第22話 光と闇


 魔族と人族のゴタゴタが治まって数日後。

 ワシは自宅に森の守衛達を集めた。

 ・・・結構いるのう。

 こりゃグローラリアが小言を言うのも仕方がないか。

 しかししょうがないじゃろ?

 ほっとけなかったんじゃから。

 まあこの先は流石にこれ以上増やさんつもりじゃがの。

 ともあれ、今日ここに皆を集めたのには理由がある。

 ・・・

 どれ、そろそろ始めるか。

「皆のもの。よくぞ集まってくれた。これからここである儀式を始める。皆はその証人となってもらうぞ。」

 ワシはそう言って皆の顔を見る。

 ふむ。

 どうやら緊張しておる者もいるようじゃ。

 それはそうか。

 初対面の相手もいる集まりじゃ。

 警戒するのは仕方無いの。

 ワシとアオイは勿論全員と面識があるが、キサラムとライグリ達は会ったことがない。

 それぞれが暮らす場所はかなり離れておるしな。

 ワシやバシルーのような空間系のスキルを持っていなければ用意に会うことはできんじゃろう。

 そう言った意味でも、今回の集まりは顔合わせの意味もあるのじゃ。

「お母様。儀式とは一体どういうものなのでしょう。もしかして・・・生け贄が必要だったりしますか?でしたら今すぐ私が・・・」

「あぁ、私も行きますぅ。二人でぇ、狩ってきましょうぅ。」

 急に物騒なことを考え、結託するキサラムとアオイ。

 何じゃ?

 最近こういう流れの話の時はこの二人、妙に気が合うのう。

 ・・・

 ストレスでも溜まっておるのか?

「これこれこれこれ、物騒なことを言うでない。そんなものはこの儀式には必要ない。これはの、ライグリとルスカに施す儀式なのじゃ。そしてこの儀式の核は・・・バシルー、そなたじゃ。」

「え!?私?」

 まさか自分の名前が出てくるとは思わんかったのじゃろう。

 大きな声を出して驚いておるわ。

 じゃが今回の儀式には間違いなくバシルーの協力が不可欠なのじゃ。

 そして後もう一人・・・

「そうじゃ、そなたと・・・光の神の力が必要じゃ。」

 ワシはそう言うと、光の神を呼び出す魔法陣を宙に書く。

「出でよ、光の神。」

 ワシの呼び声に応え、直ぐ様姿を現す光の神。

 そして流れるようにかしづいた。

「お呼びでしょうかクロアさん。」

 瞳を閉じ、頭を垂れる原素の神。

 この状況を見て、ココン達とライグリ達は驚いておるわい。

「凄い・・・本物の光の神だ・・・しかも魔女様に頭を下げてる。魔女様は一体何者なの?」

「もしかして・・・私達、とんでもない方に庇護されているんじゃ・・・」

 ココン達はワシの存在について疑問を話し合っておる。

 そうじゃよな。

 皆が信仰し畏怖する神がワシにかしづいておるのじゃから何事かと思うわな。

 まあワシはワシじゃから説明する気もないが、ワシの凄さを改めて知らしめられたじゃろう。

 さてライグリ達は・・・

「何て神々しい・・・見てるだけでご利益がありそうですわ。」

「まさか・・・神をこの目で見る日が出来るなんて・・・夢を見ている見たいです。」

 フムフム。

 こちらも予想通りの反応じゃな。

 しかしルスカや・・・

 この森でワシの庇護下にいるならばらこの先色んな神に会うことになると思うぞ?

 それに、神ならもうとっくに一人会っておるじゃろ?

