第14話 面倒な関係
ライグリの依頼を受けたワシ達は、今ルスカを連れて自宅に戻ってきた。
ん?
展開が早すぎるって?
簡単なことじゃろ。
ライグリからルスカにまつわる装飾品を借りて、そこから魔力を読み取り、後は当人のところに空間移動して連れてくるだけじゃ。
目の前に現れたワシを見てルスカはそれはもうとんでもなく驚いていたが、ワシがライグリとその侍女の知り合いだと言うと喜んでついてきたわい。
まだルスカをライグリに会わせていない。
一応な。
ルスカからも状況を聞かんといかんじゃろ。
もしかしたらライグリ達が嘘をついているかもしれんからな。
出会って間もないからの。
頭から信用するには時間が足りんじゃろ。
ルスカをアオイが座っているダイニングテーブルの椅子の向かいに座らせ、ワシはアオイの隣に座った。
「さて、大まかなことはライグリ達に聞いたが、そなたからもそなた目線でどういうことがあったのか話してみぃ。」
ライグリとの話に相違がないか確かめるため、ルスカにことの経緯を話させる。
もし悪意のある嘘があったのなら・・・
あの二人をお仕置きせねばならんからな。
「はい。ライグリ様達からお話はあったと思いますが・・・それらは全て事実です。」
何の迷いもなくライグリ達を信じ、話の信憑性を疑わないルスカ。
ほう。
余程信頼しておるのじゃな。
しかしの。
ワシはルスカの口から話を聞きたいのじゃ。
「ふむ、そうか。ならばお主の話を聞かせてくれんか?そうじゃな。ライグリ達と出会った辺りから今日に至るまで、かいつまんで構わんから話してくれ。」
何も長々と話せというわけではない。
要点だけを言ってくれれば良いのじゃ。
ワシの意図を読み取ったのか、ルスカは顎に指を当て思い出すように話始めた。
「そうですね・・・ライグリ様達と出会ったのは今から10年前、私が8歳時です。帝国女子学園初等部の入学式で初めてお見かけしました。」
少しうつ向き、しかしどこか嬉しそうに話すルスカ。
当時を思い出しておるのじゃろう。
幸せな記憶なのじゃな。
問題はこの後なのじゃろう。
「ヒルウゴク帝国では特に魔法と学力に力を入れていて、教育も随分行き届いていました。しかしそうは言っても主に貴族の間だけで、平民は独学で何とかするしかないのです。なので本来平民である私があの方達に出会うことはなかったはずなのですが、どうやら私の属性と魔力が希少だったらしく特例として入学できたのです。」
帝国の実情と自分の適正を話したルスカ。
なるほど。
ルスカの属性はアオイと同じ光か。
確かに希少じゃのう。
それにこの魔力。
光の第二階級といったところか。
ほう、中々じゃのう。
因みにそれぞれの属性には4つの階級がある。
これは生まれながらに決まっているもので、大半の生物の階級はその属性の第一階級に当てはまるのじゃ。
第二階級と言えば最早英雄や聖女クラス。
覚えられる魔法やスキルの数が第一階級の比ではない。
第三階級なら努力次第でその属性の魔法やスキルを全て覚えることが出来るじゃろう。
因みにアオイは第四階級じゃ。
別名、神話クラスとも言うがの。
まあワシはというと・・・
階級という概念に当てはまらん。
つまり無限級といったところかの。
ん?
4つの階級しかないんじゃなかったのかって?
細かいことは気にするな!
・・・
まあそれはそれとして。
ふむ、出だしは大体ライグリ達の話と合っておるの。
さて、これからかの。
「しかし入学式の時から貴族様達に目をつけられ、とても居心地が悪い思いをしました。そんな時・・・私を助けてくれたのが・・・ライグリ様の侍女、チャコル様なのです!」
・・・
・・・ん?
「何もしていない私の顔を叩こうとしてきた貴族様の手を止め、私を守ってくれたのです。あの時のチャコル様・・・カッコよかった🖤」
・・・ん?
・・・ん?ん?
何じゃ?
どういうことじゃ?
ルスカのやつ、目がハートになっておるぞ?
ルスカの想い人はライグリではないのか?
「それからというもの、チャコル様とライグリ様に守られながらとても平和な学園生活を送りました。でも、そうしているうちにどんどん孤立してしまって・・・気付けば学園での話し相手はライグリ様だけになってしまったのです。」
ふむ、ここまではあの二人の言う通りじゃな。
そして孤立してしまったルスカをライグリが助けたのじゃろ?
