第6話 変身! 適合者を探せ! 動画大作戦!

「……えー。地球のみなさんこんにちは。おいらはポポディ、ですディ」


 ポポディが、カメラの前で挨拶をしている。彼は緊張しているようだ。カメラや映像というものはこちらの世界に来て初めて知ったが、既にどういうものか理解しているようだ。


「もし、おいらの言葉が分かったら。連絡してきて欲しいんディ。おいらの言葉は普通の人間には分からなくて、特別な人間にだけ分かるんディ」


 咲枝が出した案がこれだ。『エナジー』適合者かどうかの判断は、彼らの言葉を理解できるかどうかだった。彼女が実際に体験している。ならばポポディの声を、言葉を広範囲に発信すれば良い。

 今は、それが簡単にできる時代だ。


「おいらがこのまま電話番号とメールアドレスを言うディ。おいら達は今、巷で話題の怪人達と戦っているディ。その為に、おいらの言葉が分かる人間を探しているんディ。力を貸して欲しいんディ。一緒に戦って欲しいんディ。この世界を守ろうディ」


 カンニングペーパーを見ながらだが、気持ちはこもっていると咲枝は思った。思えば、彼らは故郷を既に支配されているのだ。必死になるのは当然である。


「――以上ディ。連絡お待ちしているディーっ」


 ぺこりと、身体全体の半分もある頭を下げて、撮影は終了した。











「SNSか」

「そうそう。ハッシュタグ付けて拡散や。今な、結構話題やねんで。アタシらのこと。テレビのニュースやとやってへんけど。まあそらあんだけ暴れたらなあ」


 時間にして2分足らずの動画を、素早いタップ捌きで投稿していく咲枝。


「俺はあんまりやらんから分からん。若者の流行りは」

「そない言うたかて、空石さんも若いやんか。そう言えばいくつなん?」

「……28だ」

えやん!」

「うおっ」


 空石の年齢に、咲枝は飛び跳ねた。空石は吃驚してコーヒーを溢してしまいそうになる。


「めっちゃえやん! 5つしか変わらへんし!」

「……何が良いのかさっぱりだがな」

「よっと。そない言うてる間に完了や。警察やなくてアタシの個人アカやけど。まあ拡散されるやろ。しばらく反応待とか」

「……緊張したディ」

「お疲れさん。ご飯にしよか」











 それから数日。


「あっ。おはようさん空石さん。なんか連絡来ました?」

「いや。そっちは?」

「いやあ、ワケわからん奴からのクソリプはめっちゃ来るけど、多分全部ちゃうわ。まだ様子見やな。定期的に発信し直さな」

「なんか、世界中においらの動画が出回るって変な気分ディ」

「一躍有名人やなポポ。いや有名ぐるみ」

「ぐるみって何ディ」











 さらに数日。


「オラァボケェ!」


 ――【たい落とし】!!


「ぐばっはぁぁっ!!」

「即座にエナジードレイン!」

「ぎゃぁああああっ!!」

「ジャージ!」

「あいよっ!」

「変身解除っ!」


 怪人を倒す度に、動きが効率化されていっている。もはや咲枝にお色気要素など微塵もありはしない。戦いではなく、『仕事』。もはや作業と化していた。


「ふぅ。まあこんなもんやな。大体週5〜6で来てくれるから休みもあるっちゃあるし。本当ほんまに東京都内しか現れへんな。楽でえけど」

「油断はできないディ。もっと強い怪人も居るし、そろそろ幹部とかが出てきてもおかしくないディ」

「幹部て。悪の組織っぽいけど、本当ほんまなんなんあいつら?」

「分からないディ。怪人はずっと昔から怪人と呼ばれていて、悪さをするって認識と事実だけディ」

「まあえけども。適合者の連絡来とるか?」

「来てないディ」

「なんでアタシのスマホ勝手に弄っとんねんアホ」

「サキエが使い方教えてくれたんだディ!?」











「……うーん」

「どうしたんディ?」


 怪人を倒した、その日の夜。

 咲枝の自宅にて。自分が変身している時の写真を見ながら、うんうんと唸っていた。ポポディも不思議そうに訊ねる。


「やっぱどう見てもキツいよなあて」

「何がディ?」

「戦闘服やって。23の女が着るフリフリの量ちゃうやんこれ。こんな派手なピンク色で。アタシ魔法少女か」

「まあ魔法少女みたいなものディ」

「アホ」

「ひどいディ。前から思ってたけど、サキエはなんか、文句ばっかりディ」

「…………う。確かにそうかもしらん。すまん。あんたかて故郷取り返すのに必死やのにな」

「そうディ。ダサいとかキモいとか、失礼ディ。サキエはフリフリ似合ってるって最初からおいらは言ってるディ」

「…………でもな、ポポよ」

「なんディ?」

「そらな。衣裳自体は可愛かわええ思うで。色もデザインも。やけどな、アタシが着るからアカンねん」

「何でディ? 別に良いディ」

「……凄くごっつ、変やんか。アタシみたいな、少女なんかとっくに過ぎた23の女が。アタシみたいなガサツな関西人が。フリフリのコスプレして『レボリューション!』て。……アタシ自分で耐えられへん時あるわ」

