嫉妬される魔女

第1話 アオイはただ祝いたかった


「主様ぁ。主様はぁ何でぇそんなにぃおキレイなんですかぁ?」

 リビングで朝の朝食を終えた後。

 藪から棒にワシに訪ねてくるアオイ。

 何故と言われてものう。

 正直自分の容姿のことは自分ではよくわからん。

 勿論ワシも女じゃからそれなりに手入れはしておるが。

 特に普通じゃぞ?

「逆に聞くが、そなたはワシのどこをどう見てそう思うのじゃ?」

 質問に質問で返すワシ。

 さて、アオイはどう答えるかの。

「だってぇ、主様ぁ肌は珠のようにキレイですしぃ、髪の毛もぉ艶々で思わず触りたくなっちゃぃすしぃ、顔のパーツなんてぇもうぅ・・・最高の芸術ですぅ!ちゅーしてくださぁい!」

 言ってワシに飛び付いてくるアオイ。

 当然それをヒラリとかわした。

 全く、行動がいちいち直情的じゃのう。

 床に潰れたアオイはゆっくりとその場で座ると、ワシを羨ましそうに見つめた。

「うぅ・・・とても5121歳には見えませんん。どうしたらぁそんなに美しくぅいられるんですかぁ?」

 さりげなくワシの年齢を言いながら首を傾げて聞いてくるアオイ。

 やかましいわ!

 わざわざワシの歳を口にするな!

 ・・・

 おっと、そういえば・・・

 アオイは間違ったことを言っておるな。

「美しいコツなど無いわ!日々の努力じゃ!いくら全状態異常無効を持っていたとしても、日頃から特別な方法で肌や髪の手入れをしておればそれなりに若さを保てるわ。それにワシはまだまだ若い気でいるでの!言葉に気をつけい!・・・ああ、それとな。ワシは少し前に5122歳になったぞ。情報は常に更新して・・・」

「えぇぇーー!主様ぁお誕生日ぃだったんですかぁ!えぇ!いつですかぁ!」

 立ち上がり、大声を上げて驚くアオイ。

 何じゃ?

 そんなに驚くことか?

「う~んとな・・・そなたを我が家に招き入れたその翌々月だったかの。なんじゃ?何か問題でもあるのか?ワシだって更に歳はとるんじゃ・・・」

「うえぇぇー!何でぇ言ってぇくれなかったんですかぁ!うわぁぁ・・・お祝いぃしたかったですぅ・・・」

 今度は肩を落としてへたりこんてましもうたわ。

 まあ、気持ちは嬉しいがな。

 何も今さら誕生日を祝う歳でもあるまい。

 若いときなら誕生日祝いも一人でしておったが・・・

 そうじゃ。

 ならばアオイの誕生日は祝ってやらんとな。

 まだこやつは16歳じゃからのう。

 きっと喜ぶじゃろう。

「そなたの誕生日はいつなんじゃ?ワシの分まで祝ってやろう。」

「私はぁいいんですぅ。主様のぉ誕生日をぉ祝いましょうぅ。私ぃ今からぁ街までぇ買い物にぃ行ってきますぅ。少々お待ちくださいぃ。行くよぉ、ミドリコぉ。」

 言って直ぐ様外に飛び出し、ミドリコに後ろ襟を掴まれ飛んでいくアオイ。

 なんじゃなんじゃ。

 忙しない奴じゃな。


 ・・・


 ・・・


 2時間後・・・


「ただいまぁ戻りましたぁ!」

 家の玄関が勢いよく開き、アオイとミドリコが帰ってきた。

 昼飯前に帰ってきたのはよいが、日課の散歩を忘れておるぞ?