「よ!こないだ振り。あの後大丈夫だったか?」

 気さくに声をかけるバシルー。

 勿論光の神はそれに応える。

「ええ、安心してください。もうあの国の聖職者達が貴女方に逆らうことはありません。これからもどうぞ息災で。」

「ありがと~。ヤッパリ持つべきものは友達だな。」

 神同士の会話なのじゃが、別にそんな畏まったことではない。

 古くからの友人として、いや、もしかしたら姉妹のような関係なのかもしれんな。

 何気ない会話に親愛を感じるわい。

「あの方は光の神と知り合いなのですか?」

 当然の疑問をワシにしてくるチャコル。

 やはりそうじゃったか。

 そう言えばライグリ達にはバシルーの正体を言っていなかったな。

 ならば紹介してやらねばの。

「こやつはの。アサワハヤイ王国の現国王の姉で、闇の依り代というスキルの持ち主。つまり・・・闇の神本人という訳じゃ。」

『えええーー!』

 ライグリとチャコルとルスカは揃えて驚きの声をあげる。

 そして何故かバシルーが闇の神だとわかっているココン達も同時に声をあげた。

「え!バシルーさん、王族だったんですか?」

 イダヤはバシルーに詰め寄り、熱い視線を間近で送る。

 その手はギュッとバシルーの手を握っていた.

「あ、ああ。そうだけど・・・言ってなかったっけ?」

 あまりの迫力にしどろもどろ言うバシルー。

 どうもイダヤに必要以上の好意を持たれるのを嫌がっておるようじゃ。

 ・・・なるほど。

 ココン達はそこで驚いておったのか。

 まあ確かに王族の肉体を依り代にした闇の神じゃからな。

 レアリティーを高く感じてしまうのかもしれん。

 ワシから見たら王族も庶民もあまり大差はないし、神という存在も三大神以外は大して脅威にも思っておらんからの。

 問題はその者として、どれだけ好意をもてるかどうかじゃ。

 それでしかワシは相手を判断しておらんからの。

「え?王族で・・・闇の神で・・・しかも現国王の姉?っていうことはつまり・・・年齢はかなり上ってことですわね。それに・・・闇の神と光の神は対立しているんじゃ・・・ああ、駄目ですわ。情報が多すぎて纏まりません。」

