第16話 久しぶりにアレをやるかの


 ライグリ達を森に住まわせて数日が経った。

 取り敢えずあやつらにやってもらうのは盗賊退治じゃ。

 今までもちょこちょこ沸いては退治しておったのじゃが、それが結構手間じゃったのじゃ。

 これを機に、煩わしい仕事を一つ任せられるようになったのは素直に嬉しいぞ。

 というわけで盗賊団一つ壊滅させる毎に報酬を与えることにした。

 提示した金額に三人とも驚いておったが、そんなにしょっちゅう現れるものでもないしの。

 それにいつもワシが手助けしてやるわけでもないからな。

 多すぎると言うこともあるまい。

 まあ生活の基盤が出来るまでは大変じゃろうから少し金を置いてきてやったが・・・

 ふむ。

 端から見たら甘すぎるのかのう。

 いや、そんなこともあるまい。

 ともあれ、これで一先ず3人の居場所の件も片付いたし、今日はゆっくり過ごすとするか。

 アオイとミドリコは日課の散歩に出掛けておるし・・・

 ふむ・・・

 洗濯でもするか。

 ワシはワシとアオイ、二人分の洗濯物を魔法で風呂の脱衣所からフワフワと浮かせて運んでくる。

 それを予め用意していた大きな水玉の中に入れた。

「リル・ネード」

 風魔法を水玉の中で発生させ洗濯物を洗う。

 勿論汚れ落としの洗剤も入れておるぞ。

 ある程度洗い終わったら脱水じゃ。

 水玉を消し、洗濯物を浮かせながら風魔法のみで水切りをする。

 そしてもう一度水玉を出してその中に入れ、服に残っている洗剤をよく落とす。

 それが終わったらまた脱水じゃ。

 よく水を切って・・・

 よし。

 後は庭に干すだけじゃな。

 ワシはこちらも手は使わず魔法で洗濯台を用意すると、宙に浮かせていた洗濯物を干した。

 フゥ。

 いい仕事をしたわい。

 まあ毎日やっておることなのじゃがな。

 もうこれで後はダラダラするだけじゃしの。

 天気も良いし、いつも通り日向ぼっこでもするか。

 アオイ達は後一時間は帰ってこないじゃろう。

 椅子に揺られながらまったりするかの。

 ・・・

 ・・・椅子か。

 今日はあれじゃな。

 アレをやるか。

 ワシは異空間収納からあるものを取り出す。

「うむ。久しぶりに出したのう。」

 もうかれこれ500年ぶりか。

 これは『魔導式全身揉みほぐし椅子』といって、ワシが作った魔導具じゃ。

 これに座れば正に夢心地。

 全身のコリを丁寧に落としてくれるのじゃ。

 まあワシはコリ知らすなのじゃがの。

 それでもここ最近の忙しさに、凝った錯覚をしてしまうのじゃ。

 いや本当に・・・

 アオイが我が家に来てからというもの、本当にバタバタしておるな。

 ・・・

 ふむ。

 でも悪いことばかりではないからの。

 キサラム達と出会えたことは幸運といっても過言ではないじゃろう。

 良い出会いは財産じゃ。

 のんびりダラダラする時間は割かれたが、それはそれで良しとするかの。

 何はともあれ、早速『魔導式全身揉みほぐし椅子』を使うか。

 ワシはゆっくり椅子に腰掛け、背もたれに身体を預ける。

 後は魔力を流せばこの椅子が起動し、身体の至る所を揉んでくれるのじゃ。

 どれ、それでは早速・・・


 ヴゥゥーン


 ユサユサユサユサ・・・


 おお、動き始めたな。

 

 そうじゃそうじゃ。

  