 まあ、明日2倍やらせればよいか。

「これぇ私からのぉ誕生日プレゼントですぅ。お受け取り下さいぃ。」

 アオイは早速プレゼントをワシに渡してきた。

 プレゼントといえば普通、何かに包まれているようなものじゃが・・・

 アオイが渡してきたのは直ぐに何か分かるような美しい宝石じゃった

 カット数が多い透き通るようなエメラルドグリーンの石。

 そしてこの付与効果と魔力量。

 こんなものそこらの露店や宝石店には置いておらんじゃろう。

 一体どこで手に入れたんじゃか。

 それに・・・

 この宝石、どこかで見たことあるような気がするの。

「おお、すまんのう。」

 取り敢えずアオイの好意じゃからな。

 しっかり受け取ることにしよう。

「ピィ、ピィー!」

 今度はミドリコが手に持った紙袋をワシに渡してくる。

 これはプレゼントか?

 ほう、まさかミドリコからも貰えるとは思っておらんかったぞ。

 この歳になってもこうして祝ってもらうのも悪くない。

「ではぁ、豪華な料理をぉお出ししますねぇ。食料フードぉ!」

 アオイは今持っている殆どの魔力を使い、見たことのない様々な料理を出現させた。

 ほうほう。

 確かにこれは豪勢じゃのう。

 食べたことのないものばかりじゃが、旨いということはわかるぞ。

「さぁ、主様ぁ。召し上がって下さいぃ。ミドリコぉ、人の姿になれるぅ。」

「ピィ!」

 アオイの指示を受け、ミドリコは人化のスキルを使い人の姿に変わる。

 相変わらず言葉は喋れんが、身体の動かし方は馴れてきたようじゃ。

 服も難なく自分で着ることが出来るようになっておるわ。

 しかしドラゴンから人の姿に変わると裸じゃからのう。

 街中やワシ達以外の人前で考え無しに人の姿に変わることができんのう。

 何か対策を練ってやるか。

 何はともあれワシ達3人は席につき、食卓を囲む。

「ちょっとぉ待ってくださいねぇ。『コ・ファイア』ぁ。」

 アオイはテーブルの真ん中に置かれたスイーツに刺さっている5本の蝋燭の先端に火をつける。

 ほう。

 これはそうやって食べるものなのか?

「それではぁ主様ぁ、息を吹き掛けてぇ火を消して下さいぃ。あぁ、願い事をぉ込めてもらえるとぉ尚ぉいいですぅ。」

 ん?

 どういうことじゃ?

 折角つけた火を直ぐ消すのかぁ?

 これがアオイのいた世界の文化というわけか。

 ならばそれに倣うとしようかの。


 フゥ・・・


 ワシはコールドブレスが出ないように気を付けて蝋燭の火を消した。

「おめでとうございますぅ!」

「ピィ!ピィ!」

 アオイとミドリコはワシに祝いの言葉と拍手を贈ってくれる。

 何か・・・

 ちょっと照れ臭いのう。

 しかし、なるほど。

 拍手をさせるためにミドリコを人の姿にしたのじゃな。

 何とも気を使ってくれるわい。

 有り難いことじゃ。

 ふむ。

 一人でのんびりダラダラも悪くないが、こういうのも良いものじゃ。

 こういうのを家族というのかのう。

 おっとそうじゃ。

 仲間外れはよくないの。

 ワシはこの家に住むもうを空間移動で呼び出した。

「・・・」

 突然現れたを見て、アオイとミドリコは驚き立ち上がった。

「ええぇー!誰ですかぁこの人ぉ!」

「ピィ!」

 目の前にいるこやつが誰だかわかっていない二人。

 白髪じゃが、見た目およそ20代前半のスレンダー美女。

 そうか。

 こやつらがこやつのこの姿を見るのは初めてか。

「何を驚いておる。こやつは人の姿をしたシロクじゃ。こやつも参加させてくれ。おお、そうじゃ。後1人忘れておったな。」

 ワシは再び空間移動を使った。

 そこに現れたのは一冊の本。

 そう、あやつじゃ。

「今日は人の姿になっても構わん。皆でご馳走を食べようぞ。」

 ワシが許可を出すと本は姿を変え、1人の美少女になる。

「お呼びいただきありがとうございます。御相伴に肖ります。」

 現れたグレータンはウキウキしながら席についた。

 その間も未だシロクの姿に驚いておるアオイとミドリコ。

 シロクも二人にジロジロ見られ、少し照れた顔を見せておるわ。

「これ。そなた達も早く席に着かんか。折角の料理が冷めてしまうぞ。」

 ワシの一言でやっと我に返った二人は席に着き、シロクもおずおずとワシの隣に座った。

「グレータンさんん、お久しぶりですぅ。今日はぁ主様のぉお誕生日祝いなのでぇいっぱい食べてくださいねぇ。後ぉ先輩にはぁ野菜中心のぉ食べ物をぉご用意しますねぇ。食料フードぉ!」