 ライグリは両手で頭を抱え、目を回しておる。

 そうじゃな。

 神という存在に幻想は付き物じゃ。

 しかしの・・・

「あっ、私光の神と仲悪くないからね。寧ろ頼りになるお姉ちゃんって感じで信頼してるから。」

 屈託のない笑顔を周囲に見せるバシルー。

 皆わかったことじゃろう。

 今バシルーが言った言葉が真実だということを。

 属性を司る全ての神達は、一部を除いて仲が良いのじゃ。

 光と闇が、水と炎が仲が悪いということはない。

 間違った常識が蔓延しておるだけなのじゃ。

 まあ何はともあれ、これで話を先に進められるな。

「光の神、そしてバシルーや。そなた達に頼みがあっての。聞いてくれんか。」

「ハッ、クロアさんの頼みとあらばどのようなことでもお聞きいたします。」

「ええ~。何か怖いな~。クロっちの頼みって何か裏がありそ~。」

 素直にワシの言葉に耳を傾ける光の神とひねくれてとらえる闇の神。

 好感が持てるのは勿論前者じゃ。

 バシルーは全く・・・

 見てみぃ、キサラムを。

 我慢の限界といった顔をしておるぞ。

 そのキサラムの殺気を察知したバシルー。

 慌てて取り繕った。

「あはは・・・じょーだん、冗談だよ~。」

 どうもキサラムに弱いようじゃ。

 最近、高度な闇のスキルや魔法を使って昔の力を徐々に取り戻しつつあるバシルーのレベルは最早1400を越えておる。

 なのに未だレベル1200台のキサラムにこうも気を使っておるのじゃから、やはり苦手意識があるのじゃろうな。

 ワシとしては二人とも仲良くしてもらいたいものじゃが・・・

 おっと、話が進まんな。

「すまんな。原素の神の中でもそなた達にしか出来んことなのじゃ。そなた達にはそこの二人にスキルを与えてもらいたい。わかるじゃろ?あのスキルじゃ。」

 ワシはライグリとルスカの方に指を差し、含みを持たせた笑いを二人の神に見せた。

 この二人にはあるスキルを一つだけ、他者に付与することができるのじゃ。

 条件は同じ属性であること。

 そして・・・儀式を受け入れること。

「・・・わかりました。私は・・・大丈夫です。」

「ええー!やだよ!恥ずかしい!」

 渋々受け入れる光の神と拒絶する闇の神。

 うむ。

 まあそうじゃな。

 恥ずかしいわな。

 しかし・・・

「バシルーや。そこを何とか頼む。それにそなたにとっても悪いことばかりではないじゃろう。」

「うぅ・・・まあそうだけど・・・でもさ、これは一回しか使えないんだよ?スキルを与えたものが命を落とせば復活するけど・・・貴重なんだよ?」

「わかっておる。じゃからこれはお願いなのじゃ。」

 ワシは威圧をかけず、丁寧に言った。

 バシルーは元より、光の神だっていい気はしていないはずじゃ。

 じゃから・・・

 これはワシのワガママじゃ。

 強制することも出来るがそうはせん。

 あくまでも二人には納得して儀式をしてもらいたいのじゃ。

「バシルーさんん。私からもぉお願いしますぅ。」

 ワシの隣に立ち、アオイは頭を下げた。

 おお・・・

 こやつめ。

 ニクいことをしてくれるのう。

 何も言っていないのにワシの為に頭を下げることが出来るとはの。

 ちょっとだけキュンとしてしまったぞ。

 そしてどうやらこのアオイの一言で、バシルーの気持ちが固まってくれたようじゃ。

「わかった・・・わかったよ。負けたよ。その代わりいいんだね?そっちの二人は覚悟出来てるの?」

 何とか納得してくれたバシルーじゃが、今度はライグリとルスカの気持ちの確認をしてきた。

 そうじゃな。

 確かにこの二人にも選ぶ権利はある。

「私は大丈夫ですわ。どんなものかはわかりませんが、この森の主が言うのですもの。私はそれに従いますわ。」

「私も大丈夫です。魔女様を信じます。」

 全面的にワシを信頼してくれるライグリとルスカ。

 これは嬉しいのう。

 それに話が早くて助かる。

「よし、では早速儀式を始めるかの。どれ、そなた達、下着姿になれ。」

「・・・」

「・・・」

『えええーー!』

 諦めた面持ちの神二人と大声で驚くライグリとルスカ。

 何じゃ?

 そこまで驚くことか?

 ここには女しかおらんし、全裸になれとは言っておらんぞ?

