第17話 魔族の侵略
ミドリコが椅子に座って食事が出来るようになったのじゃ。
折角じゃから昼食は庭でテーブルを囲もうかの。
ワシはテーブルと椅子を異空間収納から取り出し、アオイに指示を出した。
「どれ、アオイや。今日はここで昼食にしようぞ。」
「はいぃ。わかりましたぁ。『
アオイはスキルで出した異世界の料理をテーブルの上に出す。
おお・・・
またしても見たことのない料理じゃな。
「これはぁ石焼きビビンバっていいますぅ。熱々のうちにぃどうぞぉお召し上がりくださいぃ。ああぁでもぉ器はぁ熱いのでぇ気を付けてぇ下さいねぇ。」
料理名を発表したあと、アオイは自分の分の器の中をかき混ぜ始める。
「これはぁこうやってぇ具材とぉお米をぉかき混ぜてから食べるものなんですぅ。器に付いてたぁお焦げが混ざってぇとってもぉ美味しいんですよぉ。」
食べ方を教えてくれるアオイ。
なるほど。
そうやって食べるのか。
どれ。
ワシもやってみるかの。
こうかの・・・
うむ、いい感じじゃ。
そんなご飯と具材を混ぜているワシの側で、ミドリコがえらいことになっていることに気付いた。
「ああぁ、ダメだよぉミドリコぉ。スプーンはこうやってぇ持ってぇこうやってぇご飯はぁ食べるのぉ。」
人の姿で物を食べるのが初めてなミドリコはまるで赤子のような食べ方をしておる。
まあそうじゃよな。
それはそうなるわ。
うっかりしておった。
・・・
仕方ないの。
「どれ、ワシが食べさせてやろう。ほれ、口を開けるがよい。」
ワシはミドリコの器に入っているビビンバを一口分、自分のスプーンで取ってやると、そのままミドリコの口に運んだ。
「ビィ!ピィ!」
嬉しそうに囀ずり、口の中に入れるミドリコ。
うむうむ。
可愛いのう。
しかしこの行動がアオイの勘に触ったらしい。
「主様ぁ!ミドリコをぉ甘やかさないで下さいぃ!・・・私だってぇアーンしてもらったこと数えるくらいしかないのにぃ・・・ミドリコはぁ、ちゃんとぉスプーンが持てるようにぃ特訓だよぉ!」
途中ボソボソと聞き取れなんだが、ミドリコをちゃんとしつけるつもりらしい。
うむ。
まあそうじゃな。
これからこうしてミドリコも人の姿で食卓を囲む機会が多くてなるかもしれん。
最低限のマナーは大事じゃな。
ここはアオイに任せるとしよう。
ワシは・・・食べるとするか。
それにしても食欲をそそる香りじゃのう。
どれ、一口・・・
モグモグ・・・
うむ!
これはまた甘辛くてうまいのう!
先程アオイが言っていたように、お焦げもご飯に混ざったお陰で香ばしさと食感が絶妙になったわい。
「アオイや。これもうまいものじゃのう。全くそなたのいた世界の料理には毎度のことながら驚かされるわい。」
ワシは正直な感想をアオイに言った。
その言葉を聞いて、ミドリコをしつけているアオイの眉間からシワがなくなる。
「えへへぇ。ありがとうございますぅ。もっともっとぉ主様にぃ気に入ってもらえるぅ料理をぉこれからもぉ出しますねぇ。」
デレ顔で身体をクネクネさせるアオイ。
うむ。
これからの異世界料理にも期待大じゃな。
まあワシとしては今までの料理をローテーションして出してくれるだけでも全然構わんのじゃがの・・・
・・・
腹も満腹になり、ドラゴンに戻ったミドリコとアオイの戯れを見ながら穏やかな時間が過ぎる。
う~ん。
毎日こんな感じでダラダラ過ごせればいいのう。
・・・
しかし・・・
決してフラグを立てた訳ではないのじゃが・・・
・・・
ん?
・・・
南の方でおかしな気配がするのう。
・・・
ああ。
あやつか。
ほう・・・
これは・・・
人族の領土に攻めいるつもりか?