 アオイは残りの魔力を使い、シロク専用の料理を出した。

 よし。

 これで心置き無く料理が堪能できるの。

「では、いただくとするか。」

「はいぃ!いただきますぅ!」

「ピィピィ!」

「いただきます!」

「・・・」

 それぞれが食前の挨拶をする。

 まあ、シロクは無口じゃから何も言わんがちょっとだけ頭を下げたぞ。

 そして食べ始める面々。

 会話も弾み、暖かい時間が過ぎていった。


 ・・・


 ・・・


 時間を忘れ、気付けばもう夕方じゃ。

 料理もあらかた食べ終わり、それぞれが談笑しておる。

 勿論シロクは喋らんが、それでもミドリコに色々と人化について文字で教えておるようじゃ。

 そろそろ夕飯の時間じゃが、流石にもう腹に入らん。

 今日はこのまま時間が来たら風呂に入って就寝じゃな。

 にしても・・・

 良い光景じゃな。

 こやつらを見ておると幸せな気持ちになってくるぞ。

 たまには良いのかも知れんな。

 今度はアオイの誕生日にでも・・・

 いや、一番誕生日に近いのはもしかしてシロクかもしれん。

 確かあと10日後じゃったよな。

 まあこの家に住むものなら全員誕生日の祝いをしてやろう。

 その時もこうして皆で集まるとするか。

 そんなほっこりまったりしている幸福の時間。

 それを邪魔する気配が近付いてきた。

 ん?

 結界に触れたものがおるな。

 しかも何やら殺気立っておるぞ?

 もう夕方を過ぎて夜になったのに、よくも迷惑を省みないで来たものじゃ。

 シロクもグレータンもミドリコもこの気配に気付いたようじゃ。

 仕方無い。

 連中の顔でも見に行くかの。

 ワシは皆を後ろに引き連れ玄関の扉を開けた。

 すると・・・

「出てこい魔女め!成敗してやる!」

 遠いところから爵位の高そうな魔族の男が10人程の兵士を連れて結界の外で叫んでおるわ。

 名声を得るため、ワシに喧嘩を売りに来たのか?

 どこの誰だかはわからんが身の程を知らんの。

 少し痛い目にあってもらうか。

「何ようじゃ!ワシはそなたのことなど知らんぞ!それにの。こんな時間に女の家に押し入ろうとするなど言語道断!こちらこそ成敗してくれる!」

 ワシはそう言った後、連中に手を伸ばし魔法で蹴散らそうとした。

 しかしどうやら用があるのはワシではないようで・・・

「貴様ではない!後ろの女だ!よくも我が国の国宝を持ち去ってくれたな!」

 ワシの後ろに控えておるアオイを指差し、怒号を放つ。

 何?

 アオイが?

 どういうことじゃ?

 ワシは振り返り、アオイの顔を見た。

「いやぁ、あれはぁちゃんとぉ許可を得てぇ買い取ったものですぅ。主様にぃ気に入ってぇもらえるとぉ思いましてぇ。」

 自分は間違っていないこと、ワシに喜んで貰いたかったことを主張するアオイ。

「ふざけるな!確かにエレパオ様はいいと言ったが、それは国の結界に必要な物だ!返せ!」

 なるほど。

 アオイはエレパオの国に行ったのか。

 で、そこで面識のある国のトップのエレパオに声をかけワシの気に入りそうな宝石を売ってもらったというわけだ。

 しかしキチンと対価を払って手に入れたのであればアオイに非はない。

 そうとは知ってか知らずか売り渡したエレパオが悪いじゃろ。

 こうして殴り込んでこられる謂れはないの。

 じゃが・・・

 こやつらの態度は気に入らんが、国の結界に必要であるのなら返さなくてはいけないか。

 どうりでこの宝石、『魔力増強』と『耐久強化』が付与されておるわけじゃ。

 ・・・

 ああ、そうか思い出した。

 確かにワシはエレパオの城の最上階でこれを見たことがあったわ。

 そうかそうか。

 あれか。

 ・・・

 って何を売り渡しておるんじゃあやつは!