「ちょっと待ってほしいですわ!そんなの聞いておりません!」

「そ、そうですよ!それに私今日下着つけていないんですから!」

 さっきは納得したのに散々抗議してくる二人。

 う~む。

 困ったのう。

 これでは一向に儀式が出来んぞ。

 どうしたものか・・・

「ほら、どうしたのあんた達。私らはもう準備OKだよ。」

 見るとそこには下着姿の光の神とバシルーがいた。

 おお、こっちはもういけそうじゃな。

 ・・・後はこの二人か。

「ちょっとあんた達!神である私達だけこんな格好させるわけじゃないよね。さっきまでの覚悟はどうしたの?見せかけだけ?」

 下着姿が恥ずかしいのか。

 バシルーは顔を真っ赤にして二人に詰め寄る。

「わ、わかりましたわ。でも、ルスカさんに下着を用意して頂けませんか?そうすれば私は脱ぎます。」

 交換条件を言ってくるライグリ。

 うむ。

 まあそれくらいお茶の子サイサイじゃ。

 ワシはバチンっと指を鳴らした。

「え!あれ!?下着・・・着いてる。」

 急に感じた胸部と下腹部の違和感に一瞬戸惑うルスカ。

 デザインはともあれ、それほど恥ずかしくない下着を着けてやったつもりじゃ。

 これで準備が整うじゃろう。

 おずおすと下着姿になるライグリとルスカはやはりとても恥ずかしそうにしておる。

 可哀想じゃから早く済ませてやろうかの。

「では今度こそ儀式を始めるぞ。ライグリはバシルーの前に、ルスカは光の神の前に立て。そしてそのまま儀式が終わるまで沈黙を守るのじゃ。」

 ワシの出した指示通りに行動する二人。

 そして・・・

「よし、できたな。では次にライグリとルスカ。それぞれの前にいる神にかしづき、右足の爪先に唇をつけよ。」

『!!』

 驚く二人。

 まあわかるが必要なことじゃからのう。

 やってもらわねばならん。

 ライグリとルスカは少し、いや、かなり照れながらも指示通りに行動した。

 そして次々に指示を出すワシ。

 今度は右膝に唇を。

 次は右太股に唇を。

 そして腹に唇を。

 鎖骨に唇を。

 最後に・・・

「唇に唇を重ねるのじゃ。」

『!!!??』

「ええぇ~!!主様ぁ、それは破廉恥ですぅ。」

 声を発っせないまま酷く驚くライグリとルスカ。

 そして何故か興奮しておるアオイ。

 仕方ないじゃろ。

 これが手順なんじゃから。

 じゃが・・・

 無理強いは出来んか。

「止めておくか?残念じゃが・・・」

 

 チュッ


『???』

 驚くライグリ。

 そう。

 ワシが言い終える前にバシルーが自分からライグリの唇を奪ったのじゃ。

 それに驚いておるルスカにも・・・


 チュッ


 光の神はスッと唇を重ね、儀式を終わらせた。

「あーー!恥ずかしかったー!」

 やっと言葉を発せられるようになった途端、バシルーは全身を真っ赤にして大きい声を出す。

 そしてとっとと服を着始めるた。

 光の神はもう瞬時に服を着ている。

 じゃが・・・

 ライグリとルスカは動かない。

 うむ~・・・

 儀式でしたことじゃし。

 ノーカンじゃと思うんじゃがな。

「魔女様。ところでこれは何のスキルを頂く儀式だったのですか?」

 肝心なところを聞いてくるチャコルに対し、肝心なところを言っていなかったことに気付いたワシ。

 おっと、そうじゃったな。

「この二人にはな、新たにスキル『闇の使徒』『光の使徒』が付与されたのじゃ。これはの、それぞれの神の右腕になるようなものなのじゃ。つまり、ライグリはバシルーの、ルスカは光の神の手下になるわけなのじゃが・・・神秘性も備わるのでの。二人の寿命は各々の神が存在する限り、何者かに命を奪われない限り尽きることは無いのじゃ。しかも老いもせんしの。」

 百々のつまり、ライグリとルスカは簡易的な不老を手に入れたといってもよいじゃろう。

 これこそがワシの狙っていたものじゃ。

 グローラリアがスキルをライグリに付与したのを見て、光と闇の神が出来るスキル付与を思い出したのじゃ。

 そしてそれは上手くいった。

 これでこの森の安全は極端に上がることじゃろう。

 一件落着じゃな。

 まあ未だにライグリとルスカは動かんし、バシルーはイダヤに詰め寄られておるしで騒がしいが・・・

 こういう賑やかな感じも最近では悪くないと思っておる。

 まあ穏やかなのが一番なのじゃが・・・

 うむ。

 明日からはまたいつも通りアオイの料理を楽しみつつ、ぐうたらに過ごすとするか。

 もう暫くはバタバタはせんじゃろうし。

 それにもし何かあった場合は守衛達に任せればよいのじゃ。

 怠惰な時間が増えることじゃろう。

 実に良いことじゃ。

 しかし・・・

 こうしてやりたいようにやっておるワシは、何だかんだで結構傲慢なんじゃろうかのう。

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