第15話 女は尊いのじゃ

 

 取り敢えず何だかんだ言ってもしょうがないからのう。

 ワシは半ば諦めの気持ちでこやつ達一人一人に小さい家を授けてやることにした。

 今からそれを説明してやるところじゃ。

「そなた達は帰る国が無いようじゃからの。ワシが家をプレゼントしてやろう。場所はそうじゃな・・・南南東辺りがいいかの。あの辺なら気候も良いし人族でも暮らしやすいじゃろ。家は・・・この小屋と同じくらいの大きさの家を一人一件建ててやるからの。感謝せよ。」

 どうじゃ。

 この大盤振る舞いぶり。

 ワシが何でここまで気前がよいか教えてやろう。

 それは・・・

 チャコルを気に入っているからじゃ。

 そして気に入った理由はそのスキルにある。

 こやつのスキル『聖魔に見離されし者』はとんでもないスキルでの。

 これを習得してしまうと全ての能力、魔法やスキルに制限が課せられてしまうのじゃ。

 それがどういうことかわかるじゃろ?

 つまりレベルを上げたとしても、そのレベル相応の能力を得られんということじゃ。

 まあここまでだけ聞いたならこのスキルに何の魅力も感じんじゃろう。

 生きづらくなるだけじゃからな。

 しかしこのスキル。

 デメリットに反比例してメリットがかなり大きい。

 一定期間このスキルの制限を耐えきれば、上位スキル『聖魔に認められし者』にスキルがレベルアップするのじゃ。

 この上位スキルを身に付けると、それまでの制限とは打って変わって能力値の底上げ率が通常の人族や魔族よりも格段に上がることになる。

 例えばレベル200の魔族がいて、チャコルも同じレベル200だとしよう。

 この二人が闘った場合、魔族は人族よりも基本能力が高いから普通に考えれば魔族が勝利すると大多数はそう思う。

 しかしこの場合はそうはならん。

 チャコルは『聖魔に認められし者』の効力でステータスの能力値にプラス補正が入るからの。

 恐らくチャコルがレベル200で魔族のレベル300~350と同じくらいの能力値になるじゃろうな。

 それにそれだけではないしのう。

 属性階級も+1になるはずじゃ。

 制限されていた魔法の習得も容易になり、戦闘の幅が広がるわけじゃから様々なダンジョンに潜ることが出来るようになるじゃろう。

 そうすればレベル上げも実に捗ること間違い無しじゃ。

 その他にもプラス補正はかかるしの。

 ふむふむ。

 実に先が楽しみじゃな。

 しかしの・・・

 やはりデメリットの方が問題なのじゃ。

 『聖魔に見離されし者』は世間一般では外れスキルと呼ばれておる。

 その理由は・・・

 このスキルを寿命の内に昇華できる者が殆ど存在しておらんのじゃ。

 つまり、『聖魔に見離されし者』を『聖魔に認められし者』にする為にはそれだけの年月がかかるということ。

 前にも言ったように、『不老』や『老化遅延』はレアスキルじゃ。

 誰でも簡単に修得できる訳ではない。

 そもそもこういったスキルを持つもの以外にとってこのスキル『聖魔に見離されし者』は、ただただ能力を低減させるだけに過ぎない外れスキルというわけじゃ。

 しかしチャコルはスキルを昇華させることが出来る条件を持っておる。

 後100~200年もすれば開花することじゃろう。

 じゃがその間寿命以外で何かあるかもしれんしの。

 乗り掛かった以上、ワシが目をかけてやらねばならんじゃろう。

 まあそういうわけで・・・

 気に入ったというよりも庇護してやろうという気持ちが強いのじゃ。

 じゃからワシのテリトリーであるこの森に住まわせてやろうと思ったまでじゃよ。

 さて・・・

 ここまで破格の条件を与えてやったのじゃ。

 まさか断ってくるという選択肢はあるまい。

「本当に何から何までありがとうございます。貴女様には何の得も無いというのに・・・感謝しかありません。ですが・・・すみません。その条件を少し変えて頂くことは可能ですか?私がお嬢様と離れて暮らすということはお嬢様のお世話が出来なくなるということです。それではお嬢様はあっという間に命を落としてしまうでしょう。」

 もうライグリが一人では今後も生きていけないことが決定しているように、さもそれが当たり前のように言ってくるチャコル。

 何だかんだ言って一緒に暮らしたいのじゃろうがの。

 しかし・・・

 その台詞がライグリのプライドを傷付けていることに気づかんのか?