「そんな私を見かねて、チャコル様が提案して下さったんです。周りに気にかけて貰うために、ライグリ様に強く当たってもらうのはどうだろうって。ライグリ様も乗り気でした。私は他ならぬチャコル様の提案ならばと快くお受けしたのです。」
ルスカは尊敬の眼差しで遠くを見つめる。
おっと?
何じゃ。
その提案は侍女の方がしたのか。
いや、もしかするとライグリが侍女に言わせたのかもしれんな。
しかし・・・
何か、微妙なすれ違いがあるのう。
まあ取り敢えず続きを聞こうか。
「チャコル様の提案は大成功し、私にも貴族の友達がたくさんできました。しかしライグリ様の評判は地の底に落ち、傲慢令嬢と呼ばれるようになってしまったのです。本当に申し訳ないことをしてしまいました。」
ライグリに対する反省と後悔の念を表情にだすルスカ。
そうじゃよな。
ライグリは自分の身を呈してルスカを守ったのじゃ。
自分の立場を犠牲にしてででも、好いた女を守ったのじゃ。
そしてその結果・・・
「結局、その性格が原因でライグリ様は王子から婚約破棄を言い渡され、国外追放までさせられてしまいました。お可哀想なライグリ様。箱入り娘であったあの方が国の外で生きていけるのか・・・それはもう心配で仕方ありませんでした。しかし・・・やはりそこはチャコル様。ライグリ様を守るため、一緒に国外に行ってしまわれたのです。私は心に穴が空いたようでした・・・チャコル様がいなくなってしまったのですから・・・」
悲しそうな顔で下を向くルスカ。
ん~・・・
何か思ってたのと違うが、大まかな内容はライグリ達が話していた通りじゃな。
しかしこやつはどうなのじゃ?
確かその後その王子の婚約者になったようじゃが。
「ルスカさんん、今は大丈夫なんですかぁ?確かぁライグリさんのぉ元婚約者のぉ婚約者にぃなっちゃったんですよねぇ。」
ワシの疑問を代わりに言ってくれるアオイ。
うむ。
ナイスアシストじゃ。
「そんなんです。勿論お断りはしているんですが、あの王子とその周りがうるさくて。何で一度しか会ったことのない人と結婚しなければならないんですか?好みのタイプでもなければ話したことも無いんですよ?正直今、とても困っております。」
冷静そうなルスカが、ここにきて少し怒りの表情を見せる。
ふむ。
そういうことならば・・・
「そなた。国に帰りを待つものはいるか?」
「いいえ・・・私は元々孤児なので。身内と呼べるものはおりません。」
「うむ、ならばルスカや。この森で暮らさんか?幸いライグリも侍女のチャコルもここにいることじゃしの。どうじゃ?」
本当はあの二人には森から出ていってもらうつもりじゃったが、ルスカがこの森にいたいと考えるならばあの二人と一緒に住まわせてやってもよい。
・・・
ワシも甘いのう。
何じゃか最近、森に訳あり女を受け入れることに抵抗が無くなってきてしまったぞ。
そんなワシの提案を聞いて顔を輝かせるルスカ。
「はい!是非ここにいたいです!このまま帝国にいて、あの王子と結婚させられるくらいなら・・・私、実は国外に逃亡しようと考えていました。学園の友達も私を国外へ逃がす方法を考えてくれていたくらいです。なので・・・どうかお願いします!私をこの森に住まわせてください!」
真っ直ぐワシの目を見据え、ルスカは真剣に懇願してくる。
うむ。
よい胆力じゃ。
こういう奴には少しばかり贔屓したくなるのう。
「よし、いいじゃろう。そなたを、いや、そなた達をこの森に住まわせてやろう。じゃがお主達はこの森の中では非力じゃ。なのでこのスキルを授けよう。」
ワシはルスカに向けて手をかざし、魔素を流した。
魔法を伝授するには相手の魔力に魔力を流すが、スキルは魔力ではなく身体に覚えさせるためこうして魔素を流すのじゃ。
ワシが伝授できるスキルは3つ。
『均衡の森の魔女の加護』と『均衡の森の祝福』。
後一つは・・・
まあそれはよいか。
今後誰にも伝授するつもりなど無いスキルじゃしの。
因みにルスカに伝授したのは均衡の森の祝福じゃ。
このスキルを覚えれば、この森の恵みを苦せずして得ることが出来るのじゃ。
つまり食べるものに困らんというわけじゃ。
この森の食料を調達することは難しいじゃろう。
こやつのレベルではあっという間に命を奪われてしまうじゃろうからな。
