」
「おいらじゃないディ!」
♡
それからしばらくして、三木も道場へやってきた。
「おっ。噂の新人か。割りと魔法少女感あるな」
「アタシは無いって言いたいんかい」
「自覚あるだろ?」
「ドツいたろか」
三木は数人の職員を連れてきていた。彼らはメジャーや体重計なんかを持っている。
「春風。と、えー、北城治。取り敢えず、変身後の君達の体力測定をやろうと思ってな。怪人発生から今日まで細かいところは気にせず来たが、そろそろ本格的に検証、考察していこう」
「ほお。
「不安ですわ……。そもそも服を替えて身体能力が上がるものでしょうか」
「そもそも『エナジー』てなんやねんあやふや過ぎるやろ。もっと科学的に説明できんとな、ポポ」
「いやおいらも知らないディ。カガクとか」
♡
「まずは室内でできるものからだな。項目は1999年に改定された『新スポーツテスト』から」
「なんやそれ」
「見てる人にも分かりやすくな」
「?」
●握力――
春風咲枝……測定器破壊により測定不能
「うわっ」
「備品壊すなよお前」
「いや自分でもビビったわ。ゴリラやんアタシ」
北城治綾水……測定不能
「これ以上握ると壊してしまいそうですわ」
「見ろ春風。こうやって加減すれば良いんだ」
「……すんませんでした」
●上体起こし――
「多分アタシらで支えな普通の人ぶっ飛んでまうで」
「確かに。握力だけでも吃驚しましたもの。わたくしの記憶では以前測った時は10kg程度でしたから」
「変身前でも一応計測するか。まずは一通り変身状態で」
春風咲枝……65回
「床がへこんだぞ」
「すんません……」
北城治綾水……2回
「あはっ! あははひゃ! くすぐったいですわっ!」
「……ええの? 三木さん」
「…………まあ、春風しか支えることができる者が居ないしな。取り敢えず先進めよう」
「普通に抑えてるだけやで? 綾水」
「むっ。……これは無理ですわ。足首を触られるだけでくすぐったすぎて」
「今までどないしてたん」
「変わらず転げ回っておりましたわ。19年間」
●長座体前屈――
「これパワーとか意味ないやんな。柔らかさは変わらんやろ」
「確かに」
春風咲枝……55cm
「おっ。平均より全然上じゃないか」
「中学から毎日ストレッチやっとるしな」
北城治綾水……63cm
「うおっ。『床ぺたん』や。なんかバレエとかやっとったん?」
「いえ特には。幼稚園の頃からずっと『ぺたん』ですわ」
「なんやのこの子……」
●反復横跳び――
「多分床抉るけどやろか?」
「……外でやるか」
春風咲枝……88回
「土埃が凄い」
「他に感想無いんかい」
「残像拳」
「あほ」
北城治綾水……50回
「結構難しいですわ」
「あー。この辺から単純なパワーやなくて運動神経要るんやろなあ」
「転けそうになりましたわ。あと線を越えていなかったり」
「ここまで見てる感じアタシとパワー自体は
「これまでの『エナジードレイン』の分、サキエの方が多分強いディ」
「あー。そっか」
●立ち幅跳び――
「これも外か?」
「せやね。多分屋上越えるで」
「わたくしもそんな気がしますわ」
春風咲枝……測定不能(マジで屋上まで跳んだ)
「おーい」
「わたくしも今行きますわーっ」
北城治綾水……測定不能(壁に当たって落下したが無傷)
「も、目測を見誤りましたわ……」
「まあ運動しとらんかったらそうなるわなあ」
●20mシャトルラン――
「終わらん気がするねんけど」
「テープ切れるまですれば、また測定不能ですわね」
「さっきからあんま測れてへんよな」
「そろそろ『エナジー』が切れるかも知れないディ」
「えっ。
春風咲枝……214回
北城治綾水……214回
(共に途中で変身が切れて中断)
「最っ悪やああああっ!」
「きゃぁぁぁあ!」
「……女性職員達、頼んだ」
「は。はいっ」
「ポポこらボケェえええ!」
「いやおいら悪くないディ! 寧ろ教えてあげたディ!」
♡
「……しかしまあ、途中経過見る限りでも『超人』だな。人間ならあり得ない記録だ」
この日は終了となり、残りの種目はまた後日となった。ふたりは着替えて対策本部事務所へ戻ってきた。
「わたくしのお洋服が……」
「ドンマイやなあ。もう帰るか? 別に無理にやること無いし」
「いえ……。咲枝さんと一緒にお仕事したいですので……」