「なっ!あなた、私が何もできない女だと思っているの?」

「はい。クソザコだと思っています。」

「キーッ!私だって身の回りのことくらい出来ますわよ!馬鹿にしないで頂戴!」

「フゥ、何もわかっていないというのは実に怖いですね。お着替えさえ一人でまともに出来ないお嬢様が、一体どうやって一人暮らし出来るというんですか。貴女は私に依存していればいいんです!」

「キィィー!」

「なので・・・魔女様、私とお嬢様は同じ家にしていただきたいのです。」

 散々主人の感情を逆撫でした後、チャコルはワシに真剣な顔を向ける。

 ふむ。

 まあそれは構わんのじゃが・・・

 そうなるとルスカが一人で可哀想ではないか?

 ほれ。

 案の定、ルスカは寂しそうな顔をしておるぞ?

 そんなルスカは二人の話に乗ろうと声を出した。

「なら私もお二人と同じ家に・・・」

「貴女は大丈夫でしょう?家事は出来るし持って生まれた魔法の才能もありますから。きっと一人でも立派にやっていけますよ。」

 チャコルはルスカの肩に軽く手を置き、優しく微笑みながら言った。

 が、ワシはわかっておるぞ?

 良いこと言っておるように聞こえるが、こやつはただライグリと二人きりで暮らしたいだけなのじゃ。

 勿論ルスカを心配していなかったわけではあるまい。

 しかしこれとそれとは別と言ったところなのじゃろう。

「ちょっ!ちょっとチャコル!ルスカさんを仲間外れにするのは宜しくありませんわよ!私達と一緒がいいと言うのならそれがいいじゃありませんの。」

 想い人であるルスカの落ち込んだ表情を見て、声を荒げるライグリ。

 そうじゃよな。

 今回はワシもライグリに同意するぞ。

「わかったわかった。ならばそなた達が3人で住んでも一人一人のパーソナルスペースが守られるような家を建ててやろう。それで良いな。」

 一緒の家ということに括ってはおるが、ワシの考えでは3つの小さい2階建ての家を横に並べて繋げるだけにしようと思うておる。

 これならばそれぞれのパーソナルスペースは守れるし、それでいて各々が協力し合うことも出来るじゃろう。

「あ、ありがとうございます。ごめんなさい。私がわがまま言わなければ・・・」

 ルスカは申し訳なさそうにワシと、そしてチャコルに顔を向けた。

 別にわがままと言うほどでもないと思うがのう。

 寧ろ自分の気持ちを我慢せずに伝えてくれたのじゃからこちらとしては有難い。

 そしてチャコルもルスカに申し訳なくなったのじゃろう。

「すみませんルスカさん。貴女も国を捨てた仲間なのに・・・私の先程の失言、誠に申し訳ありませんでした。」

 素直に自分の言葉を詫びた。

 ふ~む・・・

 場の空気が悪くなってきたのう。

 ここはとっとと話を先に進めるか。

「どれ、そろそろ家を建てるとしようかの・・・・・・よし、出来たぞ。」

 ワシは森の南南東の開けた土地に3人が住める家を魔法で建ててやった。

 ・・・

 ここ最近、一体何件の家を建てたじゃろうな。

 ワシは大工か!