まあこの森にさえ危害を加えないのであれば勝手にすればいいが・・・
恐らく攻めいる国はアサワハヤイ王国か。
・・・
国王とマルタスに何かあればバシルーが悲しむやもしれんな。
ふむ・・・
どうするかの。
取り敢えず・・・
「アオイや。これからちとバシルーのところに行くでの。留守番を頼まれてくれんか。」
ワシは椅子から腰を上げ、アオイにそう命じた。
しかし・・・
「私もぉ行きますぅ。」
アオイも立ち上がり、ワシと共に行こうとする。
何じゃ?
留守番も出来んのか?
全く・・・
これではまだまだ一人前の侍女とは呼べんな。
じゃが・・・
アオイの思いはそうではなかった。
「主様ぁ、とてもぉ深刻そうなお顔をしていますぅ。私にもぉ何かぁお手伝いさせてくださいぃ!」
真剣な顔のアオイ。
ふむ。
どうやらワシは勘違いしておったようじゃ。
こやつはちゃんと侍女としての役目を果たそうとしておるのじゃ。
侍女とはつまり侍る女。
常に主の傍らに身を置き、主の意図を読み取り行動することができる者のことを指すのじゃとワシは思っておる。
つまりアオイはワシの思い描く理想の侍女像に近付こうとしておるのじゃ。
これは蔑ろにしてはいかんな。
「よし、わかった。ならばミドリコと一緒に付いて参れ。」
そう言った後、ワシはシロクに留守を任せアオイとミドリコと共にバシルーの元へ転移した。
・・・
転移したワシ達は、庭先で寛いでいたバシルーの真ん前に姿を現した。
驚いたバシルーは座っていた椅子から転がり落ちてしまう。
「うわっ!ビックリした~。突然現れないでよ。寿命が縮むわ。」
心底驚いた顔を見せたかと思うとその直後、体に付いた土や芝を手で払いながら心底嫌そうな顔をワシに向けるバシルー。
おい。
ちょっと傷付くぞ。
確かにワシの存在は天災だと言われることもあるが・・・
顔見知りに、というか昔馴染みそういう顔をされるといい気分はせん。
「何じゃ。折角知らせを持ってきてやったというのに。聞きたくないのか?」
「聞きたくな~い。どうせろくなことじゃないんでしょ?その知らせ、持ち帰ってよ。」
バシルーは耳を塞ぎ、目を瞑ってワシから顔を反らした。
何じゃこやつの態度は!
相変わらずといえば相変わらずじゃが、こういうことは慣れることはないからな!
ええい!
そっちがその気なら!
「・・・わかった。聞きたくないのじゃな。そなたの弟と甥の話じゃというのに。」
「ん?どういうこと?」
ボソリと言ったワシの言葉に、明らかな反応を見せるバシルー。
先程までの態度はどこへやら。
バシルーはワシの言葉に耳を傾けてきた。
「何じゃ?聞きたくなかったのではないのか?」
ワシはジト目でバシルーを睨み、意地悪を言ってやる。
これには流石にバシルーも観念したようじゃ。
「わかった・・・わかったよ。悪かったよ。だから・・・その情報教えて?」
顔の前で手を合わせ、ワシにきちんと謝罪し、情報提供を要求してくるバシルー。
わかればよいのじゃ。
というか最初から素直に聞こうとせい!
ともかく。
ワシは今起きていることをバシルーに説明する。
「今現在、アサワハヤイ王国に魔族の軍隊が攻めいろうとしておる。その数約1000人。しかし何よりも厄介なのはその軍を率いておる魔王じゃろう。そなたも知っておろう?四大魔王が一人、『戦失の魔王』じゃ。あやつならば3日とかからず国を落としてしまうからの。」
そう。
『戦失の魔王』のあのスキルがあれば人族の国など容易に落とせるじゃろう。
いや、誰も止めに入らなければ人族そのものを滅ぼせるかもしれん。
そしてそのスキルこそが『戦失』と呼ばれる由縁でもある。
しかし・・・
あやつがどうしてこんなことを・・・
争い事は嫌いなはずじゃったのじゃが。
ふむ・・・
まあ今はそんなことどうでもよいか。
それよりも・・・
「どうする?」
バシルーがこれを聞いてどうしたいのかを聞くほうが重要じゃ。
こやつ次第では手を貸してやらんこともないしの。
じゃが・・・
「う~ん、え~っと・・・どうしようかな。あの魔王単体ならやりようによっては勝てるけど・・・」
腕を組んで頭を傾げながら唸るバシルー。
何じゃ?
そんなに悩むことか?
