第6話 魔王のプライド


 カーリアがワシの家を訪れ、帰っていったのは一月前。

 今日ワシは魔族領にあるライガルの国に来ておる。

 その理由は・・・

「これからを鍛え直してやる!有り難く思うが良い!」

 ここ数百年、怠けに怠けておった魔王達をこってり絞ってやらねばならんのじゃ。

 こやつらのレベルは凡そ1400~1500程。    『最初の魔王』の1000分の1以下しかない。

 ハッキリ言って弱すぎるぞ。

 せめて『最初の魔王』の、レベル10000位にはなってもらわんとのう。

「姉ちや~、待ってよ~。急にどうしたの~?」

 突然集められ、何がなんだかわからないといった顔をしておるロウカーが聞いてきた。

 うむ、まあそうか。

 こやつら三人は問答無用で連れてきたからの。

 仕方無い。

 説明してやるか。

「つい一月前、ワシの家にカーリアが訪れたのじゃ。」

『!?』

 ライガル以外の魔王達は驚きの顔を見せる。

 当然じゃろうな。

 カーリアが以前ワシの元に訪れたのは二千年位前じゃ。

 その時のこやつらはまだまだ幼かったからのう。

 一度会ったことはあるじゃろうが覚えてないじゃろう。

「お姉様。もしかして・・・闘ったのですか?」

 恐る恐るといった様子で、ゴクリと唾を飲みながらワシに聞いてくるエレパオ。

「闘うわけないじゃろ。もし仮にワシとカーリアが闘いでもしたら・・・世界の半分、いや、この世界そのものが滅ぶかもしれんからな。」

 血の気の引いた顔を見せる四人の魔王。

 そう。

 それだけカーリアは強いのじゃ。

 当然じゃろ?

 何てったって最高位神の一柱なんじゃからな。

「問題なのはそこのライガルがあっさりカーリアに捕らえられ、しかもその正体に気付けんかったことじゃ。」

 3人の魔王は一斉にライガルを見る。

 それはそうじゃろう。

 破壊の女神に捕らえられた。

 つまりライガルはカーリアと接触したということになるのじゃ。

「ライ君、よく無事だったね。」

 エレパオはライガルを心配そうに見ている。

 確かにの。

 もし下手に抵抗していたら只では済まんかったかもしれん。

 じゃがそれすらもライガルには出来んかったのじゃ。

 あまりにも力の差がありすぎるでの。

 おそらく対峙しただけで心を折られていたに違いない。

「一目見ただけで力の次元が違うことがわかったからな・・・悔しかったが無抵抗で捕まる選択をしたんだ。」

 面目無いといった表情をしているライガル。

 まだ可愛げがあるかのう。

 じゃからじゃ。

 裏世界に舐められんようにするためにも、こやつらには強くなってもらわねばならん。

「今回のライガルの選択は間違っておらんじゃろう。しかしの。そなたは自分を捕らえたものがカーリアじゃと気付かんかったろう?何故じゃ?」

 責めているわけでは無いが、ワシはライガルに理由を聞いた。

「それは・・・相手が圧倒的過ぎて考えることを止めてしまったから・・・」

 オドオドとしながら喋るライガル。

 やはりそういうことか。

 この表世界に四大魔王よりも強い存在はそう多く存在しない。

 ワシと三大神、均衡の森に住むシロクやアオイ達、そして原素を司る神々はさておき、単純に魔族や人族を基準に考えるのならば敵はいないじゃろう。

 そういった狭い範囲でのピラミッドの頂点に長く居座ってしまった弊害と言えるかの。

 自分より強い相手が急に目の前に現れたときの対処法が、こやつらの中では皆無なのじゃ。

 これではカーリアでなくとも、例えば裏世界の守護をしておるドラゴンが一体現れただけでも、何も考えずに降伏してしまうかもしれん。

 こやつらは『最初の魔王』の力を受け継いでおるのじゃ。

 情けない姿を晒させる訳にはいかん!

「よくぞ素直に嘘を言わず話してくれた。偉いぞ。そうじゃな。思考停止してしまうほどの力の差。恐怖がそなたの頭の中で一杯になったということじゃろう。しかしの。それはつまり相手に何の目的があるのか、捕まった後自分がどんな目に合うのか、そこまで考える余裕がなかったということになる。」

 ワシの言葉を聞き、背筋をゾッとさせているライガル。

 やっとわかったか。

 もしライガルを捕らえたのがカーリアではなく、魔族に恨みを持つ何者かだとしたら?

 抵抗せずに捕らえられたとしても、その後利用されるだけされて殺させることもあったかもしれんのじゃ。

 状況を見て捕らえられた振りをするのはよいが、その後の打開策まで考えなくては簡単に命を落とすことになりかねん。

 本来思考停止しておる時間などないのじゃ!

「今回はたまたまライガルが捕まったが、カーリアとしてはこの中の誰でも良かったはずじゃ。それは何故か。あやつにとってそなた達は脅威でも何でもないからじゃ。わかるか?そなた達は舐められておるんじゃ!悔しくないのか!」

 ワシは四人に檄を飛ばす。

 カーリアがこやつらを侮っていることは事実じゃ。

 しかし決してこやつらを傷付けないであろうこともまた事実。

 カーリアにしても、こやつらにはがあるじゃろうからのう。

 じゃが悔しがってもらわねばならん。

 アオイ基準でいえば、こやつらは今や大した実力者では無くなってしまっておるのじゃからな。

『悔しいです!!』

 声を揃えて言う四人の魔王。

 よし!

 よくぞ言った!