 まあそれはいい。

「では移動するぞ。」


 ・・・


 ・・・


 つい先程建てたばかりの新築の家に、ワシとアオイ、そしてライグリ達3人は空間移動でやって来た。

「す、凄い・・・これを魔女様が建てられたのですか。しかも一瞬で・・・これが魔法の極み・・・」

 チャコルは信じられないものを見たかのように目を見開いている。

「おーほっほっほっ!中々いい家じゃない!気に入ったわ。」

 ライグリはいつもの調子で自分が住むことになる家に好評価を出した。

 こやつ・・・

 何様じゃ?

 自分が施される側だということがわかっておるのか?

「ここでこれから暮らすんですね・・・自分の家・・・夢のようです。」

 ルスカはこれから始まる新生活に、期待と希望を抱いたらしい。

 皆それぞれ目をキラキラさせておるわい。

 覚悟を決めていたのはわかっておった。

 どうかこの先もこの3人が健やかに暮らしていけるように・・・ 

 願うばかりじゃ・・・


 ・・・


 ・・・


「主様はぁやっぱりぃ底抜けに優しいですぅ。会ってぇ間もないお三方にぃお家をポンッてぇプレゼントしちゃうんですからぁ。放っておくこともぉできましたのにぃ。」

 3人に家の中を案内し、後日今後の予定を説明すると伝えた後、ワシとアオイは家を出て森の中を少し散歩しておる最中。

 アオイはワシの今回の功績を讃えてきた。

「何、ついでじゃ。実はの。この周辺には人族の盗賊がよく出没するのじゃ。潰しても潰してもどこからともかく沸いてくる害虫共。流石に切りがないからの。あやつらに定期的に退治してもらおうと思っておったのじゃ。」

 そう。

 ここら辺は気候が良く森の脇の道は舗装もされておるため、行商人の通り道になっておるのじゃ。

「危なくないですかぁ。女の子3人ですよぉ。貞操のぉ危険を感じますぅ。」

 アオイは不穏な顔を見せ、ライグリ達の身体を心配する。

 こやつは人一倍、男に敵対心を持っておるからの。

「そなたの言わんとしておることはわかる。じゃがな、その辺は大丈夫じゃ。」

 チャコルとルスカの二人ならば盗賊共に間違っても後れはとらんじゃろう。

 ・・・まあライグリはこれから鍛えるとして。

 もし仮に何かどうしよう無いことがおきて・・・という場合でもこの辺の地域ならば大丈夫じゃろう。

 おっ。

 それを証明するために打ってつけの奴等がおるぞ?