ワシはてっきり二もなく三もなく助けに向かうのかと思っておったが。
しかしバシルーにもそれなりの考えがあるらしい。
「でも・・・闇の神である私がこの体の身内だからと言って手を貸していいものかねぇ。それにさっきも言ったけど、魔王単体なら何とかなるのよ。でも他に千人もの魔族がいたんじゃ返り討ちになるだけだし・・・う~ん、悩むなぁ。」
更に首を傾げるバシルー。
ふむ。
そんなことで悩んでおったのか。
確かに、原素を司る神が私的なことで戦争に加担するというのは如何なものかとは思うが・・・
「闇の神の意見など今はどうでもよい。そなたはどうしたいのじゃ。」
ワシはこやつの感情に則った答えを聞きたいのじゃ。
いくら闇の神とはいえ、それくらいのわがままはよいはずじゃ。
「そりや勿論・・・助けてやりたいよ。」
本音をボツリと洩らすバシルー。
やはりそうか。
でもそれでよいのじゃ。
神とはいえ自我があるのじゃからの。
自分の思うように行動してもたまにはよいのじゃ。
「でも私の力だけじゃ・・・」
「私がぁバシルーさんにぃ助力しますぅ!」
バシルーの言葉を途中で遮り、挙手をしてそう言うアオイ。
しかしそれを聞いてバシルーは嬉しいような困ったような顔を見せた。
「そりゃぁアオっちが手を貸してくれるんならいくらでもなんとかなるけど・・・いいの?うちの弟と甥を助けるんだよ?」
アオイが二人にあまり良くない感情を持っていることを知っているバシルー。
一応本当にわかっているのか聞いてみたようじゃ。
「いいに決まってますぅ!バシルーさんはぁ主様のぉお友達ですからぁ。私がぁ力になるのはぁ当然のことですぅ。」
アオイは胸を張り、その形のいい胸の少し上を右拳で軽く叩いた。
ほうほう。
わかっておるな。
それにワシが言う前にワシの意を汲んで行動できるところに好感が持てるぞ。
・・・
まあそれでも嫁にはせんがな。
取り敢えず、バシルーとアオイが魔族共を成敗するということで話はついたし、奴等が今どの辺りにいるが確認するかの。
・・・
・・・ん?
何じゃこれは?
何でこやつらがアサワハヤイ王国に向かっている?
・・・
そうか。
そういうことか。
だとしたらこのタイミングは面倒じゃの。
・・・
・・・仕方ない。
こうなったらそっちも何とかしてやるか。
「ちと面倒なことになった・・・アオイや、ワシと一緒にライグリ達のところに行くぞ。」
ワシはアオイとミドリコを連れ、アサワハヤイ王国の南側に面した森の中に建つ、ライグリの家へと直ぐ様転移しようとした。
それを・・・
「ちょっと待って!え?何?私はどうするの?」
急に見放された気分になったであろうバシルーがワシを呼び止める。
おっと、そうじゃな。
そうじゃった。
ならば・・・
「そなたにはキサラムとキロイをつける。戦力はそれだけでも十分じゃろ。」
バシルーと同レベルのキサラム、そして二人よりも能力値が高いキロイならば問題あるまい。
今やキロイはある条件を達成させ、森の中以外やワシの側以外でも行動することが出来るようになっておる。
なのでいざとなればキロイに魔族共を蹂躙させればよいのじゃ。
じゃが、バシルーは意外なところで引っ掛かっているようじゃの。
「まあそうだけど・・・仲良く出来るかな。」
以前ワシのことに関してキサラムを怒られてしまったことを気にしているのじゃろう。
まあそんなことを言っても、今さら考えを変える気はしない。
ワシは連絡用の宝玉を異空間収納から取り出し、キサラムに繋ぎながらバシルーを見る。
「そこは何とか上手くやれ。ワシ達は急ぐでの。キサラムや。聞いておるか?そなたとキロイでバシルーの力になってやれ。ワシの家で集合し、そこから共にアサワハヤイ王国に向かうがよい。」
『はい、かしこまりました。お任せください。』
了解返事を聞いたワシは宝玉の通信を切り、再び異空間収納にしまった。
早くライグリ達のところへ行かねばならん。
後は・・・
ココン達にも手伝ってもらうか。
フゥ・・・
忙しくなりそうじゃ。
「では、またな。くれぐれも無理はするなよ。」
ワシはバシルーにそう言い残すと、アオイミドリコを連れて空間移動を使った・・・
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