第7話 変身! ふたりめの戦士はお嬢様!?
咲枝は。
普段、街をパトロールする際はジャージを着ている。量販店で購入した安物である。変身の度に吹き飛ぶ為、警察の経費で賄われている。
だがたとえ、そうでなくとも。動きやすい服装にはするだろう。間違っても、変身する前からフリフリの付いたドレスなど着ない。
「ごきげんよう」
彼女は応接室に入る際に、そう言った。
「北城治綾水と申しますわ」
そして、上品な仕草と柔らかい表情で自己紹介。丁寧にぺこりと頭を下げた。
「…………えっ」
「どうぞよろしくお願いしたし」
「ちょっ。すまん名前」
「はい。
1度目で聞き取れなかった咲枝がもう一度訊ねた。綾水はにこやかに、再度名乗る。
「………………きた、ぐすみ」
「覚えづらいとよく言われますわ。親しい友人は『ほうじょうじ』とも。いえ、もっと親しければ名前で」
「………………!」
咲枝は絶句した。空石もだ。彼は名前だけは電話の際に知っていたが、まさかこんな人物だとは知らなかった。
「ええと。歳は19。総応女子大学2年生。アルバイト含め就労の経験はありませんが、お手伝いできることがあれば精一杯頑張りますわ」
栗色の髪を縦ロールにして、ドレスのようなフリフリの付いた洋服。入ってきた瞬間に花の香りがした。
「…………19」
「はい。貴女が春風咲枝さんですわね。ムービーで拝見しましてよ。是非、お気軽に『綾水』とお呼びして欲しいですわ。よろしくお願いいたしますわ」
「お。……おう。よろしゅう……しますわ」
面食らった。咲枝はひきつった顔で挨拶を返した。
「おいらがポポディ! 動画観てくれたんディ?」
「まあ。本当にぬいぐるみが喋りますのね。とっても可愛らしい」
「えっ。そ、そうディか? えへへ……。って、ぬいぐるみじゃないディ!」
ポポディはいつも通りの様子であったが。
♡
「さて、北城治さん。ネットで見て知っているとは思うが、春風は怪人と戦う仕事をしている。怪人というのは、最近現れるようになった未確認生物で、人類に対して非常に敵意を持っている危険な生物だ」
「はい。存じておりますわ。大学内でも今、その話題で持ちきりですもの」
応接室のソファに座る。咲枝と空石、テーブルを挟んで向かいに綾水だ。
「その怪人は、とてつもなく強い。銃器も通用しない程だ。そして、怪人に対抗できるのは今のところ春風のみ。彼女は『変身』をすることで怪人並のパワーを発揮することができるようになる」
「はい。パワーというか、柔道ですわよね」
「まあそれは、アタシの戦闘スタイルなだけやけどな。中学の時柔道部やってん」
「まあ素晴らしい」
「話を戻すぞ。現状、『変身』ができるのが春風のみなんだ。『エナジー』という謎の物質? に適合していないといけないらしく、その判断材料として、ポポディの言葉が分かる、ということであの動画を撮った」
「なるほどですわね。理解しましたわ。ではわたくしは、『変身』して怪人と戦うことを期待されているのですわね」
「そうなる。できれば、春風の負担を減らしてあげたい。勿論強制じゃない。君が選んでくれ」
「…………ふむ、ですわ」
綾水は顎に手をやって考える。その仕草も似合っていて品があると咲枝は感じた。
「そう言えばブレスレットはもう1個あるん? ポポ」
「あるディ。ほら」
ポポディはどこからか、金色のブレスレットを取り出した。
「アタシのと色
「特に無いディ。赤と金はウインディアを象徴する色ディ」
「春風さん」
「ん?」
「わたくし、格闘技どころか運動自体ほとんど経験が無いのですが、それでも戦えるものなのでしょうか」
ポポディから受け取ってしまったブレスレットをまじまじと触りながら、綾水が訊ねる。
「どやろなあ。確かにアタシは柔道やっとったけど。でも力は
「……そうですわね。『エナジー適合者』って、すぐには見付からないものなのでしょう?」
「そうディ。あの動画から何日も待って、やっとアヤミだけディ」
「なら、軽々しく今すぐにお返事する訳には参りませんわね。お時間いただけるなら、色々と試させてくださいませ。空石様」
「……ああ。分かった。分析に長けた三木も呼ぼう」
「(空石様?)」
「誰かのお役に立ちたいと考えるのは、淑女なら当然のことですわ!」
綾水はブレスレットを握り締めて立ち上がった。基本的に、やる気があって良い子のようだ。空石も咲枝も、そこは安心した。