 ちょっと確認するかの。

「小童共。少し待っておれ。今エレパオに確認するでの。」

「何!」

 何かを言おうとしておるようじゃが聞いてやる必要はない。

 まずはエレパオにことの真相を聞かねばな。

 ワシは異空間収納から『伝達魔晶玉』を取り出してエレパオに繋いだ。

「エレパオ。聞こえるか?ワシじゃ。」

『お姉さま!お久しぶりです!相変わらず声も美しい。』

「今日そなたのところにうちのアオイが行ったと思うのじゃが、結界に必要な宝石を売ったりしなかったか?」

『ああ、はい。あれはもう必要ないものでしたのでアオイちゃんに宝石はお売りしました。今は更に強化した結界石を使っておりますのであの宝石が無くても大丈夫です。アオイちゃんと私からの気持ちなのでどうぞお受け取り下さい。』

「おお、それはすまんの。では有り難く頂くとするか。」

『はい。どうぞお納め下さい。あの宝石は力が強く、今後悪用を考える者が出るかもしれないのでお姉さまが持っているのが一番です。本当は無償であげるつもりでしたが、アオイちゃんがどうしてもというので少し金銭を受けとりました。なのでアオイちゃんがお姉さまの為に贈ったプレゼントなのは間違いありません。』

「そうかそうか。これは感謝しなければな。エレパオ。そなたにも礼を言うぞ。」

『はっ!有り難きお言葉。』

「ではの。突然連絡して悪かったな。」

『いえ!用事がなくても連絡してください!私はいつでもお姉さまの声を聞きたいので。では、失礼します。』

「うむ。」

 エレパオとの連絡を終えたワシは魔族連中を見た。

 音量を大きくして皆に聞こえるようにしておったからの。

 連中が焦っておる様子が一目瞭然じゃ。

 よもやワシの侍女にケチをつけて宝石を奪いにくるとはの。

 これは粛正が必要じゃな。

 そう思い、ワシが一歩踏み出そうとしたそれより先にシロクが動いた。

 庭の中心まで歩いていくシロク。

 そこで立ち止まり、右手を天にかざした。

 すると近くにいた森の魔獣達が集まってきて魔族達を囲む。

 集まった魔獣達のレベルは1000前後。

 この程度の魔族連中に勝ち目などない。

「な、なんだこれは!魔獣がこんなに!この森の魔獣は群れないんじゃなかったのか?ここまで来るのに100人の兵士が犠牲になったんだぞ!・・・くそ!くそーー!」

 これがこの魔族の最後の言葉になった。

 魔獣達は魔族達に噛みつき、巻き付き、森の奥へと連れていく。

 その後の結末など分かりきっておるがの。

 フゥ・・・

 うるさい連中は消えた。

 家の中に戻ってまた寛ぐとするか。

 っとその前に・・・

「アオイや。そなたの気持ちには感謝しておるぞ。わざわざエレパオのところまで行ってワシに相応しいものを買ってきたのじゃろ?ワシはいい侍女を持ったものじゃ。」

 そう言ってアオイの肩をポンポン叩いてやる。

 エレパオとアオイは以前ちょっと色々あったからの。

 それでも数少ない同性の知り合いに、権力者に会いに行ったのじゃろう。

 全てはワシの為に。

 こんなに嬉しいことは無いわ。

「はいぃ、私はぁ主様のぉものですからぁ。主様にぃ喜んでほしくてぇ・・・」

 嬉し泣きをしながら俯いてしまうアオイ。

 それをミドリコとグレータンが両隣から抱き締める。

 うむ。

 これも美しい光景じゃな。

 庭からシロクも戻ってきたことじゃし、再びリビングで皆の談笑する姿でも見るとするかの。

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