 この感じじゃ。


 このユラユラ動く感じ。


 凝っておらんワシにはこういう感じが丁度良い。

 まるで揺りかごに揺られているようじゃ。

 とても心地よくて眠くなってきたわい。

 アオイはまだ帰ってこんじゃろうし。

 少し目を瞑るか・・・


 ・・・


 ・・・


 ・・・


「主様ぁ、ただいま戻りましたぁ。」

「ピィッ!ピィー!」


 ・・・


「主様ぁ?」

「・・・おお、戻ったか。」

 いかんいかん。

 あまりにも気持ちよすぎてウトウトとしておった。

 自己防衛自動結界も発動しておる。

 つまりかなり隙だらけだったということじゃ。

 やはり、どうにもこの椅子は人をダラケさせてしまうらしいの。

「その椅子ぅどうしたんですかぁ?見たことない椅子ですぅ。」

 『魔導式全身揉みほぐし椅子』が気になる様子のアオイ。

 ミドリコも興味津々で椅子を見ておる。

 ふむ。

 そうじゃな。

 この椅子の説明がてらアオイにも使わせてやるか。

「気になるようじゃな。これはの『魔導式全身揉みほぐし椅子』と言ってな。その名の通り全身のコリを揉みほぐしてくれる椅子なのじゃ。ワシが数千年前に作った魔導具の一つでの。これに座ると正に夢心地の体験が出来るのじゃ。」

 どうじゃ。

 凄いじゃろう。

 そう鼻高々に言うワシに対し、アオイは意外にも冷静に感想を述べた。

「なるほどぉ。マッサージチェアってことですねぇ。元の世界にいたおばあちゃんも使ってましたぁ。主様もぉお年ですからぁこういうのが欲しくなるんですねぇ。」

 カラカラと笑いながら言うアオイ。

 おい!

 誰がおばあちゃんじゃ!

 確かにワシは大分永く生きておるが、身体も心もまだまだ若いつもりじゃ!

 失礼なことを言うでない!

 だがまあ悪気があって言っておるわけでもないようじゃしの。

 ここで叱りつける訳にもいかんか。

「ゴホンッ!うむ、そなたのいた世界にもこれと似たようなものがあるのじゃな。ならこれは見慣れたものじゃろうし、しまうとするか。どれ、昼食・・・」

「主様ぁ!それぇ、是非使ってみたいですぅ!」

「お、おお・・・よいぞ。」

 食い気味できおったぞ、こやつ。

 思わず気圧されてしまったではないか。

 このワシを怯ませるとは・・・

 思っていた以上に只者ではないらしい。

 とまあ、そんなことはどうでもよいか。

「やったぁー!実はぁ一度ぉ座ってみたいとぉ思ってたんですぅ。おばあちゃんん、とても気持ち良さそうだったのでぇ。」

 キャッキャ嬉しそうなアオイ。

 なんじゃ。

 知ってはおるが使ったことは無いのじゃな。

 ならば予定通り使わせてやりたいの。

「アオイや。ほれ、座ってみろ。」

 ワシがそう促すと、アオイはドキドキした様子で椅子に腰を落とした。

「おおおおぉぉ・・・」

 驚嘆した声を発するアオイ。

 それはそうじゃよな。

 この椅子の材質は特A級じゃ。

 ただの椅子としても座り心地も最高なのじゃ。

「よし、深く座ったの。では魔法を使う要領で、魔力を椅子に流すのじゃ。」

 ワシの説明に従い、アオイは椅子に魔力を流し始めた。

「おおおおぉ。何かぁ動きましたぁ。」

「うむ、そのままの状態から少しずつ魔力の量を多くしてみい。そして自分の丁度いい心地のところで魔力の出力を一定にするのじゃ。」

 言われた通りに魔力の出力を上げるアオイ。

 ・・・

 ん?

 どこまで上げるつもりじゃ?

 まさか・・・

 魔力を一定に保つ方法がわからんのか?

「これ。もうそろそろ魔力を止めい。でないと・・・」

 ワシが気付いて止めようとしたときにはもう遅かった。

「ああああぁぁ!凄いですぅ!これぇ凄いですぅ!」

 派手にアオイの身体が波打つ。

 椅子のうねりが今まで見たこともない動きを見せておる。

 この椅子、こんな動きもできたんじゃな。

「あああああああぁぁんん!そんなところぉそんなにしちゃぁダメですぅぅぅ!刺激がぁぁ!刺激がぁ強すぎますよぉぉぉ!」

 最早首から下全身が椅子に埋もれ、前も後ろも揉みしだかれているアオイ。

 なんちゅうだらしない顔をしておるんじゃ。

 こんなの誰にも見せてはいかんじゃろ。

 早く魔力の供給を止めんか!