「……そうかい」
綾水はどんよりとしていた。測定中はテンションも上がっていたが、ふと冷静になって服のことを思い出したのだ。因みに今は警察が用意した、咲枝とお揃いのジャージを着ている。
「ハンドボール投げなど、下手をしたらここから東京湾まで投げそうだな」
「流石に無理やろそれは」
「むっ。春風。出動だ。新宿で怪人発生」
「よっしゃ。行くでポポ、綾水」
「はいっ」
「今日は2回目の変身だから『エナジー』切れに注意するディ」
「瞬殺したら
「はいっ!」
♡
空石の運転するパトカーでふたりが現着する。咲枝は既に車内で変身済だ。
咲枝が飛び出した先には、怪人は2体、立っていた。
「エナリアか。早いな」
「どうやら人間どもの技術で、情報のやりとりが以前の時代より遥かに速くなったそうでございます」
角や甲殻のある巨体の怪人と、隣に人間と変わらない見た目の怪人。シルエットは人間で、シャツとジーンズを着用しているが。肌は深緑色で額から角が生えている。
咲枝が言葉を聞く限り、巨体の方が敬語を使っている。
「……殺してみろ」
「お安いご用で!」
巨体の怪人が、咲枝に向かって突っ込んできた。咲枝は半身で構える。
「2体て初めてちゃうか?」
「間違いなく幹部ディ! 気を付けるディ!」
「よっしゃ任せとき」
とは言え、怪人の取る行動は力の限り突っ込み、そのパワーをもってして叩き潰そうとしてくるだけだ。なんの捻りも無い。それは、人間と怪人でここまで力の差があれば、人間が何をしても無駄であるが。
柔よく剛を制す。
「ほっ」
「!? 離っ!」
三木が調べた所、怪人とエナリアの『パワー』は殆ど同じだ。なら、体格の差で怪人に分があるように見える。
「よいっ! ……っしょぉおおっ!」
技とは。技術とは。使えば女子供でも暴漢を撃退できるものである。つまり。力の弱い者が、強い者を倒す為のもの。
咲枝は怪人の腕を取りながら、腰を深く落とす。背を地面に着け、片足を怪人の腹に着ける。怪人は、走る勢いそのまま、前方へ突っ込んでいく。
咲枝が蹴り上げると。怪人の身体は縦に回転を始め、突っ込む勢いは方向転換。そのまま後頭部と背中を地面に強打――
――【
「がはぁぁあ!!」
同じ力同士ならば。元柔道部の咲枝にとって怪人など、ただの『素人』に過ぎない。成功率の低いちょっと不安な技も、このように簡単に成功するくらいには。
「エナジードレインや!」
「おぉぅんぎゃあああああ!!」
鮮やかに。巨体の怪人は『エナジー』となって消え、後には割れたコンクリートのクレーターが残った。
「…………凄いですわ。間近で見ると、こんなに。……格好いいですのね」
綾水はパトカーから降りた所で空石と、目をキラキラさせながら見ていた。
「次はあんたやで」
「ふむ」
咲枝が、もうひとりの怪人『幹部』を睨む。幹部は腕を組ながら頷いた。
「支配が遅々として進まないと思っていたが、やはりエナリアだったというわけか。しかも『エナジー武器』を使わず下位の怪人を屠る強さ。こちらも対策を練らねばならないな」
「幹部やったら色々知ってるやろ。こいつは捕まえるで? 三木さん」
「ああ。頼む」
「――ふむ。今回は退こう」
「は?」
武装した警察に囲まれている。咲枝も構えている。だが。
幹部の怪人は次の瞬間、『エナジー』による強烈な光を発して。
「!」
「なんやと!」
光が収まった時には、姿を消していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:遂に来たで幹部! 展開早ない?
〈綾水〉:あははっ! はひゃひゃひゃ!
〈咲枝〉:……綾水? いつまで
〈綾水〉:ひぃ。ひぃ。もう、腹筋は苦手ですわ……。
〈咲枝〉:寧ろ笑いすぎて鍛えられそうやな……。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第9話『変身! 幹部との戦い!』
〈咲枝〉:逃げよってからに
〈綾水〉:わたくし、その咲枝さんの『ボケェ』結構好きですわ。女性の声でありながら、渋く低めに言う感じが。
〈咲枝〉:なんなんこの子……。
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