 ワシの探知に引っ掛かった哀れな盗賊共。

「アオイや、丁度良い。これからここいらで出没する盗賊の生態を見せてやるでの。ほれ、いくぞ。」

 ワシは空間移動を使い、アオイと共に盗賊達の前に瞬時に現れた。

「うわ!何だてめえ等!どっから出てきやがった!?」

 見るからにあからさまに狼狽える盗賊達。

 ふむ。

 丁度商人の馬車を襲っておるところか。

 まあよい。

 とっとと助けてやるか。

「『絶対威圧ナイトメア・コウアース』。」

 ワシが魔法を放った途端、盗賊と商人達はひれ伏し、額を地面に擦り付けた。

「はぁぁ。いい光景ですねぇ。これも主様のぉ魔法ですかぁ?」

 アオイはうっとりとした顔を浮かべながら目の前の男共を見下しておる。

 本当にいい性格をしておるわい、こやつは。

「おい。そなた等。ワシの森の近くで強奪行為とはいい度胸じゃな。」

 ワシの言葉一つ一つに肩をビク付かせながら、ただただ顔を上げられずに聞いていることしか出来ない盗賊達。

 やはりこの魔法は凄まじいのう。

 言っておくがこの魔法。

 こやつ等のような低レベルな輩達だけでなく、魔王達にも効くからな。

 まあこんな魔法が使えるのも、ワシがこの世界で最強と言える所以よの。

「覚悟はいいですねぇ。先ずはぁ爪を全部剥いでぇ・・・」

「待て待て待て。何をサラリと拷問しようとしておる。言っておるじゃろ?こやつ等の生態を見せてやると。」

 意図も容易く拷問を始めようとするアオイを止め、ワシは馬車の中で震えている乗り合いの女客数人に声をかけた。

 勿論女達には魔法をかけておらん。

「そなた等、降りてきてここに並べ。」

 ワシの指示に従い、5人の女達はワシの前に横一列で並ぶ。

 ふむ、10~30代といったところか。

 アオイ的にはこの娘等が盗賊に襲われて手込めにされてしまうのではないかと心配しておるのじゃよな。

 どれ・・・

「おい、そなた等。顔を上げて見よ。ここに女がいるが、もしワシ達が現れなかったらこの娘等をどうしておった?正直に答えよ。」

 ワシの質問に盗賊達は顔を上げて女達をじっくり観察し、下品な顔を浮かべた。

「うわぁぁ・・・あれはぁやっぱりぃ下品なことをぉ考えてますよぉ。もうぅ殺っちゃいま・・・」

「黙って聞いておれ。」

 生ゴミを見る様な目でアオイはそう言うが、ワシは取り敢えずこやつ等の答えを聞くまで黙るよう命じる。

 ここいらの地域では男達がどんな反応になるかわかっておるがの。

「げへへへ。そりゃ勿論、髪の毛を少し頂いたり爪の先をちょっと切って貰ったり・・・後はな、投げキッス?を、げへへ、して貰ったりっすかねぇ。げへへへ。」

 盗賊頭とおぼしき筋骨粒々な男が下品な笑いをしながら、そして照れながらそう答えた。

「へぇぁ?」

 思っていた答えじゃなかったのじゃろう。

 アオイは変な声を出して驚いた。

 ワシとしては思っていた通りの解答じゃがな。

 この辺りの男は女に対する尊厳が極めて高いのじゃ。

 従って貴族であれ盗賊であれ、性的に手荒な真似は絶対にしない。

 これでわかったじゃろう?

 この地域ならば、まだまだ未熟なあの3人でも酷い目には合わないということじゃ。

「ふむ、よろしい。女を尊重する考えを決して忘れるのではないぞ。しかしな・・・強盗はよくないの。改心するというのならこの場は見逃してやる。じゃがもし断れば・・・」

 ワシは近くにある大岩を魔力のみで粉々に砕く。

 かなり派手な演出じゃが効果はテキメンじゃった。

「ヒィィ!わ、わかりました!改心してこれからは剣ではなく鍬をもって畑を耕します!許してください!」

 何度も何度も地面に額を打ち付け、盗賊達はワシに改心することを約束した。

 うむ。

 一件落着じゃな。

 しかし・・・

 これに納得いかないのが若干1名おった。

「信じられませんん!だってぇそいつ等ぁ男ですよぉ?その場しのぎでぇ嘘いってるんじゃないですかぁ?」

 どうしても男を目の敵にしておるアオイはワシの袖を引っ張りながらそう訴えかけてくる。

 まあわからんでもないが・・・

 困ったのう。

 これ以上どう説明すればいいんじゃ。

「いいですぅ。私がぁ本性をぉ暴いてやりますぅ!」

 そう言ってアオイは事もあろうか上着を捲り上げ、そしてスカートも捲り上げて下着を出してしもうた。

 何なのじゃこやつは。

 痴女なのか?

 同性に見せるのならまだしも、アオイが見せている相手は異性じゃぞ。

 これはちょっと怒らねばならんな。

 と思い、アオイを見た次の瞬間・・・


 ブッシャャャーー!!


 盗賊のみならず、商人の男達までもが鼻血を吹き出して倒れこんでしもうたわい。

「お、お嬢さん・・・それはダメだ・・・嫁入り前だろ・・・もっと自分を大切に・・・ガクッ・・・」

 ギリギリ意識を保っていた盗賊頭はアオイにそう注意すると、白目を剥いて事切れてしまう。

 流石にこれはアオイも予想外過ぎたようじゃ。

 オロオロとワシを見たり動かなくなった男達を見たりしておる。

 身をもってわかったようじゃな。

 つまりはこの地域の男達は・・・全員ウブだということじゃ。

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