「やだやだやだやだぁぁ!そこばっかりぃぃ!そこばっかりぃ刺激しないでぇぇ!おかしくなっちゃいますからぁぁ!アッアッアッ・・・そことそこ同時はダメぇぇ!!」

 もう涙と涎を恥ずかしげもなく垂れ流しながら悶え捲るアオイ。

 辛いんだったら早く魔力を止めればよいのに・・・

 止め方がわからんのか?

「アオイや。魔法を使う感覚を一旦やめるのじゃ。そうすれば魔力の供給を止めることが出来るぞ。」

 見ていられんワシはアオイにそうアドバイスする。

 しかし・・・

「ダメですぅ!後少しぃ!後少しですからぁ!主様はぁ私のぉ顔をぉ見ていてくださいぃ!このぉ淫れに淫れた顔をぉよく見ていてくださいぃ!それだけでもぉ興奮しますからぁ!捗りますからぁ!」

 顔をグシャグシャにしながらワシにそうお願いしてくるアオイ。

 こやつ、敢えて魔力の出力を高めてこの状況を作っておるのじゃな。

 何を考えておるんじゃ!

 っと言うかワシの魔導具を何に使っておるのじゃ!

 呆れた奴じゃ。

 こうなったら強制的に止めるとするかの。

 じゃが・・・

 ちょっと遅かったようじゃ。

「ああああああああああああああああああああぁぁ!ひぃぃぃ!アアッ🖤アッ🖤・・・ァァァ・・・・・・🖤」

 一際大きい卑猥な声を上げたかと思うと、アオイは一気に脱力した顔を見せる。

 と同時に『魔導式全身揉みほぐし椅子』も動きを止め、アオイを解放した。

 本当にこやつは・・・

「主様ぁ・・・どうでしたぁ?見ていただけましたぁ?私のぉ誰にもぉ見せたことないぃ顔をぉ。あぁ・・・スッゴく気持ちよかったですぅ🖤でもぉごめんなさいぃ。この椅子ぅ少し汚しちゃったかもしれませんん。」

 紅潮した顔でワシに潤んだ目を向けるアオイは同時に謝罪もしてきた。

 ん?

 汚した?

 ・・・

 何をしてくれたんじゃこやつ!

 ワシの魔導具を変なことに使いおって!