♡
「空石さん」
「なんだ?」
「総応女子って、スーパーお嬢様大学やんな」
「そうだな。偏差値も高い。彼女の出身は沖縄だが、入学に合わせて家族ごと引っ越してきたらしい」
「エグ……。箱入り娘やん。戦わせて
「まずは彼女自身の意思だろう。まあ、
「頑張ってな」
「君も来いよ?」
「いや、アタシはほら。パトロールあるし」
道場へ向かう途中の会話にて。
♡
道場に到着した。綾水はブレスレットを持って、ポポディへ振り返る。
「では。どうすれば変身できるのですか? ポポディさん」
「『ウインディア・レボリューション』って叫ぶディ」
「あっ! ちょ待っ……!」
「ウインディア・レボリューション!」
「ああっ!」
異種族であるポポディは、人間の服がどうなろうと気にしない。そして綾水は、何も知らない。
よって、変身の合言葉を聞いて即座に叫んでしまった。気付いた咲枝が止めようとしたが、もう遅い。
「!」
怪人から『エナジー』を吸収していない金のブレスレットは、放つ光は弱く、また咲枝のように慣れていないため制御もできない。
「……えっ?」
結果、綾水の着ていた、値が張るであろうフリフリのドレスは弾け飛んだ。
「(スタイル良っ! 運動しとらんとか、ほなら天然物かいなその美乳とくびれ)」
「――いっ」
間に合わないと悟った咲枝は、取り敢えず空石の目を塞ごうと襲い掛かる。空石も咄嗟に目を逸らすが――
「きゃぁああああああっ!!」
警察署から響いてはならない悲鳴が響いた。
♡
自分の身に起きた事態を素早く把握した綾水は、身体を手や脚で隠しながらその場に
「な、ななな……なんですのこれぇっ!」
意味が分からない。自分は騙されたのか?
「!」
そんなことを思っている間に、綾水の身体は『戦闘服』で覆われていく。バシン、バシンと綿に似た材質のフリフリ衣裳が勢いよく装着されていく。白を基調として、黄色の装飾が施された、咲枝のものとは色違いの衣裳が。
「やったディ! 変身成功ディ! ……が。アヤミ、大丈夫ディ?」
「………………!」
あまりに一瞬で色々な事が起きた為、綾水は固まってしまった。
「きたぐすみさん!」
「うっ」
空石をシバいた咲枝が、すぐさま綾水の元へ駆け寄る。
「……な。こ、これはなんですの? 春風さん。それとわたくしは
「いやいきなり変身するとは思ってへんくて。すまん。変身する時な、服吹き飛ぶねん」
「そ、そんな……。こと、聞いていませんわ。……春風さんも?」
「せや。アタシも変身しよか」
「へっ。ちょっ」
変身すると一旦裸になる。このことは当事者である女性からすれば。当然ながら。
『超大問題』だ。
それを身を持って思い知った綾水は、立ち上がった咲枝を心配した。また、自分のようになるではないかと。
「ウインディア・レボリューション」
「!」
カッ!
と。まばゆい光が発せられた。それは道場内を包み込むかのように強く、しかし優しい光だった。目を開けていても閉じても、視界は真っ白のまま。咲枝の裸など意識しても見えない。
「…………!」
光が収まる。綾水の目の前には、既に変身済みの咲枝が立っていた。
「『全裸』は
「…………かっこいい……ですわ」
「へっ?」
綾水の頬は赤く染まっていた。だがそれはもう、自らの恥じらいではない。
「春風……いえ。咲枝お姉さま」
「……は?」
本物の『変身ヒロイン』を現実で実際に見た少女は。皆が憧れる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈綾水〉:初めまして!
〈咲枝〉:そう来たかー! 未成年やけどちょっとお姉さんな19歳のふたり目な! ほいでお嬢様属性とか、庶民代表のアタシとも
〈綾水〉:因みに、この作品内では最終話まで、日本国の成人年齢は20歳のままですわ。そこの所はご理解くださいませ。
〈咲枝〉:やるんか知らんけど改憲もまだやで!
〈ポポディ〉:ちょ……関係ないこと言うなディ!
〈みんな〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第8話『変身! 新スポーツテスト!』
〈綾水〉:でも変身の度に裸になるのは意味不明ですわ……。
〈咲枝〉:せやねん。すまんな。
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