「サキエ」

「いや分かっとるよ? アタシが戦うんは皆を守る為やって。そやから戦えるって。やけど……。これ見てみいな」

「?」

「動画や。今日の奴。市民に撮られてアップされとる。なんやこのガニ股。ブッ細工な表情。アタシ、全然、キモいやんか」

「そりゃ必死に戦ってるから歯を食い縛って力は入るし足も広げるディ。そんなの全部おいら達や人間達の為で、全部格好良いディ」

「…………あんたえ奴やなあ。ポポ」

「なんか今日のサキエ変ディ。おいらを褒めるとか」

「たま~には、そういう日もあんねん。ポポ、今日何食いたい?」

「選んで良いディか?」

えで。基本人間と同じモン食うんは吃驚したけど」

「ならおいら、焼き肉食べたいディ」

「おっ。えなあ。運動しとると太らへんし、焼き肉行こか」

「やったディ!」


 その、動画に書き込まれているコメントは。応援は貰って、批判や貶しは無視したら良い。幸い、咲枝は無視できる性格であった。今日よりうんと、落ち込まない限り。











「来たぞ。春風」

「は?」


 そして。

 ポポディの動画を拡散し始めて、2週間が経った。それは咲枝が『エナリア』として活動を始めてから1ヵ月が経つことを意味していた。


「ポポディの動画の台詞を。日本語訳して完璧に復唱して証明した」

「!」


 ここまで、順調に来ている。


「確実に『エナジー適合者』だ。今日の午後、署に来ることになった」

「マジか! やったでポポ! 仲間や!」

「やったディ! これで戦士がふたりになるディ!」


 さらにここで変身ヒロインが増えるとなれば。ウインディア解放も近い。そんな気さえした。











「よっしゃ今日はテンション高いでえぇぇっ!」

「ぐっ! 貴様エナリアぁっ!」

「遅いねんハゲ!」


 ――【払い腰】!!


「ぐっはぁぁあ!」

「エナジードレ……! ちゃうわ今回は捕まえろて三木さん言うてたな」

「ぎゃぁあっ!」

「あー、ちょい吸ってもうた。すまんすまん」

「サキエ! お疲れ様ディ!」

「おうポポ。ジャージサンキュ」

「貴様エナリアぁ! 許さんぞ! 必ず報復してやる! 貴様の家族は全員殺して、貴様はこの手で犯し! 怪人の子を産み続ける孕み袋にしてやるっ!」

「お前そんな台詞ニチアサでやったらアカンで本当ほんま。もうちょい吸っとこか」

「やめっ! ぎゃぁあ! 正義の味方がこんなことをして良いのかぁ!」

えやろ別に。お前敵やし。正義とか悪とかあやふやな観念論に興味無いわ。『敵か味方か』『害か益か』。関西人は現実的やねんすまんな。ほなもうちょいだけ吸っとくわ」

「ぁぁぁぁあ!!」

「……流石に味方のおいらもドン引きディ」











 そして。


「…………」

「サキエそわそわしすぎディ」

「いや緊張するやろこんなん!」


 いつもの応接室。『エナジー適合者』との待ち合わせの時間。


「入ってくれ」

「はい」

「!」


 現れたのは。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:春風咲枝やで! って毎回なんなんこの挨拶? 何回ハイテンションで自己紹介すんのアタシ。


〈ポポディ〉:知らないディ。ていうか今週でふたり目のエナリア出てこなかったディ。


〈咲枝〉:それはもう仕方しゃあ無い。アタシ的には空石さんの年齢聞けただけで御の字やで。


〈ポポディ〉:本当にサキエ的ディね……。


〈咲枝〉:どんな子やろか? 普通に変身ヒロインぽく13歳とかの子か? それともアタシより年上とかあるか? 本当ほんま予想つかへーん!


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第7話『変身! ふたりめの戦士はお嬢様!?』


〈ポポディ〉:取り敢えず落ち着くディ。


〈咲枝〉:なんにせよ楽しみやわぁ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る