ワシが結界をはった土地とこのスキルがあれば、こやつの寿命の間は問題なく暮らせるはずじゃ。
普通の人族ならば生きても精々あと百年くらいじゃろ。
まあ問題は二人が天寿を全うした後、侍女のチャコルをどうするかじゃがな。
二人がいなくなった世界でも、チャコルはほとんど歳をとることなくいるはずじゃ。
その時は・・・
しょうがないの。
少し鍛えてこの森のどこか一画の守衛でもやらせるか。
勿論、本人が望めばじゃがな。
ともかく、そんな先のことを考えても仕方ない。
ルスカにスキルを与えたことじゃし、そろそろ二人に会わせてやるとするか。
「これでよし。この森で暮らしていくのに便利なスキルを与えたからの。上手く使うがよい。では・・・場所を変えるか。」
ワシはルスカとアオイ、そしてミドリコを連れて自宅からライグリ達がいる小屋へと向かった。
そしていざ小屋が目の前に来ると、ルスカは立ち止まってしまう。
「ちょっ・・・ちょっと待ってください。私・・・変じゃないですか?」
少し照れながら、自分の身なりを気にするルスカ。
「ちっとも変じゃないですよぉ。とても綺麗で可愛いですぅ。」
アオイは恋する乙女の顔をしているルスカを見て、ニッコリと笑いながら正直な感想を述べた。
ふむ。
確かに美しいの。
恐らくこういう女がその国のヒロインになるのじゃろうな。
しかしこやつにはもう祖国に帰る気持ちがない。
・・・
ヒルウゴク帝国はもう先が短いかもしれんな。
・・・
まあどうでもいいか。
一先ず中に入るかの。
ワシは何の躊躇いもなく玄関の扉を開ける。
「邪魔するぞ。ライグリや、ルスカを連れて参ったぞ。」
バタン!
ワシがルスカの名前を出すや否や、玄関とリビングを隔てる扉が勢いよく開き、そこには息を切らしたライグリが立っていた。
「ルスカ・・・なの?」
「・・・はい!」
信じられないといった表情を見せるライグリ。
そりゃそうか。
まさかこんなに早く来るとは思っておらんかったよな。
驚かせて悪かったの。
しかし感動の再会じゃ。
じっくり見届けようぞ。
「ルスカ・・・」
ライグリはジリッと一歩足を踏み出す。
「ライグリ様・・・」
ルスカも身を前に出した。
「ルスカ・・・ルスカー!」
ガバッと抱き付こうとするライグリ。
うむ。
感動的な光景じゃ・・・
がしかし・・・
ヒラリ
ルスカはライグリの突進を華麗にかわし、リビングを目指した。
そこにいたのは・・・
「チャコル様ーー🖤」
ライグリの侍女、チャコルに抱き付くルスカ。
ハァ・・・
まあそういうことじゃよな。
ルスカはチャコルが好きなのじゃ。
先程の話でわかっておったことなのじゃが・・・
見てみい。
あのライグリの顔。
絶望と切なさを足して二をかけたような表情をしておるぞ。
見ていていたたまれないわい。
「チャコル様、ご無事で何よりです!もしかしたらライグリ様を守るため、お怪我でもしてしまったんじゃないかと心配していたのですよ!・・・でも・・・よかった。元気そうで・・・」
ほっと安心したのか、目を潤ませるルスカ。
それを見て、未だ動かないライグリ。
う~む。
完全に精神がどこかに行ってしまったようじゃ。
そのあまりにも可哀想な状況に、アオイとミドリコが声をかけてフォローしておるぞ。
じゃが・・・
頑張れとか大丈夫とかいう言葉は、この場合逆効果のような気がするがのう。
「私は大丈夫ですよ。精霊魔法『パーフェクト・ステルス』がありますからね。お嬢様を守るためなら力の出し惜しみなど一切致しませんので。私にとって、お嬢様は・・・全てですから。」
固まって動かなくなってしまっているライグリを愛おしそうに見つめるチャコル。
ん?
おっと?
こっちはこっちであっちを好いとるのか。
何なんじゃこれは?
どうなっておるのじゃ。
ん~・・・
まとめてみるとこういうことか。
ライグリはルスカが好きでルスカはチャコルが好き。
そしてチャコルはライグリが好きでライグリはルスカが・・・
ややこしいわい!
何じゃこの三角関係は!
・・・いや。
三角関係というより三竦みと言うべきじゃろうか。
こやつら三人を纏めて一つの家に住まわせてやろうと思ったが・・・
そういうわけにもいかなくなったな・・・
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