「ならばそなた達を強くしてやろう!行くぞ!」

 言ってワシは指をパチンと鳴らした。


 ・・・


 ・・・


「ここは・・・」

 辺りの景色を見て恐る恐る言うドワング。

 他の面々もキョロキョロ視線を移しながら警戒しておるな。

 まあ萎縮してしまうのは仕方無いかの。

 ここは『炎翼の迷宮』という名のダンジョンの中じゃからのう。

 ただ広い空間の中、業火を帯ながら多岐に伸びる道。

 そしてその道の先にはそれぞれ扉があり、侵入者を試す為の罠が待ち受けているのじゃ。

 因みに攻略レベルは・・・5000じゃ。

 ここで出てくる一番低いレベルの魔物さえ、こやつらでは全力以上の力を使わんと勝てんじゃろう。

「これより、そなた達にはこのダンジョンを突破してもらう。期間は・・・そうじゃな、10日で攻略してみせよ。」

 無理難題をいうワシに、こやつらは思いの外乗り気じゃった。

「任せてくれ!俺の本当の力をいよいよ見せてやる!」

「僕も~頑張るよ~!」

「私も!やってやるわ!」

「魔法での援護は任せてくれ!絶対に俺達の力で攻略してやろう!」

 端から力を合わせてダンジョンに挑むつもりの四人。

 うむうむ。

 わかっておるではないか。

 こやつらのレベルでは誰か一人でも勝手なことをしてしまっては即大ケガじゃ。

 しかし役割分担して挑めば確実にレベルを上げながら進むことが出来るじゃろう。

「では行くがよい!そして力をつけて帰るのじゃ!」

 ワシは四人の魔王を一つの扉の先へと送り出す。

 うむ。

 皆いい面構えじゃ。

 きっと新たなる力を手にすることが出来るじゃろう。


 ・・・


 と思っておったのじゃがのう・・・

「お姉ちゃん!助けて!」

「ムリ!ムリですわ!」

「うわ~、僕死ぬかも~。」

「魔法が効かなさすぎる!」

 最初に出くわした魔物に手も足もでないで逃げ惑う四人。

 いや、勝てんことはないはずなのじゃが?

 相手はレベル2300程度のキングサラマンダーじゃし、やりようによってはこの四人なら圧倒出来るはずじゃ。

 というか寧ろ幸運なのじゃぞ?

 おそらくこの魔物はこのダンジョンの中でも最弱の部類じゃろうからな。

 いきなりレベル4000越えが出てきたらワシが少し手助けしてやるしか無かったが、折角こやつらでも力を合わせれば勝てる相手が出てきたのじゃ。

 これを幸運と言わすして何と言う?

「ええい!逃げるな!キチンと連係を組まんか!先ずはエレパオ!そなた魔力を防御にだけ使え!無闇に攻撃しようとするな!」

「ハ、ハイ!」

「ライガルは手数が多すぎる!それでは魔力剣の本領が発揮出来んぞ!防御はエレパオに任せてそなたは必殺の力を溜めるのじゃ!」

「わ、わかった!」

「そしてドワング!防御力向上と攻撃力向上の支援魔法をエレパオとライガルそれぞれにかけるのじゃ!」

「うん!」

「ロウカーはライガルが相手に攻撃を当てた後、すかさずスキル『虚脱』を使え!」

「オッケ~!」

 それぞれがワシの指示通りに動き、キングサラマンダーを攻略する準備が整った。

 膠着するキングサラマンダーと四人の魔王。

 そして・・・

 先にキングサラマンダーが地面を蹴った。

「エレパオ!全力で防御じゃ!」

「ハイ!」


 ガシッ


 キングサラマンダーの炎を纏った強力な前足しによる一撃を止めきったエレパオ。

 よし!

 次は・・・

「ライガル!魔力剣じゃ!いけ!」

「オウ!」


 ザシュッ


 ライガルの剣がキングサラマンダーの喉元付近を捉える。

 しかしまだ浅い。

「ロウカー!虚脱じゃ!」

「ハ~イ!」


 ガクンッ


 まだ余力があるはずのキングサラマンダーは、ライガルの一撃の勢いを殺しきれず背中から地面に倒れた。

 本来格上には効かないスキル『虚脱』も、ライガルの一撃によってステータスの数値が減少し、効くようになったのじゃ。

「ドワング!止めの氷魔法じゃ!」

「任せてくれ!『ギガ・ラ・アイスダム』!!」

 上空から真空の冷気が、地面からは氷雪の冷気がキングサラマンダーを挟み込み、その全身を凍らせていく。

 最早キングサラマンダーに逃れる術はない。

 あっという間に氷の彫刻の出来上がりじゃ。

 後は・・・

 四人は一斉にキングサラマンダーの彫刻に一撃を入れた。


 パリーーン


 粉々に砕け散るキングサラマンダー。

 これで経験値は四等分させるじゃろう。

 本来なら止めをさした者、大きくダメージを与えた者が経験値を割合多く得ることが出来るのじゃが、実はこういうやり方もあるのじゃ。

 しかし・・・

 ・・・

 フゥ・・・

 何とか勝てたの。

 散々口は出してしもうたが、こやつらも一度勝てるイメージが持てるようになれば、もう同じレベルのキングサラマンダーには遅れをとらんじゃろう。

 それに闘い方もわかったはずじゃ。

 それぞれの長所をどれだけ生かすことができ、克つどれだけ仲間の力を信じることが出来るか。

 自身の短所を補う努力はその後頑張ればよいのじゃ。

 まだまだ先は長いが・・・

 ふむ。

 取り敢えず死なせん程度には手助けしてやるとするか。

 何やかんやでこやつらの命もワシにとっては大事じゃからの。


 ・・・


 ・・・


 10日後。


 四人の魔王は見事レベル4000にまで達し、無事に『炎翼の迷宮』を突破したのじゃった。

 ・・・まあかなり手助けしてやったがの。

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