 急いで魔法で綺麗にせんといかん。

「アンン・・・」

 ワシはアオイを無理矢理椅子から引き離すと、直ぐに『ハイパ・クリーン』で浄化する。

 フゥ・・・

 シミにならずに済んだか。

 ・・・

 今後この椅子にアオイを座らせるのは禁止じゃな。

 毎度毎度こんなことをされては堪らんしの。

 脱力して地面にへたりこんでおるアオイを細目で見ながら思うワシ。

 しかしここで予想外のことが起こった。

「ピィー、ピィー。」

 こんなことがあったのにも関わらず、何とミドリコもこの椅子に興味を示したのじゃ。

「何じゃ?そなたもこの椅子に座りたいのか?」

「ピィー!」

 ほう。

 どうやら本当に座りたいらしいな。

 ならば座らせてやろうか。

「うむ。では座るがよい。使い方は先程アオイに説明した通りじゃ。くれぐれも魔力を流しすぎんように気を付けるのじゃぞ。」

「ピィッ!」

 いい返事をするミドリコ。

 まあアオイと違ってミドリコなら大丈夫じゃろ。

 ミドリコは背を椅子に当て、深く座った。

 中々シュールな光景じゃの。

 椅子に座るドラゴン。

 しかし何故だかそれが何処と無く可愛らしい。

「ピィッ。」

 少しずつ魔力を流し始めるミドリコ。

 そしてある程度揺らぎが出たところで動きが安定した。

 ふむ。

 やはり魔力の扱いが上手いの。

 とても心地よさそうじゃ。

 ミドリコなら今後もこの椅子を使わせてやってもよいな。

 ワシは気持ち良さそうに目を瞑っているミドリコをそのままに、アオイに昼食の準備を命じる。

「これアオイ。いつまでそうしておるつもりじゃ。そろそろ昼食を用意してくれ。」

「はいぃ。でもぉ・・・まだぁ余韻がぁ残っててぇ・・・今ぁ動くとぉまたぁ・・・服のぉ擦れだけでもぉまずいかもしれないですぅ。」

 未だ顔が赤いアオイは、先程の行為の代償をしっかり受けていることを説明する。

 全くこやつは・・・

「知らんわ!おかしなことに使うからこうなるのじゃぞ!見てみいミドリコを。本来の使い方をしておればあのように・・・ん?」

 『魔導式全身揉みほぐし椅子』に座っているミドリコを見たワシは、思わず言葉を止めてしまう。

 何故ならそこにいたのは・・・

「そなた、ミドリコ・・・なのか?」

「ピィッ!」

 アオイより少し年下位の少女が全裸でそこに座っておったのじゃ。

「えぇ!その美少女ぉ、ミドリコなんですかぁ!?えぇ!」

 あまりの驚きに、やっと冷静になったアオイ。

 近くまで駆け寄り、ミドリコの全身を舐め回すように見ておる。

 こやつ、さっきまでは動けないと言っておったくせに・・・

 ワシはミドリコのステータスを確認した。

 やはりそうか。

 スキルに『人化』が加わっておる。

 おそらく全身のコリをほぐしたことにより、魔力の流れが身体の細胞一つ一つに行き渡った結果なのじゃろう。

 言葉はまだ話すことが出来んようじゃが、訓練次第では喋れるようになるかもしれんな。

「へぇぇ。ミドリコぉ女の子なんだねぇ。年齢的にぃ、もっと大人の女性だとぉ思ってたぁ。」

「ピィッ!ピィー!」

 ミドリコは椅子から離れ、アオイに抱き付いた。

 ふむ。

 なついておるのう。

 この家に来たばかりの頃は全然そんなことは無かったが、やはりアオイの出す料理で胃袋と心を掴まれてしまったのじゃろうな。

 気持ちはわかるのう。

 じゃが・・・

 心配なのはミドリコの貞操じゃ。

 同性好きのアオイが何もしなければよいのじゃがのう。

 心配じゃな。

 しかし、そんなワシの心配は杞憂に終わることになる。

「ミドリコぉ。とっても可愛いですよぉ。私ぃ、こんな妹がぁ欲しかったんですぅ。ミドリコはぁ、これからぁ私の従魔じゃなくてぇ妹ですぅ。」

 アオイは目の端に涙を浮かべながら、ミドリコを抱き締め、軽く頭を撫でた。

 ほう。

 どうやらミドリコのことをそういう目で見ることは無いようじゃな。

 安心したぞ。

 アオイならこれだけの美少女相手にコロリといってしまうのではないかと思っておったからの。

 それくらいの分別はあるらしいな。

 キチンと年下を相手にするような態度をとっておるわ。

 見ていてほっこりするぞ。

 おそらくミドリコの人化はまだまだ完全なものではないじゃろうから、暫くの間は時間制限があるじゃろう。

 じゃがこうして人の姿をしているときは、実の姉妹のような微笑ましい触れ合いを見せてもらいたいものじゃ。

 ・・・

 ・・・

 ん?

 ちょっと待て。

 そういえばアオイが言い寄る相手はワシだけの様な気がするの。

 キサラムにもキロイにもバシルーにもココンにもライグリ達にも性的欲求を含んだ目でアオイが見ていることは無かった。

 あれだけの美女、美少女揃いじゃというのに・・・

 もしかすると・・・

 ワシだけが・・・

 ワシだけがアオイの被害者なのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る